へとへとで今にも倒れてしまいそうなパートナーをボールに戻す。目の前の彼も同じようにポケモンを戻す。しかし彼のは自分とは違ってもうこれ以上戦えそうにない。
そう、私はチャンピオンのダイゴさんに勝ったのだ。

まさか。そんなはずは。

驚いたのは私ではなくダイゴさんで、私はというと驚くことすらできなかった。
やっと出てきた言葉はあーあというなげやりな言葉。
本当なら勝者の歓声を上げるべきなのに、そんな声全く出てくる気配がない。
だって。だってだって。

「……おめでとう、ちゃん」

ダイゴさんは私に笑いかけた。負けたのに、それよりもというトレーナーが強く育ったことが嬉しいようだった。
初めてここに来たときもダイゴさんは今のように笑っていた。私もあの時は悔しそうな声を出していたっけ。次は絶対勝つ、なんて大声で叫んでくすくす笑われていたんだ。

ちゃん、おめでとう」

私が勝った自覚をまだ持てていないと思ったのだろうか、ダイゴさんはもう一度はっきりと言った。もうこれで会う理由がなくなっちゃったよダイゴさん。
あなたにとって所詮私はチャンピオンに挑むトレーナーの一人なんですね。だからそうやって笑ってる。

「あはは……、やっと私勝てたんだ」

無理して笑った。頬が引きつるのが分かった。それでも笑顔を作った。

「これから君はどうするんだい」

また挑戦してもいいですか、そんな言葉が喉まで込み上げ、けれど何も声にならなかった。

「違う地方に行ってみたらどうかな」

私はチャンピオンに勝って嬉しいはずの心に絶望を感じながら

「そうしよっかな」

と返事した。

始まりのないわり

ホウエンから出て行って、この気持ちを憧れに変えてしまえ

理由がないと会えない仲なら、理由がなくなるとどうしようもなく絶望する。