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34th Future 「ゆかり死す!? 別離の荒波」
その様子を見ていた四人は、逃げられないでいた。
このまま逃げたら、春也はどうなるのか? このままだと殺されてしまうのではないか?
だが、自分達の力ではどうしようもないことも、彼らの戦いを見ていれば分かる。
「くそ、俺はこんな時、何も出来ないのか!」
ユタカが歯軋りをする。透子はゆかりを抱きしめつつ、ボーッとする頭で考えを巡らせた。
(このままじゃ、あたし達に勝ち目はない・・・・逃げても逃げ切れない。せめてあのソウルウエポンとか言うのがあれば・・・・)
「ゆかり、ミズチを倒した時に使った宝石って持ってる?」
「ううん、莉夜ちゃんに返したよ」
「そう・・・・」
ミズチを倒した力ならあるいは憂喜を倒せるかもと思った透子だったが、その宝石がないのならどうしようもない。
「巳弥ちゃん」
巳弥の背後から、透子が声を掛けた。
「何ですか?」
「思い出して。あの子達の前で魔法を使ったことがあった?」
「えっと・・・・いえ、ありません」
「マジカルアイテムを持っていることも知られていないかな」
「それはどうかな。でも桜川さんにはマジカルハットを見られた覚えはないよ」
「そっか・・・・いい? 巳弥ちゃんはあたしがいいって言うまで魔法を使わないで。何があっても、絶対」
「え? ど、どうして?」
「いいから」
「う・・・・うん」
「それとゆかり」
「ふぇ」
「魔法は使える?」
「ううん、ほとんど魔力が残ってないの」
「どのくらい? フェアリーナイト・ムーン一発分はある?」
「あれはそんなに魔力を消費しないから、多分大丈夫」
「おっけぃ・・・・」
透子は頷いたが、ゆかりや巳弥には透子が何を考えているのか分からなかった。
「何やってんだ、お前ら! 早く逃げろ!」
春也が憂喜の脚にしがみつく。クリムゾンファイアはボロボロだが、修復する魔力が残っていなかった。
「離せ、澤崎」
「離すかよ! 俺のせいでこうなっちまったんだ、俺はどうなってもいいから、あいつらだけは助けるんだ!」
「だから無理だと言っているだろう。君はここで死ぬんだ」
春也が掴んでいた憂喜の脚が魔力を帯びて光った。憂喜が脚を蹴り上げると、春也は十数メートルほど吹き飛ばされ、地面を転がった。
「がはっ・・・・」
口から血を吐きながら、春也は立ち上がる。
「へっ・・・・そうは言うがユーキよ・・・・攻撃が甘くないか? 殺す気なんてないんだろ・・・・本気でやれよ」
「・・・・後悔するなよ」
ブラスト・オブ・ウインドのライトアーム部にある嘴に光が凝縮されてゆく。
「望み通り、これは本気だ」
「くっ」
飛んで避けようとしたが、春也の左脚は動かなかった。
(折れた・・・・のか? くそ、駄目か・・・・ゆかりん、守ってやれなかったな・・・・すまねぇ・・・・)
嘴の先端から、凝縮された光の矢が撃ち出された。一直線に春也目掛けて尾を引いて飛んでゆく。
「モコ、ソウル・ユニゾン!」
「きゅー!」
咲紅の声が聞こえたかと思うと、憂喜と春也の間に人影が現れた。
「!?」
春也を襲うはずの光の矢は、突然現れた何かに当たって分散し、粉々になってゆく。憂喜の攻撃が止んだ後、そこには巨大なシールドを構えた咲紅が立っていた。
「・・・・桜川」
「もういいでしょ、ユーキ君。ハル君はもう何も出来ないわ」
「ブラスト・オブ・ウインドの『ビーク・ペネトレイト』を受け止めるとは、さすがは噂に高い、鎧絹毛鼠のソウルウエポン『アブソリュートガード』だな」
巨大な円形のシールドが収縮し、咲紅の左腕に装着された。
