真剣に何かを読んでいるかと思えば、また雑誌だった。そういうのは仕事の最中に読むものじゃないのに。 私はダイゴからその雑誌を取り上げて代わりに書類を差し出した。 「も休日トレーナーになったらどう?僕とダブルバトルを極めてくれないのは取りあえずいいからさ、まずはトレーナーになろうよ」 「嫌です」 ダイゴのお陰で多少はポケモンに慣れたけれど、それもあのルリリとダイゴのココドラに限ることだった。他のポケモンについてはやっぱりまだまだ慣れないでいる。 だから、トレーナーなんてなれっこない。色々なポケモンと出会って戦う、それは私みたいなポケモン嫌いには不可能なことだ。 「そもそも、何なの、その休日トレーナーって」 「あぁ、休日だけトレーナーになってバトルしたりジムに挑戦したりする人のことだって。趣味みたいなもんだよ」 つまりそれは少し前のダイゴということか。あの時は仕事しながらチャンピオンとしてバトルしていたけれど、あれを私にもしろと言うのか。 「だから私はトレーナーになんてなりません」 「にはバトルの素質あると思うんだけどな」 さらさらと書類にサインしたダイゴが恨めしそうに私を見る。そんな顔で私を見たって無駄なんだから。 私はサイン済みの書類を受け取って部屋を出る。ポケットに入れたルリリのボールがガタガタと揺れる。この子もダイゴの意見に賛成するのか、もう。 仕事が終わって帰ろうとした私を、待ち伏せしていたダイゴが捕まえた。 ニヤニヤと笑うその顔は、何やら良からぬことを企んでいる時のその顔だ。私は適当に嘘をついてダイゴから逃げようとしたけれど放してはくれなかった。 「は、可愛いポケモンだったら恐くないんだよね」 「な、なんでいきなり」 「ねぇ、そうだろう?」 「ま、まぁそうだけど」 にんまりと笑うダイゴ。背筋がぞくりとした。 「明日からは長期休暇なんだ。だからその長期休暇を使って立派なトレーナーになろう!」 「はぁ?」 私がトレーナーになるなんてそんなの聞いてない。そもそも勝手に長期休暇を取ったダイゴもダイゴだし、許可した社長も社長だ。 「可愛いポケモンといえばコガネジム。だから明日からジョウトに行こう」 「あ、あのダイゴ―」 「みっちり鍛えてもらって、目指すは打倒ミクリだ!」 さぁ今から準備をしよう。ダイゴはエアームドをボールから出すと嫌がる私を無理やり乗せて飛び立った。 ポケモンに乗っているという事実と、空を飛んでいるという事実で私は不様に叫び声を上げるしかなかった。 「そんなに喜んでくれるなんて」 「だ、誰が喜んでるのよ!」 「じゃあエアームド、一回転だ」 絶対わざとやっている。私が怖がっているのを楽しんでいる。 そう分かっていてもどうにも出来ない。ちっとも可愛くない悲鳴しか出てこなかった。 「僕とダブルバトルしるためにトレーナーになってくれるよね、」 「だ、だから私は」 「そう、じゃあ… もう一回、する?」
five*悪魔な悪魔
(「もう一回、する?」)
もう仕事辞めてダイゴと別れたい。
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