気が付いたらそこはとある部屋だった。ぽかんとしていたらケーシィがボールへと自ら戻って行った。
また君に助けられたね、とケーシィのボールを撫でる。
さて、ここは一体何処なんだろう。

「……、何をしていたのですか」

不意に声が掛かった。振り返るとそこにいたのはランスその人。どうやらここは彼の部屋だった。

「何か危険な―」

ランスの言葉を遮るようにドアが開いた。私も彼もそちらを見る。あの男が澄ました顔で立っていた。

「何の用ですか、アポロ」
「私が用があるのはそちらの女です」

アポロと呼ばれたあの男が私に視線を向ける。不安にさせる瞳に、私は俯いた。

「1つ聞きたいことがあります」

コツ、と靴の音が響き威圧感が迫る。ガタガタと2つのボールが揺れる。1つはヨーギラス、もう1つはケーシィ。2匹とも私同様に恐怖を感じている。

「お前、知ってますよね。サカキ様の居場所を」

ランスの瞳が見開かれる。私はノロノロと顔を上げ驚いているランスを見た。

「…知らないです」

本当だった。私は知らない。今はもう、あの人が何処にいるかなんて分からない。

「質問は終わりましたね。でしたら退席を願いたいです」

ランスは納得していない顔のアポロを有無を言わさず部屋から追い出し、ふぅと息を吐いた。

 

 

 

私がサカキという男に出会ったのは2年ほど前のこと。
ちょうど私はランスを貰ったばかりで、暴れん坊のランスに困っている頃でもあった。
偶然、ランスがあの男に噛み付いたのが出会ったきっかけだった。勿論、ロケット団のことは私だって知っていたけれど、まさかそのボスがあの男だとは知らなかった。彼も名前を伏せていたし、怪しい様子は全くなかった。
サカキは私のランスに目を付けて色々と指導してくれた。ジムリーダーでもあった彼の指導は流石といったもので、今でも感謝することが多い。
サカキのお陰もあり、ランスは私に懐いてくれた。強くもなっていた。

「そしてあの人と仲良くなった頃に、ある事がきっかけで私はあの人がロケット団のボス、サカキだと知った。
サカキは当惑する私に何も言わず、どこかへ行ってしまった。
それが、1年半前です」

私の話を聞いていたランスは小さく息を吐いた。それは困ったような、参ったようなもので、私は視線を足元から動かすことが出来なかった。

「そうですか。私は全く知りませんでした」

捕まった時から、この人が私とサカキとの繋がりを知っているようには感じられなかった。
彼でなくても、私の町の人間だって、彼と接触していた事を知る者はいないはずだ。

「どうしてアポロはその事を尋ねたのでしょう」
「それは、多分……」

ちら、と顔を上げる。彼が怯える私を見つめていた。

「ボールの―」
「ランス様!やっぱり始末なんて無理ですよ!」

ノックもなしに乱暴にドアが開き、私のよく知っている、パーラがドタドタと部屋に走り込んで来た。

「あの人の側近なんて、簡単に……ってアンタ!」

パーラは私に気付いてバシバシと背中を叩く。けれどあの人の視線に気づくと慌てて直立した。

「貴女の実力でも無理なのですか。まぁ、襲撃の理由も分かりましたし、始末は結構です」
「理由、とは?」
はサカキ様と以前接触があったようです。居場所を突き止めるため、聞き出そうとしたのでしょう」

パーラの鋭い視線が私を貫いた。どうして、パーラが私を睨むのだろう。

「それで、どうしてアポロがその事に気づいたのか分かりますか」
「ボールに貼ったシール……あれ、あの人から貰ったものだから」

ランスもパーラも黙り込む。私、何か気を悪くすること言ったかな。どうしたら良いのだろう。

「…成る程、分かりました。
 パーラ、下がりなさい」
「はっ、失礼致しました」

パーラが部屋を出て、再び2人きりになる。
何故だかドキドキして、出来るならどこかに隠れてしまいたい。

「いつまでも立っていると疲れるでしょう。座りなさい」

促され、ふかふかのソファに腰掛ける。高級品だろうなと考えている間にランスがすぐ前まで近づいていた。
彼もソファに腰掛け、私をじっと見つめる。

「私は、貴女の何も知らないのですね」
「えっ、」
の事、聞いてもいいですか」
「は、はいっ」

 

とあの

 

話してみると、やっぱりこの人本当は、優しいと思った。