「安っぽいヒロイズム」

 安っぽいヒロイズム。
 そんな物たたき壊してしまえ。

 床はゴゴゴゴと震動を繰り返し、
 壁はボロボロと剥がれ落ち、
 間もなく天井も崩れ落ちるだろうその場所で、
 ちょうど落ちてきた瓦礫を椅子代わりに、

 カレー定食(カレーライス&カレーラーメン)を食べる男、葉佩九龍

 職業トレジャーハンター、
 但し新人、
 横でとても何か言いたそうな、阿門&皆守の両名を無視して遅いディナータイム。

 ズルズルズル・・・ズーーーーーーッ・・・・・
 「っぷはー。やっぱり僕の作るカレーラーメンは最高ですにゃー。でもなーカレーがなー。何でかご飯が白い。そもそもマミーズのは何で黄色なのだ?何で?甲ちゃん」
 「・・・・・・あそこのはサフランライスだからな」
 「ほー、そうだったのか」
 成る程成る程と頷きながら、また定食を食べ始める九龍を見ながら二人は「何故こんな事に?」と思いました。

 話は戻り少し前。

 九龍と最終バディの神鳳、そして副会長として九龍と対峙し倒された皆守の三人は、この遺跡最後の墓守「阿門」と同じく最後の荒人「荒吐神」を倒しました。
 これで阿門も、同じく墓に縛られてた白岐も解放され、やれやれめでたしめでたしと思っていましたら、遺跡が崩壊をはじめまして。
 これは大変、早く逃げねばと思っておりましたら、阿門が「俺は最後の墓守としてここと共に消える」とか言いだし、それを聞いた皆守も「会長が残るなら副会長の俺も残る」とか言いだしました。
 九龍はその言葉をフンフンと聞いてまして、神鳳と白岐に何事か耳打ちすると皆守に向き直りました。
 「甲ちゃんよ。どーしても残るのか?」
 「ああ、九ちゃん。お前はその二人を連れて逃げろ」
 九龍はまたフンフンとその言葉を聞いて、今度は阿門に向き直りました。
 「阿門くんもここに残ると?」
 「ああ、これが俺の最後の仕事だ。これで何もかもが終わる。お前はさっさと行け」
 九龍はやっぱりフンフンと言葉を聞いてました。
 聞き終わって、くるっと振り返り神鳳と白岐を「先に」と送り出しました。
 それで、神鳳と白岐の二人が広間から去るのを見届けると、鼻歌まじりでにこにこと、軽い足取りでひょこひょこと二人の横にやって来ました。

 
 そして、訝しげな顔でこちらを見てる二人を無視し、横にどっかり腰を下ろし、おもむろにアサルトベストからカレー定食を取り出し食べ始めたのでした。


 
 
 カレーラーメンが無くなり、カレーライスを中盤まで食べた所でドォンと大きな震動が来て地面が大きく揺れました。
 足を取られた皆守がバランスを崩し、阿門がそれを支えました。
 九龍だけがさして気にも止めず、やっぱりのんびりとカレーを食べておりました。
 それを見ていい加減皆守がキレました。

 「九ちゃん!ふざけてる場合じゃないだろ!さっさと逃げろ!!」
 「きーこえーませーん」

 皆守の大声におびえる事もなく、カレー定食にはラッシーを付けるべきだよなーなどと独り言を言ってる九龍に阿門も溜息をつきました。

 「・・・皆守。お前も地上へ戻れ。この男はお前が一緒でなければ動かないだろう」
 「・・・・阿門」

 
 「ぎゃははははははははははは!!!!!!!!!」
 突然けたたましい笑い声がひびき、驚いた二人が振り向いた先には腹を抱えて笑う九龍がおりました。
 「なーにを自惚れてんですかにゃ?もー甲ちゃんたら」
 カレー定食を完食した九龍は笑いながら立ち上がると、くるくると躍るような足取りで二人の前に移動しました。

