Xデーは明日に迫っていた。 明日、彼らはラジオ塔を占拠する。それが成功すれば、彼らの求めた人は戻って来るだろう。 そう、私にバトルの指南をしてくれた、あの男が。 アジトは妙にそわそわとした空気で、落ち着きがなかった。誰もが緊張していた。 ところが、パーラは違った。彼女は普段通り、何も変わらなかった。 「力入れ過ぎたら失敗するでしょ?」 なんてケラケラ笑いながら話すけれど、パーラは本当に緊張しないのだろうかしら。 「それよりも、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 パーラの顔が、微かに強張っていた。やっぱり明日の任務に緊張しているんだ。 「アンタ、ボールの投げ方でサカキ様との繋がりを気づかれた、って言ったわよね?」 どんな時でも残っていたパーラの余裕が、今は少しも見当たらない。 「パ、パーラさん!」 はっ、と我に返ったパーラが視線を逸らす。 「どうせ今日で最後だし、もしかしたらアンタも力になるかもしれないから、話しておくわ」 パーラが話したそれは、驚くような話だった。
最後の夜、私は眠ることが出来なかった。 「これしか、ないから」 ランスの入ったボールを綺麗に磨き、心を決めた。
―――――――――――――
ランスが珍しく窓から外を眺めていた。 「ランス様」 ランスがこちらを向く。気のせいだろうか、辛そうな顔をしている。 「彼女に、何も言わないで終わらせるつもりですか」 子犬のような、すがるような瞳があった。 「彼女を好きだ、って、彼女に言って下さい」 どうせ明日が最後だ。 「それを言えば、何か変わりますか?変わりませんよね」 確かに、ランスはロケット団幹部であり、彼女はただの一般人。好き、という気持ちを伝えても何も変わらないだろう。 「変わらない、変わらないけど、言って下さい」 らしくない、自分でだって分かってる。 「何も変わらないなら、伝えても、無意味ですよ」 彼とあの子と私
その夜、私たちの眠りはひどく浅かった。 |