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タイトル


 57th Future 「湖上を舞う白き翼」


 あずみは自分を見る莉夜の目線に気付いた。
「なに? りよちゃん」
「あのさ、その、あずみちゃんはこれから・・・・」
「これから?」
「その、まぁ、何と言うか、あずみちゃんは藍ちゃんだったわけで、この世界の生れだったわけでしょう? だから、その・・・・」
 要領を得ない莉夜の喋りに、あずみに手首を握られたままの冴が声を掛けた。
「安心して。あずみちゃんはここには残らないわ」
「え、でも・・・・」
「あずみちゃんはみんなに愛されているし、必要とされている。そう感じたわ。ここにいても必要とするのは私一人だけ。必要としてくれる人は、多ければ多いほどいいわ」
「でもそうしたら冴さんが・・・・」
「私は大丈夫。またブレスレットを修理すればそれでいいから」
 冴の顔色は随分と良くなって来ていた。
「でも、お父さんは冴さんの為にあずみちゃんを作ったんですよ?」
「あずみちゃんはどうなの?」
 莉夜に聞かれて、あずみは首を傾げた。
「う〜ん、お姉ちゃんと一緒にいたいけど、りよちゃん達とも別れたくありません」
「それはでも、イニシエートとエミネントは世界が違うし・・・・」
 それをあずみの側で聞いていた鵜川が複雑な表情をしていたので、冴が不審に思った。
「ところで、あなたは誰?」
「え、僕ですか?」
「ええ。見たところイニシエートではなさそうだけど?」
「僕は普通の人間です」
「あなた、あずみちゃんとずっと一緒にいるけど、どんな関係?」
「どんなって・・・・」
 鵜川はあずみから少し離れて、何故か少しかしこまった。その様子を見て、莉夜が口を出した。
「鵜川さんは生意気にもあずみちゃんが好きなんだよ」
「何だよ、生意気って?」
「たかが警官のくせに〜」
「たかがって何だよ!」
「警官?」
 冴が驚いた顔をした。
「あなた、警察官?」
「そうですけど・・・・」
 鵜川は七つほど年下の冴に、敬語になってしまう。よほど先程の冴が怖かったようだ。
「警官がこんな子供にちょっかい出していいと思ってるの?」
「ちょ、ちょっかい?」
「あなた、年齢は? あずみちゃんは藍と同じ年齢とすれば、まだ十四歳よ。それ以前にアンドロイドだわ。こう言っては何だけど・・・・ちょっと歪んでない?」
「歪んでる? 僕のどこが歪んでいると言うんですか?」
 鵜川は今にも立ち上がり、冴に向かって行きそうな姿勢だった。
「僕は純粋にあずみ君が好きです! 歪んでるって何ですか? アンドロイドだからって、どうして好きになっちゃいけないんですか? 歪んでるって言うのは、僕が女性にモテなくて、作り物の女の子で満足してるって、そういうことですか? あずみ君は誰かの代わりなんかじゃない、僕にとって大切な存在だから好きなんです! それが悪いんですか? 普通の女の子が好きなら、美術品やスポーツカーを愛したら正常なんですか? あずみ君がいたから僕は立ち直れた、だから愛してるんです。それじゃいけませんか!?」
 一同はそんな鵜川にあっけに取られ、しばし沈黙が訪れた。
「鵜川さん」
 最初に口を開いたのはあずみだった。
「私のこと、好きだったんですか?」
「し、知らなかったの・・・・かな?」
「はぁ、大切と好きは違うものだと思っていましたので」
「・・・・そ、そう」
「いやぁ、分かるでござるよ鵜川殿」
 刀侍がススっと近付いて来た。
「拙者も日本刀を失った時は後を追おうかと思ったでござるからな」
「あ、あずみ君と日本刀を一緒に・・・・いや、愛する気持ちは同じか」
「そうでござる」
 と言いつつ、刀侍は春也の顔を見る。
「ト、トージ、やっぱりお前、日本刀のことで俺を恨んでるだろ!?」
「拙者はそれほど女々しくないでござる」
