北区某所K地区にある一番大きなお家は、
一人暮らしH野Sちゃん「87歳」のお屋敷である。
何を隠そう僕のタクシー生活3年の実績のうち、最高の売上を誇る個人顧客の住居であります。
今回はこのSちゃんのことを、お話したい。
職業上知りえた個人のプライバシーを侵害せぬよう
細心の注意を払いながらの展開となることを許してたもれ。
「あなたの車に乗ると安心感からか、心が温かくなってくるの。」
僕の自慢話ではない。
彼女の素直な感想である。
僕の鼻の穴が大きく開いたと見る君の思いは間違いだ。
ただ息を大きく吸っただけだよ。
彼女の小旅行は1パターンである。
一流のお店を何軒も廻る買い物の旅です。
こう書いて、大金持ちがお金に物を言わせての大量の買い物ツアーを想像した
君のイマジネーションは貧困であります。
彼女の買い物はとても倹しい物である。
とても良い物をほんの少しずつ、
僕のように心貧しきものは恥ずかしくてついつい余分に買ってしまいそうな、
気後れしそうな一流店での彼女の買い物の風景なのです。
彼女はいつも堂々としている。
一流のお店でも豪華なホテルでも。
アンパン二つを買う為に京都ホテルにタクシーを横付けする。
教養があり頭もよく上品で身に付けているものといえば数十年前の地味なものである。
僕は金持ち礼賛をしているのではない。
昼時ともなれば僕の為に、一流店に入り
お弁当を特別注文してくれるほどの気遣いも見せてくれる。
自分の分はない。
彼女の話の大半は亡くなったご主人の話である。
僕は疑問を口にしない。
むしろ彼女の話を彼女が思われたがっているままに受け入れるだけだ。
何が言いたいのか? 本当のことを言おうか?
彼女が「整理」という言葉を使って、お迎えの準備をしていることだ。
未だ亡びざる人と書いて未亡人と言うのではなかったのか?
上品でお金持ちの寂しいおばぁさんに、
本当に僕は安心と温かい気持ちを感じてもらっているのだろうか。
今回もまた中途半端な読み物となり反省しています。
今秋の紅葉名所ベスト1はエイデン八瀬遊園地駅周辺とさせていただきます。
表題と異なる内容となり悪しからず。次回は必ず。