咲紅のペット「モコ」はエミネントでは一般的な愛玩動物である「鎧絹毛鼠(アーマーハムスター)」であり、モコがソウルウエポン化した「アブソリュートガード」のシールドは絶大な防御力を誇る。
「ビーク・ペネトレイトを受け止めたことは賞賛しよう。たとえ全力でなかったとしてもね」
「・・・・ユーキ君」
「だが、何故邪魔をした? まさか君も澤崎の味方をすると言うのではないだろうな」
「ハル君は仲間よ。そして、ユーキ君も仲間」
「犯罪者と一緒にするな。澤崎を庇うのなら君も同罪だ」
「庇う気はないわ。ハル君は姫宮さんを助け、ユーキ君に拳を向けた。立派に極刑だわ。でもどんな犯罪者でも人の役に立てるようにって定められた制度がソウルトランスでしょ? こんな場所で、一緒にこの世界にやって来た仲間であるあなたに殺されるなんて、あんまりだわ」
「だから、僕を犯罪者の仲間にするな!」
憂喜の叫びと同時に、咲紅の身体がいくつもの輪で縛られた。
「あうっ!」
バランスを崩して倒れた咲紅を見下ろしながら、憂喜はゆっくり春也に近付いていった。
「残念だよ、桜川さん。そんなに感情的になるなんて、やはり君はオブザーバーには向いていない。僕の次に一番近いのは君だったのに」
「あ、あなたは、試験を一緒に受けた、仮にも仲間だったハル君を殺せるの?」
「当然だ。犯罪者を裁くことは正しいことだからな」
「・・・・それは一般論? ユーキ君の正義?」
「両方だ」
咲紅を地面に転がしたまま、憂喜は春也に近付き、冷ややかな目で見下ろした。
「馬鹿な奴だよ、お前は」
「・・・・ゆ、ゆかりんはどうなるんだ・・・・?」
「それは僕ではなく管理局の決めることだが・・・・そうだな、姫宮ゆかりを始め、あそこにいる奴等はソウルトランスが出来ないから、実刑になることは間違いないだろう。姫宮ゆかりはまず強制排除として、その仲間もイニシエートと関係があり、姫宮ゆかりの逃走を助けたとなれば、強制排除も有り得るな」
「そ、そんな馬鹿な・・・・」
「だから、馬鹿は君なんだよ」
そのやり取りはゆかりや透子達にも聞こえていた。
「ね、ねぇ、ゆかり達、殺されちゃうの!?」
「・・・・そうみたいね」
「そうみたいって、透子〜!」
ゆかりが透子の袖を引っ張る。
ユタカもこの中では唯一の男だから何とかしたいとは思うが、どう考えても役立ちそうにない。
「ゆかり、巳弥ちゃん、相楽君、こっちへ!」
透子が三人に手招きし、ついて来るように言った。だが、その先は崖から海に向かって飛び出た、足場の悪い岩である。
「ちょっと、そっちは危ないよ!」
と、眼鏡っ娘セーラー服のゆかりが叫ぶ。
「・・・・透子さんのことだから、何か考えがあるのかも」
「そうだな、信じよう」
巳弥の言葉にユタカも頷く。四人は足を踏み外せば危険な崖の上に登った。その様子を見ていた憂喜が怪訝な顔をする。
「何をする気だ? 追い詰められ、自殺でもするのか?」
「こ、こんな場所で何をするんだ? 藤堂院さん」
覗き込めば、遥か下は波が逆巻く荒波である。落ちればまず命はなさそうだ。
「ねぇ!」
透子が憂喜に向かって叫んだ。
「昨日、言ったよね? ゆかりを捕まえたらあたし達は見逃してくれるって。まだ約束の二十四時間は過ぎていないわ」
「なっ・・・・何を言ってるんだ、藤堂院さん!」
ユタカが透子の意外な発言に驚く。
「約束したはずよね? ゆかりをかくまったことは忘れてやるって」
「・・・・あぁ、確かに言った。だが君達はもう追い詰められている。対等に取引をする立場ではないと思うが?」
「あ〜、それ横暴。約束、破るんだ」
「・・・・他の者の意見はどうなんだ? 後ろの二人は異議がありそうだが」
後ろの二人は巳弥とユタカだ。
「当たり前だ、異議、有り過ぎるぞ! 藤堂院さん、どういうつもりなんだ!? ゆかりを引き渡して、自分は助かろうって言うのか!?」
「そうよ」
あっさり肯定された。
