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45th Future 「エミネントに現地集合」
「澤崎、教えて欲しい。何故こんな馬鹿なことをする?」
「馬鹿なこと?」
「管理局を、エミネントを敵に回してどうするつもりだ? 逃げられるはずもないこの状況で、お前は何をしようとしている? 僕には君の行動が理解出来ないんだ。分からないことがあると気になって仕方がない」
「じゃあ一生分からないまま、ずっと気にしていろ。慢性睡眠不足だな」
地を蹴った春也が左腕のテールで攻撃を繰り出した。憂喜はそれを鷲の爪で受け止める。
「人生には色々な選択肢がある。だが君の選んだ道は最悪のものだ。違うか?」
「お前は誰かに用意された選択肢から最良のものを選んでいる。それもいいだろう。だが俺は自分で選択肢を作ったんだよ!」
「三択問題で四番と答えるのか? それでは正解は貰えない」
「俺は誰かにマルを貰いたいんじゃない、自分で自分に『よくできました』って言いたいだけなんだよ!」
繰り出した拳が憂喜の腕でガードされる。
「それは自分勝手だ!」
反撃のパンチを頬に喰らい。よろけた。
「よく『身勝手』や『わがまま』を『権利』『自由』と履き違えている輩がいる。君もその一人か」
「ユーキ、お前は自分で善悪を判断したことがあるか?」
「質問の意味が分からないな」
「そう決まっているから、そう教えられてきたから・・・・人から与えられた知識、判断材料、それがお前の常識、お前の正義だ!」
「それが秩序と言うものだ!」
ブラスト・オブ・ウインドの嘴が春也に狙いを定める。その先端部分に憂喜の魔力が凝縮され、打ち出された。憂喜がマーダードラゴンと戦う時に見せた「ビーク・ペネトレイト」である。
「ぐあっ!!」
ビーク・ペネトレイトの直撃を受け、クリムゾンファイアの胸部装甲が破壊された。その衝撃で春也は数メートル吹き飛び、壁に激突する。
「誰もが自分勝手に善悪を判断すれば、世界は混乱する。このエミネントは統一的な秩序を守ることで、平和な世界を築き上げて来た。それを無視し、秩序を守らない者は排除する。さもなくば、その一人が秩序の崩壊を招くからだ。下界を見ろ、犯罪に生ぬるい法の為に秩序は既に崩壊しつつある。僕は現在のエミネントの正義は素晴らしいと思っている。通りすがりの何の面識もない者に突然殺される。自分の同級生に、自分の親に、自分の子供に殺される。これが正常な世の中だと思うか? こんなことが起きるのは、刑が生ぬるいからだ。ささいな犯罪でも大きな犯罪を起こす可能性のある者は先に排除しておく。これが僕の正義だ。与えられた正義を何の考えもなしに鵜呑みにしているわけではない。馬鹿にするな」
「立派だぜ、お前は」
砕け散った胸部装甲を復活させ、春也は立ち上がった。
「大丈夫か、サラ・・・・もう少し頑張ってくれよ。・・・・俺は今の法が完璧だとは思わない。ゆかりんは悪くない・・・・だから納得出来ない。お前は自分で納得しているのなら、それでいいさ。だから戦ってるんだろう」
「この世に、複数の正義はいらない」
「俺は自分が正義だなんて思ってねぇよ!」
春也と憂喜は同時に拳を繰り出した。
「無駄だっ!」
憂喜は春也の拳が狙っている自分の頭部にピンポイントのマジカルバリアを張った。この方法だと、バリアは通常の数倍の固さになる。春也はノーガードで拳に集中して渾身の魔力を注いだ。
「はぁぁぁぁっ!」
「ぬうぅっ!」
激突。
魔力と魔力が互いにぶつかり合い、二人はそれぞれ逆方向に吹っ飛んだ。
赤い血が飛び散る。青い魔力の粒が弾ける。
