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タイトル


 37th Future 「気弱なドラゴン」


「おおおっ!」
 ブラスト・オブ・ウインドの羽根が、飛び掛ってきたドラゴンの胴を二つに切り離した。憂喜の放った蹴りがドラゴンの頭を飛ばす。右手の嘴が胴を貫く。
 一瞬にして憂喜の身体は、ドラゴンの体液で緑色のペンキを被ったようになった。
(ひぇ〜)
 透子はそのおぞましい光景を見ないでおこうと、背を向けた。
「きゃっ!」
 透子の心臓が跳ねた。後ろを向いた時、岩場の陰に隠れていたドラゴンを目が合ったからだ。
(逃げなきゃ!)
 と思った瞬間、透子の脚はすくんでいた。
(助けて、助けて、憂喜君!)
 大きな声が出ない。
「みゅ・・・・」
 弱々しい鳴き声が聞こえた。
「・・・・?」
「みゅう・・・・」
 それはドラゴンの鳴き声だった。よくよく見れば、そのドラゴンも透子から逃げるように岩場の陰に隠れようとしている。
「・・・・あたしのことが怖いの?」
「みゅう・・・・」
「あたしは何もしないけど・・・・あなたも何もしない?」
「みゅ・・・・」
 心なしか、ドラゴンが震えているように見えた。
 それは透子のいる世界で例えるなら、トカゲと言うよりはイグアナに近かった。頭には角やトゲが多数生えていて凶暴そうな印象を受けるが、目が怯えている。
「怪我してる?」
 ドラゴンの身体は手足や胴、尻尾に至るまで無数の擦り傷や切り傷があり、血も滲んでいた。
「喧嘩でもした?」
「みゅ」
「イジメとか?」
 透子は普通にドラゴンに話し掛けている自分に気付いた。言葉を理解するはずがないし、答えるはずもないのだが、何となく通じている気がした。
「う〜ん、君って喧嘩するタイプじゃないよねぇ、何となく」
「みゅう」
「イジメなのかな。ドラゴンの世界にもイジメってあるの?」
 透子は少しだけドラゴンに近寄ってみた。ドラゴンの後ろは壁で逃げ道はなく、ただ震えているだけだった。透子が肩叩きを取り出すと、殴られると思ったのか、体がビクッと跳ねた。
「大丈夫だよ」
 肩叩きからドラゴンの体に淡い光が降り注ぐ。みるみる内に傷が塞がっていった。
「もう痛くないよね」
「みゅ?」
「それにしても君、ドラゴンらしくない声だよねぇ」
 広間の方からは「ギャ」とも「グァ」ともつかない鳴き声が無数に聞こえてくる。
「みゅ・・・・」
 ドラゴンはもう逃げようとはしていなかった。
 広間では憂喜の放った「ビーク・ペネトレイト」によって、マーダードラゴンの死体の山が築かれてゆく。
「これって偽善かな」
「みゅ?」
「沢山の君の仲間が殺されていくのを黙って見ていて、止めもしない。なのに君一人の怪我を治してあたしは満足してる。いいことをしたって思ってる」
「みゅう・・・・」
 広間から音も声も聞こえなくなった。
(終わったのかな)
 透子は頭だけ出して様子を伺った。
「わ」
 そこには無数のドラゴンの死体に囲まれ、ひときわ巨大なドラゴンと対峙している憂喜の姿があった。ブラスト・オブ・ウインドの方翼がない。
「お前が最強のようだな・・・・」
 五メートルほどもあるマーダードラゴンが、長い舌を出して憂喜を睨んでいる。まるで仲間の敵を取る、と復讐に燃えているような視線だった。
「お前は素晴らしいソウルウエポンになる。お前を倒し、その魂を頂く」
 破損した方翼を復元し、憂喜はライトアーム部の嘴に魔力を溜めてジャンプした。狙いはドラゴンの頭頂部だったが、ドラゴンは後ろ足で立つように伸び上がり、鋭い牙が並ぶ口を開けて憂喜を迎撃しようとする。
