僕にセックスアピールは無意味だ。

マツバさんの言葉が耳を離れない。
あの言葉は私に向けられた言葉ではない。それでも、ぐさりと胸を刺していた。

 

昨日も私はマツバさんのジム戦を見ていた。
観戦は自由だから、私以外にもジム戦を見に来ている人は多かった。
相手は男性なら皆うっとりするようなスタイルの女性トレーナーで、短いスカートからは女の私ですら引き付けてしまう脚が見えた。体のラインを強調したその服は、どう考えても旅には不向きだった。それでも彼女がそれを着るのは理由があるのだろう。そう、きっと、男を落とすためだ。
ふと不安になってマツバさんを見た。いつもポーカーフェイスの彼だとしても、この女性の色香には頬を緩めてしまうのではないか。
「使用ポケモンは3体、それでいいね」
「えぇ、もちろん」

女性は長くて綺麗な髪をマツバさんに見せ付けるかの如くなびかせる。ボールを構えるときには腕で胸を押し上げている。
彼女は私にはない大人の魅力を持っていた。

バトルの結果はマツバさんの圧勝だった。
バトルが終わり、二人が握手したその時、マツバさんが彼女に呟いた。
自慢じゃないが、私は祖母から読唇術を学んでいた。それはどこかで役立つから、と言われ続けていたが一度も役に立ったことがなかった。
それが昨日、初めてそれを使うことになった。
マツバさんの声は全く聞こえなかったけれど、彼の口許はよく見えた。
じっとそれを見ていたら、彼の言葉が見えた。
僕にセックスアピールは無意味だ。
女性トレーナーは顔を赤くしてジムを出て行く。観戦に満足したギャラリーもぞろぞろと出口へ向かう。
ただ、私は動けなかった。
マツバさんの呟いた言葉が私を麻痺させていた。
少しでも気に入ってもらおうと服装に気を使ったり、女の子らしい振る舞いを心掛けていた。でもそれが、全くの無駄と言われたようだった。

 

今日はお友達のコトネちゃんがエンジュシティにやって来ている。そこで私は名前を伏せてこの事を話してみた。
「私はもうこの想いを消すしかないよね」
「え、なんで?」

コトネちゃんはポンと私の肩を叩く。ニコニコ笑う彼女は私の話を聞いてなかったのだろうか。
「だって、その人はハルのありのままを見てくれるんでしょ?」
「………あ」

コトネちゃんはにいと笑い、
「じゃあその人に会う前にお洒落しなくちゃね」
私をずるずると引っ張った。
「ちょっ、コトネちゃん!」
「それでもやっぱりお洒落しなくちゃ。ハルは女の子なんだから」

 

 

プレイボー

ことばそび

 

 

「おや、」
マツバはいつもジムに来る少女に目を向ける。
「やあハル、こんにちは」
「こっ、こんにちは」

普段より髪型が凝っているな、そう思っていたら少女が頬を染めながらぽつりと話す。
「やっ、やっぱりこの髪型似合わないですよね」
逃げるように帰ろうとする彼女の腕を取り、そっとその柔らかな髪に触れる。
「いや。いつもより、ずっと良い」
泣きそうな顔をしているな、くすりと笑って手を離すと少女は逃げ出してしまった。
あからさまなセックスアピールこそ困るが、あれくらいなら構わない。
マツバはふふんと笑って歩き出した。

 

 

あれー、マツバさんが何だかチャラい…