「………に、似合わない」
鏡で自分の格好を眺めながらため息が漏れた。
パーラはさらりと着こなしていたけれど、この団服、着こなすことは非常に難しい。
二度目のため息を漏らし、私はそばにいるパーラを見る。よく見ればパーラって私なんかよりずっとスタイルが良かった。
きゅっ、と胸が締め付けられる。胸が、痛い。
「着替えたわね。じゃ頑張ってアテナさまのトコで働いてきて」
「えっ、あの!」
「ランスさまが帰ってきたら何とかするから、それまでよ」
「……お願い、しますよ」
パーラがウインクを返す。私は不安になりながらも、彼女の言葉を信じるしかなかった。
アテナさんに最初に言い付けられたことはポケモンの世話だった。
悪いことをさせられると思っていたからひどく驚いた。そうしたら、「こういう日常的な仕事だって、誰かがしなきゃならないでしょ」と諭された。確かに、そうだ。
「あっ、でも、」
アテナさんからモンスターボールを受け取りながら尋ねる。中に入っているのは勿論アテナさんのポケモンで、今から私が世話をする子たちだ。
「入ってすぐの私が、アテナさんのポケモンの世話をしても、良いんですか」
悪事よりポケモンの世話の方が何倍も良い。でも、自身のポケモンを見ず知らずの私に任せてしまうなんて。
アテナさんは笑みを崩さず、私の頬に手を当てる。
「パーラがスカウトした子なんだから、信用できるわ」
「すごく……、信用しているんですね」
「元々はあたくしの隊にいたのよ、彼女。だから信じることが出来るの」
アテナさんが頬を撫でる。
じっと真っ直ぐに見つめられると、女の私ですらドキリと胸が鳴る。
「じゃあ、お願いね」
にっ、と笑うのはまるでパーラそっくりで、私はドキドキしたまま呆然とアテナさんが部屋を出て行くのを見つめていた。
部屋に残った私は、勝手にボールから出たヨーギラスに噛み付かれるまで動くことが出来なかった。
―――――――――――――
パーラは事情を話した終えると恐る恐る上司であるランスの顔を見た。
机に両肘を付き、組んだ手に顎を乗せ何事か考えているランスの瞳はギラギラと怒りの炎を燃やしていた。
彼の雷はどこに落ちるのか、冷や冷やしながら待っているとしかし、彼の口から出た言葉は予想だにしなかったものだった。
「は無事なのですね」
「は、はい。かすり傷ひとつ作っていません」
「そうですか」
ランスが安堵の息を漏らす。
しかし僅かに見せた穏やかな表情は一変し、すぐさま鬼の形相へと戻る。パーラはじわりじわりと伝う嫌な汗をひしひしと感じた。
「誰が部屋を襲ったのか確認して始末しなさい」
「始末…、ですか」
「そうです、始末です」
「分かり、ました」
パーラは一礼しランスに背中を向ける。
この瞬間だけは慣れることが出来ない。今日こそは背中から襲われるのでは、と何度恐怖を味わっただろう。
しかし今日もまた杞憂に終わる。
部屋を出ると、すぐさまの使っていた部屋へ直行する。
扉の前までやって来ると、手袋をしっかりはめてドアノブをひねった。
「カギが、開いている……」
慎重にドアを開け、ボール片手に部屋に飛び込んだ。
がらんとした部屋には何の気配もない。中の様子も別段変わったようには見えなかった。
「出番よ、相棒」
パーラがにやりと笑みを浮かべた。
調査を終えたパーラがどっかりとソファに座り込む。大きく息を吐き、相棒をボールに戻す。
さて、ランスさまは簡単に始末しろと言うけれど、始末なんて出来ない相手ならどうしたものか。
パーラはすっと目を閉じて考える。
しかし。
「………ランスさまに相談、するしかないわ」
ぱっと名案が浮かぶこともなく、パーラは顔を青ざめながらランスの所へと引き返した。
彼とあの子と私
「クサイハナも、案外可愛いかも」「ぎゃあっ」 |