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タイトル


 51th Future 「恵神の願い」


「何ですと?」
 刀侍が聞き返したが、ゆかりは心の声を聞くことに集中していた。
「ゆかり、あなたとお話がしたいの!」
(私もです、ゆかりさん)
 恵神の声がゆかりの頭に響く。声は若く、十代の少女のように感じる。およそこのエミネントで「神」と呼ばれているようには思えなかった。
「本当!? じゃ会ってくれるの?」
(私は訳あってここを動けません。すみませんが、ここに来て頂けますか? あまりこの心話も長く続けると気付かれてしまいますので)
 誰に「気付かれる」のか分からなかったが、そんなことは会ってから聞けばいいとゆかりは思った。
「うん、じゃ今から行くね!」
(待って下さい、今建物のセキュリティを解きます)
「え?」
(・・・・解きました。そのドアから入って下さい)
「ドアって?」
 ゆかりの目の前の壁に、突然黒いドアが現れた。
「わっ!」
(申し訳ありません、男の方はご遠慮下さい)
「刀侍さん、悪い人じゃないよ」
(分かっていますが・・・・その、訳がありまして)
「・・・・? うん、分かった。じゃゆかり一人で行く」
「ゆかり殿、一人とは!?」
 恵神の声が聞こえていない刀侍は何が何だか分からない。
「ゆかり一人で来て欲しいって」
「恵神様の声が聞こえたのでござるか?」
 刀侍は半信半疑だ。神と言われ雲の上の存在である恵神がゆかりに話し掛けるなど、にわかに信じ難かった。
「まさか罠では? 恵神様に成りすまし、ゆかり殿一人をおびき寄せて捕まえるつもりかも知れぬでござる!」
「う〜ん、でも悪意は感じなかったよ」
「ゆかり殿は御人好しでござるゆえ」
「人が悪いよりいいよね」
 そう言ってゆかりは建物の壁に出現したドアに近付いた。
「ど、どこに行くでござる?」
「どこって、このドアから中に入るんだけど」
「ドアなんてどこにあるでござる?」
「え?」
 確かにドアはある。だがどうやら刀侍には見えないようだ。
(本当にゆかりだけに来て欲しいってことかな)
「じゃあ、行くね」
 刀侍には見えないドアを開けて中に踏み込むと、刀侍にはゆかりの脚が壁にめり込むように見えた。
「ゆ、ゆかり殿、本当に平気でござるか!?」
「ゆかりには普通のドアだよ。じゃあ、行って来るね」
 ゆかりの体が壁に溶け込むように消えた。
「・・・・」
 刀侍はゆかりが消えた辺りの壁を触ってみたが、かなり頑丈で穴など開きそうにない壁だった。
(拙者は春也殿と、ゆかり殿を恵神様の所へ無事に送り届けると約束したでござる。もしこれが罠で、ゆかり殿に何かあったら約束を破ることになる・・・・それだけは拙者の心が許せないでござるよ)
 刀侍は何とかゆかりの後を追おうと、ビルの入り口を探し始めた。
 一方、魔法のドアから管理局本部ビルに侵入したゆかりは、目の前にある階段を登ろうとした。恵神は最上階にいると刀侍から聞いていたからだ。
(そちらではありません、下です)
 登り階段に足をかけた時、ゆかりの頭に声が響いた。
「ふぇ、下?」
 登り階段の隣には下りの階段があった。つまり、地下への階段である。
(地下・・・・? 最上階だって聞いてたのに)
 そう言えば刀侍は「最上階にいると聞いている」という風な言い方をしていた。つまり、恵神の居場所については定かではない、ということだろう。
「地下・・・・かぁ」
 地下と聞くと、ゆかりは良い印象を受けない。暗くて、じめじめして、怖いというイメージがある。
(どうして神様って人が地下にいるのよ〜)
 とにかく声の主を信じると決めたのだから、階段を下りるしかない。ゆかりは不安な気持ちが湧き上がるのを感じながら一歩、また一歩と地下への階段を下りて行った。


「空子ったら、地面をあんなにしちゃって・・・・」