「くっ」
 憂喜に噛み付こうとしたドラゴンの顎が空を咥える。だが、憂喜の背後から尻尾が唸りを立てて飛んで来た。
「何だと!?」
 太い尻尾の攻撃をまともに喰らい息が詰まった憂喜だったが、振り向き様に嘴から伸びた魔力のビームがドラゴンの尻尾を胴体から切り離した。
「シャァァ」
 ドラゴンの前足が憂喜を襲う。まともに当たれば、爪が憂喜の胴を貫通しそうな強烈な一撃だったが、ブラスト・オブ・ウインドの羽根を羽ばたかせそれをかわした。
「これで終わりだ」
 憂喜上空からビーク・ペネトレイトを撃つ体制に入り、ドラゴンの頭に狙いを定めようとした。
「なにっ・・・・!」
 目標が大きくなった。ドラゴンがジャンプしたのだ。憂喜は例えドラゴンが飛びついて来たとしても、ここまで届くとは思っていなかった。
(ち・・・・)
 避ける間もなく、憂喜の右腕はドラゴンの顎に捉えられた。鋭い牙が憂喜の二の腕辺りに突き刺さり、血が吹き出る。
 飛行能力のないドラゴンの体は、ジャンプした後はもちろん落下する。腕を咥えられたままの憂喜も、もちろんドラゴンと共に落下するだろう。下手に落ちまいと抵抗すれば、ドラゴンの重量が咥えられた腕にかかって千切られる。
 憂喜は咥え込まれた右腕に魔力を注いだ。
「文字通り、食らえ」
 ドラゴンの後頭部が光ったかと思うと、爆発が起きた。胴体が頭から切り離され、地響きと共に地面に落下する。憂喜は腕に食いついたドラゴンの頭部を引き剥がそうとしたが、牙が深々と突き刺さっていた。慎重に鋭い牙を引き抜くと、血が吹き出た。
「大丈夫!?」
 地上に降りた憂喜に透子が駆け寄る。
「すまないが、治療して貰えるだろうか」
「う、うん」
 透子の肩叩きから発せられた光が、憂喜の腕を照らす。
「憂喜君は、治癒魔法を使えないの?」
「何故だか、それだけは不得手なんだ」
「ふぅん・・・・」
 傷が深いのか、完治するまでに時間がかかった。その間に憂喜は、倒したマーダードラゴンに空いた左手で魔法をかけていた。
「何してるの?」
「ソウルテイミング。こいつの魂を取り出し、魔力で僕に従わせるようにする魔法だ」
「どんな動物でも従うの?」
「自身の魔力に対して相手があまりに強力な場合は言うことを聞かない場合もある」
「このドラゴンは大丈夫なの?」
「所詮は爬虫類だからね。脳が魔法に慣れていないので効き易いはずだ」
 説明を聞いている内に憂喜の傷の治療が済んだ。憂喜は透子に礼を言うと、更に魔法を唱え続ける。モヤモヤした霧のようなものが固まり、マーダードラゴンを形作った。
 隣にはドラゴンの死体がある。
「どうなってるの?」
「魂の思念体だ。こいつをソウルウエポン化してユニゾンすることにより、操ることが出来る」
「じゃあ、そこにいる蒼爪君もその思念体?」
「そうだ」
「蒼爪君も同じようにやっつけて手に入れたの?」
「ああ」
「新しいソウルウエポンを手に入れて、蒼爪君はどうするの?」
「どうもしない、引き続き使う。彼は彼で使い道が違うからね」
「複数のソウルウエポンを所持することは可能なの?」
「用途に応じて何体も持っている人もいる。五体のソウルウエポンを持っている人を知っている。要は複数の魂をウエポンとして操る魔力があるかどうかだ」
「へぇ」
「さて、帰るか」
 憂喜はマーダードラゴンに「ついて来い」と言ったが、巨大なドラゴンは動こうとしない。
「来ないよ?」
「最初はこんなものだ」
 憂喜はドラゴンに歩み寄ると、頭の上に手の平を乗せた。その瞬間、憂喜の手が光を放ち、ドラゴンの体が電気に痺れたように痙攣した。
「ちょっと、何してるの!?」
