2007年同人誌再録「黄龍妖魔學園紀」
初めに
こちらは2007年にだした九龍妖魔學園紀本「黄龍妖魔學園紀」の再録となります。
16年以上前に書いたので今とキャラの喋り方が少し違ったりします。
作中の龍麻は京一と中国をウロウロしていた頃の龍麻です。
(今のように壬生や如月や御門と一緒に暮らしていません)
この頃の龍麻は黄龍の力が落ち着くまで一か所に留まる事ができない設定でした。
作中にオリジナル設定がぼちぼち出てきますが、とりあえずうちの龍麻と九龍はいとこ同士というのだけ覚えておいて頂けば、まあ大丈夫だと思います。
そしてこの話は九龍妖魔學園紀2周目のお話です。
なぜ2周目が始まってるのかは作品の最後に出てきます。
最後に当時の本の後記もそのまま再録してます。(人物は文字化けがひどくて無理でした)
それでは良ければ最後までお楽しみください。
黄龍妖魔学園紀 第0話<黄龍と九龍>
「は~るばる来たぜエジプト~♪」
遠くエジプトの地で呑気な歌を歌っているのはご存じ黄龍こと、緋勇龍麻です。
本日、龍麻は従兄弟の葉佩九龍に呼び出され、はるばるエジプトまでやって来ておりました。
しかし、待てど暮らせど待ち人は来ず、少々退屈しておりました。
「九龍は何をしてるんだろうね。ナレーションさんや」
暇だからと言ってこちらに話しかけないで下さい。現場が混乱します。
「だって暇なんやもん」
知りませんよ。
そんなこんなで待っておりましたら、向こうから猛スピードで走って来る九龍が見えました。
「おおい、九龍」
「あ、龍麻兄ちゃん」
お互い気付きました。
「九龍、用って……」
「パス!!」
龍麻が言い終わらないウチに顔面めがけ何かが飛んで来ました。
「後はよろしく頼みゃーす!」
そしてそのまま風のように走り去りました。
「はぁ???」
意味のわからぬまま投げ渡された物を見てみれば。
『HANT』(トレジャーハンター用携帯端末)
「コレってハンターには超大事な物だろうが!頼むって何だ?!ちょっと待て」
九龍の後を追いかけようとした龍麻の肩に手が一本。
「葉佩九龍さんですね。ロゼッタ協会の者です」
「違います」
「さっそくですが、最初の任務です」
「聞きません」
「日本に飛んでもらいます」
「嫌です」
「飛行機は用意してあります。どうぞ」
「嫌だっつってんだろうが」
「この制服に着替えて天香学園に編入してください」
「高校生かよ!」
「貴方に秘宝の加護がありますように」
「人の話聞けよ!!!」
ギユゥゥゥゥゥゥゥン(飛行機)
あれよあれよという間に龍麻は日本に連れてこられました。
「バカ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
ちなみに九龍への叫びです。
それでは、黄龍妖魔学園紀のはじまりはじまり。
黄龍妖魔学園紀第 第一話<もう一度高校生>
「今日は転校生を紹介します。どうぞ入って来て」
雛川の言葉に入って来たのは見るからに不貞腐れた表情の少年?青年?でした。
「……緋勇龍麻23歳です。冗談でなく23歳です。1999年に新宿の真神学園を卒業後、神を入れる器から神に昇格して全国を転々としてました。
今回の転入は本来この学校に来るはずだった従兄弟に無理矢理こさされた為、大変不本意です。やる事やったらさっさと転校していきますので皆さんどうぞ適当に相手してやってください。以上!」
龍麻の自己紹介に生徒はドン引きでした。
「……えっとじゃあ、龍麻くん……龍麻さんの席はあそこですから」
先生もドン引きでした。
さらに年齢が近いので呼び方も変わりました。
「……」
着席してしばらく大人しくしていた龍麻でしたが、
「あああああ。五年ぶりー。この椅子、この机、この制服、この雰囲気。懐かしいー、超懐かしい!」
いきなりノスタルジーに突入しました。
かしましい転校生です。
「……えっと、初めまして。私、八千穂明日香。よろしくねッ」
龍麻の態度から怖い人ではないと判断した八千穂が話しかけてきました。
