ヴェガに憧れて01

She gives me a lot of things to take...

「ねぇランス君、チョコが食べたいなぁ」
「は・・・・・・」
「もうすぐ3時だし」

時計を見ると3時まであと30分程だ。ランスは自分の上司の要求に渋々応えることにした。

「コガネデパートにある、いつものお願いね」
「・・・・・・分かりました」

届けに来た書類を机に置くと、ランスは直ぐさま部屋を出た。

 

 

午後3時、は机の書類の上にランスの買ってきたチョコレートを広げていた。それは彼女のお気に入りであり、ランスが買って来ることが日常となっていた。

「紅茶もどうぞ」
「あら、素敵ねランス君」

ランスから紅茶を受け取り、一口飲む。
その美味なることにはにっこりと笑顔になる。

「さすがランス君、素敵ね」

チョコレートを食べる上司は部下を褒め、褒美を与えることにした。

「今度の任務、ランス君にも行ってもらうわ」
「ありがとうございます」
「あら、どうせそれを見越して紅茶も用意したのでしょ?」
「・・・・・・」

ランスは見透かされた目論見に返す言葉がなかった。
だがこれは彼女の教えなのだ。ギブアンドテイク、与える者には与えられるのだ。

「まぁ、当然よね。下心ないと親切なんてしないわよね」

私たち悪の組織なんだから。はにっこりと笑う。
その笑顔はどう見てもロケット団には似合わない。
それは悪の顔ではなかった。

「そうだ、これを届けて来てくれるかしら」
「はい」

受け取った書類には赤のペンで何かが書かれている。見るつもりはなかったが目に入ってきたそれは、大きな字で『却下』と書かれていた。
またか。ランスはうんざりしていた。
任務案を却下したのはランスの上司のであるのに、書類を持って行くランスにとばっちりが来るのだ。
それは決まった言葉から始まる罵倒でもあった。

 

 

「これだから贔屓上司は嫌なんだ!」

今ランスの前で怒りをあらわにしているのはクロウという男だった。ランスの先輩であり、しかしランスが相手する程の力を持っていない男でもあった。

「気に入った部下ばかり使いやがって・・・クソッ」

ビリビリと書類を破ったクロウはランスを睨み付ける。
しかしそれは負け犬にしか見えず、ランスは憐れみすら感じていた。

「いいか、お前もいつか捨てられるからな!」

そんなことはない。ランスは確信を持って言い返すことが出来た。
自分がギブする限り、彼女からテイクがある。彼女の期待に応えれば必ず褒美は貰える。
だから捨てられる、とは少し違うのだ。与える物がないと何も貰えなくなる、ただそれだけだ。

「では失礼します」
「おい待てよ」

苛立ちの混じる声に辟易しながらも立ち止まれば、鳩尾に拳を喰らう。
突然のことにまともに喰らってしまったランスは腹を押さえながらよろめいた。どうやら本気で殴られたらしい。

「お前も調子乗ってたらこんなんじゃ済まねぇぞ」

まさに悪役らしい台詞に、苦痛に呻きながらも笑う余裕があった。
ランスは笑みを隠すと、まだ痛む腹を我慢して部屋を出た。

 

 

「任務の報告書を持って参りました」

ドアを開けるとランスの上司は机で突っ伏していた。居眠りなんぞ珍しい、と近付いてみると様子がおかしいことに気が付いた。

、さん・・・」

声を掛け、体を揺すった。しかし返事は何もない。
まさか。ランスは上司の体を起こした。
まるで生気の感じられないそれは、かつてという人間だった。
状況を理解し、それでも信じがたくもう一度声を掛けた瞬間、目が覚めた。
夢だと気づき安堵したランスはしかし、安堵した自分が憎らしかった。
自分は頂点まで上り詰めようと目論む野心を持っている。だから上司が消えることは喜ばしいことだ。
にも関わらずあんな夢ごときで動揺してしまった。
ふと時計を見ると、朝礼まであと1時間だった。
早くしなければ。

ランスは夢を振り払うように支度を急いだ。



(天に手を伸ばしても、決して掴めやしない)
 

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