コガネデパートから出ると雨が降っていた。 両手に荷物を持ったあたしは同じように突然の雨に困る人々を眺めた。ちらほらと傘を持っている人もいたが、私を含め多くの人は傘なんぞ持ち合わせていなかった。 「傘、買うしかないかぁ」 コガネシティ内に家があるとはいえ、デパートからは距離がある。ザアザアと降る雨では帰り着く頃にはびしょ濡れに違いない。 仕方ない、傘を買おう。 くるりと後ろを振り返った時だった。 「マツバさん!」 「ちゃんじゃないか」 こんな所でエンジュのジムリーダーに出会うとは。あたしは雨が止むまでの暇つぶし相手に駆け寄った。 「随分な荷物だね」 「今日は買い物デーだから沢山買っちゃいました」 マツバさんは私と違って小さな袋が一つだけ。きっと地下の美味しい和菓子を買ったんだろう。この前教えてもらったあの和菓子屋さん、とっても美味しかったもの。 ふと見るとマツバさんは傘を持っていた。マツバさんのことだから、出掛ける時はしっかり天気予報を見ているのだろう。あたしも確認すればよかった。 「マツバさんはちゃんと傘を持って来たんですね」 「ちゃんは……忘れたのかい?」 「忘れちゃいました」 「そうか。じゃあこの傘を貸そう」 なんてマツバさんは優しいんだろう。そんな人を暇つぶしなんて言っちゃあ罰が当たりそうだ。ごめんなさい、マツバさん。 「でもそうしたらマツバさんが濡れちゃいますよ」 「君が濡れてしまうことの方が困るよ」 ドキリとする言葉だった。 けれど、それはマツバさんの優しさで、きっと誰にでも言ってるに違いない。 少ししょんぼりな気持ちになるけれど、それを隠してにっこりと笑う。 「ありがとうございます」 荷物を持った手で傘を受け取ろうとして、でもマツバさんは傘を渡してくれなかった。 どうして、と彼の方を見ると困った顔がそこにあった。 「ちゃん、その荷物じゃ傘がさせないね」 確かに、と頷くと、 「じゃあ僕が家まで送ってあげよう」 マツバさんが微笑んだ。 ドキリとする笑顔だった。 きっと誰にでもこうやって笑うとしても、何か特別めいたものを感じてしまっていた。あたしは照れを隠すように外を見た。 まだ雨は止まない。 「じゃ、じゃあ、あたしの家でお茶でもどうですか?」 「なら、このシュークリームを一緒に食べようか」 意味ありげに笑うマツバさんは、きっとその特別な能力でこの未来を見ていたに違いない。 そうなら、私はマツバさんの特別なのかもしれない。 「あっ、あの」 「何だい?」 「その、ありがとうございます」 雨はまだ止まない。 それでも、私の心は晴れやかだった。 |