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43th Future 「夢からの覚醒」
ユタカと抱き合っていたゆかりは抱擁から逃れ、辺りを見回した。
「透子は?」
透子の姿を捜し求めるが、ここにはいない。
「ねぇユタカ、透子は? 別行動?」
「いや、藤堂院さんは・・・・」
ユタカが何と説明しようかと迷っていると、刀侍が「それなら拙者が話そう」と進み出た。
「そう言えばまだ説明していなかったでござるな。追ったり逃げたりで忘れていたでござるよ」
「君は・・・・?」
刀侍はユタカと巳弥が海に落ちてから憂喜達と合流したので、ユタカは刀侍とは初対面だった。ゆかりを運んできたことから敵ではないと認識しているが、怪しい風貌の刀侍を警戒した。
「透子殿はゆかり殿とそのお仲間を始末した振りをして、仲間になりたいと申し出て憂喜殿と一緒にエミネントに行ったでござる」
「透子がエミネントに? どうして?」
「あの場合、仲間になりたいと言わなければ助かる道はなかったでござる」
「だが・・・・」
ユタカが神妙な顔つきになる。
「仲間になりたいと言って、はいそうですかとなれるものなのか? 騙されて、そのまま刑務所に送られている可能性も・・・・」
「そこは憂喜殿の気持ち次第でござろうな」
「・・・・うん」
ゆかりが何かを決意したように頷く。
「ゆかり、何が『うん』なんだ?」
「ゆかり、エミネントに行く」
「何だって!?」
ユタカがゆかりの両肩を掴んだ。
「どうやってだ!?」
「のの美ちゃん・・・・だっけ? その子が通ってきた道があるって。そうだよね?」
のの美と春也が同時に頷く。春也は既にのの美にメビウスロードの在り処を聞いていた。ここからならそう遠くはない場所だ。
「何をしに行くんだ? お前は向こうの奴らに追われてるんだぞ? そんな所に行ってどうする? ゆかりは死んだことになっている。鷲路とか言う奴も帰った。このまま奴らに見付からなければ、ずっと平和に暮らせるんだぞ?」
「いや・・・・そうでもないでござる」
刀侍が口を挟んだ。
「管理局はおそらく、ゆかり殿と春也殿の生死を確認しなければ捜索は止めないでござる。今は拙者が全て任される形になっているが、拙者の帰りが遅いと新しい担当者が来るでござろう。ゆかり殿のお仲間もおとがめなしというわけにも行かないはずでござる」
「だからって、エミネントに乗り込んでどうするつもりだ!?」
「エミネントの偉い人に話を聞いて貰うの。ゆかりは自分が悪くないと思ってるから」
「話なんか聞くと思うのか!? 鷲路って奴だって、全然人の話を聞かなかったんだぜ、その上の偉い奴なんて、話を聞くどころか会ってくれるもんか!」
「やってみる前から決め付けちゃ駄目だよ、ユタカ」
「いいかゆかり、世の中には話の通じる奴と通じない奴がいる。誠実に、率直に、一生懸命話したって、聞く耳を持たない奴がいるんだ。万が一話せたとしても、こっちの言い分なんか聞かないにきまってる!」
「その人が、どうして話を聞かない人だって分かるの? そんなの、話してみないと分からないよ」
「俺はこう思う」
ユタカはゆかりの目を見て、諭すように言った。
「お前がエミネントに行くとする。すぐに奴らに見付かるだろう。お前はその偉い人に会うこともなく捕まってアウトだ。偉い人はゆかりの存在すら知らないまま、お前は殺される」
「そんな御無体な」
「奴らは御無体なんだよ!」
「じゃあユタカは透子を放っておけって言うの!?」
「それは・・・・」
「ゆかり達を助ける為に、透子はエミネントに行っちゃったんだよ。たった一人で。淋しいよ、きっと。今度はゆかりが透子を助ける番だよ」
「だが、それでゆかりが捕まったら本末転倒だ・・・・」
ユタカの言い返す声が弱くなってきた。
(決意の目、か・・・・)
ゆかりの目線がしっかりとユタカを見ている。