「こうやって言うことを聞かせるんだ。力を持っている者ほどプライドが高い。力でねじ伏せて言うことを聞かせないと駄目なんだ」
「可哀想だよ」
(澤崎君や桜川さんのソウルウエポンは、ペットみたいな存在だったように見えたけど・・・・あれも従わせたのかな)
 何とか洞窟の外までマーダードラゴンを連れ出した憂喜は、何か気配を感じて後ろを振り返った。
「まだ生き残りがいたのか」
「え?」
 透子の後ろにマーダードラゴンが歩いていた。怪我を負っていたので透子が治療したドラゴンだ。
「ついて来たの?」
「みゅう」
「どけ、藤堂院さん。危ないぞ」
「待って!」
 透子は両手を広げ、ドラゴンと憂喜の間に立った。
「この子は凶暴じゃないわ」
「だが、仮にもマーダードラゴンだ」
「平気よ、何もしないわ」
 透子はドラゴンの前にしゃがみ、話し掛けた。
「中に帰りなさい」
「みゅう・・・・」
「あなたのおうちはこの中でしょ」
「みゅう」
 ドラゴンはじっと透子を見ていた。
「そっか、君の仲間はみんな憂喜君が・・・・」
「放っておけ、そんな奴はウエポンの材料にならない」
「材料って、そんな言い方・・・・」
 ドラゴンは訴えかけるような視線を透子に送ってくる。
「・・・・君は・・・・」
「みゅう・・・・」
「ねぇ憂喜君。この子、連れて帰っていい?」
「何だって? 何のためにだ?」
「あたしのペットとして」
「ペットにして可愛いとは思えないが」
「だってほら、鳴き声が可愛いよ」
「みゅう」
 透子の言葉が分かったのかどうか、ドラゴンは鳴いてみせた。
「・・・・まぁ飼うくらいは構わないが。面倒を見るならな」
「何を食べるんだろう?」
「みゅう」
 かくして憂喜は強力なマーダードラゴンの魂を、透子はペットとしてマーダードラゴンの子供を手に入れた。透子はドラゴンに「みゅうたん」と名付けた。
「憂喜君、質問」
「何だ?」
「蒼爪君は喋るよね? ソウルウエポンってみんな喋るの?」
「いや、蒼爪は元々、言葉を解する鷲『ソニックイーグル』だったから喋るんだ」
「そうなんだ。頭いいんだね」
 透子に褒められた蒼爪は「マ、マァナ」と胸を張って見せた。
「あまり蒼爪を褒めないでくれ、図に乗る」
「マスター、ソイツハアンマリダ」
「分かってる。蒼爪は言うまでもなく素晴らしいソウルウエポンさ。さて、早速帰って新型のソウルウエポンを完成させるか」
「完成させる?」
「今はまだ魂をテイミングしただけだ。これからソウルウエポンのイメージを確立させ、ユニゾン出来るようにしないと使えないんだ」
「へぇ、結構手間がかかるんだね」
 どうでもいい話だ、と透子は思った。自分にはソウルウエポンが装着出来ないと知ってしまった今、それ自体に興味はなくなった。
(これからどうしよう)
 透子がぼんやりと空を眺めながら歩いていると、憂喜が時計を見ながら「まだ間に合うな」と呟いた。
「何が?」
「オブザーバーの面々と僕が顔を合わせることになっている。ただの形式的な儀式だが、先輩には挨拶をしておいた方がいいだろう」
「ふ〜ん」
「会場はここから近いんだが、藤堂院さんは先に帰るかな? ドラゴンを連れているし」
「え〜、一人じゃ帰れないよ。この子も一緒に行ったら駄目?」
「会場内には無理かもな・・・・外で待って貰うか、待合室なら何とか入れてくれるかもしれない」
「それでいいよ、最悪、外で待つから」
 やはり異世界を一人で行動するのは怖い。透子とて例外ではなかった。


 目的の建物は街の中にあり、純和風な田舎の風景とは趣の違う建物だった。例えるなら国会議事堂のような作りだ。
「この世界って全部田舎っぽい、のどかな感じなのかと思ってた」
