「わっかんないっ!」

バンッと思い切り机を叩く。
教科書も壁に投げ付けノートにはぐちゃぐちゃに落書きが記されていた。
隣でと同じく試験勉強していたシルバーはやれやれと言わんばかりにため息をついてシャーペンを置いた。

「煩い」
「だって全然わかんないんだもん!」
「それはお前が授業を」
「聞いてたよ!あたし、真面目に聞いてたもん!」
「でも、いつも寝てただろ」
「だって…、眠気誘う喋り方だし、言ってること意味不明だし、そもそもあの先生キライだし」
「あっ、そ」

シルバーは二度目のため息をつくと再び試験勉強に取り掛かった。
こんな阿呆に構う時間はない。

「………もう止めた!あたし今から英語のベンキョーする」

物理の教科書一式を机の下に落とし、鞄からぽいぽいと英語の教科書一式を取り出す。
が、は突然キョロキョロ部屋を見渡した。

「うっそー!問題集ガッコーに置いてきてる………」
「…………」
「シルバー、グラマーの問題集貸して!」
「断る」
「ヒドイー!あたしが平均点取れなかったらシルバーのせいだから!」
「お前が学校に忘れたのが悪いんだろ!オレの勉強の邪魔するなら家に帰れ!」
「うっ、だってあたしの部屋には誘惑が多過ぎるんだもん」
「それくらい我慢しろよ」
「我慢出来ないから此処に来てるんでしょ」
「えばるな!」

がぷぅと頬を膨らませ、しかし直ぐさま英語に取り掛かる。
シルバーもが大人しくなったのを確認してから試験勉強を再開した。

 

 

しばらくしてシルバーが顔を上げる。
隣のをちらりと盗み見ると、ブツブツと英語を呟きながら集中して勉強していた。
物理だってこれくらい集中すれば酷い点数なんて取らなくて済むのにな。と思ったがそんなこと口が裂けても言葉には出来なかった。

「………、」

サイコソーダでも持ってきてやるか。
シルバーは立ち上がり部屋を出た。

 

冷蔵庫からサイコソーダを2本取り出し、部屋へ戻る。
そろそろも集中力が切れた頃だろう。ドアを開けると果たしてその通りのがいた。
どんよりした顔でぐったりした彼女は、シルバーの持つサイコソーダに気づくと目を輝かせた。

「サイコソーダ、あたしにもちょーだいっ!」
「ほらよ」
「ありがとシルバー!」

ごくごくとサイコソーダを飲み干し、再び試験勉強に取り掛かる。
が、すぐにの手が止まる。
また何か言い出すのか。シルバーはサイコソーダを飲みながらうんざりとした。
こいつと試験勉強なんて二度とするものか。

「もう7時になってる!」
「もう帰るのか」
「う、うん。あの道暗いから危ないし」
「………送ってやる」

ぽかん、とがシルバーを見つめる。
そして次の瞬間、照れ臭そうに「ありがと、シルバー」と笑った。
ああ、普段はふざけているくせに、こんな時だけしおらしくするなんて卑怯じゃないか。シルバーはふいと顔を背けた。
そんなシルバーをよそに、はいそいそと帰り支度を始めていた。
鞄に教科書を詰め込み、計算用紙をぽいとごみ箱に投げ込む。最後にコートを羽織ると「忘れ物はなし!」とニヤリと笑った。

「これ忘れてるだろ」

机に乗った辞書を掴んでシルバーがを小突いた。
こんな目につく場所にあってどうして忘れるんだ。意味が分からない。

「あー……、うん」

渋々とそれを受け取ったが「忘れて行くつもりだったのに」と呟く。
確信犯かよ、シルバーはため息をもらした。オレは絶対なんかに忘れ物届けてやるつもりない。

「ふう。 ま、これで明日の英語と古文は何とかなりそう!」
「……は?」
「物理はもう諦めて、英語と古文に賭けることにしたの!
家に帰ってから古文頑張るんだー」
「いや、お前……」
「今度は古文でシルバーに勝つんだから!」

試験勉強に燃えるにどう言えばいいのだろう。シルバーは頭を抱える。
明日の試験は、今挙げた3科目じゃあない。

「さっ、そろそろ帰るわ」
「あ、あぁ」

ご機嫌のと渋い顔をしたシルバーが家を出た。
街灯の少ない通りを黙々と2人で歩く。おしゃべりも寒いと黙るらしい。シルバーは寒そうに震えるをちらりと盗み見た。

 

 

「送ってくれてありがと!」
「べつに、」
「明日のテスト、がんばろうねー」
「あ、ああ」

明日の正しい試験科目にが気づくのはいつだろう。もしも試験直前だったら。
帰り道、シルバーは考えながらため息をついた。
仕方がない、あとでメールしてやるか。
明日の科目は物理、古文、それから英語じゃなくて数学だってな。

 

 

 

どのみちオレは明日あいつに怒られるんだろうな、畜生。
 


シルバーと学校に通いたい。あのツンデレといちゃいちゃしたいー!!
……という妄想から生まれたもの。