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29th Future 「透子、倒れる」
咲紅に隠れてゆかりと電話をしたユタカは、何食わぬ顔でトイレに行ってきた風を装って戻って来た。咲紅は透子が相手をしてくれていたので、少々長くなったが気付かれずに済んだようだった。
咲紅は春也が壊した出雲家を修復し、外に出て憂喜らが戻るのを待っていた。透子はそっと居間に戻り、莉夜に話し掛けた。
「莉夜ちゃん、ゆかりがミズチを倒したって本当?」
「うん、凄かったよ! あのね、話せば長くなるけど・・・・」
「じゃ後にして。莉夜ちゃん、取り敢えず今は一旦、イニシエートに帰って頂戴」
「え。だって話したいこといっぱいあるのに。それに、あずみちゃんを連れて帰らなきゃ・・・・」
「それ、なんだけど・・・・」
透子は玄関先の咲紅の様子を伺うように声をひそめた。
「ごめん、説明する暇がないから。とにかく莉夜ちゃんもここにいると危険なのよ」
「良く分からないよ」
「分からなくても、一旦帰る!」
透子はゲートの辺りを指差すと、莉夜の背中を押した。
「時間を見計らって、もう一回来て!」
「見計らうって、どのくらい?」
「いいからさっさと帰る! 命がかかってるんだから!」
透子に押され、莉夜は訳が分からないままゲートの中へと消えた。
「ユーキ君!」
外から咲紅の声が聞こえた。どうやら憂喜が帰って来たようだ。
(ゆかり!?)
憂喜が帰って来たということは、ゆかりが捕まったのか? と思い、透子だけでなく出雲家にいた面々が全員外に出た。
だが、そこにいたのは憂喜一人だった。ソウルウエポン「ブラスト・オブ・ウインド」を解き、蒼爪も元の鷲の姿に戻っている。
「やはりこの姿で飛ぶのは、夜と言えども得策ではないな」
「姫宮さんは?」
「まだ見付からない。我々のように魔力があれば感知することも可能なのだが、トランスソウルの魔力だけでは微弱過ぎる。魔法を使えば分かるかもしれないが・・・・」
とにかくゆかりが捕まっていないと聞き、一同はホッとした。だが・・・・。
「藤堂院さん」
憂喜の目が透子に向く。
「はい?」
「君たちで姫宮ゆかりを捜すんだ。これだけ人数がいれば捜し出せるだろう」
「どうしてあたし達が? 捕まえたいのは鷲路君でしょ? 自分で捜してよ」
「姫宮ゆかりを連れて来れば、君達が彼女をかくまったことは忘れてやろう」
「・・・・それって」
「連れて来なければ、君達全員を管理局に引き渡す」
「なっ・・・・」
透子、巳弥、みここ、こなみ、ユタカ。全員が言葉を失った。
「待って、それは横暴だわ!」
「嫌なら姫宮ゆかりを連れて来い」
「何だよ、自分が見失ったくせに・・・・」
そう言い掛けたユタカの首に、何やら青い光のリングが絡まった。
「!?」
「余計な事は言わない方がいい・・・・」
「ぐっ・・・・」
青い光のリングは、ユタカの首を絞めるようにジワジワと円周が小さくなってゆく。
(ぐぅ、ああっ・・・・)
「やめて!」
透子の声と同時に、リングが光の粒となって飛び散った。
「焦らなくていい。ここで殺しはしない」
憂喜は表情を変えずに言った。
「はぁ、はぁ、くそっ・・・・」
ユタカは咳き込み、地面に膝を付いた。負けじと憂喜を睨むが、彼はユタカなど相手にしていないようだった。
「さて、どうする? 藤堂院さん」
「・・・・ゆかりが勝手にイニシエートに行ったのよ。あたし達は関係ないわ。なのに、どうしてあたしたちがとばっちりで捕まらなきゃならないの?」
「と、透子さん、そんな言い方・・・・!」
巳弥の抗議を、透子は手で制した。
「どうしてもゆかりを捕まえたいのなら、そっちでやってよね。あたしたちはもう遅いから帰って寝たいの」
