目を覚ましたのはまだ月の明るい真夜中だった。
こんな時間に目を覚ますなんて、時計を見ながら頭痛に呻く。
ああ、このせいだ。
滅多に引かない風邪は、引くと必ず重傷だった。
ふらふらしながら氷枕を替え、頭痛と戦いながら必死で眠りについた。

 

 

次に目を覚ました時には太陽はすっかり高くまで昇っていた。
食欲は全くないが食事しないと薬が飲めないので何か食べることにする。
ただ、この前食料を買いだめしたのはいつだったかと思い返すと、この家には今、食料と呼べるものなんて何も残っちゃいないと気付いた。
ああ、そうだ。一昨日買いに行くつもりだったんだ。でも一昨日から寝込んでしまったから買いに行けてない。今はまだ大丈夫だとしても、このまま風邪が長引くと生き続けることが難しそうだ。
それでも、僅かな希望を寄せて台所へ向かう。缶詰ぐらいあるに違いない。
それに本当に何もなかったら、ポケギアで親に助けを請おう。愛娘が死にそうだと言えば飛んで来るに決まってる。
ちら、とテーブルの上に置いたポケギアを確認し、私はしかしうなだれた。
そういえば、壊れてるんだ、あれ。修理に出そうと思ってすっかり忘れてた。
ああ、親も呼べない。
じゃあ最終手段はポケモンだ。ところがそれすらも不可能だと直ぐさま気が付いた。ポケモン嫌いの両親にポケモンを遣いにやっても無駄だ。
ああ、本当に死んでしまう。
足取りも頭もふらふらしながら台所に辿り着く。
何か食べ物は、と冷蔵庫を開けると色々と食材が入っていた。
とうとう幻覚まで見るようになったのか。相当熱があるみたいだ。
次に保存食を入れる棚を開けると、これまた沢山の食べ物が入っている。
ああ、早く寝よう。こんな幻覚、熱が引けば消えるだろう。こんな都合の良い幻覚なんて。
だって食べ物が見えたり、シルバーのニューラが見えたり、有り得ない。
ニューラに触れるとひんやり冷たくて、ほてった体には心地が良かった。
幻覚なのに触れるんだ、不思議だな。
と、ここでニューラが実体だと気づく。

「どうしてここにいるの?」
「ニュッ」
「んー?」
「ニュラッ」
「きもちいいー」
「………おい、

呼ばれて振り返ると、ニューラの持ち主がいた。これは幻覚なのだろうか。

「連絡できないと思ったら……」
「ポケギアがこわれて」

チッと舌打ちしたシルバーは、私をギロリと睨むと小さなため息をついた。
そして私をひょいと抱えるとベッドまで運んだ。

「し、しるばー?なんでおこって」
「当たり前だろう!自分からバトルの約束して現れないんだから」

ああ、そういえば昨日はシルバーとバトルする予定だったっけ。

「おまけに食べ物が全然ない家で寝込みやがって……」
「ごめん…」

シルバーはとっても怒っているように見えた。だから、どうしてニューラがにやにやしているのか理由が分からなかった。

「行くぞ、ニューラ」
「………ニュ」
「な、何だよ」
「ニュラッ」

ニューラはシルバーの手を器用に避けて台所に駆け出した。
そして用心深くお盆を運んできた。それをベッドの上に置き、私の目をしっかりと見つめる。
お盆には美味しそうな卵粥が乗っていた。
ニューラがウインクする。

「これ……」
「どっ、どうせ飯もろくに作れないと思ったから……
それに、ヒマ、だったからな」
「しるばー…」
「チッ、帰るぞニューラ」
「ニュラ」

顔を真っ赤にして帰るシルバーの後ろ姿が、愛おしく見えた。

 

HEAT

 

「……早く治してさっさとバトルさせろ」
「うん!」

 

シルバーの持ちポケと言ったらニューラのイメージ。スペの影響かな?