「どうだか・・・・くそ、これから先もネチネチ言われそうだな・・・・」
「先があればね」
 冴が重々しく呟いた。
「その辺りの話は今の一件が片付いてからにしましょう。分からない未来の話をするのはナンセンスだわ。私達はどうなるのか、エミネントはどうなるのか・・・・私達の未来は、いえ明日さえも見えないのよ」


「俺達を全て殺すってことか?」
 修法の話を聞いていたユタカの顔が強張った。
「魔法に関わった人々を消す・・・・かなりの人数になるぞ」
「結局、ゆかりの話には聞く耳を持っていなかった、というわけね」
「何も殺さなくても・・・・そうだ、よくあるじゃないか、魔法で記憶を消すとか。それで何とか解決出来ないのか?」
 ユタカの言葉を聞き、修法が唇の端を歪ませた。
「記憶を消す、か。確かに確実に消せるのであれば苦労は無い。だが複雑な機能を持つ人の脳に刻み込まれた記憶と呼ばれるメモリーは魔法の力では確実に消せるものではないのだよ。例えば記憶を閉じ込めたり、引き出せなくすることは出来るだろう。だがそれが出来るということは、再び引き出すことも可能だということだ。その危険性は無視出来ない。君たちの世界にもハードディスクという記憶媒体があるだろう? あれと同じだよ。見かけは消したつもりでも実際には媒体に刻まれている。まして人の脳はそんなものとは比べ物にならないほどの容量を持っている。確実にメモリーを消す為には、本体を破壊するしかないんだ」
 修法はなお温和な表情を損なっていなかった。
「なに、魔法を知るもの、イニシエートやエミネントを知る者を排除することは大した労力でもないよ」
「な、何人いると思ってるの!?」
「そうだな・・・・私が把握している範囲でざっと三十人ほどじゃないのかな?」
「そんなに簡単に・・・・」
「姫宮ゆかりさん、DNAというのはご存知か?」
「ふぇ?」
 また唐突に話が飛んだ。
「地球上は既に人間の数が飽和状態にある。これ以上増え続ければエネルギーも、食料も、住む場所も、何もかも足りない」
「・・・・何が言いたいんですか」
「最近の地球を見ていると、大きくはテロや戦争が起こったり、小さくは自分の親や子供を軽率に殺したりする事件が多く発生している。それらはこれ以上人口を増やしてはいけないという遺伝子からの警告を人間の脳が受けているのだよ。もっと小さな所では、子供を生まない女性が増えているのもそれが原因の一つだ。少し人口を減らした方が地球のためなのだよ。尤も、地球全体から見れば何の足しにもならないだろうがね」
「そ、そんな・・・・」
「そうかっ」
 ユタカが何かを思いついたようだ。
「オタクが二次元キャラにしか萌えない、いわゆる二次元コンプレックスが増えているのも子供を増やすなというDNAからの警告を受けているからなのか!」
「相楽君、自分を崇高化したいのは分かるけど・・・・」
「いや、俺はオタクだが二次元コンプレックスじゃないぞ! 三次元も好きだ!」
「威張ることじゃないけど・・・・」
 一方、みここは怖い表情をしている巳弥に声を掛けられないでいた。
(そうだ、出雲さんのママはあの修法って人に・・・・)
 冴の夢だけで判断すれば、冴の母と組んでいた修法が巳弥の母親を殺めたということになる。母は病気で死んだと聞かされていた巳弥は、目の前の修法をどんな気持ちで睨んでいるのか。
「お願いします」
 ゆかりが修法に対して頭を下げた。
「みんな、悪い人じゃないんです。魔法のことは忘れます、誰にも言いません。だからみんなを助けて下さい」
「君の部屋に、君の血を散々吸った蚊がいるとしよう。君がその蚊を捕まえた時、蚊が『助けて、もう吸いません』と言ったとする。君は許すかな? 君はその蚊が約束を守ると信じ、部屋に飛ばしておくことが出来るかな? 私は出来ないね」
「ちょっと待てよ! 俺達は蚊じゃないぞ!」
 ユタカがボートの上で立ち上がりかけたので、ボートがグラついた。