「あの辺りは田舎だからね」
 受付に聞くと、会場へは入れないが控え室なら透子も、みゅうたんもペット扱いとして入れるとのことだった。透子は堅苦しいのは苦手なので、会場に入れたとしても遠慮しようと思っていた。
「一時間程度で済む」と貸衣装のスーツを着込んだ憂喜が控え室を出て行くと、透子はみゅうたんと二人?きりになった。
 部屋の中を見渡して見る。ごく普通のホテルの一室で、ここが異世界だという感覚は全くない。
 透子はベッドに腰を下ろすと、みゅうたんがささっと寄ってきた。
「君って、言葉が分かるの?」
「みゅう」
「ごめん、あたしがドラゴン語、分からないや」
 みゅうたんはじっと透子を見ている。
「実はあたし、爬虫類って嫌いなの。蛇とか、トカゲとか」
「みゅう」
「でもみゅうたんって愛嬌があるし、ぬいぐるみみたいだから、あんまり気持ち悪くないよ」
「みゅ」
「まぁ巳弥ちゃんも蛇だし・・・・」
 そう口にして、しばらく透子は黙り込んだ。そしてまたみゅうたんに話し掛ける。
「ドラゴンにイジメってあるの? 傷だらけだったよね、君。喧嘩でもしたの?」
「みゅう〜」
「君達の世界にも、恨みとか妬みとかあるのかな。それと、愛情や友情も。信頼や、裏切りも」
「みゅ」
「君に会った時、一人だったよね。爬虫類が嫌いなあたしが、どうして助けようって思ったんだろうって考えたんだけど・・・・」
 みゅうたんはまるで話を聞いているかのように透子の目を見ている。
「群れから離れるのって淋しいよねって思ったの、あの時。何だか、そう・・・・昔のあたしを思い出したのかな」
「みゅう?」
「もしかしたら、君の仲間の中に友達がいたかもしれないのに」
 透子はみゅうたんから目を逸らした。
「あなたの仲間が殺されていくのを、あたしは止めなかった・・・・」
 透子はそう言ってベッドから腰を上げた。何気なくカーテンを開けて窓の下を見ていると、見覚えのある顔が建物に入って行くところだった。
「あっ」
 学校で逢った、あずみを連れ去った人物。確か冴という名前だった。
(でもあずみちゃんは一緒じゃなかった・・・・どこにいるんだろう?)
 あずみが目の前でまんまと連れ去られたことは、透子も責任を感じていた。あの場合は力の差が有り過ぎたので仕方なかったのだが、出来ればあずみを取り返したいと思っている。出来るなら、楽に。
(と言っても、どうしようもないよね・・・・)
 冴という女性は憂喜の上司と言っていた。憂喜を祝福するために来たのか、もしくは彼女もオブザーバーと呼ばれる資格を得ている人物なのか。
(それにしても・・・・)
 ゆかりや春也に関する情報が入って来ない。情報がないということは、見付かっていないと考えていいのだろうか。
「みゅっ!」
 みゅうたんが鳴いた。さっきまでとは違う、鋭い鳴き声だ。
「どうしたの?」
「みゅう・・・・」
 みゅうたんは窓の外に向かって威嚇するような体制をとっていた。だが威嚇にしては迫力がなさ過ぎる。
「一体どうしたの・・・・」
 窓の外を見て、透子は思わず叫び声を上げた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
 物凄い爆音と共に、建物全体が揺れた。
「な・・・・なにあれ!」
 国会議事堂のような建物の中央に、特撮映画で見たような翼のある巨大な生き物が突っ込んでいた。
「か、怪獣!?」
 それは凄まじい咆哮を上げ、建物を破壊し始めた。透子は目の前の光景が実際に起こっていることとは到底信じられないでいる。
「嘘でしょ、あれ! 映画の撮影!?」
 だがこの建物全体の揺れは現実である。
「藤堂院さん、無事か!」
