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 VoiceFighter晶
 FIGHT−2:愛を賭けたアンティ勝負


 村井さんの意識が戻らないまま、2晩が過ぎた。俺は大会の2回戦に村井さんが出場できないと言う事を告げるついでに試合を観戦することにした。
 辞めようと思ったのに、来てしまった。
「すみません、村井大和さんが入院で出られなくなったので、棄権します」
「はい、では今日の対戦の方を不戦勝に致します」
 不戦敗か・・・・仕方ないけど、出ていたらきっと勝っていたんだろうな。
「お、ラッキー! 俺の対戦相手、来れないんだってよ! 戦わずして3回戦出場だぜ」
 村井さんの対戦相手だった人だろう。ふんぞり返って椅子に座っている態度が気に食わなかった。若くて、せいぜい高校生といった感じだ。
「ま、やってても俺が勝ってたけどね、バリバリで。ビビったんじゃない? 俺のデッキにさぁ。1回戦なんて、3ターンで終わっちゃったもんね。俺の今日の相手って、結構オヤジだったんだな、歳を見てビビったぜ。全く、いい歳してVFなんてやるか、普通?」
 腹が立ってきた。村井さんがお前なんかに負けるわけないだろ!
「逃げたんじゃない? 子供に負けたら格好悪いからさ」
「む、村井さんはそんな人じゃないぞ!」
 しまった、つい我慢しきれずに・・・・。
「何だぁ?」
 茶髪だった。しかも立ち上がると、俺よりかなり背が高い。
「あんた、何?」
「何って・・・・村井さんの友達だ」
「ふ〜ん」
 相手は俺の足から頭までをジロジロと見た後、興味なさそうにまた椅子に座って足を組んだ。
「あんたも出るの?」
「いや、俺はその村井さんに負けて・・・・」
「何だ、弱いんだ。逃げた奴に負けるなんて、よっぽど弱いな」
「逃げてなんかないぞ、村井さんは・・・・」
 俺は魂のデッキケースを握り締めた。
「この村井さんの魂のデッキは、絶対に負けない!」
「ん?」
 生意気な茶髪の眼つきが変わった。俺の手にしているデッキケースを覗き込んでいる。
「まさか・・・・いや、本物か・・・・」
 ブツブツと何か言ったかと思うと、俺に向かってこう言った。
「おい、俺と勝負しろ。村井って奴の代わりだ!」
「え、でも俺は負けてるし・・・・試合をする資格はないよ」
「村井って奴が入院したから、1回戦の対戦相手であるお前が不戦勝ってことにしようぜ、俺は2回戦でお前と戦う!」
「そんなこと、できるのか」
 だが、交渉に行った茶髪の不良野郎が怖かったのか、店長はあっさりOKした。
「さぁ、俺に感謝しろよ。もう1試合できるんだからな。まぁ、俺に勝つのは無理だろうが。さてと・・・・」
 不良は向かい合って座った俺の前にズイ、と身を乗り出した。
「この試合、アンティでやらないか」
「アンティ?」
「要するに賭けだよ。カードを賭けて試合をするんだ。勝った方は負けた相手のデッキから好きなカードを貰える」
「えぇっ、それは・・・・だって、このデッキは俺のじゃないし、それって禁止されてることじゃ・・・・」
「俺のおかげでお前は大会に復帰したんだ。俺の提案を飲んでくれてもいいはずだぜ」
 くそ、そういうことか。俺は相手のペースにまんまと乗せられたってことだ。
 要するに勝てばいいんだ、勝てば。村井さんのデッキなら俺にも勝てるかもしれない。こんな口だけの奴に負けてたまるか。
「やるぜ、名前は?」
「御門晶だ」
「俺は室園修二。シュウでいいぜ」
「俺もショウでいい」
 ファイト、開始。
 まずはデッキからユニットカードを取り出す。実は村井さんのデッキをパラパラと見てみたものの、戦術や戦略を把握していない。魔法や罠の効果もイマイチ分からない。
 村井さんのデッキユニットカードは4枚あった。
 「やまとなでしこ」が魂のカード以外にももう1枚あった。こちらはレア度の低い、ノーマルなカードだ。「プリティ・プリティ」は2人ユニットながら攻撃力が3600と高かった。そしてこの「ハミングバード」。
 攻撃力4500?