 冴は窓から顔を出し、ビルの正面玄関前の広場が空子の攻撃によってボロボロになってゆく様子を見ていた。
「それにしても、あの子は・・・・」
 冴は巳弥の力を計りかねていた。あれだけのエネルギー体とユニゾンするには、相当の魔力が必要なはずだ。だがおそらく巳弥のトランスソウルはあの帽子で、今はそれを手放している。
「彼女が出雲巳弥だね」
「!」
 空子の部屋に一人でいたはずの冴だったので、いきなり声がしたので慌てて振り返った。
「ず、修法(ずほう)様!?」
 冴は慌てて窓を閉め、姿勢を正した。
「そのままでいい。楽にしてくれ」
 修法はなめらかな足取りで冴が閉めた窓に近付き、開けた。
「私が初めて見るソウル・ユニゾンだ」
 冴は修法から少し離れて立った。恵神の意思をエミネントに伝える修法は、人前に滅多に姿を現さない。冴も彼が実際に歩いている姿を初めて間近で見た。
 引きずるような長いローブを纏った修法は、じっと窓のはるか下にいる巳弥と空子を見ていた。
「ヤマタノオロチの血を引く者、出雲巳弥。彼女の中に眠るイニシエートのエネルギーを自分と切り離した存在としてソウル化し、それとユニゾンする。元は一つなのだから、ユニゾンの際にコントロールするための魔力は必要ないし、シンクロ率は素晴らしく高いだろう。だがあの娘がそのユニゾン方法を考えたとは思えない・・・・一体誰が教えたのか」
「イニシエート・・・・我らの憎むべき敵」
 そう呟く冴に修法が声を掛けた。
「井能空子は残念ですが排除処分にします。自分の部下を廃棄物か何かと勘違いしているようです。彼らは勇敢に戦った。彼らに非はない。裁かれるのは空子の方だ。冴、あの戦いの結果がどうであっても、残った方の始末はあなたにお任せします」
「・・・・はい」
(空子が勝った場合、私に彼女を殺せと・・・・)
「あなたなら出来るでしょう?」
「・・・・はい」
「荷が重ければエグゼキューターのリーダーを呼びますが?」
「いえ、不要です」
「では、頼みましたよ。それと、もう一つ」
「何でしょうか」
「姫宮ゆかりがこのビルに侵入しました」
「まさか! ・・・・いえ、すみません」
「いや、信じられないのは私も一緒だ」
「警備が甘かったのか・・・・セキュリティはどうなっていたのかしら」
「警備員は街中に誘い出されて枯枝刀侍のスピードに翻弄され、セキュリティシステムは姫宮ゆかりの妙な技で消滅させられました。それより不可解なのは・・・・」
 修法は一つ間を置いた。
「反応が消えたのです」
「消えた?」
「魔力サーチ力のないあなたには気付かなかったでしょうが、姫宮ゆかりは一階に侵入した直後、消息を断ちました」
「どういうことでしょう」
「考えられることは・・・・」
 修法は何か思いついたようだったが、それ以上は何も喋らずにローブを翻し、自分の部屋(最上階)へと戻って行った。
(・・・・)
 修法が何を言い掛けたのか気になる冴だったが、聞き返すことはしなかった。
 再び一人になった冴は、ふぅっと息を吐いて空子の席に腰をかけた。
(いきなりなんて、心臓に悪いわ)
 修法は恵神の意思を国民に伝える存在である。修法の言葉はすなわち恵神の言葉で、修法から受ける命令で管理局は機能している。恵神は神であるから、修法はこのエミネントの人間の中でトップに位置する存在であると言える。
 だが修法はエミネントを束ねるのはあくまで恵神で、自分はその意思を聞き、伝えるだけの役割だと言う。
(ま・・・・私がここにいる限り、誰もここから上には辿り着けないでしょうね)
 冴は時々思う。
(恵神様なんて本当にいるのかしら。修法様以外、誰もその姿を見ていないのよ)
 口に出しては言えない。恵神様への悪口は御法度だからだ。
(あのイニシエートを、そしてこのエミネントを千五百年も前に創造した方・・・・それがまだ生きているなんて人間なら信じられないけど、それは神様だから死なないの? それとも千五百年も生きているから神様なの?)