 「あーははは。二人とも何か勘違いしてるみたいだけどなー、僕がここに残ってるのはT最後のクエストUが残ってるからだよん」
 次々と落ちてくる岩石をクルクルといつか夜会で見たダンスのように、楽しげに避けながら九龍は二人に喋りかけました。
 「クエストとか言ってる場合かバカ!さっさと逃げろ!」
 「おやおや。プロが仕事を放棄など出来ますかいや。まったくこれだから自分で食いぶち稼いだ事も無いお子さまは」
 喋ってる間に身長ほどもある岩が落ちて来ましたが、軽くくるんと避けました。
 そして、そんな物には目もくれず、ビシッと皆守と阿門を見据えながら続けます。

 「前に阿門くん聞いたよな
  なぜ墓を暴くのか?って
  それはそれが僕の仕事だから
  仕事だからちゃんと最後の最後まで責任持つよ
  それがプロのハンターとしての僕のポリシーです」  

 「大体な、ここまで頑張って体はって、誰も傷つかないように動いてきたのに、最後に泥塗るような男助ける為に残りますかいな」
 九龍の言葉に皆守の肩が一瞬ビクッと動きました。
 「あ、副会長伝々の事でなくてな。そんな事は怒ってないよ」
 いつの間にか九龍の右手にMP5R.A.Sが握られてました。
 「怒ってんのは最後の最後で死という逃げに走った事だけどなー。まーええ。死にたかったら死んだらいいわ。阿門くんにも甲ちゃんにもガッカリだ。君ら二人がミンチになっても僕は毎日笑って暮らすよ」
 右手に持ったMP5R.A.Sを玩びながら九龍は楽しげに喋り続けました。
 「甲ちゃん居なくなってもー。神鳳くんが僕の横歩いてくれるって言ってくれたしー、トトとエジプト行く約束もしたしー、これから僕の背中は砲介が守ってくれるそうだしー、鴉室さんにM+M機関誘われたしー、黒ちゃんの専属ハンターはちょっと危険な賭けだけど人生それも悪くないしー、夕薙くんもハンター目指すらしいから先輩風ふかすのも悪くないしー、そうそう来年には夷澤がこの学校仕切るらしいから阿門くんも要らないねー」
 そこまで言ってにっこりと笑うと、
 「ホント、ここで二人死んでも全然オッケーだーねー」
 と言い切りました。

 『・・・・・・・・・・』

 九龍の言い放った言葉に呆然とする二人を見て、九龍は楽しそうににこにこしました。
 「何傷ついてんの?死ぬってそう言う事でしょうが。お前等居なくなっても朝日は昇るし、みんな普通に毎日送るわいな」

 そのまま黙ってしまった二人を見ながら九龍はバットを持つように銃を持ち替えました。
 それから溜息つきつつ言いました。

 「今、甲ちゃんと阿門くんがしようとしてんのは、単なる安っぽいヒロイズム」
 「阿門くんさー、ちょっとは厳十郎さんの事考えたか?」

 九龍のその言葉に阿門が弾かれたように顔を上げました。
 そして、その一瞬を捕らえました。
 「だりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 
 バッコーン!

 フルスイングの銃は綺麗に阿門のこめかみをジャストミートしました。
 そのまま倒れ落ちた阿門を支えようとした皆守も九龍の銃が襲いました。
 「次はお前じゃー!!!!!!!」
 「く、九ちゃん!!!!」

 ガッコーン!