「よろしく。よかった、君の第一人称が「僕」だったら鼻の骨を折ってたよ」
「僕って言っただけで折られるの!」
「それが好みというものさ」
違うと思います。
「ねー緋勇くん。色々聞いてもいい?」
「うわっ、今度の感情移入「同」が無いやん。九龍はどこまでフレンドリーやねん」
「緋勇くん?」
「あ、ごめんごめん。って、十字キーの感情システム使いやすいやん!僕の頃もこれやったら誤爆も減っただろうに……」
「もしもーし、緋勇くーん」
「すまんかった。何でも聞くがいいさ」
古い子なので新しいシステムが珍しいのでした。
「緋勇くんて本当に23歳なの?」
八千穂が興味津々で聞いてきます。
「ウソついても益が無いしな」
「おまけに神さまなの?」
「そうっすよ。5年前に新宿であった天変地異覚えてへん?」
「あの地震と嵐がきた時?」
「そうそう、あの時に龍脈が動いて龍の塔が建って僕は神さまになったんすよ」
「……ウソだー」
「ホンマやって。証拠はないけど。見せろ言われると困るけど」
「神さまだったら奇跡を起こしたり色々出来るんじゃないの?」
「神さまの仕事はバランスをとる事やからそんなに頻繁に奇跡やらなんやら起こせません」
「バランス?」
「生物が生きていく為のバランス。この星がうまく動いていく為のバランス。さて、神さま談義はここまで、この学校の案内してくれませんかお嬢様」
「んー、まだ納得してないんだけど……いっか。これからヨロシクね。龍麻クン!」
「こちらこそ」
八千穂と仲良くなりました。
「じゃあ、とりあえずこの学校を案内したげるね」
「ヨロシク頼みやーす」
連れだって出た廊下には意味ありげに佇む白岐がおりました。
「貴方……」
龍麻は軽くスルーしました。
「ちょッちょっと待ってよ。龍麻クン、彼女は白岐さん。クラスメイトだよ」
「どうも」
「……また転校生がやって来たのね。貴方は何をしにこの呪われた学園に来たの?」
白岐が意味深な事を言いました。
しかし、この質問は今の龍麻には辛い所です。
「何をしに来たのか?こっちが聞きたいっちゅーねん」
案の定不機嫌に返しました。
「そう、貴方は自分の事も解っていない哀れな羊なのね。お願いだから興味本位で墓を荒らしたりしないで」
「墓に呪いか……」
何やら学校には不釣り合いな単語を聞いて、龍麻の(前髪で見えない)眉が上がりました。
「ちょいと失礼」
言うなり窓から白岐を引っぺがし、同じ場所から外を覗きました。
「ほうほう、なーるほど・ざ・わーるど」
何かわかったようです。
「あッあの白岐さんごめんね。龍麻クン神さまらしいから……その、行動が突飛なんだよ」
呆然とする白岐に八千穂がフォローしました。
「九龍の思惑がちょいっと見えたね。どうもありがとう髪長姫さん」
さっきとはうってかわって上機嫌の龍麻はそう言うとその場に白岐を残し、八千穂の手を取り行ってしまいました。
完全に行ってしまう前にちょいと振り返って、
「囚われのお姫様、淋しいのなら友達を作りなっせ。若いんだから」
と、ウインク(前髪で見えず)付きで言いました。
基本的にフェミニストですから。
「……龍麻クン。さっきのは何だったの?」
慣性の法則よろしく手をつないで歩いている龍麻に八千穂が聞きました。
「いやいや、まだお嬢さんにお聞かせする段階ではござらんよ。まー待ちなさい、最後まで待った者にだけフィナーレはやってくるんだから」
「???」
頭に盛大にクエスチョンマークを付けたまま、八千穂と龍麻は屋上へとやって来ました。
「龍麻クン。ここが屋上。見晴らし良いでしょッ。ホラ、さっき言ってたお墓も見えるんだよ」
「おお、確かに見えるわ」
屋上のフェンスからググーッと体を乗り出して墓を見る龍麻の目が静かに金色に染まりました。
黄龍の目です。
そうなると普通とは別の物が見えてきます。
地面を走る金色の光の帯。
『龍脈』
(龍脈が墓を中心に渦を巻いてる。明らかに誰かが引き込んで作った流れじゃのー。枯れもせずに回ってるのは弾みがついてるからか?)
