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高 知 ニ キ
 映画であれ、ビデオであれ、お芝居であれ、私が見たたくさんの作品の中から、あなたと並んでもう一度見たいもの、あるいは是非とも見ていただきたいもの、見終わった後で、お酒でも飲みながら、感想を語り合わずには入られないもの等を順々に取り上げて、おしゃべりしようと思いました。
 今回は、シチリア島の小さな村の映画館に勤める老映写技師アルフレードと映画の魅力に虜となってしまった少年トトとの友情を軸に、全編これ映画大好き人たちへの大賛歌となっている「ニュー・シネマパラダイス」を取り上げてみました。
 敗戦後すぐの日本がそうであったように、イタリアでも荒廃する人々の心を暖かくしてくれた唯一の物は、やはり映画であった。他に楽しみの無い時代に、小さな映画館に集まる人々の瞳は可愛く、そして無邪気です。小学校の低学年であった自分が、かつて円町にあった「ワールド劇場」で上演された『赤胴鈴ノ助』を見るべく、驚くほどの大勢の大人に囲まれて、息をするのも苦しい程の混雑の中で、活き活きと瞳を輝かした日はもう遠いけれど。子供向きと思われるこの作品に、周りの大人たちも確実に目を輝かせていた。
 ここ「パラダイス座」では、やってくる映画の、眩しいほどの素敵なラブシーンは、謹厳実直な神父さんの命令で、老映写技師の手によってしぶしぶカットされてはいたけれど、そんなことお構いなしに村中の老若男女はそれでも連日この映画館に押し寄せていた。ところがある日、映写場の火事が原因でアルフレードが失明してしまう。トトは 彼に代わって映写の仕事を引き継いだが、やがて大人になって島を出る。そして30年後、いまや映画監督となったトトのもとにアルフレードの訃報が届く。急いで戻った30年ぶりのふるさとは、変わり果て、「パラダイス座」も、もう無い。傷心のまま仕事場である都会に戻る映画監督に、アルフレードの奥さんから、彼からトトへの形見(かたみ)が渡される。この形見がなんとも素晴らしい。思わず、素敵で微笑んでしまう。そして、映画そのものの素晴らしさから大きな声で笑いたくなる。やがて、感動、でいく筋も、いく筋も涙があふれてくる。一見の価値あり。

                   イタリア・フランス共同  89’作品