「がはっ・・・・」
うつ伏せに倒れていた春也が顔を上げると、口から血がボタボタと零れ落ちた。そして憂喜もまた、数メートル向こうで血を滴らせながら立ち上がっていた。
(まさか、僕のマジカルバリアが・・・・)
春也の拳が憂喜の頭付近に張られたバリアを貫き、顔面を捉えた。バリアのお陰で威力は弱まっていたが、バリアを破られたこと自体が憂喜にとってはダメージだった。
(甘く見ていたことは認めよう・・・・だがこれで終わりだ)
憂喜は手の甲で口を拭い、ビーク・ペネトレイトを放つ為の体制に入った。
「いや〜ん、パンツ見えちゃうよぅ〜!」
刀侍の肩に担がれたゆかりが、スカートを押さえながら叫んだ。
「喋ったら舌を噛むでござる!」
刀侍は何十という追ってから逃れる為、メビウスロード監視搭の敷地内を跳び回っていた。ゆかりを担いでいては、反撃することすら出来ない。
(しかしこやつらは何者でござるか? 警察ではない、だがよく訓練されている・・・・鷲路殿が指揮っていたのも気になるでござるな)
魔力で出来た、光り輝く警棒のようなものがあちこちから刀侍に襲い掛かる。その攻撃を飛脚の瞬発力でかわし、巧みなフットワークで追っ手の間を走り抜ける。ゆかりはしがみ付いているだけで必死だった。
「!」
四方八方から魔法のロープが伸びて来た。それは意思を持っているかのように刀侍とゆかりに向かって来る。
「まずい・・・・!」
逃げ場がない、と思った瞬間、刀侍とゆかりはマジカルロープでがんじがらめになっていた。
「しまった・・・・不覚!」
ロープは蜘蛛の糸のように刀侍に絡まり、動きを封じる。力を入れても、それはびくともしなかった。魔法で出来ているため、もし刀侍が愛刀を青木ヶ原に置いて来なかったとしても、斬ることは出来なかっただろう。
(ここまでか・・・・無念)
刀侍が観念し目を閉じたその時。
「マジカル・レゾリューション!」
ロープの束に埋まったゆかりが叫んだ。
「フェアリーナイト・ムーン!」
眩い光と共に、ロープの束が細かい魔力の粒となって飛び散った。
「ゆ、ゆかり殿! 何をしたでござる!? そう言えば先程、同じようなことが・・・・」
「早く! 今の内に!」
元の大きさに戻した「魔法の孫の手」を握り締めたゆかりが叫んだ。動きを封じたと思った追っ手達は、何が起こったのか分からずしばし動きが止まった。
刀侍がジャンプする。それを見て追っ手達が走る。
「くっ・・・・」
刀侍の着地地点にも男達が待ち構えていた。
「人数が多すぎるでござる!」
刀侍はその中の一人の頭を踏み、そこからまた跳躍した。
ゆかり達を追う奴らの人数は更に増えていた。メビウスロード監視塔の敷地は広く、なかなか外に出られない。
刀侍の「飛脚」はソウルアーマーであり、その能力を使うには魔力を消費する。あまり時間がかかると、刀侍の魔力が尽きてしまう可能性があった。
(まずい・・・・跳躍能力が少し落ちてきたでござる)
それに、走るスピードも落ちてきた。このままでは捕まる、刀侍の額に汗が滲んだ。
「!」
刀侍の脚に痛みが走った。何かで攻撃され、それが脚をかすめたのだ。刀侍はバランスを崩し、地面に落下した。
「しまった!」
全方向から追っ手が迫る。
「え〜い!」
ゆかりは刀侍の前に立ち、孫の手に魔力を溜めた。
「スゥイートフェアリー・スターライトスプラ〜ッシュ!」
眩い光が孫の手から射出され、男達を襲う。男達はその派手さに逃げる体制を作ったが、光の波に当たってもダメージは感じなかった。
「ただの脅しか・・・・足掻きはよせ!」
リーダーらしき男が怒鳴った。
「ふぇぇ〜ん!」
(捕まっちゃう、殺されちゃうよ〜!)