 憂喜がドアを蹴飛ばすような勢いで部屋に入ってきた。
「何なのあれ!」
「おそらく・・・・奴はマーダードラゴンだ」
「ええっ、でも!」
「あんな大きさは確認されていないが・・・・完全に成長した姿なのかもしれない」
「じゃあなに? 仲間の敵討ちに来たっていうの!?」
「かもしれない」
「だったら・・・・」
「あぁ、奴の狙いは僕だ」
 巨大ドラゴンに対して警備隊が攻撃を加えているが、蚊が刺している程で有効な攻撃にはなっていないようだ。
「あの巣の中で、僕が得たマーダードラゴンが一番手強かった。もしかすると、奴の子供だった可能性があるな」
「子供の復讐に来たってこと?」
「丁度いい、新しいソウルウエポンを試すチャンスだ」
 そう言って、勇気はスーツの上着を脱ぎ捨てた。足元には昼間に憂喜が手に入れたマーダードラゴンの魂が具現化していた。
「ちょっと待って、今、あのドラゴンの子供かも知れないって・・・・」
「あぁ、それが?」
「それが? じゃないわ、親子で戦わせるつもり!?」
「こいつはもう僕のソウルウエポンだ」
「そんな・・・・!」
「ソウル・ユニゾンだ」
 憂喜はドラゴンに指示したが、ウエポン化する素振りがない。
「ユニゾンだと言っている!」
 憂喜はまたドラゴンの頭部に手の平を当て、ショックを与えた。
「やめてよ、そんな無理矢理・・・・!」
 マーダードラゴンの体が光り、輪郭が崩れてゆく。光の塊と化したドラゴンが、憂喜の体を覆った。やがて憂喜の腕、肩、胸がアーマーで固められてゆく。右手には巨大な斧のような物を装着していた。
「ユニゾンは成功だな」
「ねぇやめて、憂喜君」
「君はここでじっとしていろ、藤堂院さん。安心して待っていてくれ、奴は僕が倒す」
「みゅ〜っ!」
 部屋を出て行こうとした憂喜の前に、みゅうたんが回り込んだ。
「どけ」
「みゅう!」
 みゅうたんは憂喜に対して怒っているようだが、やはり迫力がなかった。
「みゅうたん、抗議してるんだわ。憂喜君がドラゴンの親子を戦わせようなんて、酷いことをしようとしてるから」
「藤堂院さん、こいつを黙らせろ。面倒を見ると言ったはずだ」
 憂喜に睨まれ、仕方なく透子はみゅうたんに向かって手を伸ばした。
「おいで、みゅうたん」
 だがみゅうたんは憂喜の前を動こうとしない。憂喜は我慢が出来ずに、みゅうたんに向かって足を振り上げた。
「どかないなら、力ずくで通るぞ。藤堂院さんの手前、手荒なことはしたくないだけだ。お前など・・・・」
 憂喜はみゅうたんに構わず足を踏み出した。
「みゅ〜!」
 みゅうたんが憂喜の前に回り込む。憂喜の腕が振り上げられた。
「みゅうたん!」
 考える前に透子の足が動き、みゅうたんの上に覆いかぶさるように倒れこんだ。透子の背中に憂喜の右腕に装着されている大きな斧のようなものが打ち下ろされた。
「あうっ!」
「藤堂院さん!?」
 予期せぬ透子の行動に憂喜は思わず腕を引っ込めた。
「だ、大丈夫か!?」
「みゅ〜っ!」
 みゅうたんが憂喜に飛び掛る。
「貴様!」
「やめて!」
 透子の叫びと、憂喜の右腕に装着された巨大な武器がみゅうたんを捉えるのとが同時だった。
 ぐしゃ、という嫌な音がした。
「行くぞ」
 新しいソウルウエポンを装備した憂喜が、巨大なマーダードラゴンを倒すために廊下を駆けて行く。
「・・・・」
 透子は廊下に転がったみゅうたんと、壁に付いた緑色の血を呆然と見ていた。
 背中の痛みはあまり感じなかった。



38th Future に続く



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