結局、あの後しばらく話し込んでしまった私はカスミの家に泊まらせてもらった。
カスミったら電話のことを言葉巧みに聞いてくるから、私はぽろりと明後日のことを話してしまった。適当な嘘でごまかすつもりだったのに。
するとにたり顔のカスミが部屋の隅に積み上げられた雑誌を何冊か私へ渡す。何だろうと問えば「デートなんだからお洒落しないとね」とウインクを返された。
翌日、カスミはジムを午後から閉めて私をタマムシデパートへ連れて行った。トゲキッスは1人乗りだというのに、無理矢理乗るんだから。
デパートへ着くなり、今日の任務を言い渡される。

「まずは服。飛び切り可愛いのを選ぶわよ」
「でもサファリパークだから動きやすくないと」
「分かってる、このカスミに任せなさい!」

そんな会話を交わしたのに、結局選んだのはワンピースだった。それも丈が短い。こんなの無理だよ、会計直前に拒否したら「によく似合ってた。マツバさんもきっと喜ぶわ」と上手いようにはぐらかされた。

「次は靴ね。こっちこっち」
「あ、待ってよ」

ワンピースに合う靴は意外とすぐに見付かった。ヒールの低い靴、と懇願した甲斐あって今回は頼みを聞き入れてもらえた。

「それから…。そうだ、これ買ってあげる」
「カスミ!」

キスしたくなる唇はこうして作るのよ、カスミは淡いピンクのルージュを私の持つショッピングバッグに仕舞う。キスなんて、そんなの考えてないのに。

「最後の仕上げは、ここよ」
「な、何で?」
「決まってるじゃない、マツバさんを落とすためにはしっかり準備しないと」
「私は明日服を脱ぐ予定はないの!カスミのバカ!」

ランジェリーショップの前で喧嘩を繰り広げた私達は、結局何も買わなかった。カスミは文句ある顔で私を睨んでいたけれど知るもんか。

「じゃあ、明日の結果報告は忘れないでよ」
「はぁい」

荷物を両手一杯に抱え、私はカスミと別れた。
何だか今日はひどく疲れてしまった。早く家に帰ろう。
私はトゲキッスに荷物と体を預けて家路に急いだ。





今日もポケギアが鳴る。私はコールが3度も鳴らないうちに電話に出ていた。

《明日のことなんだけど》

切り出したマツバは何処か申し訳なさそうな声だった。

《待ち合わせを少し早めてもいいだろうか》

てっきりキャンセルされるのだと思っていたから予想外の言葉に良い返事が見つからなかった。

《何でも、ショーがあるらしいんだ。それを見るには少し早く行く必要があってね》
「そうなんですか。あ、早くなるのは構いませんよ」
《そうか、良かった》

心底嬉しそうな声が聞こえてきた。私まで嬉しくなって自然と笑みが零れた。
それから、明日のことや今日あったことを話し合う。
カスミからは「買い物のことは絶対言っちゃダメよ」ときつく言われていたから、私の今日は殆ど話すことがなかった。
一方のマツバはジムであった事やゲンガーのイタズラの事を話してくれた。
楽しそうな話ばかりで、充実した日々を送っているんだと感じた。

「マツバさんて、」
《ん、何だい》
「とっても幸せな毎日なんですね」

つい、口から出ていた言葉だった。はっとして「勿論私も毎日が楽しいですよ」と言い繕うけれど、ひがみの言葉は取り消されない。なんて根暗なんだ、私は。

《そんなこと、ないよ》

しかし返ってきたマツバの声は暗く、重かった。

ちゃんのいない毎日は、幸せなんかじゃないよ》
「マ、ツバさん……」
《あぁ、ダメだ。本当は明日言おうと思っていたんだけど我慢出来ない》

私の周りから音が消えた。
あるのはただ一つ、マツバの声だけ。

《僕は、が好きだよ》

その言葉を理解した途端、体が熱を帯びるのを感じた。ドキドキと胸の鼓動が何倍も速くなる。
望んでいた言葉なのに、いざ言われるとこんなにも動揺するなんて、カスミちゃんはちっとも教えてくれなかったじゃない。

《ゴメン、あの……、もう寝るよ。今の言葉、取り消し……、いや、そうじゃなくて、何て言うのかな、だからとにかく、













お休み、また明日》