「どうして私なんですか」
「“どうして”?
それを君はどうして聞きたいんだい」
マツバさんは優しく微笑む。
夕日に照らされたその顔に、美しさを感じた。
「理由なんて、いるのかな」
「いりますよ、もちろん」
「そうだろうか」
私にはマツバさんの言いたいことが分からない。
どうして、あなたが私を選んでくれた理由を尋ねたらいけないのだろう。
「世の中には、論理的に説明できないことがあるんだよ」
「見えないものが見える・・・・・・みたいに?」
「いや、少し違うかな」
マツバさんんはやわらかな瞳を私に投げかける。
くちびるがふれる。
「今のキスに理由はあるのかな」
「・・・それは、」
「“キスしたかったから”かい?
それは君の求める理由じゃあ、ないだろう?」
そう。もっともっと、私を安心させてくれる理由が欲しい。
いつか離れてしまいそうで不安な私を一瞬で安心させる魔法の理由が。
「見えないことを怯えるのは愚かだと思うよ」
「どういう―」
「見えないものに、無理して形をやる必要はない。
ありのままを、受け止めればいい」
「でも私は、」
「僕は君の不安が消えるまで、そばにいるから」
invisible
things
好きだよ、耳元で囁かれた言葉は、私の不安をひとつ消し去った。 |