「そう言っておいて、密かに姫宮ゆかりを捜して保護することも考えられるな」
「・・・・」
「駄目だね。もう決めた。捜しに行かないと言うなら、すぐにでも君達を姫宮ゆかりの代わりに連行する」
「・・・・みここちゃんとこなみちゃんは関係ないわ。彼女たちだけでも帰らせてあげて」
「・・・・いいだろう。トランスソウルも持っていない一般人のようだから、それは許可しよう。ところで・・・・」
憂喜は一同を見渡した。
「姫宮ゆかりと一緒にいた女はどうした?」
「え。誰のこと?」
「とぼけるな。時空ゲートを使って姫宮ゆかりと一緒に来ただろう。まさかイニシエートか?」
「・・・・そうよ。勝手にゆかりについて来たので、迷惑だから追い返したわ」
「随分と親しそうな喋り方だったが?」
「初対面でも親しく話せる、そういう性格なんでしょ。あんな子、知らないわ」
あくまでイニシエートは自分たちにとっても敵、という姿勢を貫く透子をユタカは見守っていた。自分たちまで捕まっては、誰がゆかりを助けるのか。ここはゆかり一人を悪者にしてでも、ゆかりを助けなければならない。
「桜川、我々も引き続き捜すぞ。姫宮ゆかりと、澤崎を」
「う、うん・・・・」
おずおずと咲紅が憂喜の後ろに移動する。
「今日はもう遅いし、明日にしようよ。もう眠いし」
透子がのんびりした意見を言う。
「寝たければ、すぐに姫宮ゆかりを連れて来るんだな。期限を設けよう。夜が明けるまでに見つけられなければ、他の人々にも手伝って貰う。そして二十四時間以内に見つけられなかった場合は、君達を管理局に引き渡す」
「他の人々って? また管理局って所から誰か来るの?」
「夜が明ければ分かるさ。行くぞ」
出雲家に背を向け、憂喜は咲紅に「早く来い」と促した。
「早く捜した方がいいぞ・・・・姫宮ゆかり一人が処罰を受ければそれで済む問題だ。犯罪者をかくまって捕まるのは馬鹿らしいだろう?」
「・・・・」
憂喜の肩から蒼爪が飛び立つ。どうやら彼も別行動でゆかりを探すつもりらしい。
二人の姿が見えなくなったのを見計らい、透子が口を開いた。
「さて、ゆかりを捜しますか」
「透子さん!?」
巳弥が驚く。
「ま、まさか本当にゆかりんを引き渡すつもりじゃ・・・・ないよね」
こなみが震える小声で訊いた。
「とにかく探さないと駄目でしょ」
問題は、鷲路憂喜と管理局と呼ばれる組織だ。話し合いが無駄なら、さてどうするか。
(あちらがその気なら、戦う?)
だが相手は魔力に長けていて、ソウルウエポンと呼ばれていた武器はやっかいそうなシロモノである。
(何とかして、誤解を解けないのかなぁ。そもそも、彼らがイニシエートを敵視する理由は一体何なの? それが分かれば少しでも歩み寄れるかもしれないのに)
「ゆかりに連絡を取るが・・・・どうしたらいい?」
携帯電話を握り締め、ユタカは透子に意見を求めた。
「取り敢えずは変身を解いて、あたしの家に行くように言って。元の姿は知られていないはずだから、見付かっても大丈夫だと思う」
「そうか、そうだな」
「あたしも変身を解いて、家に戻るわ。みここちゃんとこなみちゃんは帰って」
「でも・・・・」
「変なことに巻き込まれないに越したことはないわ」
「でも、ゆかりんを助けたいよ。何か出来ることは無いの? ねぇ透子さん」
こなみが透子に食い下がる。みここも同じ意見のようだ。
「分かった」
透子はみこことこなみの肩に手を置いた。
「助けが必要になったら、お願いするから。その時は連絡する」
「・・・・はい」
みこことこなみは何となく帰り辛そうだったが、透子の言葉で取り敢えず帰宅した。
「澤崎君はどうなったんだろうな」
ユタカは春也の事も気になっていた。あれだけのことをやったのだから、ただでは済まないだろう。ゆかりの為にしたことなので、ユタカも彼の行方が心配だった。
