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タイトル


 50th Future 「新生巳弥、参戦!」


「出雲・・・・巳弥」
 紅嵐は夢かと思った。井能空子の「ヘビーラッシュ」を真正面から受ける形になり、逃げるすべもなく、死を覚悟した。
「ごめんなさい」
 巳弥は元の大きさに戻ったマジカルハットを握り締め、申し訳なさそうに謝った。
「私がもっと早く来ていれば・・・・」
 トゥラビアでプリウスによる修行を受けていた巳弥は、ユタカ達に「ゆかりんが見付かったら呼んで下さい」と言っておいたにも関わらず、ユタカ達は勝手にエミネントに乗り込んでしまった。結果、トゥラビアでエミネントの空間座標位置を割り出して魔方陣を作るまでここに来れなかったのだ。
(今の攻撃をどうやって防いだ? あの帽子で? まさか・・・・)
 紅嵐はかつて巳弥のマジカルハットに守られたことがった。だがあの時の「スウィートフェアリー・スターライトストリーム」とは威力、破壊力が全く違う。
(何をしたのですか、出雲巳弥・・・・)
 驚いているのは紅嵐だけではない。
「ヘビーラッシュが・・・・止められた?」
 空子は突然現れた謎の少女に「ヘビーラッシュ」を止められ、唇を噛んだ。
(そうよ・・・・死にかけの男を始末するつもりで、手を抜いたんだわ。美形を殺すことに躊躇したのかもしれないし・・・・ええ、そうに決まってる)
 以前、空子は咲紅の「アブソリュート・ガード」に攻撃を止められたことはあったが、それは模擬戦、空子に言わせれば「お遊び」だった。本気の「ヘビーラッシュ」は誰にも止められないはずだ。
「そうよ、誰にも止められないのよ!!」
 巳弥に向けヘビーラッシュを放つ。今度こそ本気の一撃だ。
「砕けなさい!」
 光を真正面で捉えるように巳弥が動いた。マジカルハットは巳弥が前方に構えると、一瞬にして巨大化した。
「はぁっ!」
 巳弥の体を完全に隠したマジカルハットがヘビーラッシュを受け止める。光が周囲に拡散し、飛び散った。
「ま、まさかそんな・・・・」
 今のは本気の一撃だった。
「嘘よ・・・・」
 あんなものに。ふざけた帽子などに。
「私のヘビーラッシュが破られるはずがないのよ〜っ!!」
 空子は両手に魔力を溜め、交互に何度もヘビーラッシュを撃ち出した。
「そんなことをしたら、一つ一つの威力が下がるだけなのに・・・・」
 マジカルハットの前面にヘビーラッシュが次々と当たり、拡散した。マジカルハットの表面は少し焼けた感じがするが、致命的なダメージは全く受けていない。
「あなた、何者・・・・?」
 今までは余裕を絵に描いたような表情だった空子に、焦りが浮かんだ。
「人間のくせに、どうしてそんな野蛮な化け物に味方するの?」
「い・・・・井能・・・・様・・・・この賊は、私が・・・・」
 巳弥の近くに倒れていた警備員が立ち上がった。怪我をした脚で必死に巳弥に向かって歩いてくる。
「無理しないで、怪我をしているのに!」
 巳弥はそう言ったが、警備員は耳を貸さずに近付いてくる。
「賊は・・・・私が、捕まえ・・・・」
 使命感からか、その警備員はふらつきながらも手錠のようなものを取り出した。
「邪魔よ!」
 空子の手が光る。
「危ない!」
 巳弥は警備員の背後に素早く回り込み、マジカルハット・シールドを構えて空子の放った「ヘビーラッシュ」を受け止めた。
「くっ・・・・!」
「お、お前・・・・」
 警備員は振り返ろうとして力尽き、その場に倒れた。
「後で治療しますから、それまで頑張って下さい」
 巳弥の声は警備員に届いたかどうかは、定かではなかった。
「私は・・・・」
 マジカルハット・シールドを小型化し、巳弥は空子を睨んだ。
「仲間を攻撃する方が野蛮だと思います」
「仲間じゃないわ、部下よ。部下とはいわば動く道具だわ」
「・・・・分かりました」
 巳弥のマントが風にはためいた。
