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タイトル


 53th Future 「絶望と言う名のフロア」


 ソウルウエポンに身を包んだ透子と巳弥は本部ビルの階段を駆け上がっていた。
「ごめんね、巳弥ちゃん」
「何がですか?」
「ほら、海に落っことしちゃったでしょ? ちょっとやり過ぎたかなって」
「いいえ、透子さんが私を信じてくれたから助かったんです」
「そう言って貰えると嬉しいけど・・・・ゆかりはあれからどうなったの? ほら、あの澤崎君とやらが勝手にワープしちゃって」
「私もその辺りはよく知らなくて・・・・このためにトゥラビアに行って、プリウスに力を引き出して貰っていたんです」
 巳弥が「ウィズダム・エイト」の背中の部分を指差しながら言った。
「それってやっぱりソウルウエポン?」
「はい、ヤマタノオロチの魂を一旦分離させて実体化させて、また再結合したんです」
「難しくてよく分からないけど・・・・」
「透子さんのそれは?」
「あたしは偶然・・・・かな? ドラゴンの恩返しみたいなもの」
「ふぅん・・・・」
「期待以上に強くて助かっちゃったよ」
 今は何階だろうか。基本的に体力のない二人は既に足に来ていた。確かこのビルは四十階建てだと聞いた。最上階に恵神がいるという話なので、そこまで登らなければならない。そう考えると急に足が重くなった。
「ちょ、ちょっとキツいよね、これ・・・・」
「は、はい。ゆかりん、こんな所を登ったんでしょうか・・・・」
「エレベーターとか、無いのかなぁ」
「まさか、エレベーターなんて・・・・」
 目の前にあった。
「・・・・あったよ」
 透子がボタンを押すと、ランプが下がってきた。
「罠かもしれませんよ!」
「よく考えたら、こんな高いビルだもん。エレベーターくらいあるよね」
 ポーンという音が鳴り、エレベーターの扉が開いた。
「乗ろうよ、巳弥ちゃん」
「・・・・透子さんて大胆なんですか、行き当たりばったりですか?」
「んと、面倒臭がりかな」
 結局、巳弥も乗ることにした。罠だとしても、ウィズダム・エイトと透子が居れば何とかなるような気がしたからだ。
 「40」というボタンを押す。上の階のボタンはそれが最上階だった。
 扉が閉まり、エレベーターがフワリと浮く。
「うわっ」
 すうっと体が軽くなったような感じがした。瞬く間に階数を示すボタンが上がって行き、ほどなく四十階に到達した。
 扉が開く。エレベーターを降りた二人は降りた地点で立ち止まった。
「ようこそ」
 そのフロアは全体がホールのようにだだっ広い空間で、その真ん中に冴が腕を組んで立っていた。
「久し振りね」
「どうも」
 透子が軽く頭を下げた。巳弥は下げなかった。
「質問していいかしら?」
「どうせ断れないから、どうぞ」
「ありがとう。姫宮ゆかりはどこ?」
「え?」
 透子と巳弥が同時に声を上げた。
「どこって・・・・」
「いきなり消えたらしいのよね、一階で」
「消えたって・・・・ここには来ていないってこと?」
「見れば分かるでしょ」
 冴は両手を拡げてホールを見渡した。
「姫宮ゆかりの目的は何? 恵神様? 恵神様の首を取れば私達に勝てるってことかしら?」
「そんなんじゃないわ。あたし達は勝とうとか思っているわけじゃない。ただ一方的に決め付けないで話を聞いて欲しいって、ゆかりが言ってるの。あたしたちはそれを手助けする為に来たの」
「話し合いねぇ・・・・何様のつもり? 恵神様があなたたちのような者に会われるはずがないわ」
「それも含めて、恵神様と話がしたいんだけど」
「帰りなさい。これ以上は進ませないわ」
「これ以上?」
 そういえばここは四十階のはずだ。だがフロア全体がホールになっていて、冴以外の人影は見られない。
(まだ上がある? 隠しフロアってこと? そこに恵神って人がいるの?)