「んんー」
「まったく、何を熱心に墓なんて見てんだ?」
もっとよく見ようとした龍麻に八千穂とは違う声がかかりました。
もっとも、屋上に来た時点で龍麻は気付いておりましたが。
「ハロハロ。君は誰じゃい?」
「ふぁぁぁぁ」
龍麻の問には答えず、貯水タンクの横で特徴的な癖毛があくびをしました。
「あ、皆守クンこんな所に居てたんだ。龍麻クン、彼は皆守クン。教室には居なかったけど私達のクラスメイトだよ」
「ふーん」
ご存じ、皆守甲太郎です。
「まったく、転校生が来たくらいで浮かれるなよ。転校生、お前もあまりこの学校で目立つ事はするなよ。無事に卒業したいならな」
「……(ジー)」
前髪のせいで二人は気付いてませんが、龍麻の目はまだ黄龍のままなのでした。
黄龍の視線で見ると、皆守の気の不自然な流れが見えます。
(鬼でも外法でもないよな……何じゃこの気は?さっきの嬢ちゃんも変やったし。変わった学校じゃのう)
「……転校生、聞いてるのか?」
「聞いとるよ。友達にでもなったろか?ちょいと興味が出てきたわ」
「……何でいきなりそうなるんだ。俺に構うな」
「何言ってんだ、さみしんぼ大王が」
「誰がさみしんぼ大王だ!」
「龍麻クン。何ソレ?」
「いや、だってホンマに構って欲しく無いなら寮の部屋に引きこもってりゃいいんやし。わざわざ制服に着替えてこんな場所で昼寝するのは誰かに構って欲しいゆう現れでしょう。ゆえにさみしんぼ大王」
「ああ、そうだったんだ。ゴメンね、気付いてあげられなくて」
「違う!!」
龍麻の的確なツッコミに皆守が抵抗しました。
「ふっ、甘いな。僕は壬生という超大さみしんぼ大王を手なずけた男!お前程度の寂しがり、手なずけられぬと思うか!!」
「何を言ってんださっきから!!」
「うんうん、青春だよねー」
「まとめるな!!」
「じゃあ、仲良くなった記念に今夜は墓地で集合という事で」
何の記念かわかりませんが、突拍子もないのが龍麻です。
「わーい!ミンナで肝試しだねッ」
「墓は立ち入り禁止だ!!!」
「気にするな!僕は神だ!!」
無茶苦茶な理屈です。
「神だか何だか知らないけどな。いい気になってると《生徒会》に目を付けられるぞ」
「何その二重括弧。ここの生徒会はそないに怖いんかい」
「うん、生徒会に逆らう生徒はね。いつの間にか消えちゃうんだよ」
「……警察に連絡しいや」
至極もっともです。
「とにかく墓は立ち入り禁止だ。夜の外出も違反だ。わかったか」
「えーっと、八千穂のメルアドってこれでいいん?」
「そうそう。空メール送ってね」
そんな皆守の忠告など聞いちゃいない二人です。
「……勝手にしろ」
皆守が怒って屋上を後にしました。
「怒っちゃった。皆守クン、今夜来てくれるかなー」
「……来るよ。来ないと困るのは自分やしな」
「何か言った?龍麻クン」
「うんにゃ。それより、お腹空いたから教室帰ろう」
「あ、そうだね。じゃあ、ご飯食べながら今夜の計画を練ろうかッ」
「そうしよう、そうしよう」
ウキウキした足取りの八千穂に続いて龍麻も屋上を後にします。
初日はこんな感じで過ぎました。
黄龍妖魔学園紀 幕間<もしもしテレフォン>
寮の自室でお電話中の黄龍です。
電話機は昔懐かし黒電話。
お話しの相手は、JADEこと如月翡翠です。
「……と言う訳で高校生をも一度するハメになりやんした」
「そうかい。まあ、頑張って」
「如月ー。冷たい。僕の玄武なのに冷たい。朧の時の熱さはどこにいったんだ」