「ぐあああ〜っ!」
何十という叫び、悲鳴が聞こえた。
ゆかりと刀侍を中心に風が舞う。いや風と言うよりは突風、竜巻と表現すべき強風だった。男達は吹き飛ばされ、風に巻き上げられ、壁にぶち当たり、地面に落下して行き、瞬く間にゆかりと刀侍の周りにいた追っ手達で無事に立っているものはいなくなった。
「・・・・」
座り込んだゆかりは、目に前に立っている人物を見上げた。
「大丈夫ですか、姫宮ゆかり」
「紅嵐さん・・・・!?」
紅のローブをなびかせ、紅嵐がゆかりを振り返った。
「紅嵐さん、どうしてここに・・・・?」
「エミネントの空間位置を探すのに時間がかかってしまいました・・・・位置さえ特定すれば私の作った時空ゲートで来ることは可能です」
水無池芽瑠の報告を受け、紅嵐はイニシエートの研究所でこのエミネントの歴史と場所を調べていたのだった。最初はエミネントが何故イニシエートを敵視するのか、それを調査していたのだが、出雲家に行ってみるとゆかりがイニシエートに行ってしまったとユタカが叫んでいたので、全員で大挙してここにやって来たというわけだ。
「私たちもいるよ!」
ゆかりが振り向くと、そこには莉夜、水無池三姉妹、迅雷、雨竜の姿があった。ちなみに櫂は「自分も行く」と主張したが、イニシエートを留守にするわけにはいかないので留守番をしている。
「みんな・・・・来てくれたの!?」
「今度は私達があなたを助ける番よ、ゆかりん」
魅瑠がゆかりに向かってウインクをした。
「でも、どうしてここが分かったの? 時空ゲートを作るって言っても、こんな正確な位置まで分からないんじゃ・・・・」
「これだよ!」
魅瑠の後ろにいた萌瑠が、抱えていた黄色い球体「まる」を頭の上に掲げた。
「『まる』がゆかりんにあげた『ちびまる』の位置を教えてくれたんだよ!」
「あっ」
ゆかりはポケットを手で押えた。そこには萌瑠に貰った「ちびまる」が入っていた。通信が出来る「まる」と「ちびまる」はお互いにその位置を確認することも出来るらしい。ゆかりはポケットに入れていた「ちびまる」の存在をすっかり忘れていた。よく今まで落とさなかったものだ。
「ここは私達に任せて、早く行きなさい」
紅嵐は再び立ち上がる男達を牽制しつつ、ゆかりに言った。
「でもこんなに沢山、敵がいるよ」
「心配しなくていい」
「みんな、魔法を使うよ」
「私達に任せて早く行くのです」
「ゆかりん、これ!」
莉夜がゆかりの目の前に、蒼い宝石を差し出した。イニシエートでゆかりが使用した、あずみのエネルギーと言われていた宝石だ。
「これを持って行って」
「でも、それはあずみちゃんの・・・・」
ゆかりの手に、無理矢理に莉夜が宝石を握らせる。宝石が暖かく感じたのは、莉夜が今まで握り締めていたからなのか、それとも・・・・。
「この力は絶対にゆかりんの役に立つからって、紅嵐先生が」
「だったら、今ここで使うよ! ミズチをやっつけたあの力があれば・・・・」
ゆかりは宝石を孫の手のドームに装着しようとした。
「ここは私達に任せろと言ったはずです。姫宮ゆかり、その宝石は最後の切り札に取って置きなさい。きっと必要になる時が来る。ここで貴重な魔力を使うことはない」
「でも、紅嵐さん・・・・」
「姫宮ゆかり、私はあなたには三つの借りがあります」
紅嵐はゆかりに背を向けたままだ。
「あなたは私達の危機に駆けつけてくれて、ミズチを倒してくれた。だがそれによってあなたがエミネントに追われることになった・・・・これが一つ。そして以前、宝玉に魅入られてあなた達を戦いに巻き込んでしまった。なのに結果的にはあなた達に助けられて、ここにこうして生きている。それが一つ。そして・・・・」