 透子は目だけを動かして天井や壁を見渡したが、上に続くような階段やドアは見当たらない。
 とにかく今、透子にとって大切なのは恵神よりもゆかりだ。恵神がどこにいるかよりも、ゆかりがどこにいるかが問題である。得体の知れない恵神とやらの居場所よりも、ゆかりが無事かどうかが気がかりだった。
 ゆかりを助けに来た透子にとって、ゆかりがいないならここにいる必要はない。
「透子さん」
「なに? 巳弥ちゃん」
「私達の目的はゆかりんがしようとしていること、恵神という人と会うことを手助けすることであって、エミネントと争うことではありません」
「同意見。ここは一旦引いてゆかりを捜そう」
 二人は冴の動きを警戒しながらエレベーターに戻ろうとしたが、冴の姿が消えていた。
「ふざけないで」
「!?」
 透子と巳弥の後ろ、エレベーターの扉の前に冴はいた。
(いつの間に!?)
「一旦引く? 逃げられると思っているの?」
「聞いて・・・・あたし達は戦いに来たんじゃないの、話し合いに来たの」
 透子は冴の手足の動きに注意しながら慎重に言葉を選んだ。
「散々暴れておいてよく言うわ。話し合いに来た人間が物騒なソウルウエポンを付けているのはおかしくないかしら?」
「・・・・ごめんなさい」
 透子と巳弥はソウルユニゾンを解いた。テンダネスハートはみゅうたんの姿に、ウィズダム・エイトは一旦蛇の形になってから巳弥の体の中へと消えた。
「素直な子は好きよ」
 冴は髪をかき上げ、巳弥を睨んだ。
「空子は私の友達」
「空子?」
「あなたがさっき戦っていた女よっ!」
 巳弥の体がビクっと跳ね、顔が強張った。巳弥は空子の名前を知らないまま戦っていたので、すぐに分からなかった。
「あ、あの、あれは、私は、その・・・・」
「仲間が殺されそうだったので戦った」
「は、はい」
 冴は腕を組み、巳弥から視線を離した。
「あなたの理論はそう、仲間が殺されそうになったから。でもその前にあなたの仲間はこの世界に不法侵入し、あろうことかこの管理局に入り込み暴力沙汰・・・・警備員や空子が応戦するのは当たり前じゃなくて?」
「・・・・最初から喧嘩腰だったのは、こちらも悪かったと思います。でも最初にゆかりんの命を狙ったのはそちらで・・・・」
 巳弥も負けじと言い返す。だが目線は冴を直視出来ていなかった。
「あなた達に分かり易く、下界での例えをしてあげるわ」
 冴の後ろに空間転移によって椅子が現れた。このビルの中は転移が出来ないということだったが、このフロアはどうやら可能なようだ。冴はそれに腰を下ろすと、自慢の美脚を組んだ。
「その怖さを知らない子供が拳銃を手に入れ、引き金を引いてしまいました。親は当然子供を叱るでしょうけど、それだけじゃ済まないわ。警察沙汰になるわね」
「子供がゆかり、拳銃はマジカルアイテム、警察はあなた達ってこと?」
 透子が口を挟む。
「でもそんなことで警察は子供を殺したりしないわ」
「それはあなた達の世界の常識」
「他の世界のことに介入して欲しくない」
「トランスソウルは私達の世界の物よ」
「だったら、その拳銃を持ち込んだ人も悪いのよね?」
「・・・・」
 冴は薄っすらと眉間に皺を寄せた。
「トランスソウルをトゥラビアに持ち込んだのは私の母よ」
「お母さん・・・・?」
「そのせいで母はソウルトランスの刑になったわ」
「・・・・」
「父も違法なソウルトランスを行い、明日には刑が確定する」
 冴の目が冷ややかな光を帯びる。
「どれだけ私に恥をかかせば気が済むの? 父も、母も。そんな両親を持って私はいつも思っていたわ。犯罪者はこの世の恥。存在させてはいけないもの。だから消すのよ、私のような不幸な子供を増やさないようにね!」
 透子は冴の体の周りに青い煙か湯気のようなものを見た。
(あれは何? 青い粒子・・・・魔力? 魔力が体から溢れ出ている!?)
