話数選択へ戻る
49th Future 「狂気は全てを破壊する」
「みなさん、大丈夫ですか?」
ボロボロになった紅の法衣を破り捨て、紅嵐は仲間を見渡した。慣れない魔法による攻撃により、イニシエートとしての超人的な運動能力を持ってしても苦戦を強いられた。
当の紅嵐は切り傷や打撲は数多くあるが、四肢は満足に動く。雨竜と莉夜は相手を氷に閉じ込める為に、かなりの妖力を消費していた。迅雷も同じく雷撃の使い過ぎにより残り妖力が少なく、また自らの雷撃によって腕などにかなりのダメージを負っていた。水無池姉妹は俊敏な動きで攻撃をかわしてはいたが、元々運動が得意ではない芽瑠は腕や脚にかなりの傷を負っており、魅瑠も相当な疲労が見受けられる。末っ子の萌瑠はなかなかの奮闘振りだが、体力が限界に来ていた。
地面には管理局の警備兵が累々と横たわっていた。だが全員がかろうじて一命を取り留めている。もちろん、紅嵐の指示で極力殺さないようにと言われていたからだ。
呻き声があちこちから聞こえる中、紅嵐一味は一人の犠牲も出さずに管理局本部ビルの正面玄関を見据えた。
パチパチと乾いた拍手の音が聞こえてきた。
「お見事ね」
管理局ビルの前で行われていた乱戦を手も出さずに見学していた井能空子は、覚醒したイニシエート達に恐怖を感じた様子もなく形式的な感じの拍手を送っていた。
「イニシエートって本物を初めて見たけど、イメージと違うわね」
空子はこれからフィットネスクラブに行くかのような、トップスとスパッツというスタイルだ。どう見てもこれから一戦交えようかという恰好ではない。若い女性なのだから、異形のイニシエート達を見て逃げ出さないのが不思議だとそこにいた誰もが思った。
紅嵐以外は。
「何だよ、お前は?」
迅雷がそんな空子の恰好を見て覚醒を解き、近付いた。
「見ただろ、俺達の強さ。早く家に帰ってダンスでもしてな。あんたスタイルがいいから、ダイエットでもなさそうだけどな」
「ありがとう、でも帰らないわよ」
空子はウェーブのかかった髪をかき上げ、腕を組んだ。
「イニシエートってもっと凶暴で、理性がない動物かと思ってたわ」
「何だと、こいつ!」
「よせ」
駆け出そうとした迅雷の腕を、同じく覚醒を解いた雨竜が掴んだ。
「迅雷君、雨竜。覚醒を解いてはいけません」
覚醒したままの紅嵐が重々しく言った。
「先生、あの女性は・・・・」
「気をつけなさい」
紅嵐が一歩前に進み出て、他のメンバーに手で後ろに下がるように指示した。空子はその紅嵐の姿を見て、眉間に皺を寄せた。
「あなたもさっきの姿になったら? それ、醜いわよ」
「見掛けで戦うわけではありません」
「あなたがリーダーね? 見せて貰ったけど、どうして警備隊を殺さずに戦ってたの? 良かったら教えて頂けるかしら」
「私達の目的はあなた達を倒すことではありません」
「あら」
空子は大袈裟に驚いた表情を見せた。
「じゃあ何の為に来たの?」
「姫宮ゆかりがこの世界の長と話をする為にこの世界に来ました。私達はその手助けをする為に来たのです」
「姫宮ゆかりとどういう関係?」
「借りがある」
「ふぅん、貸し借りとか、そういう感情もあるんだ」
「おい、黙って聞いてりゃ何だ!? まるで俺達が人間じゃないみたいじゃないか!」
迅雷が喰ってかかる。
「人間だと思ってるの? その姿で?」
空子はまたも大袈裟に驚き、笑った。
「まぁ、いいわ。それではあなた達は戦う気はなかった、警備員が襲って来たから戦った、そういうこと?」
「姫宮ゆかりがここに来たはずですが」
「質問に答えなさいよね・・・・いいえ、まだ来てないわよ」
「そんなはずはありません。我々よりも先にここに向かったはず・・・・」
「来てないわよ、何ならビルの中を捜す?」
