Xデーは明日に迫っていた。
明日、彼らはラジオ塔を占拠する。それが成功すれば、彼らの求めた人は戻って来るだろう。
そう、私にバトルの指南をしてくれた、あの男が。
アジトは妙にそわそわとした空気で、落ち着きがなかった。誰もが緊張していた。
ところが、パーラは違った。彼女は普段通り、何も変わらなかった。

「力入れ過ぎたら失敗するでしょ?」

なんてケラケラ笑いながら話すけれど、パーラは本当に緊張しないのだろうかしら。

「それよりも、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい、何ですか」

パーラの顔が、微かに強張っていた。やっぱり明日の任務に緊張しているんだ。

「アンタ、ボールの投げ方でサカキ様との繋がりを気づかれた、って言ったわよね?」
「それしか、アポロさんが気付く理由が思い付かないだけで、もしかしたら別の理由かもしれません」
「でも、アポロ様の前でボールを投げた事実はあるのよね?」

どんな時でも残っていたパーラの余裕が、今は少しも見当たらない。
青くすら見えるその顔は恐ろしくも感じた。

「パ、パーラさん!」
「………!ご、ごめん」

はっ、と我に返ったパーラが視線を逸らす。
そしてごほん、と咳を一つして私をじっと見つめた。

「どうせ今日で最後だし、もしかしたらアンタも力になるかもしれないから、話しておくわ」

パーラが話したそれは、驚くような話だった。

 

 

 

最後の夜、私は眠ることが出来なかった。
明日、私は彼らと別れる。ランスは私を解放するのだ。
これで最後かと思うと、淋しさが込み上げてくる。
けれど、私はロケット団として生きるつもりもなかった。
揺れる心から生まれるのはため息ばかり。
でも。

「これしか、ないから」

ランスの入ったボールを綺麗に磨き、心を決めた。

 

 

―――――――――――――

 

 

ランスが珍しく窓から外を眺めていた。
ヤるなら今だ、とパーラは忍ばせた得物を掴む。しかし彼女の悲しむ顔が思い浮かび、実行には移せなかった。

「ランス様」
「……何ですか」

ランスがこちらを向く。気のせいだろうか、辛そうな顔をしている。

「彼女に、何も言わないで終わらせるつもりですか」
「何を、言えと?」

子犬のような、すがるような瞳があった。
パーラはそんなランスを殴りたくなる。
彼女はアンタのために努力してるのに、なのにアンタは、何を迷っているんだ。

「彼女を好きだ、って、彼女に言って下さい」

どうせ明日が最後だ。
なら、せめて彼女に伝えてほしい。

「それを言えば、何か変わりますか?変わりませんよね」

確かに、ランスはロケット団幹部であり、彼女はただの一般人。好き、という気持ちを伝えても何も変わらないだろう。
だが、そういう問題じゃ、ないのも事実だ。

「変わらない、変わらないけど、言って下さい」
「珍しく理解に苦しむことを言いますね、パーラ」

らしくない、自分でだって分かってる。
それでも、明日が最後だと思うと、心がざわついた。

「何も変わらないなら、伝えても、無意味ですよ」
 

とあの

 

その夜、私たちの眠りはひどく浅かった。