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タイトル


 魔法少女ぷにぷにゆかりん番外編 「教師もふもふ物語」


 今日は相楽豊の教師1日目だ。
 卒業したこの卯佐美第3中学に教師としてやってきたわけだが、ご都合主義により姫宮ゆかり達のクラスを受け持つこととなった。
(さて1日目ということは、アレが俺を待っているはずだ)
 ドアを開けると、黒板消しが落ちてくるトラップ。定番であるとユタカは思っているが、今時そんなトラップを仕掛ける学生がいるのだろうか?
(さて、どうするかな・・・・甘んじて白い粉を頭に受けるのも愛ある行動だが、ここは一つ教師として威厳を見せなければならない)
 自分が受け持つクラスの前に来た。中からはザワザワと生徒達の声がする。
 ドアに手をかけた。
(さぁ、来るなら来い!)
 一気にドアを開ける。その瞬間、ユタカは落ちてくるであろう黒板消しに向かって拳を振り上げた。
「・・・・」
 何事かと生徒が一斉にユタカの行動を見つめる。
 黒板消しなど落ちてくる気配はなく、ただユタカの腕が空しく振り上げられて止まっていた。
「先生、何ですかそれ・・・・」
 一番前に座っていた生徒が代表で質問した。
「これはだな・・・・ドラゴンユタカ最大の奥義、ロダン昇龍覇だ!」
「・・・・」
 静まり返る教室。
(くっ・・・・世代が違うのか?)
「もしくはブーメランフック・・・・」
「・・・・」
「えぇい車田漫画を知らんのか、お前らは!」
 ユタカは立腹しつつ、静まった教室の中を教壇まで歩いて行った。
「えぇ、今日からこのクラスの担任を務める徳川竜之介だ」
 え?という空気が教室内に満ちる。確か新任教師は「相楽豊」のはずだ。
「えぇい、教師びんびん物語を知らんのか!」
 クラスの数名がそのドラマを知っているが、田原俊彦演じる主人公の名前までは覚えていなかったようだ。
(くそ、滑り捲くりだな・・・・やはりここは「ごくせん」ネタで行くべきだったか?)
「相楽先生」
 女子生徒が手を上げた。姫宮ゆかりだった。
「何だね、姫宮くん」
「ユタカが先生っていう設定は、いくら番外編でもおかしいと思います」
「何でだよ! 俺はちゃんと教育学部を出て、教員免許を持っているぞ!」
「ば、番外編だからって勝手にそんな設定を作らないで! そんな設定、ぷにぷにゆかりん大百科にも載ってないよ!」
「ま、そんな設定は許すとして・・・・」
 隣の席に座っている藤堂院透子が言った。
「違うクラスのあたしがこの席に座っているのはどういうこと?」
「番外編だからだ!」
「それはいくらなんでも無茶だと思う・・・・」
「いいのか? 本来のクラスなら君の出番がないぞ」
「・・・・はぁ、分かったわよ」
 透子は諦めて、後ろに座っている鷲路憂喜の存在もしぶしぶながら認めた。やはり出番は欲しいようだ。
「ということで、うさみみ中学の福山雅治こと相楽豊だ。よろしくな」
「どこがちぃ兄ちゃんなのよ!」
 ゆかりの抗議も空しく、なし崩しに授業へと移っていった。
「さて1時間目は現代国語だな」
「ユタカって、国語の先生だったんだ・・・・てっきり保健体育だと思ってたよ」
「自慢じゃないが体育は苦手だ」
「じゃ保健だけ?」
「ゆかり、保健の授業はエロいものだと勘違いしていないか? だいたい、保健の授業なら男子と女子は別々の教室でやるものだ」
「それこそ、そういう内容の授業の時だけだよ!」
「当時は女子のクラスの授業を受けたかったものだな」
 遠い目をしてユタカは教科書を持った。
「じゃあ教科書32ページから読んで貰おうかな。今日は8日だから、出雲巳弥君」
「あ、はい」
 教師がユタカであろうとも、真面目に巳弥は教科書を持って立ち上がった。
「えっと、その女の子は自分の手に付いた液体を見て顔をしかめた。『えぇん、手がべとべとするよぉ、手を洗いたいよぅ』。隣にいた女の子はその液体の匂いを嗅いで『男の人の匂いがする』と言った・・・・」
 巳弥はそこまで読んで、止まった。
「どうした、出雲君」
「せ、先生、これって教科書じゃないです・・・・」
「先生、出雲さんにエロ小説を読ませてる!」
 巳弥の隣にいた桜川咲紅が言った。
「ち、違うぞ、エロ小説じゃない! それは某名作インターネットラジオの一節だ!」