「悪いけど、そこまで手が回らないよ・・・・」
透子がゆかりと待ち合わせる予定の自分の家に戻ろうと身支度を始めた時、居間の時空ゲートのあった場所から頭がひょっこりと出ていた。
「きゃっ!」
「あ、ごめんなさい。その、ちょっと様子を・・・・」
「水無池さん!」
ゲートから頭だけ出していたのは、水無池姉妹の次女・芽瑠だった。
「莉夜ちゃんが意味不明なことを言って騒いでるので、何があったのかなと思って」
「とにかく、頭だけじゃなくて全部出て来て。お化け屋敷みたい」
「あ、ごめん」
芽瑠はちょっと舌を出すと、掛け声と共に上半身、下半身と姿を現した。
「お邪魔します」
巳弥に向かって頭を下げる。
「こ、今晩は」
巳弥も頭を下げ返す。後ろではユタカがゆかりの携帯電話に連絡を入れていた。
「ゆかりか?」
「ユタカ、遅いよ〜」
ふてくされたような、疲れたような声が返って来た。
「悪い。色々あってな・・・・とにかく、元の姿に戻っておいてくれ。そっちの姿なら向こうには見られても大丈夫なはずだ」
「あ、そうか。じゃ元の姿に戻ったら帰ってもいい?」
「いや、それはまだまずいかもな。別の場所で会おうと藤堂院さんが・・・・」
彼女の家で待ち合わせようって言ってくれている。そっちで落ち合おう・・・・そう言おうとしたユタカだったが、突然通話が切れた。
「あれ? ゆかり? もしもし?」
ツー、ツーという音だけが聞こえる。ユタカは再度電話をかけ直したが「電波の届かない場所か、電源が入っていません」というコールが聞こえてくるだけだった。
「まさかゆかりの携帯、電池が切れたんじゃ・・・・」
「ええっ?」
透子が慌てて振り向いた。
「どこまで伝えたの!?」
「元の姿に戻れって・・・・待ち合わせ場所を言う前に切れた」
「今どこにいるか聞いた?」
「・・・・いや」
「はぁ・・・・」
透子は大袈裟に息を吐いた。
「結局、ゆかりを捜さないと駄目ってことね・・・・水無池さん、そういうわけだから一緒にゆかりを捜して。話は歩きながらする。巳弥ちゃんも一人だと危ないから相楽君と一緒に行動して。あ、それも危ないか・・・・」
「どういう意味だよ!?」
ユタカは突っ込んだが、それどころではない。
現在、夜の二十三時を回ったところだ。ゆかりを捜すとして、見付けた後はどうすればいいのか。このままなら、ゆかりを引き渡すために捜すことになる。
「えい」
透子は肩叩きを振り、元の自分の姿に戻った。
「行きましょう」
透子と芽瑠が一緒にいるところを憂喜らに見られると、その子は誰だ?という話になる。この姿なら、憂喜達には藤堂院透子だと気付かれない。芽瑠が一緒にいても、怪しまれることはないだろう。
「じゃあユタカさん、私達も・・・・」
「巳弥ちゃん、俺を警戒しなくてもいいんだぞ。藤堂院さんは冗談で言ったんだから」
「わ、分かってます」
と、巳弥は何故かユタカから少し距離を取った。
「どんなキャラだよ、俺・・・・」
透子と芽瑠、ユタカと巳弥のコンビはゆかりを捜すために出雲家を出た。
見付けた後、どうするかという方針を決められないまま。
「ねぇユーキ君」
「何だ?」
憂喜は後ろの咲紅を振り返ることなく返事をした。
「オブザーバーに任命されたって、本当?」
「先程、言ったはずだ」
「そうだけど・・・・」
春也の妹から聞いた話では、オブザーバーになれる条件は「最初にトランスソウルの悪用者を見付けた者」だった。
確かに姫宮ゆかりはトランスソウルでイニシエートを手助けした。それを真っ先に管理局に通報したのは憂喜だ。だが、ここに来た時にそれぞれ担当が決まっていたはずだ。憂喜は透子、咲紅は巳弥、春也はゆかりだ。憂喜はゆかりの担当ではない。
「ユーキ君の担当は藤堂院さんでしょ?」