「きゃっ、危ない!」
 透子が必死でボートの縁を掴む。
「ご、ごめん!」
「元気のいい蚊だな」
 一方、修法はボートの上でスッと立ち上がった。まるで体重がないかのように。
「人間は魔法という便利な力を知ると、必ずそれを求めて群がってくる。砂糖に群がる蟻、血に群がる蚊のようにね。醜いものだ・・・・せめてもの手向けに、この美しい景色の中で握りつぶしてあげるよ」
 修法の体が空中に浮かんだおかげで、二人乗りのボートの端に乗っていたゆかりがバランスを崩し、湖に落ちそうになる。
「わわわっ」
「死ね」
 修法の手の平が光ったかと思うと、ゆかりを乗せたボートが粉々に砕け散った。
「ゆかり!」
 透子がみゅうたんとユニゾンし「テンダネスハート」を、巳弥がヤマタノオロチのソウルとユニゾンして「ウィズダム・エイト」を、それぞれ装着した。みここも一応パステルみここの姿になる。ユタカはダサい服のままだ。
「放っとけよ!」
 ユタカが魔法のノコギリを握り締めてゆかりを助ける為に湖に飛び込もうとした時、水面から水飛沫を上げ、翼を拡げたゆかりが舞い上がった。
「美しい。湖上を舞う白鳥のようだね。蚊は訂正しよう」
「どうして・・・・」
 ズブ濡れのゆかりがマジカルフラワーロッドを両手で握り締め、マジカルフェザー・トゥルースの羽ばたきで湖上に停止した。
「どうしてこうなっちゃうの? ゆかり、戦うつもりなんてないのに・・・・」
「力のない者の戯言だな。自分が勝てないから話し合おうと言う。戦うつもりなどないと言う。違うと言うならまず力を見せろ。この私を越えてから、話し合う姿勢を見せてみろ!」
「そんなのずるいよ! どっちが勝っても『力が正義だ』って主張が正しいってことじゃない!」
「勝つ気なのか、この私に?」
「フラワーレボリューション!」
 フラワーロッドの花の部分が光り、真っ直ぐに伸びて光の剣と化す。
「やぁぁぁぁぁ!」
 光の剣を構えたゆかりが修法に向かって飛ぶ。振りかぶって剣を振るうが、修法は簡単にそれをかわした。
「動きが大き過ぎる・・・・」
「シロートだもん!」
「少し運動するか」
 修法がスーツの上着を、ネクタイを、カッターシャツを脱ぎ捨てたかと思うと、それらは空中で消えた。
「これで動きやすくなった」
 タンクトップ一枚になった修法は、首と手首をコキコキと鳴らした。想像より逞しい体つきだ。
「さぁ、どこからでも来たまえ」
 ゆかりに向かって両手を拡げた修法だったが、後ろから飛んで来たテンダネスアローと右から飛んで来たライトニングボールを紙一重でかわした。透子と巳弥が同時に攻撃を仕掛けたのだ。
「甘いぞ」
 透子は避けられたテンダネスアローの軌道を反転させて修法の死角を狙ったが、マジカルバリアによって遮られた。
「やああっ!」
「むっ!」
 背中から回り込んだ蛇を腕に装着したライトニンググローブで殴り掛かった巳弥の拳を、修法が腕を出して防御した。拳と腕の間でバチバチと激しい火花が飛び散る。
「これはなかなか・・・・!」
「お母さんを・・・・あなたがお母さんを殺したの!?」
「出雲美櫛のことか? だったらどうする?」
「うわぁぁぁぁ!」
 ウィズダム・エイトの背中の蛇が一斉に修法目掛けて口を開いた。
「なに・・・・!」
 六本の首から妖力弾が射出され、修法に炸裂する。その爆発で修法の姿が見えないほどになった。巳弥は自分をマジカルハットで防ぎながら、その砲撃を立て続けに行った。
「こ、この・・・・!」
 修法がバリアでその攻撃を防ごうとしたその時。
「ええ〜い!」
「何だと!?」
 修法の頭上にテンダネスハートのバスターアックスが打ち下ろされた。
「がっ・・・・!」
 不意を突かれた修法の耳にゆかりの叫び声が聞こえてきた。
「スウィートフェアリー・スターライトスプラッシュ・エクセレント!」
「ぬぉぉぉぉぉっ!!」