紅嵐は「会話をしている時は大人しく待っていて、決して襲って来てはならない」という悪役のセオリーに反して襲い掛かって来た男達を再び風の力で吹き飛ばし、話を再開した。
「そして、私は露里と言う男の体を借り、あなたに酷いことをしてしまった・・・・」
「酷いこと?」
紅嵐は言い辛そうに口ごもりながら続けた。
「その・・・・中学校の屋上でのことです」
「あ・・・・」
「私はあの時のあなたの顔が忘れられない・・・・あの時に理解出来なかった、あなたの怒りと悲しみ。それを知った時、どうすればあなたに許して貰えるのか、申し訳ない思いで一杯でした。こんなことで償えるとは思えないが、ここは私達に任せて下さい」
「ゆかりん、早く!」
後ろから魅瑠が肩を叩く。
「ゆかり殿、急ぐでござる!」
「う、うん」
ゆかりは莉夜から貰った宝石をポケットに入れると、当時の背中に飛び乗った。
「全力で行くでござるから、しっかり掴まっているでござる!」
「みんな、無事でいてね!」
ゆかりを背負った刀侍が進む道を開くべく、紅嵐と雨竜が男達に攻撃を放った。紅嵐の風と雨竜の冷気を合体させた激しいブリザードが追っ手達を襲う。刀侍は飛脚のパワーを開放し、紅嵐と雨竜の開けた道を突っ走った。
「逃がすな!」
追っ手のリーダーらしき男が叫ぶ。
「行きますよ!」
紅嵐達は覚醒の力を使い、男達に向かって行った。
刀侍はゆかりを背負ったまま全速力で走り、高さ十メートルはある壁を飛び越えた。監視塔の敷地外に出た刀侍は、そのままスピードを落とさずに市街地を目指す。もちろん目的地は管理局本部だ。
「ゆかり殿、先程の御仁達は?」
「ゆかりの友達だよ」
「友達と言っても、人間ではない妖気を感じたでござるが」
「だってイニシエートだもん」
「あの人達がイニシエートでござるか・・・・何かこう、イメージと違うでござるな」
エミネントでは一般的にイニシエートを「災いをもたらす悪の種族」と認識している。刀侍も例外ではなく、スクールではそう教えられてきたので、紅嵐達の印象は想像していたものと全く違っていた。
(初めて本物に会ったが、今までは本当に恐ろしい怪物の姿をしていると思っていたでござる・・・・ゆかり殿が友達と言うのだから、悪い方々ではなさそうでござるな。今まで教えられてきたことが否定された気分でござる・・・・)
現在の自分は、今まで信じてきた管理局を裏切っている。今更何を否定されようが、自分の感じたことを肯定して信じるしかないと刀侍は思っていた。
市街地が見えてくる。管理局本部はその中心部にあった。
ゆかりと刀侍が本部に向かっていた頃、透子は警官らしき人物達に気付かれないように充分距離を取りながら尾行していた。
(どこへ行くんだろう)
かなり間隔を開けてはいるが、念の為に足音が聞こえないよう魔法で地面から少し浮かせている。ちなみに国民的に有名なネコ型ロボットも少し浮き上がって歩いていると聞く。
男達はブロック塀で囲まれた、一見刑務所のような施設に入って行った。遠くからだが、その敷地内に高い塔のようなものがある。透子は知らないが、ここがメビウスロード監視塔だった。
男達が通信で話していた、透子が聞いた「姫宮ゆかり」と「澤崎春也」の名前。耳を疑ったが、彼らが大層慌てていることから考えても、男達の目指す先にはその二人がいる可能性が高かった。
(ゆかり達が見付かったってこと? あの人達は、ゆかり達を捕まえる為にあたし達の世界へ行こうとしているの?)