「知ってるでしょ? あたしはあたしが一番大事。ゆかりだって大事だけど、自分が死んじゃったら意味ないもん」
「透子さん・・・・」
巳弥は泣きそうだ。
「あ〜、鬱陶しい。鷲路君、この二人は助からなくていいって」
透子はゆかり、巳弥、ユタカを置いて憂喜の所へトコトコと歩いて行った。
「ね、あたし、あなた達の世界に興味があるの。仲間にしてくれない?」
「な、何だってぇ〜!?」
またまたユタカが叫ぶ。
「見損なったぞ、藤堂院さん! 何でそいつらの仲間になんか・・・・」
ユタカの身体に見えないロープが巻き付いた。透子の作ったマジカルロープだ。同じ物が巳弥の身体も縛り上げる。
「と、藤堂院さんっ!」
手と足を縛られ、ユタカは身動きが出来ない状態になった。
「ちょっと黙っててよ」
透子はユタカを一瞥すると、憂喜に向き直った。
「あなたとは何となく気が合いそうな気がするし」
「・・・・随分と都合のいい話に聞こえるが? 今更、仲間になどと」
「信じて貰えない? だったら・・・・」
透子は魔法の肩叩きを展開し、マジカルボウに変形させた。魔法の矢を作り出し、目標に向かって番える。
目標は、ゆかりだ。
「と、透子?」
ライトニングアローが自分に狙いを定めている。ゆかりは何が起こっているのか理解できなかった。
「ゆかりを始末したら、仲間にしてくれる?」
「う、嘘・・・・」
「嘘じゃないわ。ゆかり、どうせあなたは殺されるのよ。だったら、あたしの為にここで死んで」
「嘘、だよね?」
「そうね、立ったままじゃ面白くないから、抵抗してもいいわよ。一度ゆかりと戦ってみたかったし」
「どうして透子と戦わなきゃならないの!? 嘘だよね、冗談だよね透子!」
泣き叫ぶゆかりに、透子は冷淡な視線を投げかける。
「冗談かどうか、次の攻撃を見て判断するのね」
透子の、弓を引く手に力が入る。
「鷲路君、いいかな?」
「いいだろう、面白い余興だ。姫宮ゆかりを始末出来たら、仲間にしよう」
「と・・・・藤堂院さん! ユーキ君、やめさせて!」
地面に転がった咲紅が叫んだ。
「僕がやらせてるんじゃない。彼女から申し出たことだ」
憂喜は腕を組んで、事の成り行きを見物することにした。
ライトニングアローが狙う先は、ゆかりの胸だ。
「知ってると思うけど、魔法で作られたライトニングアローはある程度、あたしの思う通りに軌道を変えられる。苦しまないように心臓を一撃で貫くわ。いい? どんなに逃げたって、確実に心臓に当たるわよ。魔法で出来ているから、風なんか吹いたって影響を受けないんだから」
「と、透子・・・・」
ゆかりが右の胸を押さえる。
「・・・・ゆかり、ちなみに心臓は左だからね」
「あわわっ」
「ま、手で押さえても無駄だけど。手ごと貫くから」
キリキリとマジカルボウが軋む。
「妖精が舞い降りた月の夜、天使が放った矢は私のハートを貫いた。その瞬間、天使の矢は消えて、私は恋という名の海に落ちました・・・・あなたの好きだった詩の一部よ。天国へのお土産にしなさい。さぁ覚悟はいい? ゆかり」
「と、透子・・・・」
「苦しまないように、確実に心臓を一突きだからね!」
「藤堂院さん!」
「透子さん!」
ユタカと巳弥の叫びの中、透子の放ったライトニングアローがゆかりの胸に向かって真っ直ぐ飛んだ。
「・・・・あっ・・・・」
ゆかりの胸にライトニングアローが深々と突き刺さる。透子が言った通り、心臓を見事に貫いていた。
「・・・・とう、こ・・・・」
ゆかりの身体が後ろ向きに倒れる。
「いやぁぁぁ、ゆかり〜ん!」
「ゆかり〜!」
巳弥とユタカの叫びが、岸壁にこだました。
「・・・・」
矢を放った後の構えのまま固まっていた透子が、ようやく弓を下ろした。
ゆかりは動かない。
「くそっ!」