「あなたがここにいる私の仲間にこれ以上手を出すと言うのなら、戦います」
「い、出雲巳弥! 見掛けに騙されてはいけない、奴は・・・・」
 背後から叫んだ紅嵐に、巳弥は振り返った。
「私も見掛けは人間ですが、半分はイニシエートですよ」
「だ、だが・・・・」
 紅嵐は巳弥が体から発する強力なエネルギーを感じた。思念が可視のエネルギー体となって巳弥の体から離れ、あちこちに倒れている水無池姉妹、莉夜、雨竜、迅雷を紅嵐の元へと運んできた。
「危ないから、みんなはここにいて下さい」
「一人で戦う気ですか!?」
「ごめんなさい、みなさんの怪我も治したいんですけど、魔力が・・・・」
「そういうことではありません、奴は・・・・」
 そのやりとりを、空子は唇を噛み締めながら見ていた。
「何なの、今のあの子から伸びたエネルギーは・・・・蛇? それにあの子から感じる魔力・・・・いえ、これは魔力であって魔力ではない。あのイニシエートの者共に似ている・・・・一体、何だと言うの?」
 空子の指輪が光った。口元に持っていくと、冴の声が聞こえた。
「どうしたの、空子。手間取ってるじゃない」
「・・・・うるさいわね。見てるの?」
「ええ、窓から。出雲巳弥、やはりイニシエートの血を引いていたようね。手を貸そうか?」
「冗談でしょ、イニシエートだろうが魔法少女だろうが私の敵じゃないわ」
「ま、それもそうか。じゃ見学させて貰うわね」
「すぐ終わるわよ」
 イライラしながら空子は会話を切った。
「ふん・・・・ただその盾の防御力が並外れているってだけじゃない! 防戦一方じゃ私を倒せないわ!」
 空子がついに本部ビル前から動いた。巳弥に向かって走りながらヘビーラッシュを撃ち、右に素早く動いて再び撃つ。左に移動して撃つ。その度に地面はえぐれ、倒れていた警備員は吹き飛んだ。巳弥はそれらをシールドで巧みに受け止める。第四撃は巳弥ではなく後ろで固まっている紅嵐達に向けられ、巳弥は慌てて移動し、ガードに入った。
「はぁ、はぁ・・・・」
「巳弥ちゃん! 私達のことはいいから、自分を守ることに専念して!」
 たまりかねて芽瑠が叫んだ。
「いやっ!」
 そう言いながら、巳弥は角度を変えて次々と放たれるヘビーラッシュを受け止めた。
「しぶといわね・・・・あなたごときに使いたくはなかったけど」
 突然空子が立ち止まった。その背後に巨大な光の塊が現れる。紅嵐達を吹き飛ばした、あの光だった。巳弥はその姿を見て、ある動物を思い浮かべた。
「犀・・・・?」
 巨大な体躯、頭部に輝く一本の角。
「ソウル・ユニゾン」
 空子の言葉をキーワードに光が形を崩し、空子の腕や脚、胸に纏わり付く。スリムな空子の体は一瞬にしてごつい装甲に覆われた。
「これが私のソウルアーマー兼ソウルウエポン『マッド・デストラクション』よ」
 空子が両手を差し出すと、そこに光が渦を巻いた。
「受けなさい、メガトンラッシュ!」
 ヘビーラッシュとは比較にならないほどの轟音ち眩しさを伴った攻撃が巳弥を襲った。それをシールドで受け止めた巳弥だったが、あまりの威力に脚が踏ん張れず、後ろにいた紅嵐達と共に吹き飛ばされ、壁に激突して止まった。
「み、みんな大丈夫・・・・!?」
「え、ええ・・・・」
 紅嵐は返事をしたが、その他の者は気を失ったり、声が弱々しかったりする者ばかりだった。
「うふふふふ・・・・さぁこの『マッド・デストラクション』を実戦で使うのは初めてよ。私にユニゾンさせたこと、あの世で自慢しなさい!」
 勝ち誇った空子がゆっくりと近付いてくる。
「あなたの盾は表面に魔力のシールドを貼ることで防御力を増している。つまり、防御すればするほど、一回ごとに魔力を消費しているわけね。防戦一方のあなたの魔力はすぐに尽きる。そうなれば私の『メガトンラッシュ』であなた達は跡形もなくバラバラになるわ!」
「・・・・」
 巳弥はマジカルハット・シールドを無言で紅嵐に手渡した。