 巨大な攻防一体の鎧「マッド・デストラクション」を纏った空子は、その素晴らしいプロポーションは鎧のお陰でほとんど隠れてしまい、鉄の塊と化していた。ソウルユニゾンする前は攻撃が当たりさえすれば致命的ダメージを与えられそうな軽装だったが、今はどのような攻撃も空子の体に届きそうにない。
 一方の巳弥は魔女っ娘コスチュームの上に肩当てと胸当てを付けただけである。体はそれだけだが、背中には蛇を象った八本の突起が扇上に広がったものを背負っていた。
「そんな貧弱なソウルウエポンでこの私に勝つつもり? さっきの盾は持っておいた方が怪我をしてくて済むのではなくて?」
「あなたこそ、そんなになって動けるのですか?」
「余計な心配よ。そのソウルウエポンの名前は?」
「プリウスが付けてくれた『ウィズダム・エイト』」
「行くわよ、ヘビ女っ!」
 空子の巨体が浮いたかと思うと、目を疑う間もなく巳弥目掛けて突っ込んできた!
「出雲っ・・・・!」
 巳弥から借り受けたマジカルハットで、爆砕され大量に飛んで来るアスファルトの欠片から仲間を守りながら紅嵐が叫んだ。空子がその巨体で巳弥に体当たりを仕掛けたのだ。だが空子には手ごたえがなかった。
「どこ!?」
 地面に大きな穴を作った空子がめり込んだ足を引き抜く。鎧が邪魔をして上を向けない空子の頭上のはるか上に巳弥はいた。
 巳弥の背中にある八本の蛇の内、二本が前方に向く。蛇の頭がグローブのように巳弥の両腕に装着されると、双頭が光を帯びた。
「はあっ!」
 巳弥は空子の背中目掛けて光る両拳を繰り出した。
「上ねっ!」
 振り向きざま、空子もメガトン級のパンチを撃ち出した。
 二人の拳がまともにぶつかり合い、閃光が飛び散った。
「互角!? こんな子供にっ!!」
 すかさず互いのもう一方の拳が繰り出され、ぶつかる。力は均衡しており、激しいぶつかり合いだったがどちらもダメージを受けた様子はない。
 巳弥の背中から更に二本の蛇が肩越しに前を向いた。その口が光の弾を咥えている。
「!!」
 光の弾が撃ち出され、空子はとっさに腕で顔をガードした。腕の装甲が衝撃を受けた直後、腕のガードが上がり無防備になった腹部に巳弥の右拳がヒットした。
「・・・・ぐはっ!」
 腹部も装甲に覆われてはいるが、その受けた衝撃で装甲が腹部を圧迫した。
「小娘ぇっ!」
 巨大な空子のキックが巳弥に向かって飛ぶ。マントを翻してその一撃をかわした巳弥だったが、空子の光る手の平が視界に入った。
「!」
「死になさい!」
 近距離から巳弥に向けてヘビーラッシュが炸裂した。空子には手応えがあったが、巳弥の背中から回り込んできた四本の蛇の頭が組み合わさってシールドのように拡がり、顔や胴体を守っていた。
「しぶとい・・・・!」
 マッド・デストラクション全体が光に包まれた。
「あれは・・・・!」
 紅嵐が声を上げる。紅嵐と莉夜、萌瑠が吹き飛ばされた技だ。空子を中心に広範囲に衝撃波が拡がり、近くにいる者はまず避けられない。
「マッド・ボルケーノ!」
「!!」
 シールドで守られた巳弥が、ガードしたまま吹き飛ばされた。
「くっ・・・・!」
 何とか着地した巳弥だったが、コスチュームのあちこちが焼け焦げている。基本的に肌を出していないので助かったが、まともに喰らえば全身を火傷してしまうところだ。
(接近するのは危険・・・・)
 巳弥は先程見せた、肩越しに伸びた二本の蛇からの砲撃を試みた。だが空子が両手で放った「メガトンラッシュ」の前に打ち消され、威力の全く衰えていないメガトンラッシュが巳弥を襲った。それを身軽にかわしながら、紅嵐達の様子を気遣う。
(芽瑠さんや雨竜さんは怪我がひどい・・・・早く治療しないといけないのに)
「余所見をするとは、いい度胸だねっ!」
 立て続けにメガトンラッシュが飛んで来る。既に管理局本部ビル前の広場は地面がえぐれ壁が破壊され、見る影もなく廃墟のように瓦礫の山となっていた。紅嵐達が殺さずにおいた警備員は空子の攻撃に巻き込まれ、半分も生き残っていない。
(このままだと被害が増えるだけ・・・・!)
