ポケモンの言葉が分かったらいいのに。
きっと誰もが一度は思ったことだと思う。私も例にもれず幾度となく願った。
そして今、私はその特別な能力を切望していた。
 

 

 

 

「ピカピィ、ピッカ!」

目の前のピカチュウは必死に私に何かを訴えている。何か緊急事態が起こっているんだろう。この雪山には多くの危険が潜んでいるのだから。
しかし、ピカチュウは私をどこかへ連れて行くわけでもなく、ひたすら叫んでいる。何をか伝えたいはずなのに、それが分からない。

「ピカ!チャアチャア!」
「んー、君のトレーナーはどこにいますか?」
「ピカピィ!」

トレーナーを助けて欲しい、ではないらしい。

「ピッカ!」

ぐいぐいと私を押す。でも私はこの山を登っているんだ。ここで引き返す訳にはいかない。

「私はね、シロガネ山の調査をしてるの。だからこっちに行きたいの」
「チャア!」

駄目らしい。
ピカチュウは電気袋をバチバチさせている。そこまでして通したくないなんて、

「危ないんだね?」
「ピッカ!」

どうやら正解らしい。
けれど、この子のトレーナーはどこにいるのだろう。もしかしたら助けを求めて

「ピィカッ!」

突然、前方に大きな影が現れた。
あれはリングマだ、と認識した頃にはピカチュウが強力な電撃を放って倒していた。
わぁ、なんて強いんだろう。

「君、強いんだね。まさかあのレッドさんのピカチュウだったりして」

伝説のトレーナーに憧れてピカチュウを手持ちに加えるトレーナーは多い。だからこの子もそういったトレーナーのポケモンだと思った。
ところが。

「………誰」

倒れたリングマの後ろから現れた人影が私に声をかけた。それはまさしく伝説の人そのもので。
今まで私に話しかけていた小さなヒーローが彼の肩に飛び乗った。

「あ、あの……、」

私はピカチュウに向けて笑って、「こんにちは」挨拶の言葉を風に乗せた。