「……龍麻。あの頃は皆若かったんだ」
「ひーどーいーー。ちょっとはサポートしろよい。武器を安うにしてくれい」
「却下。バディとしてならサポートしてあげるよ」
「守銭奴が……。まーそれはそれとして、この学校変だわ」
「ああ、お墓の下に遺跡があるんだってね」
「あった。あと、龍脈の流れがおかしい。誰かが無理矢理引き込んだ流れしてる」
「無理矢理引き込んでも枯れるだろう」
「それが枯れないように何か細工されてる。おかげで枯れるでもなく、流れるでもなく、ここの土地だけで龍脈が回り続けてる。その所為か変な恩恵出ててさー、鬼でも外法でもなく特殊能力人間が生産されとる……」
「……それはまた」
「墓の下も化人とかいう化け物があふれとったわ。目に付いた分は土に帰したけど」
「ご苦労様。夜更かし出来ない君には辛い事だな」
「12時は過ぎないようにしてる。あの中で寝入るのは嫌」
「ところで」
「なに?」
「僕は前にも一度、この時間の流れを経験してると思うんだけど。その時は君でなく……」
「如月は覚えてんや」
「玄武だから」
「流石は神の一種。そうなんやよな、九龍……あ、僕の従兄弟な」
「九龍君の事は何となく覚えているよ。君と容姿がよく似てたし。それに君と違って沢山武器を買って武器を買って武器を買ってくれたから。後半はマダムバタフライの所ばかりみたいだったけど」
「……だって黄龍甲があるから武器いらんし……福袋無いし。」
「ちなみに九龍君は招き猫もくれたよ」
「欲しかったらあげるがな。とにかく、九龍が一回はちゃんと攻略してる筈なんやが……アイツ真面目やからなー。何か思うところがあったんやと思う」
「真面目なんだ」
「元々の性格が真面目。さらに仕事に関しては超真面目」
「そんな真面目な子が託したんだから頑張らないとな」
「そうなんよなー……」
「それはそうと、壬生には言ったのか」
「(ギク)何を?」
「日本に帰ってきてる事をだよ」
「いや、そんなん言うたら来るだろ!それは駄目やん!」
「いいじゃなか。バディにしてあげなよ」
「そんなんしたらあのアホ自分の仕事放棄しやるがな」
「するね確実に」
「だから駄目。人間働かなー」
「よく解ったよ。あと、バディの誘いだけど、僕が長期店を空けても困らないくらい買ってくれたらいつでもするから」
「守銭奴ーーーーー」
「それじゃあ、怪我だけは気を付けるように。あと君は黄龍なんだからあまり長居しないように」
「んー。それは無理というか……むにゃむにゃ……とりあえずバイバイ」
「おやすみ」
ガッチャンと黒電話を切って。
しばらくあれやこれやと考えてましたが、やがて睡魔に負けて寝ました。
明日も頑張りましょう。
黄龍妖魔学園紀 第二話<上書き>
転校初日から数日が経過し、イベントもサクサクこなし、毎夜の遺跡探索もちょっとづつ慣れ、何人かのバディも出来た今日この頃。
それでも龍麻がバディとして連れ回すのはいつも皆守と八千穂でした。
「ねえ、龍麻クン。何でいっつもバディは私と皆守クンなの?」
「あ、やっぱりそろそろ飽きた?毎晩は嫌?ごめんなー気付かなくて」
すまなそうに言う龍麻に八千穂が慌てて否定しました。
「違うよ、そうじゃなくて。他にもバディしてくれる人が出来たのに毎回誘ってくれてるから。もしかして気を使ってくれてるのかと思って。取手クンとか誘って欲しそうだったし。気を使ってくれなくて良いんだよ」
八千穂の言葉に龍麻は「うーん」と悩みました。
