ポケギアをベッドに投げ、枕に顔をダイブする。
枕に顔を埋め、熱を帯びた体を大人しくさせる。
つい先ほどまで耳元に届いた声は今はもう聞こえない。電話はもう切ってしまったのだから、当然だ。
まるで夢みたい、私はマツバさんの声を思い出して息を吐いた。
「あー、早く明日にならないかなぁ」
大好きなマツバさんは明日も
私のために時間を作って電話を掛けてくれると言った。忙しいから無理しなくていいですよ、と言うと「僕が寂しいから」と優しい言葉が返ってきた。
彼の、私を安心させる言葉が嬉しく照れてしまって、私はぼそぼそと有り難うと言うしか出来なかった。
「明日は、雨だっけ」
ふと、明日の天気予報を思い出した。たしか、午後から雨が降ると言っていた。それから、所により雷も。
雷は鳴らないでね、誰に言うでもなく呟いて、そのまま眠りに落ちた。
次の日、あと5分でマツバさんからの電話が掛かるであろうその時、私は耳を塞いで布団に潜り込んでいた。
理由は簡単、稲光と雷鳴が大嫌いだから。
まさかこんな夜遅くに雷が鳴るなんて思ってもなかった。
いつもなら、ラジオを聞きながらゆっくりしてる時間なのに、大きな音で鳴る雷のせいで落ち着けない。
地響きのような雷鳴が鳴り響く。その度に私は布団を強く握り締めた。
その時だった。雷鳴とは異なる、電子音が部屋に鳴り響いた。
電話だ、私は布団から手だけ伸ばしてポケギアを掴み取った。
「もっ、もしもし」
《今晩は、ちゃん》
電話の向こうのマツバさんは穏やかそうな空気に満ちていた。こっちは雷の恐怖と戦っているのに。
そんなことを知らないマツバさんは今日あったことを話し出す。
いつもは気になるはずのそれが、今日はちっとも耳に入らない。だって、まだ雷は大きな音で私を怖がらせていたからだ。
気のない返事に気付いたんだろう、マツバさんの声色が変わる。
《どうしたんだい?》
冷や水を掛けられたような、突然の寒さが私を襲った。慌てて布団から飛び出し部屋を見渡すけれど何もない。
こういう時、マツバさんを怒らせちゃダメだと感じる。千里眼だもん、マツバさんは。
《何か、あったのかい?》
もう一度、マツバさんが尋ねる。私は再び布団を頭から被って雷のことを伝えた。
「だ、だから怖くて……」
《こっちは雨すら降ってないよ》
「そ、う、ですか…」
雷に怯えながら、まるでロボットのようにぎこちなく話していたらマツバさんがくすくすと笑い声を上げた。
「ひっ、ひどいです…!」
《ごめんごめん、でもあまりにもちゃんが怯えているからつい…》
大人なマツバさんは雷なんてちっとも怖くないんだろう。でも、まだまだ子供の私にとって、雷は最大の敵と言っても過言ではない。
《エンジュは、月がよく見えるよ。雲一つない》
ちゃんにも見せたい、マツバさんが呟く。
私だって、私だって一緒に月を見たいと思ってる。
《遠いね》
マツバさんの声が切なく聞こえた。寂しいって言うのはマツバさんも同じみたい。それを聞いて少し安心した。
《ちゃん、
本当は今すぐ会いたい、君に。けれど、うん、僕も君も忙しいからね、我がままは言わないよ。
ただ…、明日も電話したいっていう僕の我がまま、聞いてくれないかい?》
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