会議から帰ってきたダイゴは満面の笑顔で私に声を掛けてきた。その手には何かの雑誌が丸めて握られている。ダイゴはその雑誌を私によく見えるように広げた。 「ふれあい、広場……?」 「そう、シンオウのヨスガシティにあるんだ。今度の休みに行かないかい?」 わたしは雑誌の特集ページをじっくりと眺める。どうやらふれあい広場ではポケモンと散歩が出来るようだ。 ポケモンと散歩なんて、わたしは望んでいない。だけどダイゴはそんなわたしの意見なんて聞かないで勝手に決めてしまうだろう。だって、今までがそうだったもの。 「のルリリと僕のココドラを散歩をさせて、その後にコンテスを見に行こう」 「わたしは―」 「シンオウには別荘もあるからそこで泊まれば良い。 あぁ、でもがホテルが好きならグランドレイクでも構わないよ」 「だ、だから」 「勿論だけど、飛び切りの下着を着けてくれるよね」 「だから!わたしの話をちゃんと聞いてよ!」 ダイゴがやっと静かになる。わたしは部屋の隅で遊んでいるルリリを視界に捉えながらダイゴを睨む。 1ヶ月掛けてルリリに触れることは出来るようになった。けれど、まだまだポケモンへの恐怖は克服できていない。だからポケモンだらけのふれあい広場なんて、無理に決まっている。 「、大丈夫。僕がそばにいるから」 にっ、と笑うダイゴはいつになく頼りがいのある男の顔だった。ドキリと胸が高まる。 「ココドラも、一応平気なんだよね」 「う、うん」 ルリリと遊ぶココドラは大人しいポケモンで、きちんと距離を取ってくれる。自分勝手なダイゴとは大違いの、賢い子だ。 「じゃあ、行こうよ。たまにはと旅行したいんだ」 「……どうせ石探しのついでなんでしょ」 「違うよ、今回は石探しはしない」 真っ直ぐな視線は嘘をついてるようには見えなかった。だから、わたしはダイゴの言葉を信じてシンオウ旅行を承諾した。 「、」 「わ、わかってる……」 わたし達は今、ふれあい広場にいる。そこでルリリとココドラをボールから出しているのだけど、足が進まない。 「やっぱり、まだ早かったのかな」 「ち、違っ」 ダイゴの残念そうな顔にわたしは慌てて否定する。 わたしにシンオウを案内するために、ダイゴは相当な準備をしたらしい。わたしのどんな質問にも答えたんだもの、見えない所で努力家なんだから。 だから、そんなダイゴを悲しませるのは胸が痛んだ。きっとこの罪悪感もダイゴの思惑なんだろうけれど。 「あっ、ココドラ…?」 ダイゴのココドラがわたしに近寄る。この子が自らわたしに近寄るなんて、初めてだった。 いくら大人しい子でも、ポケモンはポケモン。わたしは体が強張るのを感じた。でも逃げるのだけは何とか堪えた。 「ココドラもを心配しているんだ」 「う、うん。分かってる、分かるんだけど…」 「撫でてあげてよ、」 ココドラはとても優しそうな瞳をしている。この子はあのポケモンみたいに噛み付きはしないだろう。 でも。 「大丈夫、ココドラは大人しいよ。やさしく触れば何ともない」 ダイゴの励ましもあって、わたしはそろそろと手を伸ばした。大丈夫、この子は噛んだりしない。 「やさしくね」 「うん、」 そして、ひんやりと冷たい感触が手の平に伝わった。ココドラがにっこりと笑う。 「、ココドラにも触れたじゃないか!」 ダイゴがわたしをぎゅっと抱きしめる。周りに人がいるのに、と恥ずかしくて離れようとするけど力が強くて敵わない。それでもとじたばたしていたら、 「少しだけ目を閉じて」 ダイゴが耳元で囁いた。 どうして、と聞き返したけれど同じ言葉を繰り返されるだけだった。 仕方なく目を閉じると、耳も塞がれた。何がどうなってるのか分からなかったけれど、それはほんの一瞬のことだった。 「ダイゴ?」 「まだクチートを見るのは怖いと思ったから」 すぐ近くにわたしのポケモン嫌いのきっかけを作ったクチートがいたのだとダイゴは言った。ほんと、そういう気配りは世界で一番出来る男なんだから。
three*優しい悪魔
(「やさしくね」) 「このままを食べてしまいたい」 「ちょっ、ダイゴ!」 わたしはルリリを引っ掴んでダイゴから逃げた。 |