扉を開けるなり、彼女が飛び付いてきた。

「何ですか、さん」
「人恋しい」
「離れて下さい」
「つれないなぁ」

べりっと上司を引きはがすと不機嫌な瞳と目が合った。
彼女はフンと唇を尖らせて椅子にどっかりと座りこんだ。
自然と艶やかな唇に視線が動く。下らない思考が展開される前に無理矢理に手に持った書類に目を落とした。

「頼まれていた資料です。それから次の任務についてですが」
「少しだけ寝てからでもいいよね、ランス?」

椅子に座るの視線はランスのそれより低い。だから上目使いになるのは仕方のないことだった。それでも、何か意味を見出だそうとするランスがいた。

「…少しだけですよ」
「ありがと。じゃあ、30分程経ったら起こしてくれる?」
「分かりました」

ランスの上司、は何事も行動が速い。今も毛布片手にソファに倒れ込んでいた。毛布を体に巻き付け、ふかふかのクッションを枕にもう寝息を立てている。
はぁ、とため息が漏れる。
男の前で無防備に寝るなんてこの人は何を考えているのだろうか。それだけ信頼されているのか、それとも意識されていないのか。後者について考えを巡らし、しかしランスは慌てて思考回路を断った。
下らない、下らないにも程がある。

「……終わらせましょう」

声に出して仕事に集中する。そうでもしなければ手は動きそうにもなかった。



 
狼の目覚




30分程経ち、は自分で眠そうに起き上がった。いつもなら起こしても起きないというのに、珍しい。ランスが驚いていると、

「そこあたしの席」

ランスの上に体を預けた。

さん、貴女がのかなければ私は立つことが出来ません」
「じゃあこのままで」

ランスのペンを持つ手がぴたりと止まる。
唐突にある衝動に襲われていた。目の前にある彼女の首筋に噛み付いてやりたい。彼女のよがる声を聞いてみたい。寝ぼけた口から赦しを請う言葉を引き出したい。
思うや、ランスはの唇を自身のそれで塞いでいた。驚く彼女を無視して舌を絡め、彼女では抗えない力で抱きしめた。
の呼吸が限界だ、というところで放れるとランス自身の息も上がっていた。至極嬉しそうに笑えば、はぞっと顔を青くして逃げようとする。けれどその華奢な腕を掴んでやれば逃走も叶わない。

「ラ、ンス…」
「何でしょうかさん」

腕を掴んだまま先程が仮眠していたソファまで連れて行く。そこへ彼女を倒すと一層顔が青くなった。

「やめて、ランス」
「何をでしょう」
「君がこんな事するなんて」
「人恋しいと言ったのは貴女の方ではありませんか」
「で、でもそれは」

うだうだと要点の分からない話を聞くのは飽きてきた。
ランスは左手で肩を強く掴むと、右手に持った鋏で彼女を包む布を切り裂いた。
涙を溜め震える声でやめてと頼むその声は、ランスをひと時の狂気へと誘った。