(ゆかりって、こういう奴なんだよな・・・・やると決めたら曲げないって言うか。自分が勝手にイニシエートに行ったことで今の事態を招いていることに責任を感じて、自分で解決しようとしている・・・・だが俺は、無謀なことをさせるわけにはいかない。ゆかりの暴走を止めることも、俺の役目だ。だが確かに今の状況では、俺達はずっとエミネントから逃げて暮らさなければならない。ずっと逃げ切れるものでもない。今の事態を打破できる方法は二つ、話して分かって貰うか、エミネントと真っ向から戦うことだ。だが戦うのは無理だろう、力が違いすぎる。何とか強行でエミネントに乗り込むのではなく、向こうから話を聞いてくれる気にはならないだろうか・・・・)
「勝算はあるのか?」
ユタカは春也と刀侍に向かって問い掛けた。
「拙者がゆかり殿と春也殿を捕まえて来たことにして、管理局の本部に二人の身柄を引き渡しに行くでござる。目的の恵神様がいらっしゃるのは管理局本部の一番上の階だと聞いている。本部に入り込んだら拙者の『飛脚』でゆかり殿を最上階までお連れする。なに、拙者の足には誰も追いつけないでござる」
「その何とかって人のいる部屋のセキュリティは?」
「拙者が本部内の防犯システムなど知っているはずがないでござる。行ってみる以外にないでござるよ」
「そいつはまた、アバウトな計画だな」
「セキュリティはかなり厳重なはずだぜ」
春也が言った。
「基本的にエミネントには犯罪者はいない」
「犯罪者がいない? どういうことだ」
「恵神様が治めるエミネントは平和な神の国で、いい人ばかりが暮らしていることになっている。何故なら、犯罪者は報道される前に管理局によってすぐに排除されるからさ。だから犯罪が起きた瞬間は犯罪者は存在するが、すぐに消されるから犯罪者がいる時間はほんのわずかというわけさ」
「排除? 殺されるってことか?」
「表向きはソウルトランスされて人々の役に立ってるんだがな。された方にとっては殺されたのと同じさ」
辺りはしばし静まり返る。弱々しく口を開いたのはゆかりだった。
「犯罪者を決して許さない世界。その世界の産物であるマジカルアイテムを、エミネントの敵であるイニシエートを救う為に使った。だからゆかりが悪者って考えは分かる。でもそれはエミネントにとっての悪いことで、ゆかりは悪いとは思わない。だから、分かって貰うためにゆかりはメグミさんに会いに行きたい」
ゆかりはイニシエートでのことを思い出していた。
確かに大勢の命が犠牲になったが、最後のみんなの笑顔は偽りではなかった。ゆかりは自分がしたことを悪いことだとは思えない。友達を救った、それだけのことだ。悪いことをしたと言うのなら、多くの犠牲を出してしまった、それだけが心残りで申し訳ないと思っている。
「分かったよ」
座り込んでいたユタカが顔を上げた。
「俺も一緒に行く」
「ユタカ!?」
「俺はゆかりと離れていたら寝不足になる。だから一緒に行く。今まで何の役にも立っていないしな」
「危険だぜ、おっさん」
春也が口を挟む。
「それに、おっさんに出来ることは何もない。邪魔なだけだ」
「何?」
「俺達の計画に入って来られたら、返って邪魔なんだよ」
「俺だって、マジカルアイテムを持っているんだ!」
「トランスソウルはまだ魔法を使えない子供や、生まれつき魔法が使えない人たちが使う補助アイテムだ。そんな物、役に立つものか」
「そんなことは・・・・」
ユタカが借りている魔法のノコギリは、大河原光が使用してゆかり達を苦しめた。最後はコロニー落としという大技も放ったほどの魔力を秘めている。ユタカにはこれならゆかりの力になれるという自信があった。
「試してみるか? かかって来いよおっさん」
春也が立ち上がり、ユタカを挑発する。
「言っておくが、今の俺は魔力満タンだぜ」
「鷲路って奴に負けたくせに・・・・泣くなよ小僧」
