ヨーギラスの穴を掘るで脱出した先はヒワダタウンだった。
私がキョロキョロと場所の確認をしている間、パーラはぶすっとした顔で沈黙していた。それがいかにも怒ってます、といった顔だったので話し掛けるにはいくらか勇気が必要だった。

「パーラさん、ここは…………って、それ何ですか?」

パーラの右手にはライチュウドールの姿はなく、その代わりにモンスターボールが握られていた。
無愛想な顔だったパーラに笑みが戻る。ただ、その笑顔は毒を含んでいるようだったけれど。

「あのぬいぐるみの中に入ってたのよ。ちなみにこれ、」

ポン、とボールから現れたのはケーシィだ。

「移動専用の特殊なケーシィでね、きっとランス様が何か命令してたのね。アンタがピンチな時にテレポートしろ、って」
「はぁ……」

ケーシィはうとうとと船を漕いでいたけれど、私が近づくとテレポートして距離を開けた。
この子のお陰で私は逃げることが出来たのか。なら、何かお礼をしてあげないと。
何にしよう、と考え、ボールカプセルをセットすることにした。
ランスのボールに付いたシールを何枚か剥がしてケーシィのボールに付けてやる。パーラは興味もないらしく、ため息をついていた。

「ところでパーラさん、ライチュウドールはどこですか」
「逃げる時にどこかで無くしたみたい」
「そ、んなぁ」

あのライチュウドール、とっても可愛かったのに、勿体ない。せっかくあの人から貰ったというのに。

「新しいの買ってもえばいいでしょうが」
「そういう問題じゃ……」
「アンタもしかして、」

パーラが瞳に怪しい光を灯らせて私に詰め寄る。

「あのおか――」

ピピピ、とけたたましい電子音が鳴り響いた。
パーラがポケットから何かを取り出す。どうやらポケギア的な通信機らしい。
パーラが顔を青くしてうろたえていた。しかし意を決したのか、通話ボタンを恐る恐る押した。

「はい、パーラで…………………はい、その、………そうです。…………り、了解致しました」

ピッ、と可愛い音で終わった会話は、決して友達との会話ではあるまい。きっと通話の相手はあの人だ。

「………アジトに帰るわよ。 
ホントはアンタを逃がしてやろうと思ったんだけど、ランス様に早々にバレたから、悪いわね」

深々とため息をつき、パーラは私を助けてくれたケーシィでアジトまでテレポートした。

 

 

 

一瞬にして移動した場所は見慣れない建物の前だった。
隣のパーラを窺うと、真っ青な顔が見えた。声を掛ける前に「アタシ、テレポートは苦手なのよ…」と苦しげにパーラが呟いた。

「さて、どうやって中に入ろうかしらねぇ」
「ここ、アジトじゃないんですか」
「いや、アジトよ。ただ警備が厳重だから、どうやってアンタを中に……」

パーラの言葉が止まる。その視線はちょうど建物を出てきた女性にくぎづけだ。
私はそっとパーラの後ろに身を隠してその人を見た。
見覚えのある女性は、以前私の我がままで外に出してもらった時に見かけた女性だった。名前は、

「あら、パーラじゃない。あなた任務じゃないの?」
「そ、そうでした」

そう、アテナだ。

「早いのね、今日は。誰もまだ帰ってないわよ」
「あー、やっぱ早過ぎか」

ぼそり、パーラが後悔に満ちた声で呟く。
状況は飲み込めないけれど、何やら宜しくないらしい。

「ところで、そこの可愛い女の子は誰かしら」
「か、のじょは」

パーラが慎重に言葉を選ぶのを感じたが、彼女は言葉選びに失敗した。

「スカウトしたんです!」
「えっ、」
「まぁ、あなたがスカウトなんて、珍しいわね」

パーラの顔からさぁっと血の気が引く。彼女も自身の言葉の選択ミスに気が付いたようだ。

「なら、この子あたくしの隊に入れてもいいかしら」
「えっ、それは、ラ、ランスさまが」
「いいじゃない、ランスにはあたくしが言っておくわ。
さて、あなたお名前は?」

顔面蒼白のパーラと、満面笑顔のアテナが私を見ていた。
私は不安を感じつつも無理矢理に笑みを作った。

、です」
 

とあの

 

これでいよいよ逃げられない!