「八千穂の言うとおりだぜ。最初にバディに指名したからって毎回誘う事はないんだ。他の奴も誘ってやれよ。そして俺に安眠を返せ」
やっぱり龍麻は「うーん」と悩みました。
「まったく、何を悩む必要があるんだ」
「何というか……他の人とも仲良くすると九龍に悪いと思ってな」
「「九龍??」」
誰だよそれ、の二人の反応に龍麻は苦笑しました。
「その反応も九龍に悪いと思ってまうんや」
「とりあえず、これからも僕のバディはお二人でヨロシク頼みますわ。疲れてる時は誘わないから」
「うーん。龍麻クンが良いならいいんだけど……」
「お前がそれで良いならいいさ」
イマイチ納得出来てない二人でしたが、それ以上は突っ込まず流してくれました。
「では、再度出発しんこー!」
「おー!」
「やれやれ」
しばらく歩いていると八千穂が言いました。
「えへへ、何でかなーこうして歩いていると懐かしい感じがするんだ」
「何言ってんだ……」
「皆守クンだってするって言ってじゃないー。この間」
「……」
「前にもこうやって誰かと喋りながら歩いてた気がするって」
「ああ、そうかもな……」
後ろで聞こえる二人のやり取りを聞いた龍麻が振り返って言いました。
「その気持ちは持っててやってな。あのアホの為に」
それから、ポカンとしてる二人の頭をグシャグシャ撫でました。
「友達は大切と言う事だよ若人達」
そしてにんまり笑うとダッシュしました。
「あ、龍麻クン。待ってよー」
「バカ!こんな所で置いて行くな」
「はーはっはっは。追いついてごらんなさーい」
上書きされた記憶の中、毎日が過ぎていきます。
黄龍妖魔学園紀 幕間二<女の子たち>
とある日の教室。
「あのね、龍麻クン」
「どないした?八千穂くん」
「お賽銭あげたら御利益ある?」
と、龍麻の前に5円玉を置きます。
「何か願い事かね、お嬢さん」
5円玉を指でくるくるしながら龍麻が聞きました。
「へへへ、白岐さんとね。もっと仲良くなりたいんだ。神さまパワーで何とかならないかな」
「それは神さまでなく。後ろで真っ赤な顔してる本人に言うたり」
八千穂がクルッと振り返えると白岐が顔を真っ赤にしておりました。
「わた…私も八千穂さんと…な、仲良くしたいわ……」
「白岐さん!」
大喜びで白岐に抱きつく八千穂に龍麻がウンウンと頷いています。
「いいよねー女の子は」
「神さまパワー関係ないな」
「皆守くん。それは言わないお約束」
しばらく二人で二人を見ていましたが、やがてボソリと皆守が言いました。
「あいつら」
「うん」
「前からずっとあんな感じじゃなかったか?前にもこんな風景見たぞ」
「……」
「どうした?龍ちゃん」
「……皆守くん。それも言わないお約束だよ」
「?」
龍麻のちょっと悲しそうな顔に皆守は首を傾げます。
九龍の落とした幸せをひとつひとつなぞってあげてる龍麻でした。
黄龍妖魔学園紀 最終話<すべて世は事も無し>
九龍にはめられ(?)23歳でもう一度高校生をやるはめになった龍麻。
新しい戦闘画面に戸惑い、新しい感情移入に戸惑い、魔人の世界を懐かしく思う。
そんな毎日も今日でお終いです。
そう、今日は最終日のクリスマスイブなのです。
最終フロア。黄泉比良坂の記。
大広間の床が崩れ、最後の玄室が現れました。
「こんな所に隠されていたとはな」
皆守の言葉に龍麻と如月(最終バディ)が答えました。
「いや、最初っから気付いてたし」
「大地の気の流れを見れば一目瞭然だよ」
「そうそう、龍脈の渦の中心や」
(だから何なんだよそれは!)