ユタカはポケットから畳まれたマジカルソーを取り出し、元の大きさに復元した。ビヨーンとノコギリの歯が揺れる。
「やめてよ、ユタカ!」
「下がってろ! どっちがゆかりを守るか・・・・これは男の戦いだ」
みここはただ見ていることしか出来ない。ゆかりを助けたいとは思うが、今の自分には力になれそうになかった。
対峙するユタカと春也。一触即発の雰囲気の中、ゆかりが刀侍に何やら耳打ちをしていた。
「・・・・お願い」
「それでいいでござるか?」
「うん」
「では」
刀侍が左腕でゆかりの体を抱きかかえ、「飛脚」で土を蹴った。
「!?」
ユタカに神経を集中させていた春也は自分の体が宙に浮いたかと思うと、刀侍の右腕にしっかりと捉えられていた。
「刀侍!?」
「案内するでござる春也殿、メビウスロードに急ぐでござる!」
刀侍はこの場所に来た時と同じく二人を抱えたまま、飛脚の超スピードを発動させた。方向転換した刀侍の足から砂埃が舞い上がる。
「ゆ・・・・ゆかり!?」
「ごめんね、ユタカ! でもユタカまで巻き込みたくないの!」
ゆかりの声だけを残し、三人の姿が消える。高台になっているこの場所から、二人を抱えたまま刀侍が飛び降りたのだ。
「ゆかり〜!」
ユタカはノコギリを放り出し、後を追おうとした。だが慌てて走り出そうとした為、砂地で足を取られて思い切り転んでしまう。
「くそっ!」
それでも起き上がったユタカは、刀侍が飛び降りた辺りを見下ろしたが、既に三人の姿はなかった。
「何でだよ・・・・」
ユタカの涙は転んだ時の痛みのものではなかった。
「何で一人で背負おうとするんだ! お前にはみんながいる、俺がいるじゃないか!」
ユタカの叫びが木霊し、夕焼けの空に消えてゆく。
何度も木の柵に拳を打ちつけたユタカは、気を取り直してのの美を振り返った。
「メビウスロードとやらの場所を教えてくれ!」
舞台は変わり、ここはエミネントの「平和と世情及び自然に関する監視を行う情報管理局」通称「管理局」の本部である。
管理局本部のビルは地上四十階、地下三階から成る。市街地にあり、敷地内には「ジャッジメント」と呼ばれる裁判所もある。
エミネントには罪が確定するまで容疑者を拘束する「留置」はあるが、いわゆる「投獄」はない。懲役は基本的に存在せず、犯罪者は即刻ソウルトランスの刑になり、刑が確定していない者についてはジャッジメントで身柄を拘束している。冴の父である小柴博士もそこの別棟に囚われていたが、冴の証拠品(あずみ)提出によって明日にも刑が執行される予定だった。
ここはその本部の三十階にある一室。ガラス張りの窓から市街のネオンが一望出来る。黒服を来た、長身で切れ目の男がその景色を眺めながら煙草を吹かしていた。
「裏切り者はまだ見付からないのか」
「申し訳ございません」
男の背中に向かって少し頭を下げたのは、憂喜が「チーフ」と呼んでいた女性で、名を井能空子(いのう・くうこ)と言う。
「現在、優秀なエグゼキューターが捜しております。ですが澤崎春也は無理な空間転移を行っており、生存しているかどうかは定かではなく、姫宮ゆかりと共に死亡している可能性もあります。担当のエグゼキューター・枯枝刀侍は優秀な魔力サーチャーですが、それでも生存しているか否かを判断する為には広範囲の捜索が必要であり、目標の発見もしくは生死の判断には後しばらくのお時間は頂きたいのですが」
空子が文章を読み上げるかのように喋っている間、男はずっと窓の外の景色を眺めていた。
「愚かだね」
「はっ・・・・」
「元々は代議士の鷲路氏が息子をオブザーバーにする為に仕組んだ茶番だと言うのに、鷲路憂喜の噛ませ犬として選出された澤崎君は下界の娘を庇って指名手配か・・・・愚かだな。同情したくなるほど愚かだ」
「全くもって、申し訳ございません」
「何故君が謝る?」
「私の教え子ですから」
「ふむ」
