今も、そして、かつて十数年ぶりにクラス会があったときもそうだったのですが
(当時、大病院の産婦人科婦長をしておられたはずの)
高校の同窓生、M田T子さんに会ったら是非聞こうと思っている事があります。
映画「男はつらいよ」シリーズ第33作(1984年作品)のマドンナは「風子」役の仲原理恵で
いつもの事ながら寅さんが愛してしまう彼女は、寅さんでなく
渡瀬恒彦が演じるオートバイショーの花形トニーに恋をするのですが
今回の話では、寅さんでなく、このトニーがカッコよく乗り回す
オートバイショーの方に関心があります。
小学生の頃、これと同じオートバイショーを三条公園であった「木下サーカス」
で実際にこの目で見たことがあるのですが
大きな球体の鉄のネットの中をオートバイで走り回るこのショーは
もっとも衝撃的なアトラクションで
相当にドキドキしながら見物した事を覚えています。
このオートバイショーの檻(おり)とも言うべき
球体の鉄のネットの大きさを
実際に、あるいは映像でもまだ見たことがない人に
説明するのは難しいのですが
小学生にはかなり広く見え
映画で見たときは思っていたより小さかった事を確認しましたが
たぶん直径はせいぜい10数メートル程度のものと思われます。
いつの頃からその夢を見なくなったのか定かではないのですが
子供のころは頻繁(ひんぱん)に見ていたものが年齢が高くなるにつれて
見なくなりました。
その夢を見るのは風邪などを引いて微熱があるときなどが多く
健康なときはほとんど見たことがありませんでした。
このことから長ずるに従い見なくなった理由について
2つの推論が成り立ちます。
1つは、子供のころは微熱を出す事が多く
その夢を見る機会がたくさんあったが
大きくなるにつれて微熱を出す事が少なくなり
したがってその夢を見なくなった。
もう1つはごくごく幼い頃の体験で
微熱に関係があるとはいえ、大きくなるに従いその記憶が薄れていった。
というものです。
その夢というのは
宇宙遊泳のような夢で
暗い空間に窮屈な姿勢の自分が漂っており
漂う球体の小宇宙の内壁には
かすかな光のネットが張り巡らされていて
たぶん
オートバイショーの球体ネットの中を漂っている感じであり
強い不安感があった。
汎性心理学のフロイトが聞いたら
「強い性の欲求不満」と診断しそうな夢。
だが私にはずーとある種の確信があった。
あの夢は自分が胎児であった頃の記憶ではないのかと。
母の子宮内で羊水の中を漂う自分。
きっとあのかすかに光るネットは子宮を取り巻く血管ではないのかと。
そうだとすれば、その夢(記憶)を微熱があるときのみ見るというのは
子宮内の羊水の温度が
平熱(36度程度)より高く設定されているからではないかと。
そうでなければこの話は成り立たない。
「羊水の温度はちょっと高くない?」
実は、産婦人科婦長だと聞いたM田さんに尋ねたかったのはこのことであったが
前回会った時は思い出話に夢中でこのことを聞き損じたので
今度会ったらきっと聞こうと思っているところなのです。
『史記』の項羽本紀に登場する故事の
四面楚歌と本文とは関係なさそうですが
もし、あの夢が子宮内における胎児のときの記憶だとすると
夢で感じた強い不安感というものが
こじつければ共通する事なのではないかと思われます。
生まれるまでの、永遠ともいえるほどの長い時間と
死んでからの、永遠ともいえるほどの長い時間。
この2つの永遠を分かつ谷間にあるこの短い人生で
人は何をなすべきか。
多くの先達が
小説で、詩で、映画で、絵画で、音楽で…語っている。
しかし人は、漂う羊水から抜け出しても
まだこの人生でも、迷いと強い不安感の中を漂いつづけている。
あらゆる人生は繰り返しに過ぎないかもしれない。
ジャーナリズムも然り。
古い洞窟で発見された太古の象形文字。
苦労して解読したら「近頃の若者ときたら」だったとか。
ちょっと待てよ。
母の子宮内で羊水の中を漂う自分は
至福の時を過ごしていたのかもしれない。
それをただ忘れているだけなのかもしれないのだ。
02/08/24
四面楚歌(しめんそか)