目の前で解らない話をされると辛いものです。
「とにかく、ここまでたどり着いてしまったお前を《生徒会副会長》として始末する」
副会長モード(いわゆる戦闘モード)になった皆守でしたが、龍麻も如月も武器を構えようとはしませんでした。
「どうした?観念したのか?」
「いやいや、君を殺るのなど瞬き一瞬の出来事だがね。今現在問題なのはそんな事ではないんだわ。如月」
「ああ」
龍麻が如月の肩に手を置くと、見る間に如月の形が変わりました。
「なに?」
「初公開。如月玄武変生。やや亀バージョン。詳しいビジュアルは符咒封禄をプレイしてね!」
「いけい如月!」
「参る!」
次の瞬間には皆守の目の前に如月が居りました。
「早っ!」
「遅い」
そのまま腹に一撃入れ、皆守を落としました。
「いやーん。如月格好いいー」
「……ふざけない」
「ごめんなんす」
如月はそのまま軽々と皆守を肩に担ぎました。
「さて、後は阿門くんとやらいらっしゃーい」
龍麻の桂三枝風の言い方に誘われた訳ではありませんが阿門が出てきました。
「その力。何者だ?」
「玄武だよ。黄龍を守護する四神の一柱さ」
「まー簡単に言うと神の眷属。如月は元々玄武の宿星やから僕の気を使えば少しの間なら神の力も使えるのだよ」
阿門には言ってる意味があまり理解できませんでしたが、兎に角強い敵なのだという事は理解しました。
「たとえお前達が神であろうと、この先にある物を目覚めさせる訳にはいかない」
その言葉に龍麻は苦笑して言いました。
「本当に悪いんやけど。今はそんな事を論じてる場合ちゃうのよ」
「何を言っている?」
その時、
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
墓の底が激しく揺れ始めました。
「何だこれは!?」
「……黄龍を三ヶ月も同じ場所に繋いだんだ。当然の結果だな」
「えーっと、龍脈がな。正しい流れに戻ろうとしてんすわ」
言い終わらないうちに床の揺れは激しくなり、そこかしこに亀裂が入りはじめました。
バランスを崩し、亀裂に落ちかけた阿門を如月が支えました。
亀裂の先には煌然と流れる黄金の河が見えます。
「あれが龍脈なのか?」
阿門が如月にたずねます。
「ああ、この地が押さえ込んでいた不自然な気の流れだ」
「濁ってはいないからまだ使えるけどな」
いつの間にか龍麻も横におりました。
「無理矢理丸められた龍脈がほどけて、本流に戻ろうとしとりますなー」
「どうすればいい?」
阿門の問に龍麻は笑って言いました。
「どうもせんでいい。君は皆守を連れて地上へお戻り。奥の荒吐神さんも飲み込んで龍脈は自然の流れに還るから」
龍麻の言葉を聞いて如月が阿門に皆守を押しつけました。
「足場が崩れきらない内に戻るといい。後は僕達がする」
納得の出来ない顔をしていた阿門ですが、龍麻と如月の有無を言わせぬ雰囲気に仕方なく地上へと戻りました。
「龍麻。で、これからどうしたら良いんだい?」
「お前も知らんのかい!僕達がするとか格好つけるなよ」
「そこは、大人だから」
子供の前では格好をつけたいのが大人です。
「いや、ホンマに何もせんでええんよ。と言うかここまで活性化してる龍脈にはなんも出来ん。自然に収まるまで待つしかない。とりあえず足場の残りそうな所へ移動しまひょ」
トントンと崩れる床を飛びながら、比較的安全そうな場所に避難しました。
目の前では氾濫した河のように龍脈が躍っています。
「さてと……九龍。出てこい」
龍麻がそう言うと、どこに居たのか九龍が姿を現しました。
「えー……すまんでした兄ちゃん」
「このボケナスがーーーー」
殴りました。
「ごめんなさいー。ごめんついでにコレも龍脈の中にお願いします」
そう言ってベストから取り出したのは一枚の石版でした。
「これ、ここの秘宝ちゃうんか」
「一週目では見つけられなくて境さんに取られた」
「協会に渡さなくてええんか?」
龍麻の言葉に九龍はちょっと笑って言いました。
「ロゼッタは秘宝を正しい方法で使うと豪語してるけど、所詮は人が創った組織。どうなるかなんてわからんがね」
「確かに、正義の殺しを謳った某学園も館長派と副館長派に別れて内部分裂しかけたしな」
遠い場所でヒゲの館長がクシャミしました。
「龍脈の中に落としといたらとりあえず人は悪用できませんやん」
「悪用もできんが、善用もできんぞ」
「それは仕方がないよ」
九龍はあっけらかんと言いました。
「ロゼッタもえらいもん雇っとるな……」
溜息半分、面白半分で龍麻は石版を龍脈に投げ込みました。
売り物になりそうだったので、如月が少し残念そうです。
「んで、九龍。もう一個」
「まだありますか」
ビビる九龍の前にしゃんと立った龍麻が真面目に言いました。
