「今日の夕飯、何がいい?」
「そうだなぁ、君が作るなら何でも食べちゃうよ」
「やだぁ、もう」
「あはは、愛してるよ」後ろから聞こえるバカップルの会話に苛々していた。
どうせ私には手料理を作る相手もいなければ、愛を囁いてくれる相手もいない。
でも、だからって相手のいる人間を羨ましいとも思わない。
そんな相手がいなくても私はポケモンさえいたら充分だ。
「そういうの、モテねー奴の僻みって言うんだよ」
「グリーンにはカンケーないでしょ!」
ポケモンセンターでポケモンたちの回復を待つ時間はトレーナー交流の時間だ。だから私はいつもこの待ち時間大好きだった。
けれどトキワシティでは例外なのだ。
なぜって、どうしてか必ずグリーンがいるから。
彼は私の幼なじみで今はトキワジムのジムリーダーをしてる。でもグリーンってば自分の都合でジムを開けたり閉めたりしてるから挑戦者はいつも困ってる。私はバッジなんて興味ないから関係ないけれど。
「お前、哀れだな」
「はぁ?」
「愛してもらうってサイコーなのに」
軽い付き合いしかしたことないくせに、よく言えるな。
それにしても、一体グリーンのどこが良いんだろう。キザで傲慢でプライドの高い男だってのに。私ならグリーンなんか選ばない、うん。
そのとき、グリーンのポケギアがけたたましく鳴り響いた。
「おっ、と」
「……うるさいから向こうで喋ってよ」
「やあ、どうしたんだい?」
「………はぁ」
グリーンが電話に出たから仕方なく席を離れた。
あんな苛々する会話、すぐ傍で聞くなんて無理だ。
「あっ、お久しぶりです」
「ああ、久々だね。君のポケモンあれから強くなった?」
「もっちろん!」
ポケモンセンターでは知り合いのトレーナーに出会うこともある。
今の私がまさにそれで、以前バトルしたトレーナーと出会ったのだ。
彼と旅で出会ったポケモンやトレーナーの話をしていると、やっぱり恋人なんて必要ないと思える。
「それでこの前僕が行ったキキョウで」
「、こっち来い」
「ちょっ……、グリーンは電話してなさいよ」
グリーンの下らない話より他のトレーナーと話す方がよっぽど充実している。それにまだ話が途中なんだから。
「で、キキョウシティでどうしたの?」
「あ、えーっと……いや、何でもないや」
妙にそわそわする相手が奇妙で、彼が見ている方に目を向ける。
するとギロリと睨むグリーンがいた。
何アイツ、自分の気に入らないことがあると怒るなんて、子供じゃない。
「なんか、彼怒ってるみたいだし、
僕のポケモンも回復したから……また今度!」
「あっ、うん」
挨拶もそこそこに、彼はポケモンを受け取るとポケモンセンターを出て行った。
私はグリーンが女の子と喋るのを一度も邪魔したことがない。というか積極的に避けている。
それなのに、グリーンは私が自分以外のトレーナーと喋るのを許さない。
それが男だと今みたいに睨んで、女だと口説きにかかって。
一体私が何をしたって言うんだ。
「もう、グリーン!」
「何だよ」
「邪魔しないでよ!」
「邪魔?」
「そう、仲良く喋ってたの、見て分からなかった?」
「仲良く、ねぇ」
「もうっ」
話したって無駄のような気がした。だから説明も面倒になって諦めた。
「……お前、自覚なさすぎ」
「はぁ?」
「ポケギア見せてみろよ」
「な、なんで」
「いーから」
グリーンは私のポケギアをカバンから取り出し操作すると、大袈裟にため息をついた。
何なんだ、と覗き込むとそこには電話番号がずらりと並んでいた。
それら全て戦ったトレーナーの番号交換しただけだ。グリーンと違ってナンパして集めたんじゃない。だから呆れられることは何もしてない。
「男が多すぎだろ!」
「はぁ?トレーナーって男の人の方が多いから当たり前でしょ」
「んな訳あるか!
フツー、女のポケギアは女の番号が多いんだよ」
「……はぁ」
「お前、オレの言いたいこと分かるか?」
「…あ、女友達少ないってバカにするつもりか!」
「おまっ………もう知るか!」
グリーンは私を思い切り睨み付けると、すたすたとポケモンセンターを出て行った。
一体全体、どうして彼が怒ってるのか分からない。
グリーンが怒るのはいつものことだし、まあいっか。
コンスタントな立ち位置
あれでグリーンが私を心配してると気づくのは、まだ先の話。 |