 冴は組んでいた脚を解き、ゆっくりと立ち上がった。
「あなた達の正義、私達の正義。互いがぶつかれば『どちらも正義』では存在し得ない。悪がなければ正義は成り立たず、逆もまた道理。正義と正義が主張し合えば、最後に正義を名乗ることのできる決め手となる要素は・・・・」
「巳弥ちゃん、ソウル・ユニゾンッ!」
 透子は巳弥に向かって叫び、自分もみゅうたんとユニゾン体制に入った。
「力よ!」
 冴の両手が光ったかと思うと、凄まじい衝撃が透子と巳弥を襲った。一瞬にしてフロアの反対側の壁まで飛ばされ、激突する。衝撃波はテンダネスハートの翼とマジカルハットシールドで防いだが、壁に思い切り背中や腰を打ちつけた。
「み、巳弥ちゃん、大丈夫!?」
「は、はい・・・・」
「空、飛べる?」
「え? えっと・・・・このマントで何とか」
「・・・・逃げるわよ。まともに戦える相手じゃない」
「私もそう思います」
「意見一致。それじゃ・・・・」
 テンダネスハートのレフトアームが伸び、斧状に変化した。
「はっ!」
 透子はそれを振り向きざまに壁に叩き付けた。壁が破壊され、外の夜景が見える。
(た、高くて怖いけど・・・・あの人よりマシだよねっ!)
「飛ぶわよっ!」
「いけない子ね・・・・器物破損よ」
 透子は目の前に現れた冴によって胸倉を掴まれた。巳弥ももう片方の手で同じように捕まっている。手の細さ、しなやかさからは想像出来ないほどの冴の力だった。
「逃げようなんてなかなか判断がいいわね。でも逃げられると思っている所が甘いわ」
 冴の手が、透子と巳弥の首を捉えた。
「可愛い声を潰してあげようかしら?」
「・・・・う・・・・」
 声が出ない。
(いやだ・・・・こんなところで・・・・死にたく・・・・ないよ)
「その手を離せぇっ!」
 いきなり赤い塊が冴に向かって突っ込んできた。冴は意表を突かれ、透子と巳弥の首を掴んでいた手を緩めてしまう。その隙を逃さず、二人は飛び退いて冴から距離を取った。
「紅嵐さん!」
 巳弥が赤い塊の正体を確認した時、紅嵐が冴の体に拳を叩き込むところだった。だがその拳は冴に届くことはなかった。
「寄らないで、汚れるわ」
 冴の美脚が真っ直ぐに振り上げられ、紅嵐の顎にクリーンヒットした。
「がはっ・・・・」
「紅嵐さん!」
 紅嵐はその場に崩れ落ちた。冴は自分の足を確認し、汚れていないことが分かってほっとした。
「くっ・・・・」
 口から血を流しながら紅嵐が立ち上がり、巳弥と透子に向かって叫んだ。
「早く逃げろ!」
(あ〜あ・・・・)
 透子は逃げる計画が絶望的になったと思った。
 確かに紅嵐は自分達の危機を救ってくれた。そして自分が冴を食い止めるから自分達に逃げろと言う。紅嵐にしてみればなかなかに恰好いい行動かもしれないが、巳弥は当然として、自分達が紅嵐を見捨てて逃げられると思っているのだろうか? 紅嵐はかつては敵だったとは言え、今は手助けをしてくれる仲間である。
(私達が紅嵐さんを見捨てて逃げることが出来るなんて思われてるのかな・・・・だとしたらあの人はまだ人の心をよく分かっていない)
「イニシエート、我らの敵・・・・」
 冴は紅嵐と対峙していたが、表情には緊張した様子が全くない。一方の紅嵐は額に汗を浮かべていた。
「おおおっ!」
 紅嵐が作り出した竜巻が冴を襲う。だが水面のようなワンピースを優雅に翻し最小限の動きでそれをかわすと、冴は紅嵐に向かって拳を突き出した。
「!!」
 青い衝撃が紅嵐を襲った。透子と巳弥を弾き飛ばした攻撃と同じだ。二人はソウルウエポンで防御したが、紅嵐は無防備でそれを受けてしまったのだった。
「ぐはっ!!」
「紅嵐さん!」
 壁に叩きつけられた紅嵐は血を吐いてフロアに倒れた。
「あらら・・・・床が汚れちゃったわね。修法様に叱られるから、掃除しておかないと」
「くっ・・・・」
(何ということだ、全く歯が立たないとは・・・・彼らの言っていた事は本当だったのか・・・・)
 春也と咲紅が言っていた。冴と戦ってはいけないと。
「見苦しいわねぇ、片付けちゃおう」
 冴の手の平が紅嵐に向かって光り出す。
「いけないっ!」
 巳弥がマジカルハット・シールドを拡げて飛んだ。透子は冴に向かって矢を構える。巳弥が冴の攻撃をシールドで受けた時、透子の矢が放たれた。
「アークエンジェル・テンダネスアロー!」
 巳弥がシールドごと吹き飛ばされる。
 テンダネスハートは冴が手の平で受け止め、握り潰した。
「嘘っ・・・・!」
 倒れる巳弥。
 呆然となる透子。
 瀕死の紅嵐。
 何も出来ずに階段の途中で隠れているユタカ。
(な、何だよあの人・・・・! 美人なのに無茶苦茶強いじゃないか!)