まさか指名手配中のゆかりが、このエミネントへ乗り込んで来たとは思いもよらない透子だった。
「ちょっとっ!」
咲紅が透子の後ろから追いついてきた。息は全く切れていない。
「どうしたのよ、いきなり!」
「しっ! 黙って」
「黙って、じゃないでしょ! 監視塔に何の用があるのよ!」
「監視塔・・・・?」
「そうよ、あれはメビウスロードの監視塔じゃない。知らずに来たの?」
「メビウスロード・・・・時空ゲートみたいなもの?」
「異空間へ通じる道を作り出す施設があるのよ」
「そっか、やっぱり・・・・」
(その装置を使って、あたしたちの世界へ行くつもりなんだ・・・・ゆかり、見付かっちゃったんだ)
ゆかりは死んだと思わせて時間を稼ぐ作戦を立てた透子だったが、思ったよりも早く見付かってしまった。偶然にもソウルウエポンは手に入れたが、それ自体があまりにも心もとなく、しかも透子自身がそれを使いこなせるとは到底思えない。このままの力ではまだまだ彼らには通用しないだろう。もちろん「彼ら」の中に、ここにいる咲紅も入っているのだが。
「何かしら」
咲紅が監視塔と呼んだ施設の方を見て呟いた。
「争ってる・・・・? これは・・・・魔力じゃない、何なの・・・・?」
咲紅は目を閉じ、何かに集中しているようだった。
「争ってる? 誰が?」
「分からない・・・・妖力? まさか、イニシエートがこんな場所に・・・・」
「イニシエート?」
透子も監視塔をじっと観察した。遠くてよく分からないが、時々壁の向こうに光や人の影が飛び上がっているようなものが見え、爆発音や悲鳴等が聞こえる。
そして、それらが急に止み、しばし静寂が続いた。
「・・・・終わったのかな」
「隠れて!」
咲紅が透子の頭を押さえつけ、地面に伏せさせた。施設の門から、複数の人影が飛び出して来る。
(あっ・・・・)
透子は地面に伏せながらその団体を目で追った。
(紅嵐さん、水無池さん、迅雷君、莉夜ちゃん・・・・どうしてここに?)
そのままその一行は、透子や咲紅に気付かずに市街の方へ走って行った。あちこち怪我をしたり、衣類がぼろぼろになっている者もいる。中で激しい戦闘が起こっていたのだろう。だが、透子には何故彼らがここにいて、どうして戦っていたのか理由がさっぱり分からない。
「イニシエートが侵入して来たのかしら・・・・メビウスロードを使って? だとしたら、通報しなきゃ!」
咲紅が携帯電話のような機器を取り出したのを見て、慌てて透子が話し掛ける。
「ね、ねぇ、さっきのは本当にイニシエートなの?」
「妖力を感じたのよ。それにこんな場所で争いが起こってるなんて、おかしくない? どっちにしろ通報しないと」
「でも・・・・」
イニシエート達が何の目的でやって来たにしろ、ここで咲紅に通報されたら紅嵐達が危険だ。透子は咲紅が通報することを何とか阻止しようとしたが、あまり理由なくやめろと言うのもおかしな話だ。彼らが知り合いだとバレてしまうのも避けたい。
「そう言えばさっきの一味の中に、出雲さんの家で見た子がいた気がするんだけど」
「え? そ、そうかな? よく見えなかった」
(莉夜ちゃんだ・・・・彼女だけは桜川さんに見られてるんだっけ)
「ま、いいか」
咲紅が携帯電話っぽい機械のボタンを押す。
「?」
その手が途中で止まった。咲紅はまた監視塔の方角を見ている。
「なに?」
「まだ何か感じる・・・・知ってる魔力」
「知ってる魔力?」
(まさか、ゆかり?)
咲紅が立ち上がって監視塔に向かって歩き出したので、透子もそれを追った。
門から敷地内に入ると、そこには先程見た警官のような格好をした人達が何十人と倒れていた。ある者は氷に閉じ込められ、ある者は大火傷を負い、重なるように倒れていた。咲紅は治癒魔法を施そうと思ったが、数が多過ぎて対応しきれないと思い、やはり通報することにした。救急車だけでもかなりの台数が必要だろうな、と透子は思った。
咲紅はどこかに電話をしてこの場所を告げると、携帯電話らしき機械をポケットに入れた。
「こっちだわ」
そして、すぐに更に奥へと走って行く。
「ユーキ君とハル君がいる!」
「ええっ?」
46th Future に続く
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