反対にわたしは書類を片付けたくて苛々していた。でも、わたしはダイゴの机に近づけないでいた。なぜなら。 「がルリリに触るまで絶対仕事しないよ?」 今日中に処理すべき書類は全てダイゴの机にあり、そこにはダイゴが青の化け物を抱きながら座っている。近付くなんて、不可能だった。 でも、わたしがアレに触らないと仕事が進まない。ダイゴは狡い人だから、きっとわざと仕事を溜め込んだに違いない。 「社長に言い付けるもん」 「社長がぜひ君に、って言ってたけど?」 何と言うことだ、ダイゴは先に社長に根回ししていたなんて!前々から社長には「ポケモンと触れ合うことも大切だよ」とは言われていたけれど、そんな。 わたしは手を伸ばして指先だけで青いそれに触れることにした。触るだけでいいなら、どんな風に触ってもいいはずだ。 けれど、ダイゴはわたしの伸びた手を掴むとルリリを押し付けた。 「ひぃぃっ!」 手の平にはプラスチックのような、ゴムボールのような、何とも表現しがたい奇妙な感覚があった。よくもダイゴはこんなものを抱いていられるな。 「ほら、も触れたじゃないか」 変なところで優しい彼は、それ以上無理強いはせずわたしの手を離してくれた。 わたしは大慌てで手を洗いに部屋を出た。 部屋に戻るとダイゴが厳しい視線をわたしに向けた。 「さぁ、残りの仕事を片付けますよ」 わたしは青い化け物のせいで机に近づけないけれど、よく通る声で叫んだ。 しかしダイゴはちっとも働こうとしない。ダイゴの言う通りアレに触ったのに、何が不満なんだろうか。 すると、 「、」 いつになく真剣な、そう、トレーナーの顔をしたダイゴがわたしを睨んでいた。その威圧感に体が強張るが虚勢を張って「何よ」言い返した。 「ルリリだって生きているんだ。僕たちのように嬉しくなったり悲しんだりするんだ。 なのに、いくらがポケモン嫌いだからってあんなにも拒絶したら傷付くじゃないか!」 ダイゴは正しいことを言っていた。嫌いなら何をしてもいい、なんて我がままは通じないことは分かっていた。それでも、体が反応してしまうのだから仕方がない。 とは言え、小さなポケモンを傷付けたことは申し訳なかった。 「ごめん、なさい」 「僕に言ったって意味がないよ。謝るならルリリにして」 わたしはしょんぼりしているルリリを見た。可愛い姿でもやっぱり直視は出来ない。 「ご、ごめんね…?」 「ちゃんと見て」 「だ、だって」 「!」 ダイゴが怒っている。 わたしは無理矢理体をルリリに向け、「ごめんねルリリ」震える声で謝った。 「良く出来ました」 ルリリをボールに戻し、ダイゴはわたしに笑いかけた。 「さぁ、仕事をしようか」 それから1ヶ月、わたしは仕事をするたびにルリリと触れ合うことになった。
two*微笑む悪魔
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