「見てみぃ、バレンタイン特集してるで」
アカネちゃんにマフラーを引っ張られ無理矢理に連れてこられたそこはハートのちりばめられたコーナーだった。
色んなチョコレートが並ぶそこは見ているだけで楽しくなるが、今の私はちっとも楽しい気分じゃなかった。
「なぁ、どれ作るん?」
「えっ、つくる?」
「そらそうやろ。アンタの大好きなあのヒトに作らな!」
「いや、でも……」
「あ、うちにも友チョコ作ってな。
ほら、これとか義理チョコで作ったらえぇんちゃう?」
私の低いテンションとは裏腹にアカネちゃんはとても楽しそうにチョコレートを見ていた。
色々と手に取り、カゴの中にぽんぽんと入れていく。そのほとんどが自分用なんだろうけど、アカネちゃんは本命に渡すのだろうか。それとも全部義理チョコなのかな。
「なぁ、あのヒトと昨日会ったんやろ?どうやったん?」
「どう…って。べつに」
「べつにぃ?大好きなヒトと会った感想がそれはおかしいやろ!」
「だって、ホントにどうでもいいんだもん」
昨日、私はシロガネ山頂上までの険しい道のりにも苦を感じずにレッドに会いに行った。
滅多に行ける場所じゃないからとても楽しみで、雪の降る中でも足取りは軽かった。
「もしかして、また喧嘩したん?」
「私は悪くないから。悪いのは完璧向こうだもん」
「あのなぁ。我がまま言ったらあかんよ」
アカネちゃんはなぜか私じゃなくてレッドの味方をする。
アカネちゃんは私の友だちなのに、酷い。
私はアカネちゃんの持ってるカゴにチョコレートを投げ込む。家に帰ったら一人で食べるためだ、断じてレッドのためじゃない。
「あのヒトって、無口やけどのことがめっちゃ好きやねんから喧嘩したあかんやん」
「だって……」
いつものように挨拶変わりのバトルをした。
やっぱりレッドは強いから昨日もこてんぱんに負けてしまった。別にそれは構わない。まだまだ私が未熟なのは分かっているから。
問題はそこじゃ、ない。
「何があったん?」
「だから、それは……」
昨日、私はレッドにある物を作って行った。
レッドに喜んでもらえると思っていた。
それなのに、レッドのヤツは!
「私が作ったシフォンケーキをいらないって!」
「へぇ、シフォンケーキ作ったんや」
「でもいらないって言われたの!もう私何も作ってやんないんだから!」
「まぁまぁ、バレンタインには作ってやんなよ」
アカネちゃんはどうしても私にチョコレートを作らせたいらしい。
そんなにバレンタインは大切なのか。
「ってか何でレッドさんはいらんって言ったん?」
「…シフォンケーキだから」
「はぁ?」
「チーズケーキが良いって、そんな理由で拒否られたの!」
「それはのリサーチ不足やから、ただの八つ当たりやろ!」
「なっ、何で私が怒られるのよ!
アカネちゃんのバカー!」
もう知らない。
レッドにもアカネちゃんにもチョコ作ってやんないんだから。
それにレッドは甘いものが嫌だって言っていたし、そのくせ催促したらビンタしてやる。
カカオ話
チョコが欲しいなら私に優しくしなさいよ!
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