京の観光案内人F氏の活動報告を見ていると、

いかにも「よい仕事」ばかりしているような錯覚に誘導されがちですが、

本当に「良い仕事」ばかりをしているのだろうか?

ふと、そんな気になることがあります。

そこで、当誌が全力をあげてその実態に迫ってみました。

 F氏の上品で、饒舌で、冗談好きで、上機嫌な案内ぶりは否定しようもありませんが、

鎌倉からお越しの妙齢の女性四名様をご案内した

大原は勝林院のご住職の塔頭「宝泉院」の門前での出来事。

大きな実をたわわにつけた花梨の木の下をくぐって、

玄関の脇で履物を脱ぐ順番を待っている私たちの耳に、

澄んだ鳥の声が聞こえた。

すかさず「メジロだわ」鎌倉美人の声。

私は、いやいや、

F氏はきょとんとしながらも、

追い詰められた立場から懸命に立ち直ろうとしている。

「良くご存知でいらっしゃいますね」これを言うのが精一杯だ。

「またまたぁ」 と鎌倉美人。

この言葉の意味を翻訳すると

『先程までの、この人(
F氏)の博学ぶり(京都の地理や歴史)からして

メジロの鳴き声如きを知らぬ訳がない、

この冗談好きの人、

きっと私に「ヨイショ」しているのだわ。

かわいい人だこと』と、こうなります。

が、しかしである

メジロどころかメグロもメアカもメチャイロもメマッサオも然り、

鳥の鳴き声は『本』には載っていないのです。

『本』に載らない事柄はからっきし駄目。

彼のうろたえぶりはここにあり、まさにアキレス腱そのものなのだ。

晩秋に訪ねた百花苑とも称される石川丈山が隠居所『詩仙堂』では、

こんな事もありました。

20年案内人の大先輩との二台口。

先輩がお庭で御一行様を説明しながらのご案内。

謙虚な
F氏は、後方から目配り気配り「パシリ(使い走りの現代用語)」に徹して

無駄口をたたかない。

説明に自信がないからではなく

「長幼の序」を心得ているからである。

そのことは、

先輩も御一行様もそして何よりも
F氏自身が一番良く承知のことであります。

美しい大輪を一杯につけた木の前で先輩が言う

「芙蓉
(ふよう)で御座います。」

「芙蓉は夏咲くのでは?」とお客様。

「夏と二回咲くんだったねぇ?」ちょっと困って
F氏に視線を向ける先輩。

そんな事、知る訳がない。

弱ったなぁ。

それでも黙っているのは尚まずい。

F氏は鼻を広げてこう言いました「これはふゆよう(冬用)で御座います。」

一同大爆笑…。               終。

01/01/21 誕生日