

ジーパンの足先にはキャラバンシューズを履いて、リュックサックは足元に、車が来たら握った左手の拳から親指だけを立てて、進行方向に突き出す。当然のことながら車はなかなか止まってはくれない。その意思のある車だってタクシーじゃないんだ。決して、立ったその横には止まらない。まして彼の日常生活の視界に突然飛び込んできたヒッチハイカーである。「乗せてやろうかなぁ」何十台に一台そう思ってくれる運転手がいても、軽くフットブレーキを踏むだけで、こちとらがボヤボヤしてたら行っちまう。たとえ、車が30メートル、あるいは50メートル先にあっても後部のブレーキランプが点灯したらその意思ありだ。素早くリュックサックを抱えて追いかけなくちゃ。車に追いつくフットワークがある訳ではない。彼は、サイドミラーでずっとこっちを見ている。少しでもこちらが逡巡したら行っちまう。ミラーに追いかけ走る私が映ったら、そこでようやくもう一度大きくブレーキを踏んでくれるという訳だ。
いかに田舎くさい私でも、若いころの思い出はカッコよく書きたくなる。その事は誰も止めることが出来ない。
資金不足の私はよくヒッチハイクの旅をしたものです。旅先と自宅までの帰り道によく乗せてもらった訳で、自宅からいきなりそうするのではなく、夜出発の鈍行列車に乗って目的地の近くまで行くのです。ここでようやく「列車」と言うキーワードが出てきました。
今回私が紹介したい本は、『特別阿房(あほう)列車』であり、阿房列車シーリズで知られている内田百閨iひゃっけん)の随筆集そのものです。たくさんの随筆集が出ていますが、特に「ノラや」「御馳走帖」など儒玉の作品群があります。
この内田百閧ヘ、明治の文豪、夏目漱石の最後の弟子といわれている人ですが、全作品、旧仮名遣いでも、その味わいは今なお新鮮であります。一作でもその随筆を読まれたら、きっと虜になられることでしょう。
高 知 ニ キ