「お前、初めて出来た友達と好きな人をフイにしてまでこんな事をしたかったんか?」
「……」
「自分の幸せ壊してまで、世界平和なんて望むな」
如月は主人公の言う台詞じゃないなと思いました。
「個人の幸せが何より大事やぞ」
「……でも、兄ちゃん。僕のした事だけやと、荒吐神は眠りについただけ、秘宝は協会の手、龍脈は曲げられたまま、なんも解決してませんがね」
「それは聞いたけどな、聞いた感じなら数百年は大丈夫やったぞ」
九龍はそれでも、と泣きそうな顔で言いました。
「でも、遺跡がここにある限り悪い事考える人も出るかもしれませんやん。また復活させよう思う人も出るかもしれませんやん」
龍麻は劉の故郷を思い出しました。
「そうなった時でも僕はきっとこの場所に戻って来れんので……龍麻兄ちゃんに完全に無くしてもらいたかったんす」
泣きそうな顔から本泣きになった九龍の頭を龍麻が撫でました。
「お前はホンマに真面目なアホやのう」
「アホ言わんとって下さい」
「龍麻に九龍くん。肉親の愛情劇場中悪いんだが、本格的に崩れてきたようなんだけど」
如月の声に周りを見渡せば、確かに本格的に崩れてきてました。
「多分、秘宝が無くなったからやね」
「呑気に言うなよ。そいでは僕らも地上に戻るぞ」
三人は素早い動きで崩れる遺跡を後にして地上へと戻りました。
上手い事、皆の位置から見えない場所に脱出した龍麻達。
「じゃあ、兄ちゃん。僕はロゼッタに戻るわ。HANT頂戴」
「ほれ」
差し出されたHANTを受け取りましたが、なぜか反対側を龍麻がガッシリ掴んでおりました。
「……龍麻兄ちゃん。何用でしょうか」
「お前が帰るのはロゼッタの前にあっちじゃ」
指さす先には墓の周りに集まっている皆が見えました。
「え?」
「どうせ、一周目もたいした挨拶せんと消えたんじゃろ。丁度いい機会や、別れやらやり直してこい」
「無理やよ。皆の記憶は白紙にしたもん」
「それならちゃんと元に戻したぞ」
「はい?」
「ええからさっさと行け!!」
そのまま力任せに九龍の背中を押しました。
「ご苦労様。龍麻」
「サンキューです」
如月が労ってくれました。
向こうでは皆にもみくちゃにされてる九龍が見えます。
「寂しがり屋の癖に頑張りすぎや」
「寂しがり屋なのは龍麻もだと思うけど」
「この声は……」
恐る恐る振り返ると壬生がおりました。
「壬生!!!!なんでココにおんねん!」
「如月さんから連絡があってね」
「如月!!!!」
見れば遠くに如月が居て手を振ってます。
「あんの亀吉が!!」
「龍麻」
「は、はい」
別に悪い事はしていないのに、何となく怯え気味の龍麻です。
「はい」
差し出されたのは壬生の手でした。
「ん?」
「いつまで君が居られるのか知らないけど……帰ろう」
「ん」
にんまり笑って手をつなぎました。
すべてが正しい流れに収まって。
めでたし、めでたしで御座います。
それでは、本日はこの辺で。
黄龍妖魔学園紀 おまけ<双竜>
テクテク手をつないで双龍が歩いています。
「で、龍麻。何で僕に連絡してくれないかな」
「……いや、何というか。僕一人でも片づけれる仕事やったし」
「言ってくれたらバディでも何でもしたのに」
(しそうだから呼ばなかったんだがな)
「今の仕事なんて放棄したのに!」
「放棄すんな!!妖都蓄魂ってろ!!」
「蓄魂歌るにも雑誌が無いしね……」
「リアルな話題を出すなよ!」
「まあ、元気そうで安心したよ」
「元気元気。神さまやしな」
「……明日には発つのかい?」
「のんびりイチャイチャしたいんやけど……これがなー」
下を見ればアスファルトが金色に輝いております。
「このまま此処にとどまってたらまた龍脈の塔が建ちよるわ」
「仕様がないね。神さまだから」
「うん。しょうがない」
しょうがない、しょうがない、と言いながら二人は手をつないで帰りました。
本当、神さまというのは仕方のないものなのです。
黄龍妖魔学園紀 幕間<忘れている人々・神鳳>
お煎餅、キャラメル、チョコレート、干し芋、干し柿、大福、お団子、都昆布、仁丹、水飴、キャラメルコーン、ガム、甘納豆、麩菓子にハッピーターン。
彼に沢山のお菓子を食べさせる。
彼があんまり嬉しそうに頬張るものだから次から次へと。
??「ありがとう、神鳳くん」
神鳳「どういたしまして」
目が覚めると、それは奇麗に忘れていて。
この大量のお菓子を持て余す。
はてさて、毎晩夢に見る彼はいったい誰なのでしょう。
僕は一体誰を忘れてここに居るんでしょう……。
黄龍妖魔学園紀 幕間<忘れている人々・八千穂、皆守、白岐>
朝。
まばらに居るクラスメイト。
その外れで惰眠を貪る皆守。
皆から離れた場所でぽつんと座っている白岐。
そんな二人を気にしながらも声をかけられない八千穂。
(おかしい)
(何か変だ)
(何が変?)
