私の大切な人は毎日とても忙しい人だ。
私もそれを分かっているから毎日のメールや電話なんて強要しない、否、出来ない。
それでも、ラブラブカップルとバトルした日には鳴らないポケギアが恨めしかった。
なら私からメールも電話もすれば良いじゃない。そう考えたことも確かにあり、実際メールも電話もしてみた。
でも、結局返事を待つ時間は辛く、堪えることが難しかった。
だから私は自分から行動出来なくなっていた。

今日もじっとポケギアを見つめていた。
何度か私を呼ぶ音は、私の望むマツバさんではなかった。
もう夜も遅いし、寝よう。
ポケギアに充電器を差し込みベッドに潜り込む。明日は鳴るかな、なんて淡い期待を抱きながら目を閉じる。うつらうつら、意識がふわふわしていた時にポケギアが鳴ったような気もしたけれど、明日起きてからでいいや、私はそのまま夢の中に落ちた。



目覚めに聞こえたのはポケギアの呼び出し音だった。
うるさい、と安眠を妨害された私はムスッとした顔でポケギアに表示された名前を睨んだ。
けれど、そこに表示された名前は予想だにしなかった名前だった。

「えっ、あ……、ど、どうしよう!」

パニックしている間もポケギアは鳴り続ける。ぼんやりとしていた意識はしっかり覚醒し、けれど落ち着くことは出来なかった。
そして、突然ポケギアは静かになった。
鳴らなくなったポケギアは、なんだか淋しそうに見えた。
私は不在着信の2つのマツバにため息を漏らした。電話が欲しいくせに、いざ掛かってくると緊張して電話に出られない。メールだってそう。返信するのにすごく勇気が必要になる。

「ん、2つ……?」

マツバの掛けてきた時間を確認する。
1つはつい今しがだ。もう1つは、

「昨日のあれはマツバさんからの……」

忙しい人なのに。私は自分が睡眠を優先したことを後悔した。今さら遅いけれど、後悔せずにはいられなかった。
じっとポケギアを見つめ、電話をする勇気を溜める。マツバの番号を見ているだけなのに鼓動は速まってゆく。落ち着いて、と必死に宥めても心臓はスピードを緩めてくれない。だから私は勇気を溜めることに失敗してポケギアをベッドに放り投げた。
けれどのろのろと私の手はポケギアを再び掴む。
勇気がないなんて言って電話を待ってるばかりじゃダメ。私から掛けなくちゃ。
でも、もし今忙しかった迷惑になっちゃうよね。今掛けてもいいのかな。今は大丈夫かな。
そんな風にうじうじしている私は気付いていなかった。昨晩、マツバが留守録にメッセージを入れていたことを。それに気付いたのは、何度目かの勇気を振り絞ってポケギアを掴んだ時だった。






《もしもし、僕だけど。いつも電話出来なくて、ごめんね。ちゃんは寂しがり屋だから、すごく心配だ。
明日もこの時間に電話をするから、明日は出てくれると嬉しいよ。じゃあね》