 ユタカは足が動かなかった。動いたところで、彼には何も出来なかった。
(そうだ、ゆかりは・・・・ゆかりはどこにいるんだ?)
「あの〜」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 階段の踊り場にユタカの叫びが響き渡った。声の主も余りにも大きいその叫びに驚き、思わず階段を踏み外しそうになった。
「び、びっくりです・・・・」
「あ、あずみちゃん?」
 ユタカが振り返ると、そこにはあずみと鵜川がいた。
「な、何でついて来たんだ・・・・?」
「冴って人を助けるんだそうです」
 あずみに代わって鵜川が答えた。
「助ける? い、いや、助けて欲しいのはこっちだよ!」
「誰かいるの?」
「!」
 ユタカの叫び声に気付き、冴が歩いて来た。あずみも一人でさっさと階段を登り、フロアに足を踏み入れた。
「あ、あずみちゃん、危ないぞ!」
 ユタカは足が動かなかった。
「・・・・あなた」
 あずみの姿を見て、冴が立ち止まる。
「何しに来たの?」
「助けに来ました」
「あの子達を?」
「いえ、冴さんを」
「ふぅん。でも必要ないわ。あの子達なんて相手にならないから」
「だから助けに来たんです」
「・・・・よく分からないわ。あなたは明日、父の犯罪の証拠品として提出され、スクラップになるはずよ。叔父様はどうしたの?」
「腰を痛められまして、安静にされています」
「・・・・腰痛の原因はあえて聞かないわ。待っていなさい、手っ取り早く侵入者を片付けるから。叔父様の所へ帰るのよ」
「嫌です」
「あなたの意見は関係ないのよ。ところで・・・・」
 冴はユタカと鵜川に冷ややかな視線を投げた。
「そこのむさ苦しい男共は誰かしら?」
「む・・・・むさっ・・・・」
 鵜川は文句を云いかけて思い止まった。逆らえばどうなるかを考えたからだ。
「まぁ、小物なんてどうでもいいわ。そこで待っていなさい、すぐに片付けて来るから」
 背中を向け、倒れている透子達の所へ向かおうとした冴を、あずみが後ろから抱き止めた。
「やめて下さい!」
「鬱陶しいわね!」
 冴は無理矢理にあずみの腕を振り解くと、あずみを突き飛ばした。
「あっ!」
 倒れたあずみに鵜川が駆け寄る。
「あずみ君! 大丈夫か!」
「私は・・・・平気です」
 鵜川はあずみを助け起こすと、あずみの肩に手を置いた。
「一か八か・・・・仕掛けるぞ」
「はい」
 あずみを中心に、グレーのドームが拡がった。
「?」
 冴の体を覆った時点で、ドリームドームの成長は止まった。冴は辺りを見回し、不可解なドームに眉をひそめた。
(何なの、これは)
 急に眠気が襲って来た。
(ふぅん。何をする気か分からないけど、様子を見てみようかしら)
 その気になればいつでもこんな魔法は自力で解ける。冴には余裕があり、この世界に興味があったのでしばらく術にかかってやろうと思った。
 冴の体が床の上に横倒しになる。
「おい、魔法、かかったんじゃないか?」
 ドリームドーム外にいるユタカが、薄っすらと見える中の様子を見て叫んだ。
「・・・・あれ、そう言えば鵜川君、マジカルアイテムを持ってないのにどうして魔法が使えるんだ?」
 鵜川とあずみはドームの生成に集中していて、答える余裕はなかった。寝ていてもなお冴の魔力がドリームドームを圧迫していたのだ。


「お姉ちゃん」
(藍?)