(((俺達。私達。こんなによそよそしかったっけ?)))
何かが足りない。
誰かが足りない。
何かがあって、誰かが居て、俺も私も、楽しく喋れていた。
そう、ここに誰かがもう一人、確かに居た。
でもみんな忘れてしまった。
後記
2007年最初の新刊は龍麻が主役となりました
久方ぶりに書いた龍麻はやっぱり龍麻は龍麻でした
書きやすい事この上ない(九龍より龍麻の方が性格が悪いからと思われる)
今回、公式でもあります「黄龍妖魔学園紀」が舞台な訳ですが実はプレイしてません
感想とか見てる限り、龍麻である必要性は無い感じがして
それならば自己流で、
「なぜ、龍麻がこの学校に来なければいけなかったのか?」
を考えてこの本を作りました
かなり自己満足の作品なので、意味がわかりづらかったらごめんなさい
作中に出てくる「黄龍」「龍脈」「玄武」「四神」「気」などは全部魔人世界の重要キーワードでした
九龍ではまったく出てこなかったのが残念です
それでは、補足と言うか蛇足な作品紹介です
「第0話」
始まり。オープニング
二週目九龍なのでヘラクレイオンの神殿から上手く脱出
その後、迎えに来たロゼッタの職員をまいて、龍麻にバトンタッチ
ロゼッタさん達は前髪が同じなので気付かず日本へ強制送還
お互い前髪しか特徴が無いので入れ替わりはたやすいという……
「第一話」
雛川先生の年齢をど忘れしたんですが、確か龍麻とタメくらいですよね
あと、魔人の皆は1999年に卒業だったか、2000年に卒業だったか
1999年にクリスマスしてたから卒業2000年だったかも
とりあえず懐かしき5年前
5年たって、も一度高校生出来たらきっと懐かしいだろう
龍脈の塔とか器とか自分の事「僕」呼び(笑)とかは全部魔人から
「幕間」
ネットの如月骨董品店を見て電話
朧の時の彼は熱かったです
運命とかバリバリ告ってくれました
年取ると保守にまわります(笑)
あと、ウチの龍麻は0時を越えては起きていられません(朝型人間)
「第二話」
九龍の築いた人間関係を上書きしたくないので、接触は最小限に
龍麻の優しさです
でも、いらんちょっかいはかけてそうです(夷澤や砲介などに)
「幕間二」
同じく龍麻の優しさ
八千穂と白岐さんは二人で仲良くしてればいい
「最終話」
九龍は優しい良い子です。龍麻も優しいええ子です
まあ、そんな話です
玄武変生は符呪でされてました。まさに忍者タートルズ
ちなみに荒吐神さんと小夜真夜は龍脈にとけて、転生の輪に戻りました
「おまけ」
龍麻が出たら、彼も出ないとの、彼です
この二人が手をつないで歩いてるのが好きです
補足→「妖都蓄魂歌」壬生が主役の漫画(雑誌が無くなったので続き出ず)
あと、作中に神鳳が出てこなかったのは、お互いに「好みじゃなかった」からです
龍麻にとって神鳳は「地味すぎる」(龍麻の好みは美形)
神鳳にとって龍麻は「黒すぎる」(神鳳の好みは無邪気な子)
他に、神鳳は九龍の好きな人なので接触はしないであげた説
それでは、長々とお付き合い頂きありがとうございました
次の本でお会いできれば幸いです
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