「おう、そうしてやる!」
またも飛び出そうとする迅雷を、今度は魅瑠が引き止めた。
「あんたはいつも考えなしなの!?」
「うるせぇな、魅瑠! あんな場違いな女、さっさとぶっ飛ばして中に入ればいいじゃねぇか!」
「あなた達に戦う気はないと言ってもねぇ。エミネント、そしてこの本部の敷地内への不法侵入は許せないわ。それに・・・・あなたたち、醜いわよ」
空子の組んでいた腕が解かれた。
「死になさい、化け物」
空子の手の平が迅雷に向けられる。
「迅雷君、避けなさい!」
紅嵐の叫びに、とっさに迅雷は反応出来なかった。
「あ?」
突風が迅雷を襲った。
「!!」
脚が地面から離れたと感じた瞬間、迅雷の体は吹き飛ばされていた。数メートル転がった迅雷はあちこちを打ちつけてブロック塀にぶち当たって止った。
「ぐっ・・・・」
突風の発生位置と性質から考えて、迅雷を吹き飛ばしたのは紅嵐以外に考えられなかった。
「てめぇ、何しやがる! 俺に何の恨みが・・・・」
迅雷は紅嵐に向かって文句を言おうとした。だが・・・・。
「なっ・・・・何だこれは」
迅雷が吹き飛ばされる前に立っていたコンクリート製の地面はえぐられ、一直線に幅二メートルほどの溝が出来ていた。その溝を目で追うと、二十メートルほど向こうまで続いており、その先にある分厚い外壁にポッカリと穴が開いていた。周りには粉々になった外壁の破片が散らばっている。
迅雷がもしあの位置に立っていれば、外壁と同じ運命になっていただろう。
(な、何が起こったんだ!?)
破壊力のある衝撃が通り過ぎた。迅雷はその衝撃の出所を理解し、目を見張った。
(あの女が!?)
井能空子が前に出していた手の平を下ろした。
「あら・・・・壁を壊しちゃったわ。何てことをしてくれるの?」
空子は紅嵐に向かって文句を言った。
「壊したのはあなたですよ」
「あのイタチを飛ばしたのはあなたよ。『ヘビーラッシュ』があれに当たっていれば壁に穴は開かなかったわ。イタチはバラバラだったでしょうけど」
「せ、先生・・・・俺を助けてくれたのか」
あちこちに出来た打ち身の痛みに堪えつつ、迅雷は立ち上がった。
「何だと思ったのですか? まさか私があなたを意味もなく吹き飛ばすとでも?」
「ま、まさか」
そう思っていた迅雷だが、当然本当のことは言わなかった。
「だから言ったでしょう。早く覚醒しなさい、迅雷君」
「は、はい」
迅雷の体が雷獣の姿へと変化する。雨竜も九尾の狐に戻った。それを見て紅嵐は空子に向き直る。
(今の攻撃は何だ・・・・?)
迅雷が攻撃される、ととっさに彼の体を吹き飛ばした紅嵐だったが、予期していたものよりも恐ろしく攻撃が早かった。目にも止まらない程だったが、空子の手から半透明の巨大な何かが飛び出したように見えた。それが地面をえぐり、分厚い壁を破壊した。
その巨大な何かは、大型の動物を形取っているようにも見えた。
(どういう攻撃なのだ? やはり魔法の力なのか?)
これだけ距離があっても避けるのは難しかった。
(迂闊に近づけませんね・・・・ですが弱点もある。攻撃範囲は広いが、軌道が直線的です。あの手の平から繰り出されるとすれば、正面に行かなければいいだけのこと。それにこちらはこの人数です。一度にかかればあの攻撃の連発は出来ないはず・・・・)
そして、その攻撃の破壊力以上に紅嵐が驚いたことがあった。空子が繰り出した衝撃波は、通り道に倒れていた警備員数人を障害物とでも思っているかのようにコンクリートと共に吹き飛ばしたのだ。三、四人はいたはずだが、彼らは衝撃波と一緒に外壁を突き破って外に出ている。紅嵐達が命を取らずにおいた者達に、空子自身が止めを刺したことになる。
(あの女性は自分の仲間を何とも思っていないのか?)