男の咥えている煙草の先にある灰が消えた。
「君は間違ったことを教えているのか?」
「いえ。修法(ずほう)様の教え通り、勧善懲悪を教えております」
「私ではない、恵神様の教えだ」
「失礼しました」
空子が頭を下げる。
「君は間違ったことを教えていない。つまり君が謝る必要性はない。教師と言えど世の中の正義と悪、全てを生徒に教えることなど出来ないよ。それはむしろ、親の責任の範疇だ。君の出来ることは、出来の悪い教え子が生きていればこの世から消すことだね」
「はっ・・・・では、他の姫宮ゆかりの仲間はいかが致しましょう?」
「放っておけ。魔力もなくソウルトランスすら出来ない奴らなど取るに足りない」
修法と呼ばれた男の、短くなった煙草が一瞬にして消える。
「なに、澤崎君が生きていようが何も出来ないさ。今回の件は鷲路憂喜がオブザーバーになってめでたしめでたし・・・・ということで終了だ」
「はい・・・・」
「どうした?」
「いえ・・・・失礼します」
空子は一礼し、男の部屋を出た。
(憂喜君なら、実力でオブザーバーになれる。いえ、実力でならないと彼自身が納得しない。だから私は桜川咲紅と澤崎春也を選らんだ。桜川さんはスクールでの成績は二位。でも澤崎君は後ろから数えて一桁台・・・・だけど彼には何かを感じていた。だから私はメンバーに入れた・・・・オブザーバーは周りに流されない確固たる意思を持たなければならない。彼はそれを持っている・・・・そんな気がしたから)
ここは管理局本部隣にあるジャッジメントの建物。中には住み込みで働くジャッジメントがおり、その中の一人が冴の父の弟(つまり叔父さん)である。
「お願いします、ここから出して下さい」
冴の叔父が預かったあずみは、手足こそ縛られていないものの、頑丈なロックが出来る部屋に監禁されていた。しばらく一人だったのだが、冴の叔父が様子を見る為に部屋に入って来たのだ。
「言っただろう、君はここから出てはいけない。君は明日、愚かな私の兄の罪を立証する為に裁判に提出され、その後スクラップになるんだ」
「りよちゃんに会いたいです」
「りよちゃんだろうがみよちゃんだろうが、君はもう誰とも会えない。何度言わせれば分かるんだ。君は壊される。死ぬ、ではない。壊れる、だ。アンドロイドなんだからな」
「りよちゃん、ゆかりん、透子さん、こなみちゃん、みここちゃん、タカシ君、ユタカさん、倉崎さん、鵜川さん・・・・みんな、優しくしてくれました。私がアンドロイドだって分かっても、変わらず接してくれました。だから一緒にいたい。たったそれだけなのに、どうして駄目なんですか?」
「誰の事を言っているのか分からないが・・・・」
あずみに背を向け、本棚の引き出しを開け始める。
「君はトランスソウルなんだよ。本来、感情なんてものは持ってはいけない存在なんだ。愚かな兄が作り出した、あってはならない存在。それが君なんだよ。死んだ人は決して蘇ってはならない。人の一生は一度。だからこそ尊いし、美しい。今の君の『生』は神への冒涜なのだよ」
冴の叔父は引き出しの奥から一枚の写真を取り出し、それとあずみを交互に見た。
「兄はここまでの技術を持ちながら・・・・勿体無いと言うか、愚かと言うか・・・・。そんなに藍ちゃんが愛しかったのか。可哀想に、冴ちゃんが悪いんじゃない、病気が悪いんだ。なのに・・・・冴ちゃんが不憫でならないよ」
冴の叔父があずみの前に座り、あずみの顎を手で持って顔を上げさせた。
「本当にそっくりだ・・・本物の藍ちゃんと言われても信じられる」
「・・・・」
「潤んだ瞳、震える唇・・・・まさに小柴藍そのもの・・・・」
ふいに冴の叔父の顔が近付いて来たので、あずみはとっさに身をかわした。
「どうせ君は明日、壊されるんだよ。だったら・・・・」
叔父の目つきが変わった。
「君がどこまで藍ちゃんそっくりなのか、非常に興味があるんだよ、私は!」
