「はぴばーすでーつーゆー」

 「はぴばーすでーつーゆー。今月の24日は神鳳くんの誕生日なんで何かしたいのですー」
 唐突に九龍がこう言い出しました。
 聞き役は毎度おなじみ、皆守甲太郎と八千穂明日香です。

 
 「・・・・九ちゃん、前に誕生日祝う習慣無いって言ってたよな」
 「無いですよ」
 「俺の誕生日は完全無視だったよな」
 「そう言えばそうですな」
 「・・・・・・・神鳳の誕生日は祝うのか?」
 「モチロンじゃないですか!」

 言い切った九龍に皆守がガックリ肩を落とします。
 「まーまー、いいじゃない。友達の誕生日をお祝いするのは楽しいよ」
 とりあえず八千穂がフォローしてみます。
 「そうそう、協力してちょーよ。お礼に明治5年のカレーライス作ってやっから」
 「赤蛙と長ネギのカレーはゴメンだ!」
 「流石は甲ちゃん!カレーに関してだけは博学だな!」

 豆知識・初めて日本でカレーが作られたのは明治5年で具材は赤蛙と長ネギ(当時は玉葱が高価だったので代用品)でした。

 「しかもお前の場合、蛙の代わりに水蛭子とか使う気だろう!!」
 「凄い!材料の入手経路まで!!エスパーですか!」
 「やかましい!!」

 「じゃあ、普通に土鍋カレーをお礼に。食べ応え最高ですよい」
 「・・・・(コロッと)仕方がないな」
 二人のやり取りを見て、八千穂は(どっちもどっちだ)と思いました。

 「で、話は戻すけど24日が神鳳くんのお誕生日なんね。そんでこんなのを作ってみたんだけど」
 言って立派なバースディケーキを取り出しました。
 「わー!美味しそう!九チャン作ったの?」
 「そうそう。そいで、お二人ちょっと味見して頂けるかい?」
 「するするー」
 八千穂が喜び、皆守が仕方が無いなと言った風情でケーキに包丁を入れました。

 ジャリッ!
 ゾリゾリゾリゾリ・・・・・・・

 包丁が明らかにケーキを切る音では無い音を出しました。

 「・・・・九ちゃん・・・・何だコレは」
 「え?なにって・・・塩ケーキ」
 「「塩ケーキ・・・・」」
 聞くからに不味そうな名前が出てきました。

 「神鳳くんの好物が塩焼きだったので、生クリームの代わりに塩でコーティングしてみました☆」
 「みました☆じゃない!ケーキなのかコレ」
 「だから味見して貰うんやん。食べて食べて」
 勧められるままに食べてみる二人でしたが。
 ジャリ・・・・ジャリジャリジャリジャリ・・・・ゴックン
 「・・・・不味い」
 「・・・・九チャンこの間に挟んである物なに?」
 八千穂がケーキの間から何かベロンとした物を引っ張り出しました。
 「ああ、それは神鳳くん川魚好きやって言うから・・・・鮎(天然)」
 ((ケーキに鮎))
 「ホントは上の飾りも苺じゃなくて鮎の頭にしようかと思ったんやけど。何か不気味やったから」
 ((それは確かに不気味だろう))とホールケーキに丸く鮎の頭部が並ぶ姿を想像して二人は思いました。

 「で?どう?あげても大丈夫かな?」
 「九ちゃん・・・」
 皆守が青い顔をして言いました。
 「一言だけ言わせてくれ」
 「おう」
 「コイツをやった瞬間奴との関係は切れると思え」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・マジですか?」
 「・・・・・・・ああ」

 
 「うぇーーーーん!せっかく昨日一晩寝ないで作ったのにーーーーー!!!」
 泣きながら九龍はどこかに行きました。
 「九チャン!でもスポンジだけなら美味しかったよ!!」
 後ろからあまり慰めにならない八千穂の慰めが聞こえました。

 「イッシー!僕の相談聞いてーーー!」
 九龍が次にやって来たのは、石研の部室とそこに居座る黒塚至人(愛称・石男orイッシー)の所でした。
 「おや、九龍博士。非道い顔だね。何があったんだい?」
 「かくかくしかじかなんですー」
 (経緯を説明中)