 これがこのデッキの切り札なのか? だが構成するメンバーカードは5枚。全て手札から出すことになるから、手札5枚全てがメンバーカードでなければならない。
 そんなのを揃えることが可能なのか? まぁ狙っても無理だろう。偶然揃えば儲け物、という気でいこう。
 お互いのデッキをシャッフルし、準備は整った。ジャンケンに勝った俺はまた後攻を取った。
「俺はこのカードを攻撃表示で出し、罠を2枚張ってターンエンドだ」
 シュウのターンはあっという間に終わった。
 罠が2枚、いやな感じだ。それに攻撃表示で出されたカードが、
 林原めぐみ Sランク AP3200 DP2500 アーツビジョン所属
 単体で最高の攻撃力を誇る、スターターに収録されながらも今だ最強のVFカード。攻撃に自信があるから相手は攻撃表示で出してきた。
 くそ、いきなり「林原めぐみ」か。俺のカードは・・・・。
 玉川紗己子 ノーマルVFカード
 草地章江 ノーマルVFカード
 浅川悠 リリース効果VFカード
 事務所カード・アーツビジョン
 マルチメディアカウントダウン 罠カード
 の5枚だ。単体で勝てるカードが無い。相手がアーツビジョン所属なだけに、事務所カードは使えばこちらが不利になる。しかも村井さんのデッキはおそらくアーツデッキなのだが、この中ではアーツビジョン所属カードは「浅川悠」しかない。しかもこの低い攻撃力は何だ? 使えない!
 唯一の救いは罠カード「マルチメディアカウントダウン」だ。この罠カードは、攻撃してきた相手のVFカードがAランク以上だった場合、次のエンドフェイズでそのカードを降板させてしまうというものだ。次のターンは林原めぐみの攻撃を喰らうが、それさえ凌げば脅威の攻撃力を誇るカードが場から消え去る。
 俺は取りあえず罠カードを1枚セットし、VFカードを守備表示で出すことにした。
 まてよ、玉川に草地?
 最強カード「ハミングバード」のメンバーカードが最初のドローで2枚揃っているじゃないか! あと3枚手札に来れば、ユニットを結成できる!
 よし、ここはどうでもいい「浅川悠」を裏向き守備表示で出してターンエンドだ。
「早くも防戦体制か」
 シュウはにやけながらカードをドローしてゆく。くそ、最初にいいカードを引いたからって、いい気になりやがって。
 さぁ「林原めぐみ」で攻撃して来い。罠にはめてやるぜ。
「俺のカードはこれだっ」
 堀江由衣 Cランク AP1500 DP800 アーツビジョン所属
 あれ、この前に見た「堀江由衣」とは違う。攻撃力が上がっている。ヴァージョン違いのカードなのか。でもまぁ、AP1500なら怖くはないな。
「更にフィールド魔法カード『なわ』を出すぜ!」
 なわ フィールド魔法カード 全ての場の「堀江由衣」のAPが倍になる
 倍!? てことは攻撃力3000ってことか!? 凄すぎる魔法カードだ! だが俺の「堀江由衣」もパワーアップする。今は手札に無いが、後で攻撃力3000で出してやる。
 さぁ、攻撃しろ林原!
「念のため、このカードで罠カードを除去しておくぜ」
 新人マネージャーチェック 相手の場にある魔法もしくは罠カードを1枚降板させる
 なに、除去?
「これは降板、っと」
 シュウはセットされている俺の罠カードをひょいとつまんで降板の場に置いた。
「くっ・・・・」
「お、ドリカンかよ。危ねぇ、危ねぇ。じゃ、遠慮なくほっちゃんで攻撃っと」
 俺の場で守備表示になっている「浅川悠」は、攻撃力3000の前にあっけなく降板した。「浅川悠」の効果は降板した時に発動するドロップ効果だが、自分の降板の場のVFカードを1枚、場に復活させるというもので、現時点で降板の場に何も無い俺には無用の長物だった。続いて「林原めぐみ」の直接攻撃により、俺のライフはあっという間に4800になってしまった。
「ターンエンド。さっさとやろうぜ」
 くそ、こっちは魔法や罠の効果を読みながらやってんだ、焦らせるな!
 2枚引く。引いたカードは罠1枚、装備魔法1枚。とりあえず罠をセット。
 装備魔法は「大ブレイク」。Bランク以下のカードが装備できるブレイクカードで、APとDPがそれぞれ1000アップする。仮に「玉川紗己子」に装備しても攻撃力3000。相手の「堀江由衣」と相討ちするのが精一杯だ。だが、玉川は「ハミングバード」結成のための重要メンバー。ユニットを結成するには手札に残しておかなければならない。だがここで何も場に出さなければダイレクト攻撃を喰らう・・・・。
 ええい、除去されないことを祈って、罠に賭ける!