 メガトンラッシュの連続攻撃から逃げ回っていた巳弥は、攻撃の間合いを見計らって空子に向かってジャンプした。
(遠距離戦も不利・・・・となれば)
 撃ち合っていては相手の方が威力もスピードもある。あれだけの破壊力なのだからいずれ魔力が尽きると思われるが、それまで待っていては被害が増える一方だ。
 巳弥の背中に生えた蛇が一斉にエネルギー体と化し、空子に向かって伸びた。それぞれが空子の前後左右、あらゆる方向から空子を襲う。
「無駄よ! マッド・ボルケーノは全方向攻撃、攻防一体の技! そんな蛇ごとき吹き飛ばしてあげる! 死角はないわ!」
 マッド・ボルケーノ発動の為に空子がしゃがみ込む。その時、空子の足元の地面が盛り上がった。
「なに!?」
 アスファルトが割れ、蛇が飛び出した。エネルギー体となった蛇は、しゃがんだ姿勢のために隙間が開いた空子の腰アーマーの分かれ目から中に入り、空子の体を圧迫した。
「や、やめて、蛇、嫌ああああっ・・・・!」
 外からの衝撃には強い「マッド・デストラクション」だったが、内側に入られてしまってはどうすることも出来ない。
「や、やめ・・・・く、苦し・・・・い・・・・」
 空子は胴体を締め付けられ、気を失った。
 その瞬間、マッド・デストラクションは解けてサイの巨体が現れた。
「ユニゾンが解けた・・・・」
 伸びていた背中のパーツを収納し、巳弥は息を吐いた。
「そうだ、みんなを・・・・!」
 巳弥が紅嵐達に駆け寄る。だが紅嵐は治療を拒否した。
「我々イニシエートは人間の十数倍の回復力を持っています。出雲巳弥、あなたの魔力、いや妖力はここで消費してはいけない。私達なら大丈夫です」
「でも・・・・」
「おお〜い!」
 遠くから声がした。巳弥が振り向くと、正門からユタカ、みここ、そしてのの美が駆けて来るのが見えた。
「ユタカさん、みここちゃん! どうしてここに?」
「派手にやったようだな・・・・」
 ユタカは巳弥の元へ駆け寄ると、辺りの様子を見て壮絶な戦いを想像した。
「みここちゃん、治癒魔法使えるよね?」
「ふにゅ、使えるよ、多分」
 ハンマーを握ったみここが答えた。
「私、ゆかりんを追います! ユタカさん、みここちゃん、ここをお願いします!」
 駆け出そうとした巳弥に紅嵐が声を掛ける。
「あの女性が気になること言っていました。姫宮ゆかりはまだここに来ていないと・・・・嘘かもしれませんが」
「確かに・・・・あの人がゆかりんを大人しく中に入れたとは考えられないですね。じゃあゆかりんはどこに?」
 一同の前に、一陣の風が吹いた。
「そなた達は!」
 風の正体は刀侍だった。本部ビルへの侵入口を探していた彼は、空子の魔力が消えかかっているのを感じた為に来てみたのだった。
「丁度いいでござる、ゆかり殿がビルの中に入って行ったでござる! 最上階にいらっしゃる恵神様を目指しているでござる!」
「本当か!?」
 ユタカが聞き返した。
「早く追って下さい、出雲巳弥!」
 紅嵐の声に頷いた巳弥は、みここにイニシエート達の治療を任せてビルの玄関へと向かった。俺も行くと言いたかったユタカだが、先程の一件で自信をなくしていた。警備員相手に何も出来ない自分が、敵の本拠地で何が出来るのだろう。
(くそっ・・・・! ゆかり!)
