振動を説明するとき、普通は振動方程式を使うのであるが、振動方程式にアレルギーのある人も多いので、ここではそれを使わずに振動の基本を説明することを試みた。
1. 振動とは
振動しているというのは物体(質量を持つ)が往復運動している状態である。
往復運動の変位(振幅)が大きいブランコや振り子の動きを見ると良くわかる。
動きは目には見えないが手で触ると振動を感じることもできる。
振動している状態で、一秒間に何回往復しているかを振動数という。
2. 物体が動くのは
物体を手で押すと動き出すが、このとき
「物体を押す力=物体の質量×位置を変える加速度」という釣り合いができる。
物体に加速度があると時間とともに動きだし速度がでる。
速度がある状態では物体はその位置を変える。この位置の変化を変位という。
3. なぜ振動するのか
物体に働いている力が力の方向を繰り返し変えるとき振動が起こる。
逆に言うとそのような力が働いていないときは振動は起こらない。
振動が起こる原因にはモータや車輪の回転により発生する振動や
電磁石により力が加わるスピーカのコーンの振動などがある。
4. 加速度、速度、変位(振幅)、振動数の関係
振動している状態と言うのは一般的に正弦波で変化する。(図1)
この場合、加速度は振幅が同じ場合は振動数の2乗に比例して大きくなる。
振動加速度の大きさの単位は重力加速度G(9.8m/s2)を用いることが多い。
振動数の単位はHzを使う。一秒間に10回振動数する場合は10Hzである。
振動を知るには次の関係式を覚えておくと便利である。なお、振幅は片振幅である。
5Hz、1G、1cm(自分の関係する振動現象に近い右のどれかを覚えると便利)
これを用いて、100Hzの振動で0.1mmの片振幅(往復では0.2mm)のとき、振動数が5Hzに対して20倍になっており、振幅は1cmに対して100分の1であるから、
20×20÷100=4 で 振動加速度は4Gになる。
5. 振動はなぜ問題になる
振動が問題になるのは物が振動でこわれる場合と音が発生して困る場合が多い。
こわれる原因は物体に働く力によって構造材料が破損する場合と
構造体の振幅が大きくなって、精度が出ないとかうまく動かないなどである。
また、物体が振動すると空気に粗密波を発生させて音となる。楽器がそうである。
6. 振動加速が問題になるとき
加速度により物体には力が働くことは述べたが、世の中の物体は地球の重力加速度1Gを受けいているので、一般には1G程度で壊れることは少ない。とくに、トラックなどで輸送される製品ではトラックの荷台で3G前後の振動を受けるのでこれには持つように作られている。したがって、振動加速度で強度的に問題になるのは5Gを超える振動である場合が多い。なお、地震で構造物が壊れる場合は、それらが水平振動加速度に弱いためである。水平振動加速度1Gは巨大地震である。機械設計者から見ると、建物の強度の余裕はいかにも少ないように感じるのだが。
7. 振幅が問題になるとき
世の中振幅が問題になることが多いが、これは製品によって問題となる振幅にはいろいろな大きさがある。精密機器では数μが問題になり、半導体の製造ではさらに小さい振動が問題になる。 ちなみに、固定ディスク装置の磁気ヘッドは円板の上を0.05μで浮上している。ヘッドの振動はこれ以下の振動振幅でないと円板にぶつかることになる。 8. 振動の基本的な特徴
振動方程式から導かれることであるが、振動現象には共振と減衰がある。
共振とは物体が持っている固有振動数と加振力の振動数が一致して大きな振動が発生する現象である。振動が問題になる原因の一つである。
減衰とは振動することによりエネルギーのロスが発生し、振動が小さくなることを言う。減衰が大きいと共振したときの振動は小さくなり、振動が長く続かず早くおさまる。 9. 振動対策を行う
振動対策は必ずある振動源(力)を突き止めそれを小さくするか取り除く。
共振している場合は固有振動数を変化させるか、振動源の振動数を変えるか、減衰を大きくする。
振動源が近くに無くても振動が伝達されている場合があり、伝達経路を断ち切る。
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