「行動を見張る担当は藤堂院透子だった。だが、担当以外の人間を訴えてはいけないという決まりは無かった。しかも澤崎は姫宮ゆかりの担当を自ら拒否した。僕が姫宮ゆかりを管理局に通報して、何の問題もないと思うが」
「それは・・・・そうかもしれないけど」
「君だって姫宮ゆかりがイニシエートから帰って来た所を押えようとしていたんじゃないのか? だからあの時、出雲家を訪問したんだろう」
図星だったが、咲紅はまだまだ納得がいかない。
「ユーキ君、管理局の人の力を借りたよね? 時空の歪の監視を依頼して、その情報を貰ったのって、ずるくない?」
「桜川、もう決まったことだ。見苦しいぞ」
「・・・・」
(結局、成績も要領もいいユーキ君がオブザーバーになったってことか。成績が悪く要領も悪いハル君は今、犯罪者となって追われる身・・・・)
「確かに僕はオブザーバーに任命された。が、姫宮ゆかりを捕まえて初めてその座を手に入れる資格を得ると思っている」
「ご立派なことで」
咲紅は憂喜に聞こえないほどの小声で呟いた。
「まだ諦めるのは早くないか?」
「どういう意味?」
「君だって姫宮ゆかりを捕まえるか、澤崎を捕まえれば任命される可能性はあると思うが」
「だって、オブザーバーになれるのは一人だけ・・・・」
言いかけて咲紅は口をつぐんだ。オブザーバーには一人だけがなれるという情報は、憂喜は知らないはずだ。
「三人で姫宮ゆかりを捕まえていれば、みんなオブザーバーになれたかもしれないのにな。澤崎は本当に馬鹿だ」
気のせいか、咲紅にはその憂喜の声が淋しそうに聞こえた。
「ユーキ君、藤堂院さん達を代わりに捕まえるって本気?」
「出来ればそんなことはしたくないが、脅しにはなっただろう。この街や姫宮ゆかりのことをあまり知らない僕達より、彼女達の方が見付け易いと思う。それに・・・・」
「それに?」
「彼女たちが姫宮ゆかりを見付けた後、どうするか楽しみでもあるんだよ、僕は」
「楽しみ?」
「友情と自分の保身を秤にかけた場合、どんな選択をするのかってことをね」
「・・・・趣味が悪い」
咲紅が憂喜に抗議したその時、遠くで爆発音がした。
「あれは!?」
「澤崎か・・・・行くぞ!」
憂喜は蒼爪の足を持つと、空高く舞い上がった。
「・・・・ざっと説明すると、こんな感じなんだけど」
大人の透子と芽瑠が互いに現在の状況を説明し終えた時、既に十五分が経過していた。芽瑠は頭の中で透子達が置かれている状況を整理し、新調した眼鏡のズレを直した。
「姫宮さんがミズチを倒してくれて、手放しで喜んでいたんだけど・・・・そのせいで大変なことになってるのね」
「ほんと。水無池さんが来てくれて助かったわ・・・・あたしだけじゃ、いい案が浮かびそうになかったもの。考えることばっかりで・・・・」
「あまり期待されても困るけど、一緒に考えることは出来ると思う」
「それで充分。お願い」
ユタカの話によれば、ゆかりとの通話は「別の場所で会おう」と言いかけて切れている。待ち合わせ場所と聞いてゆかりが連想する場所に行けば会えるはずだと透子は公園に寄り、次に自分の家に来ていた。
「ここにもいないか・・・・」
ため息をつき、透子は藤堂院家の門にもたれかかった。
「大丈夫? 疲れてるんじゃない?」
「昼間、マラソン走ったし・・・・」
「え?」
「ううん、何でもない。行こうか」
再び歩き出した透子の次の目的地は卯佐美第3中学だった。
「姫宮さんも疲れてると思うわ。ミズチを倒した後、少しの間だけ気を失っていたけど、ちゃんと寝てないもの」
「・・・・水無池さん、ゆかりがミズチを倒したって、どうやったの?」