ゆかりに駆け寄ろうとしたユタカだったが、手足を縛られているので芋虫のように這うしかなかった。岩の上なので、あちこちの肌が擦れて痛い。だがそんな痛みを感じている場合ではなかった。
「くそ、死ぬな、ゆかり〜!」
その時、ゆかりの傍に何かが出現した。
「んっ!?」
憂喜が目を見張り、そして振り返った。倒れているはずの春也がいない。
「ゆかりん!」
ゆかりの傍に現れたのは、春也だった。
「馬鹿な、澤崎は空間転移を使えなかったはず・・・・」
「ゆかりん、しっかりしろ!」
春也がゆかりを助け起こす。
「くそっ! そんな奴だと思ってたけどな、藤堂院さん! ゆかりんは俺が助ける、絶対に助けてやる!」
春也の叫びと共に、春也とゆかりの姿が消えた。
「あ・・・・」
誰もがあっけに取られていた。
春也は空間転移を使えなかったはずだ。なのに、ゆかりを連れての転移をやってのけた。咲紅すら自分以外の誰かを連れての転移は難しいはずなのに。
「ど・・・どうなっているんだ、澤崎」
「思いの力・・・・」
咲紅が呟く。
「思いの?」
「魔法を使えるかどうかは、どれだけ強く願えるかということ・・・・いつかスクールの先生に教わったわ。ハル君は今まで、空間転移魔法を使おうとしなかっただけ。だから使えなかった。それが今、姫宮さんを助けたいという気持ちが彼の転移魔法を発動させたのよ」
「そんなことが・・・・」
「ゆかりん、ゆかりん・・・・」
巳弥は項垂れて泣いている。
「ゆかり〜!」
ユタカはゆかりが消えた場所で叫んでいる。
「・・・・ゆかり・・・・」
透子はマジカルボウを片付けることも忘れ、ボーゼンとしていた。
「藤堂院さん、どうした?」
憂喜の呼び掛けで透子は我に返った。
「・・・・手応えはあったわ。澤崎君が治癒魔法を使えても、死んじゃったら生き返らせるのは無理でしょ?」
「あぁ、そうだな・・・・だが本当に死んだかどうか確認出来なかった」
「あたしは・・・・?」
「あぁ、仲間にという話か。それは許可しよう。僕の目から見ても、心臓を一突きだったからね。ただ、遺体を確認したいだけだ」
「・・・・ええ」
「ゆかり〜! ゆかりぃぃ〜!」
「ゆかりん・・・・ゆかりん・・・・」
崖の上では、巳弥とユタカが泣き叫んでいる。
「鬱陶しいなぁ。あの子たちも始末するね」
透子は気を取り直し、再び矢を番えた。
「な、何だって!?」
芋虫状態のユタカが叫ぶ。
「俺たちも始末する気かよ!?」
「面倒だから、その崖ごと海に落としちゃうわね。その格好じゃ泳ぐことも出来ないでしょ? 矢も一発で済むし」
「と、透子さん・・・・」
「相楽君はごく普通のおっさんだし、巳弥ちゃんも魔法が使えれば良かったけど・・・・そうね、せめてマジカルアイテムを持っていれば、本当にイニシエートの血を引いていればそこから落ちても助かったかもしれないけど。残念ね、普通の人間で」
「透子さん・・・・」
「下は荒波よ。まず溺れて助からないでしょうね、例えば・・・・例えばだけど、その帽子がボートみたいに大きかったら、ひょっとしたら溺れずに済んだかもね。ま、有り得ないけど」
透子の放ったライトニングアローは、ゆかりを貫いた物とは比べ物にならないほど大きく、巳弥とユタカが立っている岩場に突き刺さり、崖に亀裂が走った。
「うわぁぁぁ!」
ゆっくりと崖が崩れる。
派手な音を立て、崖の一部が二人を連れて真っ直ぐに荒波の中へと落ちて行った。
しばらくガラガラと岩が海へと転がり落ちる音が続き、その後は断崖絶壁を吹き抜ける風の音だけが聞こえていた。
「・・・・」
透子はマジカルボウを畳んで肩叩きに戻し、小さく縮小してポケットに入れた。
そこに憂喜が近付いてくる。
「本気でやるとは思わなかったよ、藤堂院さん」
「・・・・」
「どうかな、仲間を三人葬った気分は」
「・・・・いいわけないじゃない」
