「ダラダラと日常」

 天香学園男子寮。
 とある日曜昼下がり。
 カレーアロマこと皆守甲太郎の部屋に、九龍と神鳳が居て、三者三様にダラダラしていました。

 「やっちーは良い子だよね」
 カタカタと自分のPCを机でいじってた九龍が突然そんな事を言いました。
 「そうですね」
 床に座って何か書き物をしていた神鳳が同意し、
 「まあ、そうだな」
 ベットで雑誌をめくってた皆守も適当に相槌をうちました。

 カタカタカタカタ・・・・。

 しばらく九龍のキーを打つ音だけが響き、また
 「やっちーはこの学園の良心だよね」
 と八千穂の話題になりました。
 「そうですね」
 「そうだな」
 先程と変わらず相槌がうたれました。

 カタカタカタカタカタ・・・・・。

 「胴上げしよう」
 突然、九龍が閃きました。
 「八千穂さんをですか?」
 「八千穂をか?」
 流石に二人も驚きました。

 「日頃の感謝をこめて、胴上げ」
 「・・・・・ありですね」
 「ありなのか!」
 神鳳的には有りでした。

 「それでは、今から胴上げ隊出発!」
 「スカートでは危険ですからジャージの下がいりますね」
 「俺のズボンで構わないだろ。九ちゃんそこのタンスから出してくれ」
 「ラジャー」
 「あ、双樹さん?今から女子寮に行くので適当な理由つけて管理人さん捕まえておいて下さい。どうぞ、よろしく」
 「そんな、双樹ちゃんを使わずとも、女子寮はいつもゲットレに行きますから管理人さんの攻略は完璧ですよい」
 「最近女子寮で盗難が多いのはお前か・・・・」

 そんな感じでドヤドヤと三人は出て行きました。


 数十分後。


 「いやー、楽しかったねー」
 「もの凄い驚いてましたけどね」
 「いきなり、自分の部屋に男が三人もやってきて胴上げされたら驚くだろ」
 行った時と同じようにドヤドヤと三人が帰って来ました。

 「しかし、甲ちゃんがちゃんとやっちーの襟首捕まえてたのが感心しますな」
 「胴上げのマナーだろ」

 
 説明しましょう。
 胴上げをする時。万が一、落としても上げられてる人が頭を打たないように一人が必ず襟首を掴んでおくのがマナーです。
 女性は覚えていてもあまり参考にならないかもしれませんが、覚えておきましょう。

 「こんな豆知識を貴方は・・・」
 「甲ちゃんて一生胴上げする事もされる事も無いだろうに・・・・」
 「今しただろうが!」

 それはそれとして、また三者三様ダラダラとし始めます。

 カタカタカタカタカタ・・・・・
 パラ・・パラ・・・
 カリカリカリカリ・・・・

 
 「なあ・・・」
 皆守が雑誌から顔を上げて言いました。

 「お前等は何で、毎日毎日人の部屋に来るんだ?」

 
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 皆守の問に九龍と神鳳が顔を見合わせました。

 「何でとは何で?」
 「いや・・・お前達付き合ってるよな」
 「んにゃ」
 「・・・・・・・は?はぁぁ???」
 当たり前だと思って聞いた問に、予想外の答えが返ってきて驚きました。

 「付き合ってはないよ」
 「付き合ってはないですね」
 そんな皆守の動揺を無視して、九龍と神鳳はいたって普通に返しました。

 「年中、好きだの何だの言ってるだろうが」
 「「年はまたいでない」」
 変な所だけ反発します。

 納得出来ない顔の皆守に、九龍と神鳳が説明しました。

 「好きは好きですよ」
 「ええ、好きは好きです」
 「一緒に居るとかなりなリラックスムードですよ」
 「落ち着きますよね」
 「アイコンタクトもバッチしですよ」
 「雰囲気でだいたい分かり合えますよね」
 「ゆえに」
 「ゆえにですね」

 「「もう付き合わなくてもいいんじゃないかと」」

 「ちょっと待てーーーー!!」
 皆守が待ったをかけました。

 「おかしくないかその結論」
 もっともな答えです。

 「おかしくないよ」
 「おかしくないと思いますが」
 「おかしいだろ!何でスタートする前にゴールに着いてんだ!」
 スタート前にゴールした後を想像する、とても不毛な二人です。

 「だって、二人で居ても会話無いし」
 「しろよ!会話」
 「ですので、目と目で」
 「言葉を話せ!」

 
 「ほら、よく長い付き合いのカップルが「いつも一緒に居るので、一緒に居る事が普通になってしまいました」とか言うやないですか。それと同じで「お互い空気みたいなものだし、一緒に居なくてもいいんじゃないか」と・・・・」
 「言ってる意味がまったく逆だ!!」

 皆守甲太郎。まだまだ恋人同士に夢を持ちたい18歳。
 この枯れてるのか何なのかわからない二人にキレました。

 「あー・・・バカバカしい。別れろお前ら」
 「非道いなー甲ちゃん。僕達は好き同士なんだぞ」
 「そうですよ。相思相愛ですよ」

 「「ただ、お互いを必要としてないだけで」」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「好きだよねー」
 「ええ、好きですよ」

 そう言いながらも、サッサとお互いの作業に戻ってしまった二人に、皆守は長い長い溜息をつき、
 (次からは絶対にドアを開けるのを止めよう)
 と心に誓いました。

 ちなみに、昨日も誓いました。
 一昨日も誓いました。
 その前も誓いました。

 要はそういう事です。

 
 そんな三人の日常です。


 九龍と神鳳は好き合ってるのに何か変が基本です
 二人で居ると本当に会話が無いと思います
 倦怠期ではなく、あんまり喋る事を重要視してない二人
 仲は良いんですよ。ええ

 八千穂は九龍界唯一の常識であり、良心だと思ってます