 
 「誕生日プレゼントねぇ」
 「石男くんは貰ったら嬉しい物って・・・・・・いい、答えわかった」
 「そこまで即答されるとちょっと傷つくかな」
 「だってー」
 何だかんだで石研でウダウダします。

 「やっぱり喜ぶ物をプレゼントしたいではないですか」
 「そうだねー」
 「石男くんは石でしょー。甲ちゃんはカレーでしょー。そんな解りやすい皆様なら良いのですが・・・・神鳳くんの好きな物って何かしらー。霊?霊関係?それとも塩ですかー?」
 「塩焼きのメインは塩より魚だと思うけどねぇ」
 「むー」
 会話が行き詰まりました。

 「ねぇ九龍博士。相手が喜ぶ物を送るのは基本だね。でも、それが解らない時は自分が欲しい物で考えてみるのも良いと思うけど」
 「僕が欲しい物ですかい?」
 「そうそう。なまじ相手の得意分野で勝負すると、もう持ってる物を送る可能性もあるし。今はとりあえず九龍博士が欲しいと思ってる物を用意してみたらどう?」
 「にゃー・・・・・」
 黒塚の言葉にしばらく考えてた九龍ですが、何か思い付いたらしく元気に言いました。
 「そうか!うん、それでいってみるよ。ありがとうイッシー!これはお礼の裁判官の石ダースセットです」
 「ああ・・・九龍博士。やっぱり君は僕の理解者だよ」
 九龍の差し出した石にもうウットリの黒塚です。
 「じゃあ、頑張ってくるなー。石男くんありがとーーーー」

 そして九龍は装備を揃えると遺跡へと走って行きました。


 誕生日当日。
 「神鳳くん。お誕生日おめでとう!」
 九龍が満面の笑みで綺麗にラッピングされた小箱を神鳳に渡しました。
 「おや、これはプレゼントですか?ありがとうございます」
 「何が良いかわからなかったので僕の欲しい物にしてみました。喜んで頂けると嬉しいのですがなも」
 「ふふふ、何ですか」
 神鳳がラッピングを剥がして中から出てきた物は・・・・・

 『九龍の秘宝』

 「何でかー、副会長も会長もおらなんだからアラハバキさんぼてくり回して楽勝でしたよい」
 「・・・・・・・・・」
 廊下の方から、
  「何だ!墓地が光ってるぞ」
  「阿門と皆守が墓地に猛ダッシュして行ったぞ」
 と言う声が聞こえてきました。
 気の所為で無く地面も揺れています。

 「・・・・・九龍くん。お気持ちは大変嬉しいのですが、今すぐ遺跡の地下に戻して来て頂けますか。僕も一緒に行きますから!」
 「・・・・・・駄目でしたか?」
 「その話は後でしましょう・・・ね!」
 珍しく神鳳が必死でした。

 速攻で秘宝を戻し、アラハバキも復活させ、とりあえずは平穏(?)が戻ってきました。
 「・・・・もう少しでED突入でしたね」
 「ご迷惑をおかけしました。今の僕が欲しい物で考えたらアレでしたので」
 シュンとしてしまった九龍の頭を優しく撫でてあげながら神鳳が慰めます。
 「いいえ、その気持ちだけで十分ですよ」
 「にゅー・・・・・」
 涙目の九龍がゴソゴソと鞄を漁ると、もう一つラッピングした物が出てきました。

 「実はアレをあげると協会に怒られるので別のも用意しておったのです」
 「だったら最初からそちらを下さい」
 流石にちょっとご立腹の神鳳です。
 「どうもすみませんです。こっちを喜んでくれるかわからなかったので」
 それで次の選択肢が遺跡の秘宝というのも凄い思考回路です。

 
 「それで、こちらは何ですか?」
 ぺりぺりとラッピングを剥いだ中から出てきたのは、
 「枕?」
 何の変哲もない枕でした。
 睡眠大好きな皆守ならともかく神鳳に枕はミスマッチです。
 「普通の枕じゃありません!頭寒足熱で安眠快眠の塩枕です!」
 塩枕という聞き慣れない単語に首をかしげますが、確かに普通の枕に比べると重い感じがします。

