一方わたしはただのデボンコーポレーション社員。 どうしてそんなわたしが彼の熱弁を聞いているのかというと、わたしは彼の秘書で、幸か不幸か恋人だから。 ダイゴは仕事そっちのけで集めた石について熱心に語っている。 わたしは適当に相槌を打ちながら彼の代わりに仕事をこなす。 本当はダイゴ本人がしなくちゃならないんだけど、残業されてデートが出来なくなるのも困るから仕事を手伝ってしまう。 そうやっていると、ダイゴの話がぴたりと止まった。顔を上げると不満そうな瞳と視線が絡んだ。 「、僕の話ちゃんと聞いてないよね」 「ダイゴの代わりに仕事しながらちゃーんと聞いてる」 「嘘だね。 ちゃんと聞いてるなら僕の話に頷くはずがないよ」 確かに、書類を読んでいたから2割程度しか真剣に聞いていなかったのは事実。 でも、ちゃんと聞かなくてもどうせ珍しい石の話に決まってる。片手間の相槌で十分だと思う。 とは内心では思っていても、そんなこと言えばますます怒ってしまうから絶対に口にしない。その代わりに「じゃあしっかり聞くからもう一度話してよ」と少し拗ねた声で尋ねる。 するとダイゴは私から書類を取り上げ、咳ばらいして口を開いた。 「にプレゼントがあるんだ。それを当ててみて」 なんだ、そんなことを言ってたのか。どうせ珍しい石だろう。 ダイゴは時々、わたしに石をプレゼントしてくれる。 プレゼントされる石は、わたしの気に入りそうな、いわゆる宝石類。そんな石がよく見つかるね、と嫌味で言ったら「のためだから」と笑顔で返されたことがあったっけ。 あの時は、いつになく照れたことを思い出しつつ、ダイゴのヒントに耳を傾ける。 「赤と白。丸くて、小さな子でも知ってるんだ」 そんな石、あったっけ。 ダイゴのお陰で石には詳しくなった方だけど、思い当たる石がない。 「ほら、分かる?」 「考え中……」 ダイゴは目を輝かせて私を見つめる。そんなに見られると恥ずかしくてプレゼントを当てるどころじゃない。 赤と白、赤と白。 赤と白と言えばワインだけど飲めない私にワインをプレゼントするはずない。 じゃあなんだろう、ヒントはないかと部屋を見渡すと、わたしは見つけてしまった。 いやいや、まさかそれは有り得ない。 ダイゴはにこにこ笑ったまま私をじっと見つめるばかり。口を開くかと思えば「もう分かった?」と答えを急かすだけ。 「本当は、もう分かってるんでしょ?」 「分かってない、まだ全然分かんない」 ニコニコが、ニヤニヤに変わる。 「はい、時間切れ」 いつもなら悔しがるけど、今回はそんな余裕がなかった。 ダイゴが悪戯っぽく笑う時は決まって大変な目に遭う。 だから、まさか、ダイゴのプレゼントっていうのは。 「はい、プレゼント」 「いっ、いらない!」 ダイゴが無理矢理わたしにそれを握らせた。長くて、それでいてごつごつしたダイゴの手は大好きだけど、今はそんな温かい気持ちになれない。 だって、ダイゴのプレゼントがわたしの一番欲しくないものだから! 「返す、返す、こんなもの貰わないから!」 投げるようにダイゴにそれを突き返す。でもダイゴはそれをひょいとかわしてしまう。 誰にもキャッチされなかったそれは綺麗な放物線を描き、床にぶつかった。 「ひぃぃっ……!」 「リル!」 次の瞬間、わたしは壁にぺったりと張り付いてボールから出てきた青いのから距離を取った。 そんなわたしと対照的に、ダイゴは笑顔を浮かべて青いのを抱き上げた。その光景はおぞましい、の一言に尽きる。 「ルリリなら可愛いし、ポケモン嫌いなでも大丈夫だろう?」 可愛いポケモンは安全無害なんて、一体誰が決めたんだろう。綺麗な花には刺があるように、可愛いポケモンには牙がある。 そもそもわたしがポケモン嫌いになった原因は、見た目が可愛いポケモンなんだから。 「ほら、可愛いだろう?」 ダイゴの極上の笑顔を、初めて腹立たしいと思った。
one*スーツを着た悪魔
(「ほら、分かる?」)
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