 「ほーほほほほ。狙うは4番打者〜」
 朱堂ばりの高笑いをする九龍の足元では二人が伸びてました。
 それからゴソゴソとアサルトベストを探ると中からズルズルと長いカーテンが出てきました。
 「な〜つがす〜ぎ、風あざみ〜♪・・・ふふん、わざわざアイテム欄一個消費してまで持って来たコレが役に立つ時が来たね」
 鼻歌交じりにそれで二人をくるむと簡易タンカの要領でずるずると引きずりながら出口に向かいました。
 「誰のあこがれにさまよう〜♪青空に残された〜わたしのこころは夏模様♪」
 崩れる床に足を取られながらもえっちらほっちら出口を目指します。

 「「・・・・・葉佩、葉佩九龍・・・・」」
 「ほいほい?」
 突然呼ばれ、そちらの方を向くと謎の双子T小夜子と真夕子Uが立ってました。
 「おー小夜ちゃん真夕ちゃん。お久ぶり、消えてなかったのだね」
 「「はい、もう少し時間があるようです」」
 「そうかね、でも僕の方には時間が無いのでね。再会の喜びは出てからにせんかね?」
 天井と足元を気にしながら九龍が言います。
 小夜子と真夕子はそんな様子をくすくす笑いながら見てました。
 「「大丈夫です。貴方がたは私達が地上にお連れします」」
 「おう?」
 九龍が首を傾げるのと同時に辺りが青い光に包まれました。
 「おお!」
 「「ありがとう、葉佩九龍。この地を解放してくれて」」
 「いえいえ、お役に立てたのならトレジャーハンターとして本望だがね」
 体の周りから重力が消え、浮かび上がるのがわかりました。

 「「荒吐神・・・・長髄彦の魂は私達と眠りにつきます。安らかなる永遠の眠りに」」
 「良いね、ハッピーエンドだ」
 「「はい」」

 それでは、と消えるかと思った小夜子と真夕子でしたが、消えず。
 そのままこんな事を聞いてきました。

 「「最後にお聞きしたいのですが」」
 「はいな?」
 「「貴方が言ってました“最後のクエスト”とは何だったのですか?」」
 「ああ、それか」

 九龍は楽しげに喋りはじめました。

 「最後の最後のクエスト。依頼主は二人。

  一人は《とあるバーのマスター》で、依頼内容は
  『生まれた時から見守ってきたかけがえの無い【宝】を遺跡の中から連れて帰ってくる事』

  もうひとつは、《とある転校生》で
  『転校当時から世話を焼いてくれた【親友】の首根っこ捕まえて戻ってくる事』」

 言って、にやりと笑う九龍に、小夜子と真夕子もつられて笑いました。

 「「優しい人の子。貴方の進む先が光で満ちあふれていますように」」
 「たとえ真っ暗闇でも懐中電灯持ってるから大丈夫」

 「「くすくす、さようなら」」
 「ばいばい、いい夢見てね」

 
 二人が消えた途端、周りは眩しいくらいに輝き出しました。

 (あーもう終わりか。まったく地上に戻ったら社会人の本気を見せてやるぜ。この甘えたーズめ)

 そのままカーテンからこぼれた皆守と阿門の手を握ってクスクスクスクス、ずっと笑っておりました。





 13話で阿門と皆守が死を選んだ時「甘えてんなこのバカ野郎」と思った人は多かった筈
 何と言うか、大変わかりやすい「人に甘えた責任の取り方」でしたね(そして意味が無い、アンタ等二人死んで何がどうなるよ)
 監督偉い
 あれを見て、あー阿門もまだ子供なんだなーと思いました。なんとなく

 魔人のマリア先生が最後に手を離すのとは根本的に違うし
 
 最終バディが神鳳なのは完全に趣味です(夕薙と迷った)
 本当は八千穂を連れて行くべきなんだろうなーと思いつつ

 神鳳連れて行ったから、最後阿門が「後の事は上に居る生徒会役員に言ってある」と言った時
 (あ、ごめん神鳳ここに居るよ)
 と思ってしまった。神鳳も何か言えよ

 まー安易に死のうとする人間を九龍は大嫌いですので(かつての真理野も含む)
 出てから楽しい制裁(後日談)がまってます

 社会人をなめてはいけません

 余談ですが、最後に九龍が歌ってんのは「少年時代」です。書いてた時に聞いてただけで、歌詞とかに意味はありません