ああ、私としたことが何て有様だ。
自分の愚かな行動に鳥肌が立つほど嫌悪を覚える。
いや、そもそも彼女が悪いのではないだろうか。彼女、ハルがあんなにも無邪気に笑うから私の調子が狂わされるのだ。
無理やりに理由をつけて自分の愚かな行動を帳消しにしてしまおうと試みるが、それが中々うまくいかない。彼女の微笑みを思い出すとああ、ひどく間抜けに思えてきた。

 

「あ、ランスさん」
こんにちは、軽く礼をして通り過ぎた彼女を目で追わずにはいられない私はひどく無様だろう。何とかそれを隠しているつもりだが、ああそれも限界に近い。
昨日私は何をしてやったのか、思い出すだけで寒気がする。
「そうだ、あのこれ―」
「さっさと持ち場に戻りなさい」
私はロケット団で最も冷酷と呼ばれる男だ、どうすれば相手が怯えるか十二分に把握している。だから、何か伝えようと駆け寄ってくるハルが怯えて黙り込んでしまう表情もすぐに用意できた。そんな私に、彼女は思った通り押し黙り、わずかに肩を落として去っていく。

ああ、私は何がしたいというのだ。
誰かを喜ばせるなんて、柄じゃない。
だからと言って彼女に怯えてほしい訳でもない。

 

いつだったか、ああそうだ、まだ自分を愚か者と認識していなかった頃だ、同じような状況に陥ったことがあった。
自分でも自分の言動が理解できず、心が、そんなものがあればの話だが、かき乱されたことがあった。
あの時は、思い出したくもないが私の自尊心はずたずたにされてしまった。それはひとえに私が愚かだったからだ。今はそれを十分に認識し、自身の力におごることなく生きてきた。
それなのに、今また同じ状況に陥っているのだ。この私が。

「やっぱりこれ、返します」
たっぷりと間を取って、私はそれを受け取った。
嫌な汗が出ているのは気のせいだろうか。最悪のシナリオが頭に浮かぶのも杞憂なのだろうか。
「いくらランスさんがいらないと言っても、
こんな高価なもの、やっぱり貰えません」
それは私の机の中から出てきた。愚かな自分を戒めるために捨てずに置いていたそれを、ハルは見つけたのだ。
居るのかと尋ね、出来ればと答えたから譲ったそれは、今また私の手元に戻ってきた。
「価値など、関係ありませんよ」
これの値段など、どうでもいい。そんなもの、気にする奴ほど愚かなのだから。
「私には必要ない。あなたは欲しいと思っている。
なら、譲るというのはごくごく自然のことです」
これに深い意味などないのだ。さぁ手を出して受け取れ。
「でも、」

 

「ランスさんから貰うなら、
私のための指輪が嬉しいです」

 

「私は、ランスさんの冷酷な部分も優しい部分も、全部好きです。
矛盾に満ちたあなただけど、そうだから、好きなんです」

 

 

 

完全装備の愚者Lv.1

 

 

 

冷酷を期待されてるランスさんは素直になれなくて悩んでると思う。
そんなランスさんだから、テクニックは知ってても使いこなせないはずだ。