「ターンエンド!」
「ほう、手札にVFカードがないのか・・・・可哀想に。このターンで終わりかなァ」
「・・・・」
 俺のライフは4800。今現在、場にある2枚のカードで攻撃されるとジ・エンドだ。
「俺はこのターン、VFカードのリリースはしねぇ。もう勝ったも同然だからな。ほっちゃんでダイレクト攻撃!」
「今だ、罠カード発動!」
「なにぃ」
 窮地の抵抗 相手に直接攻撃された時に発動、相手の場の一番APが高いカードを降板させる
「き、窮地の抵抗だと!」
「堀江由衣による俺への攻撃は通るが、お前の場で一番APの高い『林原めぐみ』は降板の場に送られるぜ!」
「ちぃ、このターンを凌いだか!」
 今の場合、先に「林原めぐみ」で攻撃されていたら、3200ダメージを受け、「窮地の抵抗」の対象は「林原」だから「堀江由衣」の攻撃で俺は負けていた。
 俺のライフは残り1800。相手は8000のままだ。いよいよ「ハミングバード」を結成して優位に立たなければ・・・・。
 俺のターン。置き忘れていた「アーツビジョン」と「大ブレイク」を魔法カード置き場に置いたので、3枚ドローできる。「魔法ストック」に魔法カードを置けばドロー出来る手札が増えるのを忘れていた。この辺りがまだまだ勉強不足だ。
 「三石琴乃」「田村ゆかり」「放送事故」引いた。「三石琴乃」は「ハミングバード」のメンバー、「田村ゆかり」は「やまとなでしこ」のメンバー。「放送事故」は相手の攻撃宣言をトリガーに、相手の攻撃を3ターン封じるというものだ。
 よし、ここもVFカードを温存し、罠をセット。
「ターンエンド」
「へっ、魔法や罠ばっかりのデッキか? VFカードが出てこないじゃないか。ほっちゃんで攻撃〜」
「今だ『放送事故』発動!」
「ちっ、延命措置か。時間稼ぎしやがって」
 相手の場に「3」の目を出したサイコロが置かれる。このターンを含め、相手はVFカードによる攻撃ができなくなる。その間に、俺はあと「椎名へきる」と「天野由梨」を引けば「ハミングバード」をリリースできるぜ。
 俺のターンだが、手札に「ハミングバード」のメンバーカード3枚と「田村ゆかり」があるため、1枚しかドローできない。これでは目的のカードを引く確率が低すぎる。
 「白鳥由里」を引いた。防御力は高いが、攻撃して勝てるカードではない。
 相手は攻撃してこないものの、場には攻撃力3000級のカードが2枚陣取っているため、こちらも攻撃ができない。「白鳥由里」を裏向きでリリースし、ターンエンド。
「時間の無駄だなぁ、早くあと2ターン経たねぇかな」
 カードをドローした相手は、魔法カードを1枚出した。
「暇だからこれでもくらえ」
 根回し デッキを1つ選び、その上から5枚を降板させる
「あんたのデッキの上から5枚を取り除くぜ」
「あ・・・・」
 俺の降板の場に5枚のカードが眠った。
 椎名へきる 堀江由衣 ベテランマネージャーチェック 田村ゆかり 横槍
 うわ・・・・役に立ちそうなカードばかりだ。しかも「椎名へきる」が降板の場に行ってしまった! せっかく狙っていた「ハミングバード」が水の泡!?