「出雲巳弥、何を?」
「紅嵐さんはこれでみんなを守って下さい。妖力をシールドの表面に貼るようにイメージして頂ければ使えるはずです」
「しかし、それではあなたが・・・・」
「これだけは使いたくなかったけど・・・・」
 襟元を正し、マジカルハットを手渡して素手になった巳弥が空子を見据えた。
「盾を捨てるなんて、諦めたの?」
「守るだけでは守れない・・・・助けるだけでは助けられない」
 巳弥の体からヤマタノオロチのオーラが発せられた。
「あなた・・・・イニシエートなのね?」
「私は人間の母とイニシエートの父を持つ、出雲巳弥」
「ハーフってわけ?」
「プリウスが言ってた・・・・私はまだ心のどこかでイニシエートの血を否定している、だから力が出て来れないんだって。でも」
 巨大なヤマタノオロチのエネルギーが巳弥の体を包んだ。
「だから私はここにいるんだって、お父さんとお母さんがいたから、私が存在するんだって、だからこの力も私の力だって受け入れることが出来た」
「ま・・・・まさかそれは・・・・」
「ソウル・ユニゾン」
 巳弥の肩、胸、腕に白い装甲が現れた。背中には扇状に広がった突起物があり、それがヤマタノオロチを思わせた。


「あれか」
 ユタカは高くそびえる管理局本部ビルを見上げた。
「ゆかりはあそこにいるのか・・・・おっ」
 ユタカは何を見付けたのか、タタッと駆け足でみこことのの美から離れた。
「ユタカさん?」
 みここが振り返ると、ユタカは女の子に話し掛けていた。首に十字架のロザリオ、先程ゆかりと出会った女の子だった。
 いくつか言葉を交わし、ユタカが戻って来る。
「ゆかりを見掛けたそうだ、ピンクのフリフリで可愛いお姉ちゃんとサムライの取り合わせだったそうだ」
「あ・・・・」
「ん? どうしたんだ、みここちゃん」
「いえ、勘違いです」
「何が?」
「いえ、ユタカさんの守備範囲って広いなぁって・・・・」
「みここちゃん! 俺はこんな時にナンパなんてしないぞ!」
「ふにゅ、こんな時じゃなかったらするんですかぁ・・・・」
「いや、さすがに十歳は守備範囲外だな」
「どうして十歳って分かるんですか?」
「本人に聞いた」
「さりげなく聞いてる・・・・抜け目ないですねぇ。ちなみに十二、三歳だったら守備範囲内なんですか?」
「ま、それは置いといてだ」
「置いとかれちゃった・・・・」
「行くぞ、目指すはあのビルだ!」
「待って!」
 ユタカが「飛び出す! 青春」のように走り出そうとした時、のの美が手を広げて待ったをかけた。
「何だ、お前達は!」
 警備員が三人、ユタカ達の姿を見て駆け寄って来た。ゆかり達が蒔いた警備員達が戻って来たのだ。
「お前ら、指名手配中の犯罪者か!」
「やべぇ、見付かったぜ」
 ユタカはポケットから折り畳まれた魔法のノコギリを取り出した。
「ゆかりが目の前にいるんだ・・・・邪魔するなっ!」
 魔法のノコギリが元の大きさになり。刃の部分がビヨンとしなった。
「出でよ、オタ空間!」
 みここ、のの美、そして警備員はキーンと言う耳鳴りを感じた。耳鳴りが収まった時、辺りは真っ暗な空間になっていた。
「何だここは!?」
 警備員らが戸惑っていると、突然眩しいライトがステージを浮かび上がらせた。ライトを浴びてステージの中央に立っている人物、それは・・・・。
「ゆかりん!?」
 みここが叫んだ。
「ゆっかり〜ん!」
「ゆかり〜!」
 気が付けば周りは人が密集し、動けない状態にあった。見渡すと、ほとんど男ばかりだ。
「ゆ〜かり、はい! ゆ〜かり、はい!」
 ゆかりんの歌に合わせているのか、それとも歌を聞いていないのか、周りの男達は掛け声と共にタイミングを合わせて飛び跳ねている。
「ふにゅ〜、何も見えないよ〜!」
「なにこれ〜!」
 背の低いみこことのの美は人ゴミ(揶揄ではない、多分)の中に埋没していた。