「だろうね」
「これで信じてくれるの?」
「・・・・いいだろう。さて・・・・」
憂喜は縛られて後ろに転がっている咲紅を振り返った。
「桜川、余計な事をしてくれたが・・・・」
その時、何者かが咲紅と憂喜の間に降り立ち、咲紅を縛っていた魔法のリングが全て断ち切られた。
「なにっ?」
「婦女子をこのような目に逢わせるとは、感心しないでござるな」
自慢の日本刀を鞘に収めながら枯枝刀侍は憂喜を睨んだ。
「枯枝・・・・君が管理局から派遣されたのか」
「左様、手下も二人、引き連れているでござる」
続いて、崖の上から管理局員の制服を着た二名が飛び降りて来た。
「鷲路殿、咲紅殿が何故このような目に逢っているのでござるか? 見たところ貴殿の魔法で縛られていたようだが、返答次第では・・・・」
刀侍の手が刀の柄に再び伸びる。
「いや、少々任務に支障をきたしたので、大人しくして貰っただけのこと。危害を加えるつもりはない」
「左様か。して、澤崎はいずこに?」
「逃げたよ。空間転移でな」
「何と、奴はその類の魔法は使えぬとお聞きしているが」
「認めたくないが、奇跡と言うものかもしれないな」
「奇跡、でござるか?」
刀侍は横に突っ立っている透子に目を向けた。
「そちらのお美しい御仁は?」
「彼女は僕らの仲間になりたいそうだ。エミネントに連れて帰る」
「ほう、この世界の娘でござるか」
刀侍の興味深そうな視線から逃げるように、透子は憂喜の後ろに回った。
「しかし澤崎が逃げたとなれば、拙者は追わねばならぬな」
透子に逃げられた刀侍は、再び憂喜に話し掛けた。
「慣れない空間転移だ、そう遠くへは行っていないはずだが・・・・奴の残存魔力が少なすぎて、感知出来ない。転移出来たのが不思議なくらいだ」
「無茶だわ」
咲紅が呟いた。
「空間転移は適当にやって出来るものじゃない。座標を明確にイメージしないと、岩の中に転移してそのまま死んじゃうこともあるのに」
「それならそれで、手間が省けていいが」
冷ややかに憂喜が返す。
「姫宮ゆかりの生死も確認したいが・・・・」
「見たでしょ、ゆかりは死んでるわ」
透子の声は沈んでいる。
「澤崎君が治癒魔法を使えたって、死んだ人は生き返らせないでしょ?」
「・・・・」
憂喜はしばらく何かを考え、刀侍に言った。
「枯枝、澤崎を捜すのか?」
「それが拙者の任務でござる故、見付けるまで帰れないでござる」
「ついでと言っては何だが、その先の海に、姫宮ゆかりの仲間が落ちた。生死を確認して欲しい」
「そこでござるか?」
刀侍は助走もせず、驚異的なジャンプ力で崩れ落ちた岩場の端まで飛び、海を覗き込んだ。
「これはまた、とんでもない所に落ちたでござるな。捜すまでもなく、死んでいるでござろう?」
「僕は心配性なのでね」
憂喜は立ち上がろうとしている咲紅に手を差し伸べた。
「桜川、任務の邪魔をしたことに関しては目を瞑ろう。君は少し感情的になるところがあるから、気を付けるといい」
「・・・・ええ」
(ユーキ君に感情がなさ過ぎるんだわ)
と咲紅は思ったが、口に出して憂喜の機嫌を損ねるのは得策ではない。
刀侍は引き続き春也の捜索に向かい、刀侍についてきた管理局員二人は崖の下に落ちた巳弥とユタカの捜索を任された。
憂喜は管理局から連絡が入り、ひとまずエミネントに帰ってオブザーバーとしての受任式を受けることになった。試験を終えた咲紅も一緒に帰還する。
そして透子も同行すべく、彼らと共にエミネントへのメビウスロードに向かう。
(ゆかり・・・・)
透子は強い風に吹き飛ばされないよう、帽子を手で押さえた。長い黒髪が顔を叩くように靡いていた。
35th Future に続く
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