そんな紅嵐の微妙な表情を見て、空子が微笑した。
「理解できるかしら? 今の攻撃」
「理解出来ませんね。倒れていた自分の仲間を巻き込むとは・・・・」
「仲間って言うか、部下だけどね」
「同じことです」
「どう言えば分かるかしら。そうね・・・・彼らはこの本部を守る為に働いているの。でもあなた達に負けた、つまり仕事を遂行出来なかった。それは私に言わせれば罪よ。それに、あなた達と同じ強さの賊が再び現れた時、彼らは無力。つまり彼らはもうここに必要ない存在なのよ」
「必要なければ殺してもいいと?」
「殺したなんて心外だわ。『ヘビーラッシュ』の軌道上にいた彼らの不注意、事故よ」
平然と言ってのける空子に、紅嵐達の顔に嫌悪感が浮かぶ。
「もう一度聞きます。姫宮ゆかりはここに来ていないのですか?」
「ええ。少なくとも私は見ていないわ」
「あずみちゃんは!?」
莉夜が叫んだ。
「あずみちゃんはどこにいるの!? この世界にいるんでしょ!? ねぇ、知ってたら教えて!」
「あずみ・・・・?」
空子は顎に手を当てて少し考える仕草をした。
「あぁ、あのアンドロイドね」
「知ってるの!?」
「えぇ。あの建物にいるわよ」
空子が本部と隣り合うジャッジメントの建物を指差す。と同時に莉夜がその指差した方向に向かって駆け出した。
「あずみちゃん!」
「莉夜、待て!」
雨竜が慌てて引き止めたが、莉夜は聞いているのかいないのか、そのまま走って行ってしまう。
「あらら、せっかちね」
空子が莉夜に手の平を向けた。
「いけない!」
紅嵐と雨竜が莉夜に向かって飛んだ。
「遅いわ」
空子の手の平から巨大な光が放たれた。
「ぐああっ!」
「きゃあぁぁぁぁっ!」
雨竜と莉夜の叫びが響き渡った。
一方、空子の存在に気付いて本部の裏手に回ったゆかりと刀侍は、やはりそこにも配備されていた警備員に追い回され、刀侍の「飛脚」のお陰で何とか追っ手を振り切ってへたり込んだところだった。
「はぁ、はぁ、もうだめ・・・・」
汗びっしょりのゆかりが息を切らせて項垂れた。
「なかなかいい運動になったでござる・・・・」
「もう、運動どころじゃないよぅ」
「いい運動と言ったのは、我らに都合がいい状況になったと言うことでござるよ」
「え?」
座り込んだゆかりが見上げると、そこには高い壁がそびえていた。
「ここを越えれば本部の敷地内でござる。警備の者は拙者らを追って街に散らばっているゆえ、邪魔者はいないはずでござる」
「それじゃ、入れるんだね!」
「追っ手に見付かるとまずいゆえ、あまり時間はないでござるが・・・・少し息を整えてから潜入するとしよう。ゆかり殿、お願いがござる」
「なに?」
「この服はやはり動き辛いでござる・・・・元に戻しては頂けぬか」
Gパンにトレーナー姿の刀侍が、手足をぎこちなく動かして主張した。普段着ている着物と違い、Gパンは締め付けられて自由がきかないようだ。街中では着物は目立つと言うことで着替えたが、これから本部に突入するのだから目立つも何もない。自分に合った服装が一番だろう。
「じゃあ、戻すね」
ゆかりが孫の手を振り上げる。
「すまぬでござる、魔力を少しでも残しておかねばならぬ時に・・・・」
「ううん、お侍さんはゆかりをずっと助けてくれてるもん。一人だったらここまで来れなかったよ」
(ようし、久し振りに呪文、いってみよう!)