一度ミズチを倒した時は、ゆかりの孫の手と透子の肩叩きはそれぞれ自分を犠牲にして大技を放った。あれから孫の手がパワーアップしたとは考えられないし、新しく増えた技と言えば「フェアリーナイト・ムーン」だが、相手が魔法でなければ全く効果が無いはずだ。
「それが私にも分からなくて・・・・」
芽瑠は莉夜が持っていたあずみのエネルギーだという宝石がゆかりをパワーアップさせたと話し、ついでにあずみは莉夜が作ったものではないという話も聞かせた。それを聞き、透子は芽瑠に向かって手を合わせた。
「ごめん、隠してたわけじゃないの」
「なに?」
「あずみちゃんが連れて行かれちゃった」
「ええ? 誰に?」
「さっき話した、イニシエートを敵視している子たちの、上司って人。何でも、自分の父が作ったんだから連れて帰るって言って・・・・」
「その人が本当の、あずみちゃんを作った人なのかしら」
「話は戻るけど、本当にイニシエートを敵だと思っている異世界の人に心当たりはない?」
「少なくとも私は。先生なら何か知ってるかも・・・・」
二人は学校に着いたが、どこにもゆかりの姿はなかった。
「はぁ・・・・」
透子が校門の前にへたり込む。
「水無池さん、教えて。ゆかりを引き渡さず、あたし達も捕まらず、相手と戦わずに済む方法」
「その鷲路って子のような、私達イニシエートの手助けをしたから姫宮さんも悪だっていう考え方を根本から変えるしかないわね・・・・」
「難しいでしょうね」
「ねぇ藤堂院さん、私がその鷲路って子と話し合ってみようかな。姫宮さんまで敵視するのはお門違いだって」
「駄目よ、殺されるわ」
憂喜の持つ魔力は、自分たちのマジカルアイテムの比ではないと透子は感じた。彼らは自分自身が魔法を使える、正真正銘の「魔法使い」だろう。区別するなら、自分達は「マジカルアイテム使い」ということになる。それがどの程度の違いなのかは分からないが、少しだけだが目の当たりにした憂喜の青いマジカルバリア、彼らの「ソウルウエポン」には、現状ではまず勝ち目は無いと思った。
つまり、現時点で透子が自分を守る方法、それは「ゆかりを見付け、彼らに引き渡すこと」だけだった。
「こういう手段は好きじゃないけど・・・・」
芽瑠が言った。
「私達イニシエートの仲間で、鷲路君とその一味をやっつけるという案も、なくもない。姫宮さんはミズチを倒してくれた恩人だから、みんな助けたいと思うはずだわ」
「でも、相手の正体が分からないのよ。管理局ってのがどれだけの組織なのか、そのバックには何がいるのか」
「それが分からないと、どうしようもないわね・・・・一度帰って、先生に聞いてみるわ。私達と敵対する人達に、心当たりがないかどうか」
「お願いするわ。最悪、私達もその人達を敵に回すことになるから・・・・そうならない為にも、いい案を考えたいし」
「そうね。私達も出来る限り力を貸すわ」
そうと決まれば早い方がいい。芽瑠はゲートからイニシエートに帰る為、出雲家に戻ることにした。
透子は芽瑠の後姿を見届けると、ゆかりの居そうな場所を求めて歩き出そうと立ち上がったが、また座り込んでしまう。
(あれ・・・・)
目眩が透子を襲った。
(立ち眩みかな・・・・)
再び立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。
(元の姿に戻ったから、体力がなくなったのかも・・・・)
そう思って、透子は「ぽよぽよとこたん」に変身してみた。これなら中学生の頃の元気な体に戻れる・・・・はずだった。だが、脚に力が入らないのは一緒だった。
(おかしいなぁ)
肩叩きが手から滑り落ちる。カランという乾いた音が響いた。
(行かなきゃ・・・・ゆかりが・・・・)
気が遠退いた。
30th Future に続く
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