 くっ、どうする? 起死回生の手が、パァになった! このままでは、決め手が無いまま罠カード「放送事故」の効果が切れてしまう。そのターンのドローで、俺の手札には「堀江由衣」が来た。しかし、ヴァージョンは初期のもので、APは800。相手の1500には敵わない。「ハミングバード」を諦めた俺は「草地章江」を裏向きで場に出した。相手の2枚には到底勝てない。
「さぁ、次のターンで攻撃可能になるぜ。溜まりに溜まった鬱憤で粉砕してやる」
 俺のターン、何としてもここで何か手を打たないと。
 ドローしたのはフィールド魔法カード「カムバック」。このカードが場にある時、お互いのプレイヤーは自分の降板の場のカードでユニットを結成し、場に出すことができる。
 俺の降板の場にあるカードは・・・・。
「俺のターン、『三石琴乃』を出して『堀江由衣』に攻撃!」
「何っ、正気か!?」
 こちらはAP2500、相手はフィールド魔法「なわ」の効果でAP3000。俺のライフは500減り、1300。「三石琴乃」は降板した。
「素人か、お前? 自分から負けてどうするんだ? あぁ、そうか。勝てないから、ゲームを捨てたな? 早く負けて楽になろうってことか」
「そしてフィールド魔法カード『カムバック』!」
「カムバックだと」
「『カムバック』の効果により、降板の場の『三石琴乃』と『椎名へきる』で『プリティ・プリティ』を結成して場に出し、更に『田村ゆかり』と『堀江由衣』で『やまとなでしこ』を結成!」
「ぬっ、『プリティ・プリティ』! 貴様、そのカードを出すためにわざと『三石琴乃』を降板させたというのか!」
「復活したカードはそのターン中は攻撃ができない。ターンエンドだ」
 俺の場には、
 プリティ・プリティ ランクSユニットVFカード AP3600 
 やまとなでしこ ランクCユニットVFカード AP1600 
 今、俺が出した「やまとなでしこ」は村井さんの「魂のカード」とは違うヴァージョンだ。何故かって言うと、次のターンでその理由が分かるぜ。
「ちっ、次のターンで俺は攻撃可能になる。『プリティ・プリティ』で優位に立ったと思っているようだが、こいつでどうだ! 装備魔法『ドン・マッコウ』! こいつを装備させ、自慢のAPを500下げてやるぜ!」
「なにっ」
「更に裏向き守備表示でVFカードをリリースし、ターンエンド!」
 切り札「プリティ・プリティ」のAPが3100になった。相手の「林原めぐみ」は3200。「堀江由衣」は倒せるが、このままでは脅威を取り除けない。次のターン、「放送事故」の効果が切れた相手は攻撃を仕掛けてくる。だが・・・・。
 村井さん、あなたの魂のカード、使わせて貰うぜ!
「手札から『田村ゆかり』『堀江由衣』でユニット『やまとなでしこ』結成!」
「うおっ、やはりそのカードは幻のリミテッドレア! この試合、勝ってそのカードを頂くぜ!」
「させない! このカードは、場に『やまとなでしこ』が出ている時に、2枚のカードのAPを足して同時攻撃が出来るんだ! よって、攻撃力3300で林原めぐみに攻撃!」
「何だと、3300!? ぐおっ!」
「更に場の『プリティ・プリティ』で『堀江由衣』撃破!」
「お、俺の場のカードが全滅しただと!」
 相手のライフは200しか減っていないが、自慢のカードを撃破したことでかなりのダメージを負ったようだった。
「見たか、これが村井さんの魂だ!」
 続けて俺は場にある「白鳥由里」を攻撃表示にして、相手の裏向きカードに攻撃。降板する時にこちらの罠カードを除去する効果カードだったが、罠がセットされていないため無効。
「ぬうっ! まだまだ! 俺のターン!」
 勢いよく1枚ドローしたシュウだったが、そのカードを見た瞬間に顔つきが変わった。
「何だと、VFカードが1枚も来ない・・・・罠もないだと」
 結局、そのターンは攻撃できるようになったにも関わらず、相手はVFカードを出せないままターンエンド。こちらの総攻撃でライフはゼロになった。
「ええい。くそっ!」
 相手は自分のデッキを床に叩きつけた。村井さんの言葉を借りるなら「愛がない」行為だった。
「おい、この試合はもともと無効だったんだよな?」
「え?」
 床に散らばったカードを拾おうともせず、俺にニヤついた顔で言ってきた。
「だってそうだろ? 元々あんたは1回戦で負けていて、俺は今日、不戦勝で勝ち残ったんだ。この試合は言わば野試合だ。そうだろ?」
「勝手なことを!」
「勝手なのはお前だ。試合に出る資格もないくせに」
「くっ・・・・」
 こいつは最初からこうするつもりだったのか。賭け試合をふっかけておいて、自分が負けた時の言い分を用意していたんだ。