「みにみにすか〜と、ふりふりふりる!」
「な、何でござるか!?」
いきなり妙な事を言い出したゆかりに度肝を抜かれる刀侍。
「ぱんちらた〜んで・・・・」
ゆかりの体の回転に伴い、フレアなスカートが舞い上がる。
「うおっ!」
「はぁとをげっと!」
「ぬっ!」
孫の手をビシッと突き付けられる刀侍。ゆかりはそのまま孫の手を頭上に振り上げる。
「おいでませ、お侍さんの着物ちゃ〜ん!」
勢い良く振り下ろした孫の手に光が集まり、凝縮される。光の球が弾け、孫の手が押し戻された。
そしてそこに刀侍の着物が現れた。
「何と・・・・」
呆然とその光景を見ていた刀侍にゆかりが話しかける。
「な、なに?」
「白でござった・・・・」
「白?」
「はっ、いや、何でもござらん! 早速着替えるでござる・・・・」
着物を受け取った刀侍がハッと振り向く。ゆかりもその存在に気付いた。
「・・・・」
女の子が立っていた。年の頃十歳ほどだろうか。女の子は恐ろしいものを見たような顔をしていた。
「あ・・・・あ・・・・」
そうか、と刀侍が女の子の様子を見て気付く。ゆかりが使った魔法は着物を作り出す魔法であり、エミネントでは禁止されている。通報されると捕まるが、それを目撃した方も通報する義務がある。義務を怠れば捕まる場合があるが、女の子の年齢だと怒られる程度で済むだろう。それでも叱られることは女の子にとっては怖いことだ。
お巡りさんに言わなきゃ、と女の子は思っているのだが、怖くて足が動かない。犯罪者を見たのは初めてだったからだ。日頃から犯罪を見付けたら必ず通報しなさい、と学校や家庭で厳しく教えられている。
「あ・・・・」
「こ、怖がらなくていいでござる!」
「ひゃっ・・・・!」
女の子は振り向きざまにダッシュしようとして、足がもつれて転んだ。アスファルトで打った膝の痛さに涙を流しつつ、恐怖から逃げようと必死に立ち上がる。
「待って!」
ゆかりが女の子に駆け寄り、腕を持った。
「いや〜、助けて〜!」
と女の子は叫んだつもりだったが、恐怖で大きな声が出ていなかった。
「じっとして!」
ゆかりが孫の手を女の子の膝に近付ける。女の子は何をされるのかと必死で足を動かした。
「動かないでよ〜!」
ゆかりの治癒魔法が発動し、女の子の膝の擦り傷がみるみる薄くなっていった。
「あ・・・・」
「もう痛くないでしょ?」
「・・・・うん」
「ごめんね、怖がらせて。お姉ちゃん、悪い人じゃないよ」
「で、でも、服・・・・」
「あれは畳んでたのを拡げただけなの。だから安心して」
「本当?」
「うん」
女の子は涙を溜めた目でゆかりの目をじっと見た。
「かっこ良かったよ、さっきの」
「さっきの?」
「ぱんちらたーん」
「あ、あはは・・・・ありがと」
(何でその単語だけ覚えてるかな・・・・)
「可愛いトランスソウル。クマさんの手みたい」
「・・・・」
(猫の手だけどまぁいいか。クマも肉球あるし)
「それじゃ、気をつけてね」
ゆかりが手を振ると、女の子も振り返した。
「お姉ちゃん、もう行かなきゃ」
「どこへ行くの?」
「お姉ちゃん、叱られに行くんだよ」
「え〜、悪いことしたの?」
「うん、ゆかりのせいでお友達が悪者にされちゃったの。だからゆかりが悪いんだよって叱られに行くんだよ」
「お姉ちゃん、ゆかりって言うの? 偉いね、ゆかりお姉ちゃん」
「偉い?」
「ナナ、怒られるの怖いもん。叱られに行くって、凄く勇気がいるよね」
「うん、ちょっと怖い」
「頑張ってね!」
ナナの首に、少し大きめの十字架が付いたロザリオが揺れていた。
「バイバイ、ナナちゃん」
手を振るゆかりに刀侍が声を掛けた。
「そろそろ行くでござるか」
