、アンタは頑張ったと思うわよ」

ガーディを従える彼女が、私の肩に手を置いた。

 

 

 

ロケット団ラジオ塔占拠1時間前、私は彼と向き合っていた。
彼はいつもの表情を隠した顔で私を見つめ、そして目を逸らした。

「この作戦が成功すれば、いや、どうであろうと貴女に自由を与えましょう」

私は前にも聞いたその言葉に小さく頷いた。ロケット団の幹部である彼は小さく笑い、しかし直ぐさま普段の表情へと戻した。

「後のことはパーラに任せてあります」

後ろに控えていたパーラがランスの言葉に頷く。その顔はいつになく真面目で、いよいよ作戦が始まるのだと告げている。

「行くわよ、
「…はい」

拳を固め、私は歩き出した。

 

 

 

パーラが私を連れて行った場所はラジオ塔にすぐ近い路地だった。私は腰に付けた2つのボールを何度も確認し、深呼吸を繰り返した。

「アンタにあげれる時間は少ないから、ちゃっちゃと済ませなさいよ。逃げるのが遅れたらアンタも捕まるから」

帽子を目深に被っているからパーラの表情は伺えない。それでも、彼女も緊張しているのは声の調子で分かった。
昨日、パーラの正体を聞いた時にはひどく驚いた。けれどよく鍛えられたガーディと手帳を見せてもらったから嘘ではないのだろう。それでも、パーラが警官だなんて、今でもやっぱり信じられない。

「幸運を祈ってる」

私たちはそれぞれに決意してラジオ塔へ向かった。

 

 

 

ラジオ塔に入ると、そこは既にロケット団に占拠されていた。ロケット団で溢れているそこは、私のような部外者が紛れ込んでいても咎められることはなかった。
だから、私はいとも簡単に彼の元へとたどり着くことが出来てしまった。

「………何の、用ですか」

ランスが驚いた顔で私を見つめた。私はその瞳を見つめ、否、睨み返した。

「あなたを、倒します」

あの子のボールを掴み、彼も同様にボールを握るのを待った。
ランスは僅かな動揺を見せたものの、「愚かですね」ボールを投げた。
きっと彼は私ごとき、いとも簡単に捻り潰せると思っているんだろう。私だって彼に勝てる気はない。
でも、勝たなきゃいけない。

「私、勝ちます」

震える手でボールを投げた。光とともにランスが現れ、砂嵐が起こった。

「な、に……!」

ゴルバットの前に立ち塞がるのは小さなヨーギラスではなかった。そこにいるのは大きな体のバンギラス。
パーラに特訓出来る場所を教えてもらい、私は必死になってポケモンを鍛えた。
そして、その成果は彼のゴルバットを見れば一目瞭然だった。瀕死状態になったゴルバットが倒れている。
ランスは無言でゴルバットを戻しマタドガスに交代した。

「……私は、」

バンギラスのランスをボールへと戻す。そして出したポケモンはユンゲラーだった。貰ったケーシィも短い時間の中で何とか育てていたのだ。

「私は、」

マタドガスも倒れ、ランスは壁に寄り掛かるように崩れ落ちた。

「知っていましたよ」

貴女の下らない企みなんて、全て。瞳に光を宿したまま、ランスが呟いた。

「でも、私ではなくアポロを倒すためだとばかり思っていました。
 どうして、私を倒す必要がありますか」

深呼吸を一つ、そして私は口を開いた。

「ランスさんに、抜けて欲しいんです。
 …ロケット団を、抜けて下さい」

ふとパーラの言葉を思い出した。
無駄だと思うけどアンタがやりたいようにやりなさい。
彼女の言うように、無駄なのかもしれない。目の前の彼は馬鹿にした顔で首を振っていて、ロケット団を抜けることはないに違いない。

「あぁ、貴女はそんな事を考えていたのですか。奇遇ですね、私も似たようなことを考えていましたよ。
けれども、貴女をこちら側に引き入れる気もなく、私もまだ抜ける気などありません」

ただ。
ランスが言葉を続けた。

 

 

 

 

 

、アンタは頑張ったと思うわよ」

ガーディを従える彼女が、私の肩に手を置いた。
ロケット団が解散して半年が経っていた。
私は家に帰って以前と変わらない生活を送っていた。ただ1つ変わったことはパーラが訪ねるようになったことだ。

「あれから幹部の行方は分からないからねぇ、まぁ、気晴らしに散歩でもしたらどうかしら」

パーラのガーディがワンと尻尾を振って鳴いた。

「コイツも連れて行ってやってよ」

アタシはもうしばらく此処にお邪魔してるから。クッキーを頬張りながらパーラがもごもごと喋る。私はキラキラと目を輝かせるガーディの期待を裏切ることは出来ず、散歩に出掛けることにした。
 

とあの

 

 

原っぱの人気の少ない場所に腰を下ろした。
そういえばあの人に出会ったのもこの辺りだったっけ。懐かないでいたランスが突然走り出してあの人の足に噛み付いたんだ。あの日もこんな晴れた日だった。

「ガゥッ」

突然だった。
パーラのガーディが何かを見つけて勢いよく走り出した。

「ま、待って!」

妙に騒ぐ鼓動をおさえ、ガーディを追った。
ガーディが向かった先には人影があった。明るい原っぱには似合わない黒ずくめの人物はガーディに飛び掛かられて体勢を崩した。

「すみません」
「……!」

慌ててガーディを捕まえて引きはがす。けれどガーディは渾身の力でその人にしがみついている。

「ガーディ、おすわり」

ようやく離れたガーディを優しく撫で、改めてその人に向き合った。
そこにいたのは、

「あ、なたは」
「久しぶりですね」

行方知らずの、彼だった。

 

 

ただ。
全て終われば貴女に会いに行きましょう。