「見苦しいなぁ、シュウ」
 突然、俺の後ろからドスのきいた声が聞こえたので、俺の心臓が跳ね上がった。
「ハ、ハヤテの兄貴」
「俺はずっとお前らのファイトを見ていた。お前の負けだ、シュウ。こちらのお兄さんが3回戦進出だ。そう受付のネェちゃんに伝えろ」
「で、ですが兄貴、こいつは・・・・」
 ハヤテと呼ばれた人に、シュウは何だか怯えているように見えた。確かに体格はシュウより一回りでかい。黒尽くめの服装に黒のサングラス。およそこういう場には似合わない人物だった。
「シュウよ・・・・約束は守るもんだぜ。仁義は通さねぇとなぁ」
 言動もちょっと怖い関係の人のようだった。
「は、はぁ、ですが・・・・」
「約束を守らない子は、おしおきするぜぇ」
「す、すみませんでした! 俺の負けです! 負けでいいです!」
 一体どんな「おしおき」なんだろう。知りたいような、知りたくないような。
「おいシュウ。もう1つ忘れてるぜ」
「はいっ?」
「この試合が『アンティルール』だったってことさぁ」
「ひっ、そ、それはっ」
「お兄さんよぅ、そいつのデッキから1枚、好きなの持っていきな」
 いきなり話しかけられ、俺は完全にビビった。ビビって、舌が回らない。
「いえ、僕は、別に、何も、い、いいです」
「そいつぁいけねぇ。決まりは決まりだぜ」
 リュウと呼ばれた男は、床に散らばったシュウのカードを拾い集めると、その中から1枚、俺に向かって差し出した。
「欲しいのがないっていうなら、俺が選ぶぜ。これ、持っていきな」
「これは?」
 田村ゆかり(やまな狐) ランクD効果VFカード AP1000 DP800 アーツビジョン所属
「能力は低いかもしれねぇが、将来きっと役に立つぜ」
「ど、どうも・・・・」
「あ、そ、それは! CDの初回限定に付いていたレアカードで、もう手に入らないんです」
 シュウが焦ってハヤテさんに駆け寄って来た。よほどのカードらしい。
「大事なカードなら床に捨てたりしないよなぁ、シュウ」
「は、はい・・・・」
「お前にはカードに対する愛がねぇ。さっきの試合、お前は後半に全くVFカードを引いて来れなかったのが敗因だが、きっとカードもお前を嫌ってたんだろうよ」
「そ、そんな、カードにそんなことが分かるわけが・・・・」
「だからお前には愛が無いっていうんだ!」
「す、すみません・・・・」
 あのシュウがこんなに小さくなってしまうなんて、このハヤテって人はどんな人なんだ? だいたい、本名なのか?
 まさかこの人も大会に参加してるなんてことは・・・・。
「お兄さんよ、紹介が遅れたな。俺は『ハピレスマスターのハヤテ』だ。勝ち進めば、いずれ対戦することもあるだろう。よろしくな」
「は、はい、僕は御門晶、えっと、えっと」
「見せて貰ったぜ『やまな娘。』魂のデッキをな」
「は、はぁ」
「だが、気をつけた方がいい。あんなレアカードを大会で使えば嫌でも目に付く。あのカードを欲しがっている奴は大勢いるぜ。シュウのようにアンティルールを仕掛けてくる奴はまだマシな方だ。中には手段を選ばない奴もいる。気をつけるんだな」
「は・・・・はぁ」
 あっけにとられている俺たちに背を向け、ハヤテ兄貴は去って行った。
 何なんだ「ハピレスマスター」って。

「村井さん、俺、勝ったよ。初勝利なんだ」
 帰り道に病院に寄った俺は、まだ意識の戻らない村井さんのベッドの脇に腰を掛け、今日の報告をした。
 本当なら、あなたがあのシュウって奴を倒して3回戦に出るはずだったんですよね。いいのかな、俺なんかが代わりに出場して。
 俺、村井さんには元気になって欲しいんです。晶の時と同じように、ひき逃げなんかで命を落として欲しくない・・・・。
 晶と同じ、バイクの事故・・・・同じレアカードの所持者・・・・。
 「中には手段を選ばない奴もいる。気をつけるんだな」という、ハヤテ兄貴のセリフが頭に浮かんだ。
 まさか。たかがカードごときで人を殺すなんて。
 殺す気はなかったけど、結果的にそうなったのだとしたら・・・・?
「まさか、いくら何でも」
 俺は自分の考えを否定するように言葉に出してみた。そんな馬鹿げた理由で晶の命が奪われたなんて、考えたくない。考えすぎだ。
 だが、一度頭に芽生えてしまった考えは、簡単に払拭できなかった。
 明日、3回戦だ。あのハヤテって人なら何か知っているかもしれない。会場で会えるはずだ。
「・・・・村井さん、もう少しこのデッキ、借りておきます」

第3話に続く

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