腕を掴まれ、引き寄せられる。あずみは抵抗するが、いつも出せるはずの力が思うように出せない。何かの薬の作用なのか、この部屋に仕掛けがあるのか、エネルギーが切れかけているのか、理由は分からないが、普段なら常人の数倍は出せるはずのパワーが出て来なかった。
「いやっ!」
「可愛いなぁ、藍ちゃん・・・・私はね、ずっと君の事を可愛いなって思っていたんだよ。死んだって聞いた時は悲しかったなぁ・・・・どうせ死ぬなら、一度楽しんでおけば良かったって後悔していたんだよ・・・・でもねぇ、私は仮にもジャッジメントで働く者として、犯罪を犯すことには抵抗があったんだよ。悪人を裁く側が犯罪を起こせば、即刻排除されるんだ。さすがにそこまでの勇気はなかったねぇ」
「離して下さい!」
「ここは犯罪者を留置する部屋でね・・・・叫んでも誰も来ないし、外には何も聞こえないよ。観念して大人しくすれば、痛くしないからね」
「やめて下さい〜!」
振り払ったあずみの手が、冴の叔父の頬を叩いた。
「あ、ごめんなさい・・・・」
「ふふふ・・・・」
冴の叔父は両手の平をあずみに向けた。青白い煙が立ち込め、あずみの周りを取り囲む。
「えっ・・・・? あっ・・・・」
あずみの体が痺れたように動かなくなった。
「犯罪者を預かるんだから、このくらいの魔法は身に付けているさ・・・・」
「ううっ・・・・」
どれだけ力を入れても、あずみの手足は動かなかった。かろうじて頭や腰は動くが、それでは逃げられない。
「さぁ、柔らかさはどんな感じなのかなぁ。本物の藍ちゃんそっくりの手触りだったら嬉しいんだけどねぇ」
冴の叔父の手があずみの体に伸びる。ちなみにあずみはこの世界に来てから着替えていないので、体操服のままだ。だがこの世界の体操服は全く違うデザインなので、冴の叔父はそれが体操服だとは分からない。
「誰か・・・・助けて!」
「誰も来ないと言っているだろう!」
ここは異世界のエミネントである。透子はこの世界にいることはいるが、彼女の居場所はここから遠く離れている。それにこの建物、この部屋の中からどれだけ叫んでも、外部には絶対に聞こえない。あずみを助けに来れる者は誰もいない。
「泣け、喚け、叫べ! 誰も君を助けには来ないんだよ!」
あずみの腕が、太い手で掴まれる。
「いやぁ〜!」
(助けを呼ぶ声)
(誰かに必要とされる、それは幸せなことだ)
(一人の人を救えなかった。最愛の人を)
(そして、心が荒んだ)
(だが、そのままでいいのか?)
(助けられなかったなら、違う誰かを救えばいい)
(たくさん、たくさん救えばいい)
(それは代わりでもなければ、罪滅ぼしでもない)
(他の人を大切に思うこと、それは一生涯愛すると誓った人への裏切りだと思っていた)
(大事な人を救う。自分が大切だと思った人を救う)
(それが彼女の望みなら・・・・)
「健一、助けてあげて。あずみちゃんを、守ってあげて」
(あぁ、分かったよ、華代・・・・!)
「ぐあ!?」
冴の叔父の腕が何者かに掴まれた。
あずみではない。あずみの四肢は魔法で封じている。現にあずみの手は二本とも床についていた。
「うわぁぁぁぁ〜!」
冴の叔父の叫びが部屋に響いた。
あずみを中心に、灰色のドームが広がってゆく。
それに取り込まれたと思った瞬間、冴の叔父の意識は夢の中へ飛んでいた。
「・・・・?」
あずみは倒れた冴の叔父を不思議そうに眺めていた。
「これは・・・・」
部屋全体を、グレーの空気が包んでいた。この世界には見覚えがある。
自分の肩に誰かの手が置かれているのに気付き、あずみは後ろを振り向いた。
「あ・・・・」
「少し遅れたな・・・・すまない」
「鵜川さん!」
そこには行方不明になっていた警察官、鵜川健一が立っていた。
44th Future に続く
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