 光の渦に飲み込まれた修法は、その湖上に一直線に伸びる虹と共に森林の上空を越え、遥か向こうの山脈の方へと消えていった。
「・・・・凄い」
 空を飛べないのでボートに乗っている以外に何も出来なかったユタカが、残像の残るスプラッシュの描いた軌跡をポカンと眺めていた。
「ゆかりにあんな力が・・・・い、今ので決まったんじゃないか・・・・?」
「だと、いいんですけど」
 話し掛けられたみここが慎重に返事をした。
「どうしよう・・・・」
 ゆかりはスプラッシュ・エクセレントを放った恰好のまま動かなかった。
「手加減無しでやっちゃった・・・・大丈夫かな」
 つい勢いで放ったスプラッシュ・エクセレントは、かつてミズチと対戦した時に巨大な蛇の頭をまとめて薙ぎ払ったほどの威力を持っていた。その攻撃を一見普通の人間と同じ修法に向けて撃ったので、殺すつもりなどなかったゆかりは修法の身が心配になった。
 だが。
「心配御無用だよ、姫宮ゆかり君」
 ゆかり、透子、巳弥を見下ろすように修法が宙に浮いていた。修法は額から血を流していたが、手の平を当てて治癒魔法を施し、腕や脚の細かい傷や服に開いた穴なども魔法で全て元通りに修復した。
「結構、危なかったよ。巳弥君の攻撃を防ぐのに必死で、頭をもう少しで割られそうだった。気を失いかけた所にあの光の攻撃だからね・・・・転移で逃げていなければどうなっていたか。なかなか素晴らしいコンビネーションだったよ」
 危なかったと言いつつ、平然としている修法だった。
「ところでゆかり君、私の心配をしてくれたようだが?」
「だって、死んじゃったらやだもん」
「君はまだそんなことを言っているのか? 私は君達を全て排除するつもりだ。私が存在する限り、君達の運命は変わらない。私が己の決定を、信念を、正義を改めるとでも思っているのか? そんな希望を持っているなら、今すぐ捨てたまえ。私の決定は覆らない。何故なら、私は正しいからだ。正しき事は、覆ってはならない。絶対でなければならない」
「・・・・ゆかり」
 透子が話し掛けた。
「あの人を説得するのは無理だよ」
「でも、ゆかりはイヤなの」
「イヤって言っても・・・・」
「争って、勝った方が正義なんて、そんなのイヤなの! 無理だって分かってても、無駄だって思っても、それでも何とかしたいの!」
「・・・・ゆかり」
「分かってるの、話し合ってもどうしようもないことがあるって。分かり合えない人もいるって。でも・・・・分かんない、上手に言えないよ・・・・」
「ゆかり」
 透子はゆかりを背中から翼越しに抱きしめた。
「あたしが言える確実なことは、あたし達がここで死んじゃったら、そこで終わりってこと。修法さんが統治するエミネントが、このまま彼の思うような世界になっていくってこと。それはこの世界の人々にとっては幸せなことかもしれない。でもその幸せの為にあたし達が、下の階にいるみんなが、地上にいるこなみちゃんやタカシ君、その他のみんなの命が奪われるなんて理不尽なこと、あたしは受け入れられない。ゆかりは?」
「・・・・ゆかりだって、みんなを助けたい」
「だったらこの戦い、負けられないよね」
「うん・・・・」
 そんなやり取りを尻目に、修法は巳弥に向かって話し掛けていた。
「出雲巳弥、これだけは言っておく。君の母親の命を奪ったのは私ではない」
「えっ」
「君の母は夫を生き返らせる魔法を使おうとして生命エネルギーを使いすぎ、墓の前に倒れていた。私が見付けた時は既に手遅れだった」
「そんな・・・・」
「よほど会いたかったのだろう。そして成長した君の姿を見せたかったのだろうな」
「お母さん・・・・」
「私を恨んだまま死んでは成仏が出来ないと思ってね」
 修法の手刀が光を帯びる。
「先程はなかなかの攻撃だったが、あれも本気ではない・・・・君のヤマタノオロチの力は脅威だ。今の内に排除しておきたいのでね」
 修法の体が消えた。
(どこに!?)