「ど〜だぁ、理解できるかこの空間が! これぞ相楽豊のオタ空間、名付けて『アニメ系声優ライブ』という名の異空間だっ! オタ空間の中ではその世界と同調しないと魔法を使えない! 貴様らにこの異様な空間が理解出来るか! 孤立しろ、耳を塞げ、理解不能な世界の中で無力感に苛まれて隅っこにおいやられるがいい! お前らに出来るか、この回転ジャンプが! 完璧にシンクロナイズされたPPPHについて来れるかあっ!」
 ボスン。
 ステージが、ライブハウスが、一瞬にして消え失せた。
「あ?」
「理解したくもないわ、そんなもの!」
 警備員三人が腕を組んでユタカを睨んでいた。
「な、何で?」
「ふにゅ、倉崎さんが言ってたじゃないですかぁ、魔力レベルの差が激しいとオタ空間は効果がないって・・・・」
「ミステイクッ!」
(くそ、魔法のノコギリですら敵わないというのか!? あいつらザコだぞ、どう見ても! そういやムッツリメガネ(倉崎)が言ってたな。奴らは「桁」が違うと・・・・)
「の、ののちゃん! ソウル何とかってのが使えるんだろ、あいつらをやっつけてくれよ!」
 女の子を頼るのは情けないが、この際仕方がない。だがのの美は首を横に振った。
「やだよ、それって悪いことじゃん」
「こ、ここまで来て何を!?」
「お兄ちゃんを苛めるのは悪い人だけど、あの人達は悪い人を捕まえる人だもん。だからやっつけたら駄目だよ」
「し、しかし、俺達を捕まえようとしてるんだぞ!」
「それはの達が悪いから仕方ないよ」
「頼むからさぁ〜!」
 そんなユタカとのの美の傍で、みここが叫んだ。
「メイクアップ・イリュージョン!」
 みここの体がプリズム色に変化する。
「おおっ、パステルリップ!」
 こんな時なのにワクワクするユタカだった。
 みここのコスチュームがパステルリップ第一形態を通り越し、第二形態へとチェンジする。だが手に持っているものはパステルリップのステッキではなく、マジカルハンマーそのままだった。
「正義のリップに真実のルージュ、悪を許さぬミラクルキッス! ミラクル戦士パステルみここ、ここに参上!」
 パステルリップがパステルみここに変わっていた。
「はぁぁぁぁっ!」
 みここが両手で柄を握り力を込めると、マジカルハンマーが巨大化した。空高く舞い上がると、ハンマーを振り上げた。
「いりゅぅぅぅぅぅぅぅじょん、はんむあぁぁぁぁぁあ!」
 警備員目掛けて巨大ハンマーを振り下ろす。熱血系を意識したみここだったが、声質がそれ系とは程遠いので萌え系にしかならない。
「光になれぇぇぇぇ!」
 だがハンマーは警備員の腕一本で止められてしまった。
「あ・・・・」
「子供だましがっ!」
 警備員がハンマーを持ってみここごと投げ捨てた。
「きゃあっ!」
「みここちゃん! ほらののちゃん、みここちゃんがやられちゃうじゃないか!」
「だって、悪いことはいけないんだもん」
「くっ・・・・こうなったら逃げるぞ!」
 ユタカはのの美の腕を引っ張って投げ飛ばされたみここの元へ走ろうとした。その際、のの美のポケットから何かが転がり落ちた。
「あ、飴っ!」
「飴なんて・・・・」
 パキッといういい音がした。逃げ出そうとしたユタカとのの美を追おうとして警備員が足を踏み出した時、転がってきた飴を踏んでしまったのだ。
「何だ、飴か! 脅かすなっ!」
 警備員は更に散らばった飴を踏み潰した。
「のの飴・・・・」
「ののちゃん、早く逃げ・・・・」
「飴、踏んだ〜!!」
 それまで垂れていたのの美の目尻が上がり、右腕が輝きだした。
「な、なんだ!?」
 ユタカはのの美の右腕の筋肉が膨れ上がるのを見て仰天した。明らかにユタカのそれよりも逞しくなっている。
「コケーッ!」
 のの美が奇声を発する。
「そうる・ゆにぞんっ!」
 のの美の右腕にニワトリの形を成したアーマーが装着された。右腕以外には装甲は見受けられない。のの美のソウルウエポンは、右腕にのみ特化したその名も「ヤキソバ」だ。名前の由来はのの美が好きだというだけで、ニワトリとは何の関わりもない。
「飴、返せ〜!!」