 「塩枕と言うのは枕の中に塩を詰めた枕で。普通のそば殻や綿に比べると換気も良く、熱も籠もらず、マイナスイオンも発生して睡眠にとても良いという。更に、新宿の黄龍&東の陰陽師頭領&花園神社の巫女さんに清めまくってもらった塩を使い、双樹ちゃん特製安眠アロマを混入した特製塩枕です!」
 「前に神鳳くん、霊の所為で安眠妨害されてるとおっしゃってたじゃないですか。だから良いんじゃないかと思って作りました。枕は寝てる間の魂の保管場所ですし・・・・・えー、気に入ってもらえましたか?」
 熱く枕について語っていた九龍ですが、神鳳のリアクションが無いのでちょっと不安になりました。
 「・・・・か、神鳳くん?」
 「九龍くん」
 オイデオイデと手を振られます。
 招かれるままニジニジと寄って来た九龍の頭にラッピングのリボンを着けてあげました。
 「ふふ、とても嬉しいですよ。僕の為に沢山考えてくれたんですね」
 「えーあー・・・喜んでもらえて良かったです」
 二人で顔を見合わせて、にこーっと笑いました。

 「ところで、九龍くん。あの不気味なケーキらしき物体は何ですか?」
 指さした先には、魚の頭が刺さってる白いホール状の物体がありました。
 「あーーーーーーー・・・・塩ケーキ(改)です」
 「捨ててきて下さい」
 「非道い!」

 
 Tアイテムヲ破棄シマシタU

 「頑張って作ったのにー。鮎から鮭に代えて切り口の色も綺麗にしたのにー」
 「・・・・・普通の塩焼きで良いですから」
 「それだと面白くないではないですか!」
 「人の誕生日に面白さを追求しないで下さい」
 懲りないのが葉佩九龍です。
 そして神鳳の言い分は正しいです。

 「そう言う嫌がらせと紙一重の物体は皆守くんか夷澤の誕生日に作ってあげるといいですよ」
 「流石は神鳳くん。そいでは甲ちゃんの誕生日にはカレーケーキを!夷澤の誕生日には部屋に散水車で牛乳をぶち込んであげましょう!」
 「その意気です」
 前言撤回、あまり正しくありませんでした。

 
 「今年は枕をプレゼントしましたが、来年は何にしましょうか。来年には一緒に居ないですから今のうちにリクエスト受け付けますが」
 マミーズで買って来たまともなケーキを食べながら九龍が聞きました。
 神鳳はにっこり笑って答えました。
 「そうですね。九龍くんのT僕がプレゼントUなんてどうですか?」
 「・・・・・・???」
 「ふふふ、まあこのプレゼントは九龍くんがもう少し大人になったら貰いましょうね」
 言って今度は九龍の手首にリボンを着けました。

 「何かよくわかりませんが、僕で喜んで頂けるなら来年度のプレゼントとして差し上げますが」
 「来年ではまだ早いでしょう。僕も犯罪者にはなりたくありませんから」
 「・・・・・???」
 理解してない九龍の頭をポンポン叩いて、
 「九龍くんは僕のお楽しみプレゼントなんですよ」
 神鳳は楽しそうに言いました。


 何はともわれ、誕生日おめでとうございます。





 ウチの九龍は神鳳にベタ惚れであると言うことを全面に押してみた
 前に日記で書きましたが、九龍の家には誕生日を祝う習慣がありません
 やったこと無いことをやろうと思ったのですから、愛です!(言い切る)

 ちなみに他の生徒会メンバーもプレゼントはあげてます
 阿門からつげ櫛(毎年)、双樹からお香セット(毎年)、皆守からカレー(毎年)、夷澤から博多の塩(毎年)
 そして、弓道部員からアイスノン(大量)
 愛されてるのか嫌がらせなのか紙一重

 そして書く度に九龍の幼児化が進んでいる
 一応、対神鳳の時の九龍が幼い感じで、対皆守が性格悪い感じです