「嘘だ、絶対に官能小説だ! エロ教師!」
 澤崎春也も調子に乗ってユタカを糾弾した。
「この事件は明日の新聞に載るだろうな。ハレンチ教師、授業で卑猥な小説を女子生徒に読ませる・・・・と」
 冷静な声で鷲路憂喜が言った。
「うっ・・・・」
 巳弥が俯いたままついに声を殺して泣き始めてしまった。
「あ〜、巳弥ちゃんを泣かした〜!」
「サイテー教師だ!」
 教室内の生徒から口々に非難を浴びるユタカだった。
(このままだと教師の威厳が・・・・こうなったら)
「あぁ、俺はエロ教師だ、悪いか! お前ら静かにしないとワイセツないたずらをするぞ、こんちくしょう!」
 ピタ、と罵声が止まる。
「逆ギレした・・・・」
「これだから大人って嫌よねぇ」
 変わってささやく声があちこちから聞こえてくる。
「そういえば先生、姫宮さんと何やら噂があるらしいわよ」
「うそ、本当にロリコン教師だったの?」
「何でも『お兄ちゃん』とか『〜だにゃ〜ん』とか言わせてるらしいわよ」
「やだ〜、マニアックなプレイ・・・・」
「お〜い、そこそこ、俺に聞こえるような声で話さないでくれたまえよ」
 ユタカが優しい声で注意すると、近くにいた春也が口を開いた。
「教師のくせに生徒に手を出すとは問題だぜ・・・・ここはPTAに報告しなきゃならないな」
 ユタカはチョークを持ち、振り被った。
「くらえ澤崎、哀愁チョーク!」
 ちなみに「哀愁情句」というのは早見優のシングル曲だ。
 それはさておきチョークの行方はと言うと、狙ったはずの春也ではなく後ろに座っていたタカシの額に突き刺さった。
「ぐあっ!」
 そのままタカシの身体は後方に傾き、椅子から転落した。
「きゃあああ、タカシ君!」
 こなみの叫びが教室内に響き渡る。タカシの額にはチョークがめり込み、ピクリとも動かなかった。
「せ、先生! タカシのヤツ、動かないぜ!」
「心配するな。番外編だから本編とはシンクロしていない。本編ではちゃんと生きているさ」
「そんな問題か!?」
「安心しろ、どっちにしろこの先の本編でもタカシ君の出番は無いに等しい」
「酷いよ〜、先生!」
 こなみは泣きながら抗議したが、あっさり流された。
「さて、英語の授業だったな」
「さっきまで国語だったぞ!」
「・・・・澤崎、言ったはずだ。静かにしないとワイセツなイタズラをするぞ」
「う、そ、それは絶対に嫌だ」
「ユタカにそんな趣味があったなんて・・・・」
 あからさまに侮蔑の表情を浮かべるゆかり。
「冗談だ。番外編で女の子向けにBLの世界を展開して差し上げるほど俺はサービス精神旺盛ではない。GLなら歓迎するが、誰か実演してくれないかね? とりあえず席が隣同士なのでゆかりと藤堂院さんとか」
「・・・・」
「待て、藤堂院さん。冗談だから無言でライトニングアローを構えないでくれ。だいたい、みんなの前でマジカルアイテムを使うなよ。一応秘密なんだろ?」
「番外編だから関係ないって言ったのは相楽君よ」
(・・・・くそ、口喧嘩では絶対に負ける)
 観念したユタカは授業に戻ることにした。
「では姫宮君、私の後に続いて文章を復唱してくれ」
「はぁい」
 椅子を引き、しぶしぶゆかりが立ち上がる。
「ではいくぞ」
「ではいくぞ」
「これは復唱しなくていい!」
「これは復唱しなくていい!」
「・・・・」
「・・・・」
 睨み合うユタカとゆかり。
「アイラブユー」
「・・・・ア、アイラブユー」
「分かってはいたが、人前で言うなよ・・・・照れるじゃないか」
「ユタカが言わせたんじゃないの!」
「復唱はどうした? ゆかり」
「あっ」
「ふっ、勝った。次の手として放送禁止用語を用意していたのだが、奥の手を使うまでもなかったな」
 あまり長くない前髪をかき上げ、ユタカは勝ち誇った。
「透子〜、悔しいよぅ、ユタカなんかに負けた〜!」
「なんかとはなんだ、なんかとは!」
 ゆかりに泣きつかれた透子は「もう、しょうがないなぁ」とネコ型ロボットの真似をして、スカートのポケットに手を入れると何かを取り出した。
「はい、スモールライト〜!」
「って、普通の魔法の肩叩きじゃないか! どこがスモールライトなんだよ!」
 ツッコミを入れるユタカの前に、透子は肩叩きを突きつけた。肩叩きの先端から光がほとばしり、みるみる内にユタカの身体が小さくなってゆく。