「ひいいっ!」
 巨大なニワトリと化したのの美の右腕を見て、警備員が逃げ腰になった。
 のの美の右腕から二枚の翼が生え、飴を踏みつけた警備員の前へと身軽に降り立った。そのままニワトリの頭の形をした拳を思い切り振りかぶった。
「ののちゃん・DEATH!」
 ニワトリのトサカが警備員の顔面を捉える。飴を踏んだだけでのの美の逆鱗に触れた不幸な警備員は、そのまま本部の外壁を越えて敷地内に飛んで行った。その瞬間、外壁からロープのような何かが飛び出し、失神状態の警備員をがんじがらめにしてしまった。
「ほう、壁を越えようとすると捕まってしまうセキュリティってわけか」
 顎に手を当てて感心するユタカだった。
「貴様、よくも!」
 仲間がやられてのの美に掛かっていった残りの二人も「ののちゃんDEATH」の威力の前に成すすべもなく夜空の星になった。
 ユニゾンを解いたのの美は、その場に座り込んで泣き始めた。
「ふぇぇぇん、大事にとっといた飴なのに〜!」
「・・・・」
 のの美から食べ物の恨みだけは買わないでおこうと誓ったユタカとみここだった。


 そしてゆかりと刀侍。
「行くでござる!」
「うん!」
 刀侍は「飛脚」を装着し、ゆかりはマジカルフェザーを拡げる。本部の外壁は高く聳え立っているが、飛脚のジャンプ力なら飛び越えるのは可能なはずだ。
「せ〜の!」
 刀侍が地を蹴る。ゆかりのマジカルフェザーが魔力を帯びて羽ばたく。二人が塀を越えた瞬間、縁から何かが飛び出した!
「うっ!」
「きゃっ!?」
 奇しくも同時刻にのの美にぶっ飛ばされた警備員が捕らわれて身動きができなくなったセキュリティ用のマジカルロープだった。ロープは生き物のように侵入者の体を捉え、締め上げてゆく。自由を奪われたゆかりと刀侍はそのまま塀の内側に落下した。
「ぐはっ!」
「いたぁ〜い!」
 次々とロープが二人の体へと伸び、縛ってゆく。
「くっ、こんな仕掛けが・・・・!」
「いたたた、擦れていたいよぅ!」
「侵入者を自動で捕らえるロープでござるなっ・・・・ゆ、ゆかり殿、大丈夫でござるかっ!」
「大丈夫じゃないよ〜!」
(そうか、このロープも魔法で作られているのなら・・・・)
「フェアリーナイト・ムーン!」
 ロープに巻かれ埋没した魔法の孫の手が光を放ち、その光に触れたロープは瞬く間に魔力の粒へと還元されていった。ロープの呪縛から逃れたゆかりは、続けて刀侍のロープも分解した。
「凄い魔法でござるな、魔法を分解するとは・・・・はて、その魔法も魔法でござるから、魔法を分解する魔法は自身によって分解されないのでござるか?」
「そ、そんな難しいことは分かんないよ〜」
 とにかく。
「侵入成功でござるな」
 二人の目の前には巨大な管理局本部ビルがそびえ立っていた。あまりに巨大なので、反対側のビルの正面で行われている巳弥と空子の戦いはゆかりには見えなかった。刀侍は魔力を感じるので、空子が誰かと戦っているのは分かる。
(誰でござる? これは妖気・・・・さすればイニシエート? しかしミス井能のこれまで感じたことのないとんでもない魔力、そしてその相手の相当な妖力・・・・これならこちらの魔力は消されてしまい、気付かれずに済みそうな希望が持てるでござる)
「この上にメグミちゃんがいるの?」
 ゆかりはビルの遥か上を見上げた。
「そのはずでござる」
 塀を越える時にセキュリティシステムがあったのだから、ビルに入るのも苦労するだろう。さてどうするかと刀侍が考えていると、突然ゆかりが「ふえっ」と声を上げた。
「な、何でござる?」
「今、声がした・・・・」
「声? 拙者は何も聞こえなかったでござるが」
「心の中に響くような声・・・・」
(姫宮ゆかりさん)
「誰?」
(私は恵神)
「メグミちゃん?」



51th Future に続く



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