「お前はいつも笑っていますね、
「いけませんか?」
「いえ。ただ、事実を述べただけです」

アポロはうっすらと笑みを浮かべる女性に目を向ける。笑みを絶やさぬその顔とは裏腹に、彼女の任務は苛酷そのものだった。
だからアポロは問う。なぜいつも笑顔でいるのか。
しかしは笑顔をこちらへ向けるばかりで答えは返ってこない。

「私はお前の顔が苦しみで歪むのを見てみたい」
「どうぞご自由に」

に浮かぶそれに感情が伴っていないことは明白だった。どんな時でも笑顔であるのは彼女が生きるために身につけた術なのだろう。
とは言え、アポロは彼女の隠している表情を暴いてやりたかった。感情と一致しない笑顔よりも、苦しみにまみれた顔を見たかった。

「……何をしても、無駄ですよアポロさん?」

胸に銃を突き付けてもの顔には笑みがあった。

「怖くないのですか」
「そもそも、そういう感情を私が持ってると思うのが間違いですよ。怖い?まさか!」

言葉通り、はまるで怯えていなかった。アポロはぎりりと奥歯を噛み締める。

「アポロさんがアポロさんである限り、わたしは貴方に弱い部分を見せません」





 




「以前、アポロさんは言いましたよね、アポロさんが地球ならわたしは月なんだって」

月が地球の周りを回って離れないように、もアポロから離れることは出来なかった。だからそんな幼稚な例えを酒の席で言ったことがあった。
あの時は、気分が良かった。の笑顔の不気味さに気づくこともなかった。

「月って、一定の部分しか見えないって知ってますか。わたし達はずっと月を見ているけれど、その半分しか見ることが出来ないんですって」

わたしも同じですよ。が窓の外に見える月に視線を送る。

「裏側を見たいなら、宇宙へ行くしかない」

喰らうように唇に噛み付けばの視線はゆるゆるとアポロへと戻った。
まるで関心のない瞳に苛立ちを覚え服を剥ぎ取った。

「お前に恥じらいはないのですか」

なおも余裕の笑みを浮かべる目の前の女を、壊してしまいたかった。月がどうだと喋るその口から、許しを請う言葉を出させたかった。

「恥じらいなんて、ロケット団には不要だから、とうに捨ててます」

それよりも。は瞳を閉じる。

「わたしの裏側を見たいならロケット団最高幹部のアポロではなく、ただのアポロになって下さい」

宇宙に行くのにリスクがないなんて、そんな訳ないでしょう?
絡み合ったの視線は、ぞくぞくするほど美しい輝きを放っていた。