「おや、何をしてるのですか」

がやがやと騒がしい食堂にて、アポロの部下であるは食事もそこそこに唸り声を上げながら何かに取り組んでいた。デスクワークが大嫌いな彼女が昼食も食べずに書類と向き合っているなんぞ、槍でも降ってきそうだ。
アポロはの前に座り、それを覗き込んだ。

「……数独ですか」
「わっ!ア、アポロさんじゃないですか!」

上司に気が付いたは慌てふためき手元のカップをひっくり返してしまう。中に入っていたコーヒーがテーブルに茶色の海を作った。その海を拭き取りながら、は数独に目を落とす。どうやらいたくお気に入りらしい。

「お前が数独なんて珍しいですね」
「ホント、そうですよ」

眉をひそめ、はため息をつく。
何やら事情があるらしい。頭脳パズルなんて無縁であるが必死になって解こうとする事情だ、よほど彼女にとって重大な事情なのだろう。
それに興味を持ったアポロは座り直してに尋ねた。

「どうして解くことになったのです」
「それはランスさんが悪いんですよー」
「ランス、ですか」
「私のこと馬鹿にして、『どうせ貴女には無理でしょうね』って言ったんです!」
「………ふむ」
「それで悔しくなって絶対解いてやろう…って訳です」
「成る程」
「それに、これを解けたらランスさんがご馳走してくれるんです。
 だから絶対解かないといけないんですよー」

が目をギラリと光らせ鉛筆を握りしめる。解くことが目的と言うよりはランスにご馳走してもらうことが目的になっている。
それにしても。
アポロはランスへ苛立ちを覚える。
あれは自分の部下でもないのに目を掛け、隙あらば我が物にせんと何事か企てている。

「だからお願いなんですけど」
「まだ解けてないのですか」

にやにや笑うその男、ランスがの隣に座る。
アポロと目が合うと一際優越に浸る目になった。

「アポロに聞いて解いても何も出ませんからね」
「なっ!解いたらご馳走って約束だったのに!」
「自力で、ですよ」
「酷い!」

が怒ってランスに噛み付く。ランスが小馬鹿にしたように笑う。
そんな二人を目の前にし、アポロはひどく苛立ちを覚えていた。しかし、だからと言ってランスとを引き離すのはあまりにも子供すぎる行いだった。
とは言えこの二人を見ているのにも限界がある。

「別にこれぐらい、私一人で解けますから!」
「貴女が出来ずに泣きつくのが楽しみですよ」

泣きそうなの目がアポロを見つめる。
さて、私も限界なのでこの腹立たしい茶番を終わらせてしまおうか。

、」
「はっ、はい」

鉛筆を取り上げ、殆ど空欄のままの数独に目をやる。
さほど難しくもないそれは、恐らく時間さえあれば苦手なでも解いてしまえるものだった。
成る程、ランスはと食事に行く口実にこんなものを与えたのか。きっとは気付いていまい、この男の目的を。
ふと、ランスからの視線に気付き目を向ける。明らかに不機嫌な顔をしている。そして口を開く。

「アポロが解いたらご馳走云々の話はなしですからね」
「ちょ、アポロさん勝手に解いちゃダ………」

が言い終わらぬうちに全てのマスを数字で埋めた。
こんなにも簡単に解ける数独を、彼女はあんなにも悩んでいたのか。少しばかりやる瀬ない気持ちに襲われる。
紙を返すとが頭を抱え込んでしまった。

「アポロさん!何してくれちゃったんですか!」
「こんな下らないことより仕事です」
「下らなくないですよ!」
「下らないことは確かですよ、
「ランスさんまで何言っちゃってんですか!あなたが出した問題でしょ!」

は怒った顔で立ち上がり、アポロとランスにしかめ面を向けてどしどしと去って行った。
後には男二人、どちらも視線を逸らして座っていた。

「私の部下で遊ぶのは止めなさい」
「遊ぶ?私はそんなつもりありませんよ、アポロ」

肩をすくめ、の残した鉛筆を取り上げると「私は貴方と違って本気ですから」にやりとランスが笑って席を立った。

 

 

「……な、何ですか?」
「いりませんか?」
「えっと、もらいます」

コガネの有名なロールケーキをはぱくりと口に入れる。その様子をアポロはじっと見つめる。

「やっぱコガネロールは最高ですね」
「そうですね」
「でも何でですか?昨日まで絶対食べないって言ってたのに」
「……気まぐれですよ」
「へぇ、アポロさんにもそんなことがあるんですね」

アポロは僅かに笑みを浮かべると自分もそれを口に入れた。

、」
「はい、何でしょうか」
「餌に釣られて狼に捕まってはいけませんよ」
「は、はぁ?」

 

ずきん
 

 


自分ではかなり頑張ったつもり。逆ハーって難しい…
ゆう様、リクエストありがとうございました!