「後ろだよ」
「!」
 振り向こうとした巳弥の背中に装着されているウィズダム・エイトが修法の手刀によって叩き割られた。
 それと同時に赤い血が飛び散った。修法の手刀はウィズダム・エイトを真っ二つにし、巳弥の背中まで到達していたのだ。
「巳弥ちゃん!」
 左右に割れたウィズダム・エイトと共に落下する巳弥を助けようと、ゆかりと透子が急降下した。その前に修法が現れる。
「透子君はそのソウルウエポン、ゆかり君はトランスソウルを奪ってしまえば何も出来ない」
 修法の手刀が伸び、光の剣となった。その剣が閃き、テンダネスハートの本体、レフトアーム部に突き刺さる。
「みゅうたんっ!」
「そやつの鱗は固い・・・・だが鱗と鱗の隙間は脆いな」
 修法が剣を薙ぐと、バスターアックスの部分がテンダネスハートから切り飛ばされた。と同時に、修法が透子の胸元に手の平を置いた。
「リムーヴ」
 激しい衝撃と共に、透子の体に装着されていたテンダネスハートの装甲が全て吹き飛んだ。
「ユニゾンが・・・・!」
「そのソウルウエポンがトランスソウルの魔力によってソウルを定着させているのなら、それ以上の魔力を注ぎ込めば内部から爆発する。これが強制リムーヴだ」
 バラバラになったテンダネスハートが湖面に落ち、沈んでゆく。
「みゅうたん!」
 パーツを拾い集めようと背を向けた透子に、修法の剣が襲い掛かる。
「背中を向けるとは・・・・」
「やめて〜っ!」
 ゆかりが叫ぶのと、透子の背中から血飛沫が上がるのとが同時だった。
「透・・・・!」
 ゆかりが落下する透子を追おうとしたが、目の前に修法が振りかぶった光の剣が迫った。
「君も死ぬんだ!」
「どいて〜!」
 光の剣に対してゆかりがマジカルフラワーロッドを振り上げた。剣と杖が激突する寸前、修法の剣は粉々に砕け散った。
「ぬっ!?」
「透子!」
 ゆかりはマジカルフェザーを羽ばたかせ、湖面に落下してゆく透子の体を空中で抱き止めた。
「透子、透子!」
 透子を抱くゆかりの手が真っ赤に染まる。
「透子、しっかり! 今、治療するから!」
「治療など必要ない! 全員ここで死ぬのだからな!」
 修法が頭上から襲い掛かる。新たに作り出した光の剣が透子を抱いたゆかりに迫った。透子を抱いている為、フラワーロッドが振れない。
「ゆかり、藤堂院さんを手放せ!」
 下を見ると、ボートに乗ったユタカが両手を拡げて叫んでいた。隣には巳弥を抱いたみここがいる。
 ユタカが魔法のノコギリを握り締めて念を送ると、ボートの隣に巨大なマットが出現した。
「治療はこっちに任せろ!」
 ゆかりの頭上に剣が迫る。ゆかりは透子から手を離すと、フラワーロッドを真横に構えて剣圧を受け止めた。
「透子と巳弥ちゃんをお願い!」
 ゆかりの両手が真っ赤に染まっている。
(透子・・・・巳弥ちゃん・・・・)
「許さない・・・・」
「姫宮ゆかり・・・・そんな目も出来るのだな」
「修法さん、あなたはきっと、エミネントの為を思って、エミネントの人々が平和に暮らせるように願って今の世界を作った、本当はいい人なんだと思う。でも修法さんがいいと思うことと、ゆかりがいいと思うことがほんのちょっと、違うの。きっと分かり合える。ゆかりはそう思う」
「何を今更・・・・私の正義はこの世界において唯一無二。私が悪いと言えば悪いのだよ」
「それぞれの正義、それぞれの悪があるとするなら・・・・それを示すのは力でなければならないのなら・・・・」
 修法の剣がフェアリーナイト・ムーンによって分解された。
「絶対の正義なんて分かんない、自分勝手でもわがままでも甘ちゃんでも何でもいい! ゆかりのお友達を傷付けるのは悪い人! だからあなたを倒します!」
 マジカルフラワーロッドの魔力ドームが、青白い光を放って光り輝いた。



58th Future に続く



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