捕まってから1週間、そろそろ限界に近付いていた。
時計でしか分からない時間の動きに、同じ調子で繰り返される毎日が嫌になっていた。
早くここを出たい。何もされないなら大丈夫だ、なんて浅はかな考えだった。
よくよく考えれば、身の安全なんて保障されていないのだ。
仲良くなったパーラは、私には一切危害を加えないと言うがそれも完全に信じることが難しい。
「ランスさまはね、冷酷だけど嘘はつかないの」
パーラは何度もそう言った。
「でも、そんなの分からないじゃない」
「信じなさいよ」
「何を根拠に?」
私をこうやって軟禁してる人なのに、その言葉を聞いてパーラは押し黙った。
彼女が私を安心させようとしていることは感じていた。
それでも不安は消えることなくますます膨れ上がるばかりだ。
「あたしはロケット団だから、信じちゃくれないだろうけど」
「そんなつもりは……」
「あたしはあんたが気に入ってんの。だから、そんな顔されると辛いのよ」
「……ありがとう」
ぎこちなく笑えば、パーラが悲しそうな顔をした。
明かりを消せば時間に関わらず夜になってしまうこの部屋で、布団に潜り込んで時間を潰していた。
夕食を片付けられた後は、誰もこの部屋にはやって来ない。
明かりが消えたこの部屋で、眠れずにいるとボールから私のヨーギラスが飛び出した。
真っ暗な部屋に驚いたのだろう、ベッドの中に潜り込んでくる。
「ぎゃっ」
「ランス、いつまで私はこのままなんだろう」
「ぎゃあ」
「もう、いやだ」
つ、と涙がこぼれる。
「ねぇランス」
ベッドを抜けだした小さなポケモンはじっと暗闇を見つめているようだった。けれど真っ暗な空間では彼が何をしているか、本当のところ分からない。
「ねぇラン・・・・・・」
突如扉が開き、まばゆい光が部屋に差し込む。
誰か来た、反射的に体が強張る。
「・・・寝ていますか」
ぱちりと明かりが点き、入ってきたランスの顔が見えた。
狸寝入りしてその場をやり過ごすことも出来たけれど、ばっちり目が合ってしまい逃げられなくなった。
「今晩は、」
すぐ側に立つ彼の表情は影になっていて分からない。
「泣いていたのですか」
彼の手が涙を拭う。
触れた手に、息が詰まる。
涙が頬を伝い彼の指を濡らす。
「どうしましたか」
「外に、出してください」
「それは出来ません」
「どうして、ですか」
「それは、」
「ぎゃっ」
ランスが部屋の侵入者に突進する。
ところがするりと避けられ壁にぶつかる。
「あれをボールに戻しなさい」
「・・・・・・・・・」
必死に抵抗を試みたけれど、鋭い眼光に従うしかなかった。
「出してください」
「駄目です」
「何でも、します」
もうこんな所に閉じ込められるのは限界だった。
ランスは私から視線をそらす。何か考え込んでいた。
もしかしたら出してくれるのかもしれない。僅かに期待が胸に広がる。
「では」
ランスは床に膝をつき、目線が揃う。
「貴女は自分の意思を放棄できますか」
彼が何を言ったのか、理解できなかった。意思の放棄、それはどういうことなのだろう。分からなかった。
けれど、それを告げた彼の声がいつになく冷たかったから、きっと素直に頷ける言葉ではないのは確かだ。
「何をされても文句を言いませんか」
「………え、」
その言葉でようやく理解ができた。
意思の放棄、つまりそれは私にモノになれと言っているのだった。
そんなこと、できるはずがない。
「出来ないのでしょう?」
「・・・・・・・・・」
「安心しなさい。
貴女には出来る限りの自由を与えましょう」
「・・・だったら」
「それは出来ません」
「どうして」
「それは、」
言葉が止まる。彼はうっすらと困惑の色を浮かべている。
そんな彼と目が合った。
どうしてこの男はこんなにも悲しい顔をしているのだろう。
「それは、あなたの知る必要のないことです」
立ち上がり、明かりを消して部屋を去る。
その背中が何故か淋しく見えて、その夜は不思議な気分になった。
彼とあの子と私
彼の言葉は、信じられると直感が告げていた。 |