 拳を固めるが、自分が行っても邪魔なだけだとユタカは思っていた。
 そこに何かが飛来し、本部ビルに向かう巳弥に近付いていった。
「何だ、あれは!?」
 それは見るからに怪しい翼を持っていたので、ユタカはまた新たな敵が襲って来たのだと思った。だがその飛行物体は地面に着地すると、翼を折り畳んだ。そこには見慣れたぽよぽよとこたんの姿があった。
「巳弥ちゃん、どうしたのそれ!」
「透子さんこそ・・・・」
 巳弥と透子は互いにソウルウエポンを手に入れたことすら知らないので、相手の恰好に目を丸くした。
「ゆかりんはこの最上階に向かったそうです」
「分かった」
 巳弥と透子がビルの中に入っていくのを見て、ユタカは「藤堂院さんは裏切ったんじゃない」と改めて認識した。今まで「ひょっとしたら本当に」という思いも捨て切れなかったのだ。
 後ろでは慣れない治癒魔法にみここが苦戦していた。のの美はイニシエート達に治癒魔法を試みたが、使えなかった。その理由をユタカはこう考える。
(魔法とはすなわち願い、希望、夢、欲望を叶えるもの。のの美ちゃんはイニシエートは敵だと教えられてきたから、敵の怪我を治療するということに抵抗を感じているんだろう。心からの願いでなければ魔法は使えない・・・・そういうことか)
 ユタカは本部ビルを見上げる。地上四十階、遥か空高くに最上階がある。
(ゆかりはあそこに向かっている・・・・)
(藤堂院さんと巳弥ちゃんが向かった)
(俺は何も出来ないのか? しないのか?)
(俺だってゆかりを助けたい、ゆかりに会いたい。なのに何も出来ないのか?)
「みここちゃん、ここを任せていいかな!?」
「ふにゅ、まさかユタカさん・・・・」
「ゆかりの所へ行きたい!」
「やめとけよ、おっさん」
「誰がおっさんだっ!」
 声の主を振り返ると、咲紅に支えられた春也が立っていた。
「お前・・・・」
「あのビルには冴さんがいる。物凄い魔力を感じるからな」
「冴?」
「冴さんが何故本部ビルにいるのか知らないが・・・・あの人は任務を忠実にこなす。侵入者を通すなと言われれば絶対に通さない」
「強いのか、その冴って人は」
「強いなんてものじゃ・・・・」
「お兄ちゃ〜ん!」
 春也の姿を確認したのの美が、思い切り抱き付いてきた! 咲紅は突き飛ばされ、春也はのの美に抱き付かれたまま押し倒され、アスファルトに腰と後頭部を立て続けにぶつけた。
「ぐはあっ!」
「無事だったんだね〜!」
「無事なものも、無事じゃなくなるわ! ぐおっ!」
 妹に突っ込みを入れ途端、脇腹に激痛が走った。
「大丈夫? お兄ちゃん」
「これが大丈夫に見えるのか!?」
 まぁ取り敢えず兄妹、感動の再会。
「藤堂院さんと出雲さんが姫宮さんを追って本部に・・・・」
 事情を聞いた咲紅が表情を暗くする。まさか冴が本部ビルにいるとは思っていなかったからだ。
「冴さんがいるとなると、恵神様の所へ辿り着ける確率はゼロに近いわ・・・・」
「そ、そんなにヤバいのか?」
 ユタカが深刻な顔の咲紅を見て心配になる。
「悪い人じゃないのよ。だけど・・・・いえ、だからやっかいなの」
「あたし、行かなきゃ!」
 みここに治療して貰っている途中の莉夜が叫んだ。
「あっちの建物に、あずみちゃんがいるんだよ!」
 と、本部ビルの向こうにある建物を指す。
「だから行かなきゃ!」
「ふにゅう、待って、まだ治療が・・・・」
「だって・・・・いたたたっ」
 足を押さえて痛がる莉夜に、紅嵐が言った。
「私が行きましょう。私が一番怪我が浅い」
「でも、紅嵐さんだってまだ妖力が回復してません」
「大丈夫です。みここさん、あなたは莉夜達の治療を頼みます」
 ボロボロになった法衣姿の紅嵐が立ち上がり、あずみがいると言うジャッジメントのビルへと足を向けた。
「?」
 歩みを進める紅嵐に肩を並べて付いてくる者がいた。
「俺も行く」
「あなたは・・・・」
「あずみちゃんを助けたら、そのまま本部へ突入だ。わがままかもしれないが、ゆかりを放っておけない」
 ユタカは魔法のノコギリを握り締め、紅嵐と共にジャッジメントへと向かった。



52th Future に続く



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