「一緒に遊ぼうよ、お姉ちゃん」
 妹が手を伸ばしてくる。
(でも・・・・)
 藍の向こうにいる友達が囁き合う。
 藍ちゃんのお姉ちゃんだ。
 ママがあの人とは遊んじゃいけないって言ってたよ。
 怖い人なんだって。
 向こうへ行こうよ。
 藍ちゃんは?
 放っとこうよ。
(藍、お姉ちゃんはいいのよ、お友達と遊んで来なさい)
「いいの。お姉ちゃんの悪口を言う子は、友達じゃないもん」
(藍・・・・)
 私が、こんな体じゃなかったら。
「藍はいい子だね」
 お父さん?
「藍がいると助かるわぁ」
 お母さん?
「藍ちゃん、また遊びに来てね」
 隣のおばさん。
(私は?)
(私の方がお姉さんなのに、どうしてみんな藍のことばかりなの?)
 藍は好きだけど、藍のことばっかり誉める大人は大嫌い。
 みんなもきっと、私のことが嫌いなんだ。
「冴ちゃん、またクラスの子に怪我させたんだって?」
 違う、私のせいじゃない。
 私はそんなつもりじゃなかったのに、あの子が・・・・。
 悪いのはあの子なのに。
 そんな気はないのに怪我させた私が悪者になっちゃうの?
 みんな藍、藍、藍って。
 藍がいなかったら、みんな私を愛してくれるのに。
(え、藍が死んだ?)
「藍、どうして・・・・」
 父さんが泣いてる。
 お母さんが死んだ時はあんなに泣いてなかったのに。
 これで父さんは私を愛してくれる?
 でもきっと、父さんは私が死んでも泣かない。
 あの子は死んで、私の手の届かない所へ行ってしまった。
 私にはもう、あの子に勝つ手段はない。
(アンドロイド? 藍の魂を入れた?)
 嘘・・・・。
 父さんはそこまで藍を・・・・。
 そんなに私を愛してなかったの?
 本当の娘の私より、作り物の方がいいってこと?


「うあああああああっ!」
 冴の叫びと共にドリームドームが弾け飛んだ。
「きゃあっ!」
「うわあっ!」
 それと一緒にあずみと鵜川も飛ばされ、もつれ合いながら壁に激突した。
「あなたは・・・・私を怒らせに来たの?」
 冴の声のトーンが低くなった。
「藍の姿をした偽者、どこまで私を馬鹿にすれば気が済むの」
「さ、冴さん、まだ途中です、最後まで・・・・」
「うるさいわねっ!」
 冴が飛んだ。
 倒れているあずみの上に馬乗りになると、両肩を掴んだ。
「あなたのその姿が、顔が、喋り方が、あの子を思い出させるの! 私の辛い思い出しかない過去を思い出させるのよ!」
「ち、違います・・・・」
「何が違うと言うの、このロボット!」
「やめてくれ!」
 鵜川が横から冴に掴みかかった。
「そうじゃない、君の・・・・」
「触らないで!」
 冴が腕を降って払いのけると、鵜川はいとも簡単に宙に浮き、床に転がった。
「鵜川さん!」
 あずみは冴に乗られているので身動きが出来ない。
「我慢出来ない・・・・明日を待つまでもなく、ここで壊してあげるわ!」
 冴の振り上げた左手が蒼く光り出す。
「よくも、藍を・・・・私の大好きな藍を、こんな作り物に・・・・!」
「やめろぉぉぉ!」
 振り下ろした冴の左手が、飛び込んで来た鵜川をまともに捕らえた。
「ぐはっ・・・・」
「鵜川さん!」
 血飛沫が飛び、あずみの顔を、上着を濡らす。
「俺は・・・・」
 肩口から血を流しながら、鵜川は冴を睨んだ。
「あずみ君を守る為に戻って来たんだ・・・・約束したんだ、華代と・・・・」
「な、何を言っているの!?」
 困惑する冴だったが、頭上から襲って来た者には素早く反応した。
「えぇ〜い!!」
 透子の「テンダネスハート」のレフトアーム、バスターアックスが冴に向かって振り下ろされた。だが冴は素手でそれを振り払うと、続いて襲って来た巳弥の光の砲撃をマジカルバリアを張って防いだ。
「チマチマと面倒なのよ!」
 冴の体全体が光を放った。



54th Future に続く



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