3日連続でマツバと電話するなんて、初めてだった。私は今日も約束の時間にポケギアが鳴るのを待っていた。
ところが9時を過ぎた頃、昨日より1時間も早いのにポケギアが鳴る。驚いて相手も確認せずに電話に出れば、それはカスミだった。
《、今すぐ来て!》
「な、何いきなり…」
《いいから来なさい!》
カスミにはどうしてか逆らえない私は色良い返事しか出来なかった。
電話を切るとマツバに留守電を残す。今日は電話出来ないです、と。
カスミの用事は彼女の恋愛模様のいわゆる愚痴だった。
予想はしていたけれど、そんなことのためだけに呼ばれたのか。私はうんうんと頷きながらため息を漏らした。
1時間も話したところでカスミの興味は彼女の気になる彼から私とマツバへと移った。
「そういえば、マツバさんとは最近どうなの?」
「まあまあだよ」
「何よそれ、もっと攻めないと他の女に取られるでしょ」
「取られるって…」
「、アンタはマツバさんと手をつないだり抱きしめられたいと思わないの?」
「それは、ちょっとくらい思うけど、電話で話すので一杯なんだもん」
「電話?電話してるの?」
「う、うん」
「じゃあ今すぐ掛けなさい」
「な、何言って」
私がうろたえた一瞬に、カスミは私のポケギアを掠め取った。そして手早く電話を掛けると私に投げた。
「ちょ、ちょっと」
《……ちゃん?》
「マ、マツバさん!」
ニヤニヤしているカスミの前で私はマツバと話している。いつもより何倍も緊張してじわりと手が汗ばむ。
《留守録を聞いたけれど、電話しても大丈夫なのかな》
「はっ、はい。あ、でも、一旦切ってもいいですか」
《うん、構わないよ》
「すみません…」
電話を切り、ギロリとカスミを睨むと荷物を引っ掴んで部屋を出た。カスミには後で文句を言おう。
でも今はまずマツバに電話をかけ直さなきゃ。
「もしもし」
《ふふ、今晩は》
夜のハナダシティを歩きながら、雲の掛かる月を見上げながらマツバと電話をする。たわいもない事だけど、とても嬉しい事だった。
《今日は特に挑戦者が多くて大変だったよ》
「へぇ、そうなんですか。手強い相手はいましたか」
《そうだね、》
会話も、カスミの期待するような恋の香りなんてかけらもない。それでも、それが私には幸せだった。
でも、そんな私たちってどんな関係なんだろう。
恋人同士のような会話をすることもある。会いたいって、マツバは言ってくれる。けれど、私たちは彼氏と彼女の関係ではない。
きゅっ、と胸が苦しくなる。
《そうだ、明後日なら時間が取れるんだ》
「……えっ、」
しゃがみ込んでカバンから手帳を取り出す。明後日の予定は、と。
《会える、かな》
「も、もちろん!」
明後日はカスミと人気のケーキバイキングに行く予定だったけど、あっさりと破棄を決めた。ケーキもカスミもいつでも会える。だけどマツバは明後日じゃないと会えない。
《それで、どこか行きたい所はあるかい》
「え、えっと……」
何処がいいだろう。私としてはマツバに会えるなら何処でも構わない。けれど、折角だから楽しみたい。なら、どこがいいかな。
「サファリゾーン、とか…」
ぽつり、と言った言葉にマツバの返事は《うん、良いね》と嬉しいものだった。
《明後日は晴れだし、楽しみだね》
「はいっ」
今から明後日が楽しみだ。早く、早く明後日にならないかな。
私はゆっくりと歩き、ハナダの外れまで歩いていた。そろそろトゲキッスを出して空を飛ぼうかな。
「あ、あのマツバさん、」
《なにかな》
「そろそろ、その…」
トゲキッスに乗るということはつまり電話を切るということだった。
正直に言えば、まだまだ喋っていたい。けれど、そろそろ帰らなければ。
《あぁ、もうこんな時間か》
電話を掛けた時間自体が10時を過ぎており、かれこれ1時間は話している。あと30分もすれば日付が変わるだろう。
《ちゃん、明日は朝早いのかな》
「えっ、別にそんなことは」
《そっか。
ちゃん、僕、
まだ切りたくないんだ。明後日には会えると分かってても、もっと君の声を聞いていたい。だからもう少し、電話していたい。駄目かな。 |