「ほら、小さくなったからスモールライトだよ」
「魔法で小さくしたんだろ!? いや、待って、何をするんだよ藤堂院さん!」
 ついにユタカの身体は200円のカプセルフィギュア並の大きさにまで縮んでしまった。その大きさで叫んでも小さくて声が聞こえない。
「さ、ゆかり。煮るなり焼くなり好きにどうぞ」
「よぅし・・・・」
 ゆかりが小さくなってしまったユタカににじり寄る。
「ま、待て、ゆかり! 話せば分かる。あんなことで怒るなんて大人気ないぞ!」
「ゆかりは子供だも〜ん」
「くそ、都合のいい時だけ子供になりやがって! これじゃまるで南くんの恋人状態だぞ。高橋由美子か松浦亜弥か、どちらがいいか迷うところだが・・・・お?」
 小さくなったユタカが見上げると、ゆかりのスカートの中が丸見え状態だった。
「ほほぅ、これはなかなか・・・・」
「何がなかなかなの? あっ!」
 ユタカの視線に気付いたゆかりは、慌ててスカートを押えた。
「ユタカのスケベ!」
「不可抗力だぞ。見上げたらたまたま見えたんだ!」
 言い訳をするユタカの身体が、ゆかりの手で掴み上げられた。
「確か番外編だからどうなっても構わないんだよねぇ・・・・」
「待て、ゆかり! 落ち着け、何をする気だ!」
「どうしようかなぁ・・・・」
「ねぇ、ゆかりん。乱暴なことは良くないよ」
 先程、ユタカに泣かされた巳弥がゆかりをなだめるように言った。
「さすが、巳弥ちゃんは優しいなぁ。痛たたたたっ!」
 ユタカの頭がゆかりの人指し指でグリグリされた。
「ゆかりと違って?」
「いや、ゆかりも優しい、だから許してくれ!」
「どう思う? 透子」
 ゆかりは振り返って、透子に意見を求めた。
「う〜ん、ちょっと懲らしめた方がいいかも」
「だってさ」
(くそ〜藤堂院さん、適当に答えやがって・・・・! こうなったら)
 ユタカは力を振り絞り、ゆかりの手から脱出するとそのままゆかりの制服の胸元に飛び込んだ。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
 ゆかりは慌ててユタカを取り押さえようとしたが、ユタカはゆかりの服の中を縦横無尽に這い回った。
「やだ、やめてぇ、馬鹿ユタカ! どすけべ〜!」
 ユタカがゆかりの背中に回ったため、ゆかりは捕まえようにも手が届かない。
「取って、鷲路君!」
 ゆかりは後ろにいた憂喜にお願いした。だが憂喜は少し赤くなり躊躇してしまう。
「女子の身体に触るのは失礼に当たると思うが・・・・桜川、頼む」
「はいはい」
 憂喜に頼まれた咲紅が立ち上がり、ゆかりに近付いた。
「どこなの?」
「背中、あ、もっと上! 膨らんでるとこ!」
「ここ?」
「あ、前に来たぁ」
「えいっ」
「やん、それはゆかりの・・・・!」
「え? ご、ごめんなさい」
「や〜ん、ユタカ、そこは駄目ぇ〜!」
「おいこら、おっさん!」
 たまりかねて春也が飛んできた。
「ゆかりんに何しやがる! 出て来〜い!」
 咲紅を押しのけ、春也はゆかりの服の上からユタカに狙いを付けて掴んだ。
「あ、やわらかい・・・・」
「どすけべ〜!!」
 1年3組の教室に大爆発が起こり、ガラス窓が吹き飛んだ。ゆかりの怒りが頂点に達した時、孫の手が発動したのだ。
「さて・・・・」
 元の大きさに戻ったユタカが教壇に立つ。教室内は煙に包まれ、バラバラになった机や椅子が散乱していた。
「みんな無事かな〜」
 そう言うユタカの頭も、ドリフターズの爆発ネタの後のようなバクハツ頭になっていた。
「無事に見えるのか、これが!」
「爆発の元になった張本人が何を言うか、澤崎君」
「元はと言えばおっさんが原因だろ!?」
 その時、チャイムが鳴った。
「おっと、終業のチャイムだ」
 ユタカは机の上に置いていた教科書をまとめると、脇に抱えた。
「では、授業終わり! あぁ、ちなみに次の授業も担当は俺だからな」
 これは番外編だから、きっと休み時間の間にこの教室も元に戻るのだろう。マジカルバリアを張って無傷で済んだ透子は頬杖をついてそう考えていた。
 ガラスやカーテンの吹き飛んだ窓からは、暖かい日差しが差し込んでいた。



続くのか?



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