魔力サーチに長けた刀侍はとっくに気付いている。本部ビル前で戦いが繰り広げられていることを。オブザーバーのチーフ・井能空子とイニシエート達の戦いを。
(彼らに少しでも時間を稼いで頂き、その隙に拙者達が裏から潜入するでござる。悪いが彼らではミス井能に勝てぬ。何とか足止めだけでもお願いするでござる。ゆかり殿に言えば助けに行くと言い出すでござろう。だがイニシエートの彼らはゆかり殿が恵神様の所へ辿り着くことを望んでいるはず。ここはゆかり殿に言わずにおくのが互いの為でござる)
そう、刀侍の考えている通り。
紅嵐達は空子の「ヘビーラッシュ」の前に成すすべがなく、全く近付けないまま一人、また一人と倒されていった。中でもまともに「ヘビーラッシュ」を受けた雨竜と迅雷、そして魅瑠と芽瑠は非常に危険な状態だった。
(一体何だと言うのです、あの光は・・・・巨大な動物のような・・・・)
紅嵐も左腕をやられている。光の攻撃が早過ぎて、距離を詰めようとしても迎撃され、遠くから風を起こしてもその場所まで「ヘビーラッシュ」が飛んで来る。
(だが、攻撃はあくまで直線)
かろうじて無事なのは左腕が動かない紅嵐、雨竜が庇ったお陰で無事な莉夜、魅瑠と芽瑠に守られていた萌瑠だけだ。
(素早い娘達が残っている・・・・試してみましょうか)
紅嵐は莉夜と萌瑠を呼び、耳打ちした。その様子も空子は余裕で眺めていた。
「あら、何の相談かしら。ま、何を話し合っても無駄だけどね」
空子はその場にしゃがみ、ソックスの裾を上げた。少し下がっていたので気になっていたのだ。
その隙を見て、莉夜と萌瑠が左右に散る。
「行くぞ!」
三人が三方向から一斉に飛び、空子に襲い掛かった。紅嵐の考えでは一方向、しかも直線でしか攻撃できない「ヘビーラッシュ」は、一人だけを打ち落とすのが精一杯のはずだ。そして、空子は一番やっかいな紅嵐に向かって攻撃を放つだろう。紅嵐の捨て身の作戦だった。
(頼みましたよ、莉夜、萌瑠!)
空子の恰好なら、攻撃さえ当たれば大ダメージを与えることが出来る。紅嵐はそう睨んでいた。
だが・・・・。
空子はしゃがんだままだ。
(な、何故攻撃しない!?)
紅嵐は一瞬怯んだが、そのまま三人で攻撃を繰り出した。
「!?」
空子の体が光ったかと思うと、体を中心に光のドームが出現した。
と認識した瞬間、紅嵐の体は手足が千切れるかと思うほどの衝撃を受け、はるか本部の正門付近まで吹き飛ばされていた。
「な、何が・・・・」
紅嵐はかろうじて動く首を上げ、空子を見た。
「私に触れようなんておこがましい」
空子は光る巨大な物体を身に纏っていた。その大きさ、実に高さ約五メートル、幅約三メートル。その光は動物の姿をしていた。
(奴はふざけてあのような恰好をしているのではない・・・・決して攻撃を受けないという自信の表れなのか・・・・!)
莉夜と萌瑠も吹き飛ばされたらしく、姿が見えない。
(どうか無事でいて下さい・・・・私のせいで、莉夜も萌瑠も・・・・!)
紅嵐の妖力が底をつき、覚醒が解けて天狗の姿から人間に戻った。
「あなた、顔はイケてるけど弱いわ。私は弱い男に興味はないの」
空子の手の平が無防備の紅嵐に向けられた。
「サヨナラ」
空子の手が光る。
紅嵐は目を閉じた。
凄まじい轟音が耳を突く。死を覚悟した紅嵐だったが、轟音は少しの間だけ続き、そして消えた。
(・・・・?)
紅嵐が目を開けると、そこには大きな壁が立っていた。
更に、一人の女の子も。
瞬く間に円形の壁は収縮し、直径三十センチほどの大きさになった。
「き、君は・・・・」
「遅れてごめんなさい」
そこには魔法少女姿の出雲巳弥が立っていた。
50th Future に続く
話数選択へ戻る